第54話 逡巡と覚悟
采希は、暗闇の中で目を醒ます。時計は深夜を回ったばかり。
適度に疲労した身体は采希を再び眠りに引きこもうとするが、何となく感じた違和感が采希の視線を室内に巡らせる。
隣を見れば、琉斗が眠っているはずの布団の中はもぬけの殻だった。
お手洗いにでも行ったのかと思ったが、妙に布団が整っている。手を布団の中に入れてみても、中は冷たかった。
(……あいつ、どこに行ったんだ?)
そっと部屋を抜け出し、暗い屋敷の中を壁に手を当てて歩く。窓から差し込む月明かりに、思わずほっとした。だが、琉斗は居間にも台所にもいない。
玄関まで辿り着くと、差し込んだ月明かりで琉斗のスニーカーがなくなっているのが確認できた。
采希は小さな溜息をついて自分のスニーカーを引き寄せる。
こんな時間に何してるんだ、と思いつつそのまま玄関の引き戸を開けようとして、一瞬躊躇した。
自分が捜しに行っても大丈夫な状況なんだろうか、と考えた。凱斗たちの部屋は確認していないが、履物は琉斗の物以外、揃っている。
凱斗を呼び出して喧嘩しているとか、そういう事ではなさそうだ。
迷いながらもそっと引き戸を開け、采希はびくりと跳ね上がった。
「……何してんだ?」
玄関のすぐ前に琉斗の背中があり、ぼんやりと煙草の煙が見えた。
「──! ……采希か。いや、ちょっとな……月を見てた」
「……ふーん」
玄関の敷居をまたいで、琉斗の横に並ぶ。見上げると上弦の月が白く輝いていた。
「お前こそ、どうしたんだ? 眼が冴えてしまったのか?」
「……ま、そんなとこかな」
琉斗の左手首を掴んで持ち上げ、その手にあった煙草を一本抜き取って火を付ける。
並んで月を見上げたまま、ゆっくりと煙を吐き出した。
琉斗に月を愛でるような風流な趣味があるとは思えなかったが、采希は無理に話題を探す必要性を感じていなかった。ぼんやりとあと数日で満月になるだろうなどと考える。
視線を感じた気がして、目線だけを琉斗の方に向けると、采希の視線は琉斗とかち合ってしまった。思わず煙にむせる。
「采希、まだ眠くないのなら、ちょっと俺に付き合わないか? 面白い場所を見つけたんだ」
むせて涙目になりながら頷くと、琉斗は嬉しそうに笑った。
「よかった。──こっちだ」
月明かりを頼りに琉斗が畑の方へ向かう。采希は黙って後ろをついて行った。
屋敷の裏手、畑が見渡せる場所に、小さな四阿があった。
表からは死角になっているため気付かなかったが、きちんとした造りで、四畳半程度の範囲を屋根が覆っている。四本の柱で区切られたそこには、小さなテーブルと木製の椅子が二つ。小さなベンチと海で使うようなサマーベッドが置いてあった。
「──へぇ。畑仕事の休憩の時にでも使ってたのかな。風も通ってる。日中の方が気持ち良さそう──!!」
何気なくサマーベッドに腰掛けた采希は、驚いて思わず飛び上がるように立ち上がる。
(……今のは……)
「どうした? まさか虫でも……」
琉斗が采希のシャツの裾をぎゅっと掴む。
「……虫くらいで、驚きゃしないけどな。──あきらが、視えた」
怪訝そうに片眉を上げた琉斗が、ああ、と得心したように頷いた。
「過去の映像が視えたんだな? サイコメトリー、だったか? どんな様子だったんだ?」
これは自分が視てもいいものなのか、と迷いながら、琉斗に左手を差し出した。興味津々の顔で琉斗が采希の手を握る。
夏の、風景だった。
作業の休憩中とみられる黎が、サマーベッドに横たわっていた。キャップで顔の上半分を覆うように乗せ、両手を腹の上に乗せて眠っているように見える。
そこに巫女がやって来た。采希の知っている彼女よりも、少し若く見えた。
眠っている黎に気付き、近寄ってそっと声を掛けた。
黎は動かない。
その様子にちょっと困った顔をした巫女が、きゅっと口元を引き締め、黎を見つめる。
ゆっくりと黎の顔に覆い被さり、ぴたりと動きを止めた。間近で黎の顔を覗き込むように見つめ、慌てて身体を起こす。
口を引き結んだ巫女の眼に涙が盛り上がり、ぽろりと零れた。口元が『ちがう……』と呟くように動く。
くるりと踵を返して走り去る。
もそりと黎の右手が動いた。顔半分を覆っていたキャップをほんの少しずらして、去って行く背中に視線だけを向ける。
──そして、目を閉じて大きなため息をついた。
ぐすっと隣で鼻を啜る音が聞こえ、采希は眼を開けた。
「……お前、なんで泣いてる?」
「……いや、あきらがな、どうにも切なくて。……何だか可哀想になった」
感情移入しやすいのは、こいつの長所か欠点か、と考えながら采希は後悔に襲われていた。
普段の戦国武将とも対等に言葉を交わすような強気さは、欠片も感じられなかった。
黎を見て涙を流したのは、自分の想いが叶わない事に対してなのだろう、と采希は感じた。多分、琉斗も同じように受け取ったのだろう。
戦闘になれば防御無用で突っ込むくせに、自分の気持ちの扱いにすら困惑する、凡そ繊細とはかけ離れた巫女を想い、采希は苦笑した。
『違う』と、巫女の口が動いた理由は采希にはわからない。黎の何が、何と違ったのだろう、と一瞬脳裏を掠めるが、巫女の想い人が黎だと思い込んでいるため、すぐに思考から切り離された。
稀に見る優秀な能力者である巫女。だが思っていた以上に不器用そうだ、と采希は感じていた。
似たような不器用者が今現在、采希の横に腰掛けている。
この二人を似ていると感じていた自分の感覚が誤りではなかったと思いながら、采希は月を見上げた。
琉斗の方からは相変わらず鼻を啜り上げる音が聞こえる。
自分と同じように、琉斗も巫女の叶わぬ想いに心を痛めたのだろうと勘違いしている采希は、琉斗の腕を軽く叩いて琉斗の意識を自分に向けさせる。
「琉斗、この事は黎さんにも、あきらにも──」
「──言わない。約束しよう」
采希は黙って頷く。巫女とよく似た正直者の従兄弟は、いつでも有言実行だった。
「……こんな時に聞くのは、どうかと思うんだが……」
(──?)
「采希は……あきらに恋愛感情を持っていないと、言っていたが……」
「──うん」
「その……他の、誰か他に想いを寄せている相手は、いる、のか?」
「……は??」
こんな時に何をいきなり、と采希は困惑する。
「お前、何言って……」
「──もし居ないのなら、あきらの想いに応えてやってはどうかと、そう思ってな」
「…………」
采希は口を真一文字に引き結び、琉斗から目を逸らして俯く。
「そして、彼女を、救って欲しい。あの呪縛の檻からも、彼女の切ない気持ちからも」
「…………れ」
「このままでは可哀想だ。采希にならどちらも可能だろう?」
「……黙れ」
「俺や兄貴では役不足だ。おそらく那岐でも──」
「黙れっつってんだよ!!」
叫んだ采希の横顔を、琉斗は固まったまま凝視する。
俯いて細かく震える肩に恐る恐る手を掛けようとして、凄い勢いで払い除けられた。
「采希……」
「……ふざけんな。俺に黎さんの代わりになれってのか。それこそあきらに失礼だろう。……俺には、無理だ。力も何もかも及ばない。俺には、あきらを助ける事は──」
「そんな事はないぞ。采希なら──」
「やめろよ! 俺には……何でもかんでも俺に預けるのはやめてくれ! 無理なんだよ、俺には! 出来ないんだって!!」
叫んで立ち上がった采希は、碌に前も見ずに走り出す。
懸命に走っているにも関わらず、采希の眼からは涙が溢れる。
自分の無力さに腹立たしさが募る。全てから逃げるような勢いで走り続けた。
気付くと采希は、空を駆けていた。
脚を止めてもそのまま采希の身体は飛び続ける。
(無理だ、俺にはあの場所からあきらを連れ出す事すら出来ない。ましてや黎さんの代わりなんて。だけどあきらをあのままには……。俺より凄い力を持っているなら、黎さんが助け出せば……。黎さんも何とか助ける方法を探すって言ってたし。でもそれって、今は黎さんにもあきらを助け出すことは出来ないかもって事か? 俺は助けるってあきらに約束した。だけど、あんな状態のあきらをどうやったら助けられるのか、俺には全く想像もできない。だったらやっぱり黎さんにお願いを──それでいいのか? 俺は──)
一瞬、巡り続けていた采希の思考が止まる。
采希の身体は空中でゆっくりと停止した。遥か眼下にごく小さく、街の灯が見える。
(──俺は……例え自分の力が足りていないとしても、俺があきらを助けたい)
急激に沸き上がってきた自分の考えに、采希は動揺した。采希の両手が小刻みに震える。
巫女を助けるという事はどう考えても容易ではない。
自分の命を落とすことになるかもしれない。家族にも被害が及ぶかもしれない。
決意してしまう事は、采希にはとても恐ろしい事に思えた。
滲む視界に、ぼんやりとした輪郭の月があった。
自分一人の命で済むのなら、采希はここまで迷いはしなかった。
どう考えても弟や従兄弟たちは自分について来るだろう。そうして、もれなく厄介事に巻き込まれる。
護り切れずに、巫女のように目の前で失うのは心の底から怖かった。
(俺は…………)
「やっと追いついた。お前さん、飛べるのはいいが、この高さは勘弁してくれ」
あり得ない状況で聞こえた声に、采希は思わず振り返る。
ぼさぼさの頭を掻きながら、中空に浮いた黎がにやりと笑った。
「俺は、高いところがあんまり得意じゃないんだ」
「……黎さん……」
采希の眼を覗き込んだ黎は、ふっと笑って采希の頭に手を乗せた。そのままゆっくりと撫でられる。
「気持ちは決まった、のか?」
何を──とは、聞かなくとも分かった。
黙って小さく頷く。
「……でも、正直どうすればいいか分からないですし、覚悟が出来たとは言えません。あきらのいる場所は大神さまの治める地で、俺には辿り着けない。巫女でもない俺には大神さまと繋がる事も出来ない。あきらに掛けられた『意思』と『ヒト』、どちらの呪縛も俺には解呪できない。あきらの気持ちを成就させることも……」
采希の眼から大粒の涙がぽろりと零れた。遥か下界に落ちていく。
「出来ない? お前はそう思うのか?」
「だって……俺の力じゃ多分無理です。あの身体から、あきらの魂魄を取り出すことすら出来なかった」
ゆっくりと瞬きした黎が、少し振り向き気味に声を掛けた。
「──ナーガ、いるんだろ? ちょっと足場代わりになってくれ、疲れて落っこちそうだ」
《承知した、宮守の当主》
足が地についたような感覚があり、采希が視線を下ろすと大きな龍の鱗が見えた。
「──ナーガ、当主は俺じゃなく、あきらにしとけって、何度も……」
《あきらは、巫女だ。我々はお前を当主と認めている》
「俺は──所詮、朔の一族の傍系だ。直系のあきらでいいだろ」
《いや、お前が当主だ、黎。我らはお前に従う》
黎と龍神の会話での聞き慣れない言葉に、恐る恐る顔を上げて黎を見る。
「……黎さんが、当主? 朔の一族の傍系って……」
「ああ、遠い祖先は同じだけどな、俺は何代か前に宮守から嫁にいった先の家系なんだ。遠い親戚、ってヤツだな。──朔ってのは、新月の事だ。ほとんど世間には出ないうちの組織を顧客たちがそう呼んでいる。新月の後ろには太陽・天照さまがおられるからな、そう言う理由らしい」
黎がすっと屈み込んで、采希の足元に座る。
「元々は一つの組織だったんだが、何代か前に宮守一族の能力者集団と、それらをサポートする『朔』と呼ばれる組織に分かれた。能力者たちを護るためにな。その両方を統治する者が『当主』と呼ばれている」
能力者たちの存在は、徹底的に世間から隠すんだ、と告げた黎の表情は少し寂しそうに見えた。
「能力者自体が少ないし、素質があっても修業に付いて行けなかったり思うようには伸びなかったり……大事に囲っても、その数も能力も今では最盛期には遠く及ばない。大体が直系にごく近い血筋から発現するが、『朔』の者がスカウトする事もある。俺のように傍系に力が顕現することはまず無いらしいが……それに、俺には先見の力は皆無だ。だから当主ではないと言っているんだが、何度言っても聞きやしない」
《先見の力を持つのは巫女だ。いつからか人はそれを当主と呼んだようだがな。我らが当主と認めるのは、その者の力の大きさだ。黎、お前のような》
黎が大仰に溜息をつく。小さく、めんどくせぇ……と呟いた。
「傍系に能力が現れないっていうのは、血が薄くなるから……とかですか?」
「そうかもな。婆様──先代当主は『守護が届かなくなるから』と言っていたが」
困ったように采希の目線が下がる。黎は「ま、分からなくても当然だから。考えなくていい」と苦笑しながら言う。
「とりあえず、ナーガはうちの上空をゆっくり旋回してくれ。采希の気持ちが落ち着くまででいい。──さて、采希」
黎に促され、采希は龍神の背に横向きに座った。隣に黎が座り込む。
「それでも、お前はあきらを助けることを決心してくれたんだろ?」
采希は静かに頷いた。
「俺には、出来ないかもしれません。力が及ばずに半ばで倒れてしまうかもしれない。それでも俺は、あきらに手を差し伸べてやりたいって、思いました」
采希を横目で見ながら、黎はほっとしたように笑みを浮かべた。
「お前さんがそう決めたなら、那岐たちも漏れなく参加するだろうな」
「……それが一番心配なんですけど」
「──俺はな、采希、お前さんがあいつらを巻き込みたくない気持ちも分かるが、あいつらのお前について行きたいって気持ちも分かるんだ。俺の仕事にあきらはついて来たがったし、俺もあいつを一人で仕事に行かせるのはいつも心配だったしな」
「…………」
「力が足りないと思うなら、いざって時にはうちの組織を頼ればいい。お前さんほどの能力者がいる訳じゃないが、情報収集やら裏工作に関しては自信がある」
黎の顔を見返した采希が少し首を傾げた。
「強力な能力者は、少ないんですか?」
「お前やあきらみたいな化け物がそうそういてたまるか。那岐に対抗できそうなのが一人いるが、あとは霊退治で単独行動できるような人材はいない。しかもそいつは『朔』の一員だから、能力者集団には除霊が出来る程度の人材がほとんどだ。だから、お前たちはよく揃ったものだと思うぞ」
「揃った?」
「お前さんの家だ。神職の先祖を持つとはいえ、一代に五人の能力者が揃うってのはちょっと有り得ないな」
「五人? いや、琉斗は──」
「琉斗の気は、間違いなく能力者の持つそれだ。そもそもお前の闘気を纏った紅蓮を扱えるんだぞ。力を持たない人間が紅蓮を振るっても何も斬れないはずだ」
「そう、だったんですか」
「特に神霊の声が聞こえる見鬼の榛冴と、体内に神域を持つ凱斗の能力は希少だ。もしかしたらあきらに施された『意思』の呪に対抗できる可能性がある」
黎の言葉に采希は思わず息を飲む。
あきらの救出に光明が見えた気がして、慌てて立ち上がってバランスを崩した。
「そっか、あの二人は神様系統に……それならもしかしたら……」
「ただ、『ヒト』の呪をどうするかって問題は残ってるけどな」
「──どうやってあきらの元に辿り着くのか、という難題もありますね」
「前途多難だな」
それでもさっきまでの全く解決法が無いような不安は采希の中から消えていた。
きゅっと唇を噛みしめ、采希は自分の右手に視線を落とす。そっと拳を握った。
「黎さん、そろそろ、戻りませんか? ゆっくり考えたいし、ずっと外で待ってるヤツとかいそうなんで」
「……今日の所はもう寝ておけよ」
「あ、はい。そうします」
旋回を止めた龍神がゆっくりと地上に向かう。
次第に大きくなる屋敷の前に、人影が見えた。
「……いたな」
「……ですね」
采希たちを見上げ、大きく手を振る。その顔は遠目に見ても不安そうで、後悔に溢れていた。
龍神の背から飛び降りた途端、采希は肩をがっしりと掴まれた。
「琉斗……」
「すまない、采希! 俺は……お前の気持ちも考えず……」
「……」
「俺は、俺たちはお前一人にいつも負担を掛けている。それなのにまた俺は……お前にばかり頼って、すまない」
隣で大きなくしゃみが聞こえた。
黎が寒そうに両腕を擦っている。しかも、物凄く疲れた顔で采希たちを眺めていた。
「──とりあえず……お前ら、もう寝ろ。何だか、お前たちに付き合ってるのが馬鹿らしくなってきた……。ロキがお前らは自分の力を過小評価してるって言ってたが、ここまでとはな」
「黎さん?」
「琉斗、お前は顔を洗ってこい。采希、お前は朝一番で道場に来るんだ、いいな?」
黎にぐいぐいと背中を押され、家の中に押し込まれる。
慌てて洗面所に走った琉斗の背中を見ながら、黎が呟いた。
「お前は空に逃げ出すほど琉斗の言葉で追い詰められたんだろうけどな、あいつらはお前を本当に大事に思っていると思うぞ。少しは信用して頼ってみたらどうだ?」
そうして大きな欠伸をしながら、黎は自分の寝室へと向かって行った。
(……頼る? 今までも俺は……いや、頼っていたか?)
去って行く黎の背中を見ながら、采希は自分がいつも一人で背負っている気持ちになっていた事を改めて思った。
布団に潜りこむと、急激に眠気が襲ってきた。
大きな力を使った後は、いつもそうだった。
気を抜いた途端に、電池切れのように落ちそうになる。
(もう少し……琉斗が戻るまで…………あれ? あいつ、空を飛んだ事を言及しなかったな……なんで……)
そう思いながら眠気と闘っていると、ほどなくして顔を洗った琉斗が戻って来た。
「采希、あのな……」
「琉斗、昼間の続きだ。お前がどうして最近凱斗に突っかかっているのか、白状しろ」
「……大した事じゃない。最近の凱斗は何か隠し事をしているようだったからな。いつの間にかあんな凄い守護を見つけているし」
「炎駒は守護って訳じゃないと思うぞ。凱斗に力を貸してくれる事になっただけだ」
「俺にも黙っていたのに、采希には話していたんだろう? 真名まで教えて──」
采希はちょっと片眉を上げて考える。
「──真名? ああ、あれか。俺、教えてもらってないぞ」
「え? ……だが」
「教えてもらったんじゃなくてな。──俺、どうやら真名を読み取ることが出来るらしいんだ」
「……は?」
これは黎に言われたことだった。
相手の状況にもよるが、余程のことがない限り采希は意図して相手の真名を読み取ることができる。
いつぞやシェンの名前を当てたのも、偶然ではなかったということらしかった。
「しかし、最近は凱斗と二人で話し込んでいる事が……」
「それも、炎駒がらみだな。凱斗は自分の力を全く行使できないし、炎駒も人と関わるのは初めてなんで、俺と琥珀は相談役っつーか……。──ん? ……まさか……お前が最近、凱斗に突っかかってたのって……」
琉斗が采希から顔を背ける。
「……俺たちは双子なのに、俺にまで隠すことはないだろう」
「ああ、そうですねぇ……」
単なる兄弟間の諍いに巻き込まれたのか、と思いながら采希は琉斗を見つめる。
「……お前、まさか凱斗が羨ましいのか?」
琉斗が弾かれたように采希を見る。
図星か、と采希はわざとらしく大仰に息を吐いてみせる。
「そんな理由で? 大体、お前と凱斗は持っている能力も違うんだし、張り合う必要はないだろう。双子って言っても二卵性だから普通の兄弟くらいにしか似ていないしな」
「だが、俺には凱斗のような能力らしきものは──」
「あるぞ。って黎さんが言ってた」
琉斗が驚いたように固まる。
「紅蓮を扱えるのはお前だけだ。それは誇っていいと思うぞ。何より、俺の封印を解けるのは今ではお前だけだ」
巫女が、居ないから。その言葉は声にならなかった。
話ながら采希はゆっくり眼を閉じる。もう眼を開けていられない。
「だから、もっと……自信を……も……」
最後の声を琉斗に届けることなく、采希は眠りの中に沈んでいった。




