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巫の血脈  作者: 櫟木 惺
第11章 朔の月輪
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第53話 宣戦布告

「大丈夫か?」


 目を開けて真っ先に采希(さいき)の視界に入ったのは(れい)の顔だった。采希は自分が布団に寝かされていた事にようやく気付く。


「──黎さん、俺……?」

「お前、過去にパニック障害と言われたことは?」


 黎が采希に覆い被さるように小声で聞いてきた。


「あ……高校生の頃に……」


 采希の返答に、黎はこくりと頷き身体を起こす。


「大丈夫だ。もう心配ない。お前らは向こうでお茶でも飲んでろ。俺は采希に話がある」


 采希の布団の足元の方に全員が揃っていたらしく、各々が立ち上がってようやく采希の視界に入った。──一人、足りない。


「黎さん、俺は……ここにいてはダメだろうか……」

「ダメですね。いいから、俺に任せろ」


 渋々、琉斗(りゅうと)も立ち上がった。



「さて采希、お前が不安に思っている事は何だ? 小さな事でもいい。吐き出してみろ」


 全員が部屋から出たのを確認して、黎が采希に問い掛けた。


「──不安?」

「さっき、お前の額に触れた時、俺にも分かる程の不安な気持ちが伝わって来た。パニック発作を起こす程、何を不安に思ったんだ?」


 不安な気持ちと言われて、采希は思い出す。

 自分の手には余るであろう巫女に掛けられた呪の解除、そしてまだよく分かっていない自分の力。それらを考えると、自分が無力で矮小に思えてくる。


 黎に笑われるかも、と思いながら、采希は途切れがちに自分の思いを告げた。

 黎は笑うことなく、真剣に聞いてくれた。


「──そうか。……お前、自分で思っている以上に真面目なんだろうな」


 黎の言葉に采希は少し首を傾げる。


「……そう、なんですかね」


 何か言いたげに采希の眼を覗き込んだ黎が、目を閉じて小さく頭を左右に振った。

 ゆっくりと眼を開け、優しく笑って采希の頭をくしゃりと撫でる。


「まだ怠いだろ? もう少し、寝とけ。何かあったら呼べば、俺には聴こえるから」



 黎は、むやみに采希の頭を撫でていたのではなかった。

 その手の平から気を流し、采希の中の不安が消えるまで、とことん眠らせてくれたのだと分かった。


 真夜中、采希はすっきりと眼を覚ます。


(いや、こんな時間に起きるとか……さすがにどうしたらいいんだ?)


 布団から起き上がると、隣には琉斗と那岐(なぎ)が寝息を立てている。では、凱斗(かいと)たちは別室をあてがわれたのか、と思った。


(──水……)


 音を立てないように台所に行こうとして、居間に灯りが点いているのに気がついた。


「……黎さん」

「お? 起きたか。そろそろかと思ってな、待ってた」


 卓の上には采希の分の夕飯が並んでいた。


「俺が起きるって、分かってたんですか?」

「ああ」


 座るように促され、大人しく従って箸を手に取る。


「黎さんの力って……あきらと同じような事ができるんですか?」


 言葉の足りない采希の質問に、黎は的確に応えてくれた。


「出来る事は大体同じだけど、得意な事はかなり違うんじゃないかと思う。例えば俺は気功も叩き込まれたんで、気を操るのは割と得意なんだが、あきらは何と言うか……繊細というにはほど遠いと言うか。大雑把だったり、効率が悪い気がするんだ。俺は防御の方が得意で、あきらはノーガードで突っ込んで行くタイプだな」


 采希には思い当たる節があった。

 あきらの剣術を豪快な力の使い方だと感じていたが、単に雑だったのか、と思わずくすりと笑ってしまった。

 そんな所も琉斗にそっくりだと思った。


「あきらの家系はな、先見(さきみ)の力を受け継いでいるんだが、先見の力は無くても俺のような力を持って産まれる者も結構な数がいたんだ。でも、先見の力と念動や除霊の力の両方を兼ね備えた者は、ここ数百年、存在しないそうだ。産まれたばかりのあきらを視た婆様(ばばさま)たちがすごく心配してた。あきらの両親にはそんな力の片鱗もなかったからな」


 ゆっくりと食事を口に運ぶ采希を眺めながら、黎はぼそぼそと話し続ける。


「俺には、子供の頃から大好きな人がいてな。──ああ、お前は食ってていい。俺が勝手に喋るから。で、年頃になるとそれが恋愛感情だって気付いた。姉に対する感情ではないってな。でも、ある日、何かの拍子に彼女の手が触れた時、分かってしまったんだ。彼女には、俺ではない誰か好きな人がいるって。それまで不思議と彼女が誰かのものになるなんて考えた事もなかったからな、動揺しまくって、絶望した。俺が17の時かな。当時の俺は自分の力もうまくコントロール出来なくて、何をやっても満足のいく結果にはならなかった。その頃からベースにハマってたんで、彼女のことを忘れたい一心でのめり込んだ。……でも、うちに帰れば彼女はそこに居るわけで、忘れられるはずもないんだけどな。そうこうしているうちに彼女は好きな人と恋人同士になって、荒れた俺は家に帰らずにバンド仲間の所を泊まり歩いてたんだ。あいつらがいなかったら俺はとうに挫折してこの家から逃げていただろうな」


 いつの間にか、采希は口を半開きにしたまま固まっていた。

 箸を手にしたまま、采希の腕は卓の上に置かれて動かない。


「──えっと……その彼女って、あきらのお母さんですか?」

「そう、真琴さん」

「バンドの……仲間って、あの一緒に写真に写ってた?」

「うん、後ろに写ってた奴らも含めて全員だな」

「力のコントロールって……」

「出来なかったぞ。養父からは剣術や気の扱い、婆様からは除霊やらの修行をさせられていたけど、どれも上手くは使えなかった。力が大きすぎると婆様からは言われたけど、自分では全然実感できなかったな」

「…………」

「何とか扱えるようになるまで本当に辛かったぞ。家族や仲間の助けがなかったら、今の俺はない。──采希、お前、全て自分だけで抱え込もうとしていないか?」


 黎の言葉に采希はびくりと反応する。指摘された内容に心当たりがあった。

 ──自分は那岐たちを全面的に信用して背中を任せているだろうか。


 自分の中の答えは否だ。無意識に自分は那岐たちを護ろうとしている。

 自分一人の手には余ると思いながらも、全て自分で立ち向かおうとしていた。それは、弟や従兄弟たちを信頼していないという事になるのではないか。思わず自分の手の平を見つめる。

 ちょっと笑いながら、黎は続けた。


「あきらも、そういう所がある。お前もだけど、恐らく他人に任せる事を忌避しているんじゃなくて、『他の人に頼る』のが苦手なんじゃないかと思う。──どうだ?」


 采希はゆっくりと視線を上げて黎の眼を見た。

 黎の身体の周囲に何かが視える。

 それは采希がいつも感心して見ていた那岐の、その身体を覆うよりも遥かに大きなオーラだった。揺るぎもせず静かに黎の身体を取り巻いている。


「一人で奮闘する必要はないんだ、采希。まあ、いくら口で言っても急に出来る事じゃないけどな。──俺は、真琴さんを護りたかった。真琴さんが他の男を選んで、俺はもうこの家に必要のない人間に思えた。力のコントロールが出来なくなったのはその頃だ。急激に力が増加したせいもあるが」

「…………」

「だけど、お前は違う。訓練もなしにそこまでの力を使うことが出来る。今では白虎以外にもお前に従う者たちまでいる。周りにもお前の力をサポート出来る家族がいる。俺やあきらより重圧(プレッシャー)は少ないと思うぞ。……まあ、だからって気楽に出来る事でもないけどな」

「…………」


 黎が伏し目がちにゆっくりと息を吐き出す。中断されてしまった采希の食事をぼんやりと眺めながら呟いた。


「あきら──あいつ、投げ遣りになってただろ?」

「……投げ遣り? ああ、確かに。このまま消えても構わないと思ったらしいです。こんな世界にはうんざりしたって。ひとまず、思い直したらしいですけど」


 こくりと頷いて、黎は自分の頭をくしゃくしゃと掻き回す。


「幼い頃からあきらの周りには欲をかいた大人たちが集まっていた。主に組織外の親戚連中だがな。組織のみんなが必死に護ってはいたが、子供とはいえ仕事をしながら護り切るには限界がある。何度も危険な目にあっていた。あいつはいつも『こんな世界なんて消えてしまえばいい』と思っていたらしいぞ。俺たちには絶対に言わなかったけどな」


 俯き加減の黎の表情は采希からは見えない。


「あきらがどんな気持ちでうちの仕事をこなしていたのかは俺には分からない。でも、普通の子供らしい事も出来ず、親類の狸共に利用されそうになりながら、育っていった。──一度だけ、『黎さんは、この仕事が嫌になった事はないのか』と泣きそうな顔で言われたことがあった。俺にも経験があるからな、だから、頑張れとは言えなかった。あいつを普通の人と同じように扱ってくれる人間も今ではほとんどいない。いつかあいつに畏怖ではなく、ごく普通の友人として話しかけてくれるような人間が現れたらといいと、願っていた。そうやって世界が拡がれば、同世代で誰か好きな人が出来るかもしれないからな、ゆっくり待とうと思ったんだ。──なのに、やっと他人に興味を持ったと思ったら……」


 恨めしそうに采希を上目遣いに見つめて、大仰な溜息をついた。

 何故自分が睨まれているんだろう、と采希は思った。


「いつだったか、お前たちを助けに行った時かな? あの瘴気のドームが出来た時だ。帰って来るなり『自分は、采希には会えない事になっているらしい。無意識の世界や念だけなら会えるのに、この身体で采希に会う事は出来ないようだ』って落ち込んでたんだ」

「……それって、先見の巫女の予言ですか?」

「多分な。もう聞いていたのか?」

「凱斗たちと一緒にいる時に言われました。だけど、所詮は『可能性の未来』ですよね?」


 肯定を返してくれると思っていた黎は、ゆっくりと頭を振る。


「普通なら、な。垣間見た未来よりもっと強い力が介入すれば改変される事もある。強い意思を持った誰かが投じた一石とかでも。実際、あきらが介入した事で変わった未来もある。だが、今回はそのあきらがいない。そしてあきら程の強い運命の力が介入しなければ、()()()()()が視た未来はほぼ変わらない」


 采希は瞬きもせずに黎を見つめる。

 それでは先見の予言通り、自分は巫女を助け出す事は出来ず、二度と巫女に会う事は出来ない。

 先に眼を逸らしたのは黎だった。手元に煙草を引き寄せ、1本取り出して火を付けた。遠くを見るようにゆっくりと煙を吐き出す。


「……正直、どうすればあきらを救い出せるのか俺には分からない。だけど、あきらがこの世界に絶望したまま消えるのは承諾できない。……お前さんがあきらを助けようと足掻くつもりなら、俺にも手伝わせてくれ。俺と一緒に動くのは、お前さんには複雑かもしれないけどな」


 じっと聞いていた采希が、黎の言葉にはっと気付く。


「あの、俺は別に、特にあきらをどうこうって訳じゃなくてですね。あきらは……なんかこう、大事な友達っつーか……」


 汗を流しながら説明しようとする采希を、黎が穴が開きそうなほど見つめる。


「采希……お前、自覚してないのか?」

「……何を? ……あの、自覚って?」


 黎は煙草をもみ消すと、大声で笑った。



 * * * * * *



「うっわ、凄い! こんなに色々育てていたらさ、ほぼ自給自足? しかも虫がいなくて農薬いらずとか、体によさそう!」


 榛冴(はるひ)が嬉しそうな声を上げて、しきりにスマホで写真を撮っている。畑の写真とか、一体どうするんだろう、と思いながら采希は自分の作業をするためにしゃがみ込んだ。

 琉斗がいる畝の隣で草を抜き始める。わざわざ隣を選んだのには訳があった。采希は小さな声で琉斗に話し掛けた。


「……お前、夕べは大人しくしてたのか?」


 お互い手を休めることなく、雑草を根元から抜いていく。


「何のことだ?」

「凱斗だよ。むやみに突っ掛かったりしなかっただろうな」

「──別に。黎さんの前だしな。普通に話していたぞ」


 淡々としたその口調から、采希は嘘ではないと思った。そもそも琉斗は嘘がバレやすい。


「分かってんならいいけどな。──じゃあ最近のお前、やたらと凱斗に冷たいのは、なんでだ?」


 琉斗がぴくりと反応して手を止めた。

 やはりこいつの反応はわかりやすい、と思いつつ采希は答えを待つ。

 琉斗は固まった姿勢のまま動かない。


「おい、琉斗……」


 自分は何か変な聞き方でもしただろうか、と思いつつ声を掛けようとして、采希は異変に気付く。


 采希と那岐が立ち上がるのと同時に、黎の声が響き渡った。


「全員、伏せろ!!」


 その指示を完全に無視した采希と那岐が、それぞれ天に向かって手を伸ばす。


 ──ぱああああん


 10メートルほど上空で、閃光とともに何かが弾けたような音が鳴り響いた。


「──何? 何が起こったの?!」


 榛冴が身体を伏せて頭を抱えたまま叫ぶ。


「那岐!!」

「ダメ! 間に合わない!」

「──ちっ……俺も逃がした。ナーガ、追え!」

《承知》


 空からの声と共に、一陣の風が巻き起こって西の方へ向かった。


「采希兄さん……今のって?」


 畑の作物の間から、榛冴が恐る恐る顔を覗かせる。


「──分からない。何かの念のでっかい塊だったけど。お前には何か視えたか?」

「一瞬だったから……百鬼夜行みたいな、色んなモノの集合かな、って……」


 榛冴はすっかり蒼褪めている。


「──ほお、あの状況でそこまで確認できたか。さすが見鬼(けんき)だな」


 黎が笑いながら榛冴の手を取って立たせる。


「黎さん……あれって……」

「采希、お前にも何となくあの念の意図は感じたんだろ?」


 采希は神妙な顔で頷いた。


「──宣戦布告」

「──だな」


 よく分かったな、と褒めるように黎がにやりと笑う。


「敢えて、全員揃ったところを狙うか。──かなりの自信家で、俺の嫌いなタイプだな」


 ちょっと離れた所にいた那岐が畝を飛び越えてやって来た。


「ごめん、兄さん……捕まえられなかった」

「うん、俺もだ那岐。ナーガと、それに瀧夜叉姫も追って行ったから、たぶん大丈夫だろ」


 采希たちの会話に、黎が納得したように頷く。


「ああ──お前ら、相手を見極めようとしてたのか。だから『捕える』結界を組んだのか? しかもあの一瞬で? ──すげぇな……」


 そう言う黎の結界は、采希や那岐よりも速かった。

 采希たちの結界の更に上空に展開された黎の結界は、相手の力を吸収する種類のものだった。しかも、効率よくきっちりと念の大きさに合わせてあった。

 相手の術師も吸収されそうになった事が分かった瞬間に念を呼び戻している。

 だから采希と那岐は追おうとしたのだが、二人は思わず顔を見合わせる。

 黎に視線を移しながら、采希は黎の能力に驚いていた。

 巫女が黎の事をべた褒めしていた事が頭を(よぎ)った。


「黎さん、凄いね。結界の展開の仕方が凄く速いし上手だった」


 那岐が嬉しそうに黎の腕に手を添える。


「僕、閉じ込めるヤツと跳ね返すヤツは得意なんだけど……」

「それで充分だろ? ──ま、訓練したいなら付き合ってやるぞ」


 その訓練なら、俺も……と采希が声に出そうとしたところで、作業着の腰のあたりを後ろに引っ張られた。


「──あ゛? ……なんだよ琉斗」

「……采希、黎さんは……お前や那岐のような力を……」


 驚いたような表情を張り付けたまま、琉斗が采希の作業着を握りしめている。


「いや、俺たちなんかより上ですね。あのあきらの、師匠だぞ」

「──では、何故あきらに家督を譲って家を出たんだ?」

「先見の力、が基準らしいからな」

「さきみ……?」

「ま、予知能力みたいなもんだな。未来が視える力って、お前も言ってただろ?」


 何を今さら、と思いつつ采希が答えると、琉斗が急に俯いて黙り込む。

 膝の辺りの土を払い落としながら、凱斗が采希たちの方へと歩いて来た。


「ねーねー黎さん、奴らが狙いを定める『(まと)』にしたのは、何だと思う?」

「……は?」


 凱斗の口からそんな質問が出たことに、采希は純粋に驚いた。

 それは全員同じだったようで、他の三人も怪訝そうに凱斗を見つめる。──ただ一人、黎を除いて。


「──采希だな」

「……俺? 『的』って、なん……」

「持て余すほどの力に加えて、今はあきらの眷属を抱え込んでいるからな。ある程度の能力を持つ輩には見つけやすいんだろう。看板を背負って歩いているようなもんだ」


 笑いながら言う黎を眉を顰めて見ながら、采希はちょっと身震いする。そんな連中に常に照準固定(ロックオン)されているとか、全然笑えなかった。


「いつかみたいに隠形(おんぎょう)、だっけ? それなら見つからないんじゃないかって思ったんですけど、ダメですか? あの時は榛冴にも見つけられなかったし」


 嬉しそうに言う凱斗に、黎が首を横に振る。


「──あ~、そいつは無謀かな。常時隠形するのは無理がある。数日ならまだしも、年単位では不可能だ」


 自分と同じ事を考えていた凱斗の提案があっさりと否定され、ちょっと嫌な不安に襲われた采希の前に琉斗が立って、黎を正面から見つめた。


「黎さん、常に相手に捕捉されているのならば、いっそこちらから仕掛けてはどうだろうか?」


 全員の視線が琉斗に集中する。


「……琉斗?」

「どうせ居場所は把握されているんだろう? こちらの動きや考えまで把握されているとは考えたくはないが……。だったら、正面切って相手に対峙した方がいいと思う。俺たちを挑発するような自信家には、真っ向勝負で挑みたい」


 唖然とする采希たちを尻目に、黎が嬉しそうに──どちらかと言うと不敵に、笑った。


「──なるほど、そっくりだな。……だが、ちょっとだけ待て、琉斗。仕掛けるなら準備が必要だ」


《采希》


 天から声が降る。龍神(ナーガ)だった。


「……特定できたか?」

《いや、途中で複数に分かれてしまった。いくつかは追えたのだが、ほとんどが囮であった。特定できたのは二か所のみだ。──すまぬな》


 ふわりと空から降りて来た瀧夜叉姫も、こくりと頷いて采希に頭を下げた。采希は申し訳なさそうな顔の瀧夜叉姫に笑ってみせる。


「ニか所……いや、気にしなくていい。ありがとうナーガ。──で、場所は?」


 瀧夜叉姫が采希の中に戻ると、頭の中に航空写真のような映像が浮かぶ。黎がすかさず采希の肩に手を置いた。


 空を飛ぶ黒い塊が複数に分かれ、一番大きな塊を瀧夜叉姫が追う。

 上空から徐々に下降し、大きなお屋敷と呼ぶに相応しい場所が拡大される。

 同時に黎が小さく舌打ちした。


「黎さん、ここって……もしかして」

「──本家だ」


 采希は心のどこかで、やっぱりそうか、と思う。

 一族の巫女ですら利用しようとする親類縁者なら、巫女に近付いた采希たちを疎ましく思っても不思議はなかった。

 他の分裂した塊のほとんどは何もない山や河に吸い込まれ、そのうちの1つが宮守本家と並ぶほどの屋敷に到達していた。


「……本家? 以前まで黎さんやあきらちゃんの住んでた本宅ってこと? 今は誰も住んでいないって……。誰かがその屋敷に入り込んでいるってこと?」


 榛冴が眉間に皺を寄せて、不快そうに呟く。


「一応、護りは置いてあるがな。中の物は持ち出せないように細工しているが、ある程度の力を持った術者がいれば入ることは簡単だ。中心になっていたヤツの企みは本家の屋敷で行われたってことか。──さて、どうしたもんか……」


 言葉とは裏腹に、俯き加減の黎は笑っているように見えた。

 嫌な予感をふつふつと感じた采希の向かいで、凱斗が嬉しそうに片方の口角を上げた。


「もちろん、反撃すんだよね?」


 はしゃいだ声の凱斗とは真逆の低音で黎が応える。


「──可能な限り、効果的にな」

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