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巫の血脈  作者: 櫟木 惺
第10章 咫尺天涯 ~霊獣たちの集う夜
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第47話 白狼の守護

「──采希(さいき)兄さん……」


 眼を開けて最初に視界に入ったのは、助手席から身を乗り出すように後席の采希を覗き込んだ琉斗(りゅうと)の顔だった。

 どうやら采希は那岐(なぎ)の膝を枕に、横向きに倒れて寝ていたようだ。

 心配そうに采希の肩を撫でている那岐を見上げる。


「那岐──俺……?」

「兄さん、急に倒れ込んだと思ったら、そのまま意識を失ったみたいで……ごめんね、兄さんとあきらちゃんとの話……」

「──ああ、聞いてたか。だったら話は早い。那岐、俺はあきらを助けに行く。お前は小春を──」

「ううん、兄さん、僕も一緒に行く」


 采希の言葉を遮り、那岐が大きく首を横に振った。


「いや、だけどな」

「小太郎さんの家に結界を張って、朱雀を小春ちゃんの所に残して行こうと思うんだ。僕の中で、かなり回復したみたいだし。それより──兄さん、龍神さまは呼べる?」

「ナーガか? 呼べると思うけど、どうかしたのか?」


 龍神(ナーガ)は空の龍なので、この空間内であれば呼ぶことが出来る。──何を今さら、那岐も知っているはずだと采希は思った。


「──そうだったらいいんだけど……兄さん、琥珀が……」

「──え?」


 采希は慌てて左手を挙げてバングルを確認する。

 銀色をしていたはずのそれは、くすんだように輝きを失っていた。


「采希、こちらもだ」


 琉斗が右手に付けた金のバングルを采希にかざして見せた。それはもはや、金色ではなかった。


「おそらく、あきらちゃんに繋がる眷属たちとか、全て良くない影響を受けてるんじゃないかって思ったんだ。兄さんの水晶もあんな事になったし……」


 どういう事だ、と采希はバングルを見つめて考えた。

 眷属というと、シェンと白狼、武将と妖術使いの姫、彼女が気を巡らせて護っている数多の龍たちが思い浮かんだ。


「そうか、琥珀と紅蓮もあきらに作り出されたから、影響を受けるのか」


 那岐の膝から起き上がり、采希はそっと琥珀の名を呼ぶ。現れた琥珀は、采希の手の平に舞い降りるなり座り込んだ。


「琥珀──お前、今、どんな状況だ?」

《はい、巫女が受けた力の影響が私や紅蓮にも届いています。このままではお役に立つことが出来ません》


 巫女が受けた力の影響、と聞いて采希は首を傾げる。どんな力を受けたら琥珀や紅蓮までこんなに弱るのか、采希には分からない。まるで呪いのようだ──と考えたところで、焦った声が聞こえてきた。


「それは困る。采希はまだしも、俺は紅蓮がいないとただの厄介者扱いにされかねない。琥珀、どうにかできないのか?」


 琉斗が助手席から身を乗り出す。


(厄介者……そんな風に思ってたのか)


 ちょっと、呆れた顔で琉斗を見る。だからこれまで何だかんだと構ってきていたのか、と気付き、采希の封印の鍵という大役を意識していないのだと理解して苦笑した。


《一旦、巫女との繋がりを堰き止めて、采希さんから気を分けて頂くようにできれば、恐らくは動けるかと。でも私からはどうにも出来ません》


 琥珀の弓が無くて、自分にどこまで出来るだろう、と采希は思った。

 琥珀が浄化されることになって不在だった間は金剛杵が活躍してくれたが、その金剛杵も龍神と巫女の作った物だ。

 さすがに誤作動はないとは思うが、どれ位の影響があるか分からない。


「琥珀、とりあえず俺の中に入ってろ。紅蓮、お前もだ」


 琉斗のバングルから飛び出した紅蓮が真っすぐに采希の胸の中に溶け込む。琥珀もその後に続いた。

 眼を閉じれば二つの気配を認識できる。采希は琥珀と紅蓮の気配をそっと労るように包み込む。


 ずっと無言で見守っていた那岐がぼそりと呟いた。


「琥珀と紅蓮が動けないのはかなり困るね。采希兄さんの中で少しでも回復してくれたらいいんだけど。姫さまは?」

《──ここにいる》


 那岐の肩に龍の姫が現れた。


「お前は平気なのか?」

《大丈夫。他の龍たちと違って、私は巫女の巡らせる気に頼っていないから。時々、采希の気を分けてもらってるし》

「そうか。──じゃあ、ナーガは……」


 龍の姫が哀しそうな表情で俯く。その表情からは龍神(ナーガ)への影響があったと容易に推測された。当然、姫の本体である地龍も今は動けないと、小さく呟かれる。

 采希が困ったように頬に手を当てたところに、凱斗(かいと)の声が掛けられた。


「ま、その話はちょっと置いとけ。もうすぐ着くぞ」



 * * * * * *



「ちーにーしゃ! おかえりしゃい!」


 玄関で小さな小春が飛び付いてくるのを、采希はふわりと受け止める。屈託のない満面の笑みに、采希も思わず笑顔になる。


「ただいま、小春。いい子にしてたか?」


 采希に抱かれている小春を見て、小太郎ががっくりと項垂れた。


「小春……俺が帰って来てもそんなに歓迎してくれないのに」


 横で晴海が盛大に笑い声を上げる。


「拗ねない拗ねない、采希くんは特別なんだよ。さ、みんな上がってー」


 揃って居間に上がり込み、それぞれが座ったタイミングでお茶が出て来た。


「小春がね、あなたたちが着く10分位前に『ちーにーしゃ、とーたのおふねのとこ』って急に言い出して。港の辺りを走ってるならそろそろかなって、お茶の用意をして待ってたの。ぴったりだったね」

「え? 俺の暗示、効いてなかったってことですか?」


 以前、采希は霊が見える小春に自分が望む時まで何も視えなくなる、という暗示を掛けている。

 それがもう解けたのかと思い、慌てて腰を浮かした。


「ううん、違うみたい。視えてはいないと思う。元々、勘のいい子だからね。それに、采希くんだから小春にも分かったんじゃないかな。采希くんの気が近付いて来たのに気付いたんだと思うよ」


 そう言われてみれば先日、ちょっと大きくなった小春に会った時も『暗示は効いている』と言っていたのを思い出した。

 ちょっとほっとして、采希は膝の上に陣取った小春を見下ろす。小春は嬉しそうに小さな身体を揺すって、時折采希を見上げてはにっこりと笑いかける。その度に采希も笑い返すが、つい考えてしまった。

 こんな小さいのに、あきらの力を受け継いだりしたら自分の暗示なんて、何の役にも立たないだろう。

 思わず出そうになる溜息を飲み下し、采希は小春を見つめる。



「うん、やっぱり面影は残っていたな、あの時の少女は」


 采希たちの様子を眺めていた琉斗が急に呟き、那岐も頷く。


「一瞬、誰だか分かんなかったよね。気配は小春ちゃんなのに、すっかり美少女になってて」


 怪訝そうに采希たちを見渡す小太郎に、先日の出来事を話す。

 未来の小春に出会ったと、そう告げられた小太郎は眼を輝かせた。


「そうか、そんなに可愛くなっていたのか! それは嬉しいんだけど、未来の俺がどれだけ心配するか考えると……」

「──心配?」

「どんな悪い虫が付くかってな。采希くんみたいな男の子だったらいいんだけど」

「──俺、ですか? 俺なんかじゃ、ダメですよ。小春にはもっと強くてしっかりしてて優しい男じゃないと、任せられない」


 采希の言葉に小太郎がなるほどと言わんばかりに大きく頷いた。

 父親が二人になったような様子に晴海が呆れた顔になり、凱斗が笑いながら尋ねた。


「俺、未来の小春ちゃんには会っていないんだけど、そんなに可愛いの?」

「「「「そりゃもう!」」」」


 凱斗以外の四人が揃って肯定する。


「マジか──小春ちゃん、早く大きくなんねぇかな」

「その頃には兄貴も、いいおっさんだぞ。女子高生に相手にしてもらえるはずが無いだろう」

「そんなの、わかんねーだろ?」


 凱斗たちが不毛な会話を始めたのを尻目に、那岐が小春にそっと囁く。


「小春ちゃん、お願いがあるんだ。采希兄さんに、小春ちゃんが巫女のお姉さんに会った時のことを教えてくれる?」


 小春はじっと那岐を見つめ、妙に大人びた眼でゆっくり頷く。

 まだ言葉をうまく操れない小春に、どうやって説明させるのだろうと采希が訝しんでいると、晴海が心得たように手を打った。


「だったら、小春を眠らせた方が早いんじゃない? 催眠療法みたいな感じで、采希くんに読み取ってもらったら手っ取り早いと思う。そろそろお昼寝する時間なのに、はしゃいじゃって寝てくれそうもないからね、采希くん、眠らせちゃってくれる?」




 まっくろな おにんぎょうが、こはるのまわりに いっぱいきたの。そしたらこはるは、おそらのてっぺんまでとんで、びゅうんっておちたの。

 おおきなおうちがあって、もうよるみたいなのに、いっぱいおとなのひとがいて、みんなかおに なにかかけてた。こわくてないていたら おねえちゃんがきゅうにでてきて、こはるをだっこして まわりのひとをやっつけてくれた。

 おうちのなかに おおきなあかいとりさんがいて、おねえちゃんがなにかしたら きえちゃった。「もうすぐ さいきがくるから、がんばれるな?」っておねえちゃんがいって、こはるが「うん」っていったら おうちにもどってて、おかあさんがいたの。



「……よく分からないね。采希兄さん、高校生の小春ちゃんならもう少しきちんと話せたんじゃないの?」


 榛冴(はるひ)が正座で腕組みしながら、ちょっと困ったように采希に話しかける。


「あの姿を引き出すのは、俺には無理だな。あの技術(わざ)先見(さきみ)の巫女だからこそだろ。それより榛冴、お前には映像が視えたんじゃないのか?」


 憮然とした表情で榛冴が溜息をついた。


「……視えなかった。うすぼんやりと面布を被ったような人影と、朱雀の姿は見えたけど──周囲に何があるのか、映し出されているのが何処なのか、認識できる程じゃなかった」


 全員が押し黙る。見鬼である榛冴にも視えないのでは、どうしようもない。

 誰がどうやって攫い、どこに連れて行かれたのか。そして小春が巫女の力を継承する器であることを、どうやって知ったのか、采希には何一つ分からなかった。


 突然、那岐が後ろを振り返る。


「──あれ? ロキさん?」


 全員が一斉に那岐の視線の先に集中する。だがそこには何もいなかった。


「那岐、どこにロキがいるんだ? 俺には見えないんだが……」


 琉斗がきょろきょろと見渡している。

 采希はゆっくりと立ち上がり、壁の傍にしゃがみ込むと、そっと空間に手を翳した。

 采希が向けた手の前にぼんやりと白い塊が現れ、それは大きな白い狼の姿になっていった。


「──!! ロキ! どうしたんだ?」


 琉斗が慌てて白狼の傍に寄って来た。

 白狼は、身体を伏せたまま弱っているように見える。


「お前にも影響があったのか……」


 采希の声に白狼がゆっくりと眼を開ける。


《いや、我はこれでも影響は少ない方だ。それでも現世(うつしよ)で存在するには気が足りていない。このままではお主らの力になる事もできぬのでな、すまないが采希、お前の気を分けてもらいたい》


 白狼の申し出に、采希はちょっと首を傾げて考える。

 常に采希の気を分け与えている地龍の姫は、事が起これば采希に力を貸すと契約している。琥珀は巫女の眷属だが、采希の眷属としても動けるように、巫女から条件付きで借り受けている。琥珀への指示は巫女が一番の権利を持つが、巫女の命令がない場合は采希に従う。


 気を分け与える。それは主従関係となることだと采希は聞いていた。


「それって、ロキが俺と契約するってことか?」

《そうだ。我では役不足か?》


 そんな事があるはずがない。手を貸してくれるならどんなに心強いか──采希がそう言おうと思った矢先だった。


「ロキ、その役目は──契約は、俺とではダメだろうか」


 ──琉斗だった。

 神妙な面持ちで正座をしている。ぎゅっと握り込んだ拳は膝の上で小刻みに震えていた。


《……琉斗》

「俺には大した力は──いや、力なんて物はほとんど無い。だからロキに気を分けてやることも、采希のように的確な指示を出すことも出来ない。だが、だからこそ俺にはロキのような強力な守護者が必要だ。今のままでは、みんなを護るどころか護ってもらうことになる。存分に闘うためにも──俺にはロキ、お前が必要なんだ」


 しん、と静まり返った室内。凱斗ですら、からかう事を忘れて押し黙っている。

 静寂を破ったのは那岐だった。


「ロキさん、僕からもお願いします。必要なら、僕の気を使ってもらっても構わない。だから、琉斗兄さんの守護をお願いします」

「あ、あの、僕も……僕の気も、どうぞ。本当は僕の護りをお願いしたいけど──前線で闘う琉斗兄さんの方が……」


 那岐に続き、榛冴も協力を申し出た。

 采希が驚いて琉斗の方を見ると、琉斗もぽかんと口を開けている。


「お前たち……」


 白狼がふっと笑う。采希と眼が合うと、すっと眼を細めた。


《──良い、家族だな。采希、こちらから願い出るつもりだった。お前の気脈を我に繋いで欲しい。そして、琉斗の守護を任せてもらえるだろうか?》

「ロキ、お願いします」


 采希はそっと大きな白い狼の首に腕を回し、ふかふかの毛皮に顔を埋める。

 弱っているのが分かった。采希の気を注いで、やっと姿を現わせるほどに弱っているのに、それでも白狼は守護を申し出てくれた。


「ありがとう」


 小さく呟くと、白狼が応えるように采希の頭に顔をすり寄せた。


《では采希、契約だ》




「結局、小春ちゃんが連れて行かれて、あきらちゃんが捕らえられている場所ってどこなんだろう?」


 那岐がため息まじりに呟く。


「小春ちゃんの記憶でも分からなかったし……せめてその『おうち』の周囲の様子でも分かればね」


 榛冴の言葉に那岐も頷く。

 腕組みをしたままの采希に、全員の視線が注がれた。

 いつもの流れに、采希は小さく息を吐き、顔を上げる。


「じゃ、本人に教えてもらうとしますか」


「「「「は?」」」」


「采希、本人って──巫女さんのことか? お前には『来るな』って言ってるのに、彼女が教えるはずねぇだろ?」

「そうだぞ采希。あきらの頑固さはお前も知ってるだろう? 簡単に助けを求めるような女じゃないぞ」


 双子が珍しく息の合ったところを見せて采希に詰め寄る。


「でも──兄さんには、その方法に心当たりがあるんだね?」


 那岐の呟きに、今度は一斉にそちらを見る。


「うん、まあな」

「でも兄さん、場所が分かっても、行けるとは……」

「那岐兄さん、どういう意味? すごく遠い場所とか?」

「もしくは強力な結界に守られているか、かな。──琥珀も紅蓮も使えない状況で結界を破れるものなのか?」


 凱斗の不安は采希にもよく理解できた。

 どんな結界にしろ、自分たちだけで入り込むのは困難だろうと思っている。

 それでも采希は凱斗を安心させるように笑ってみせた。


「多分、なんだけどな、結界はないと思う。あきらが小春を連れ戻った状況から考えてもだ。ただ──場所が問題だろうな。普通に進んだら辿り着けないような場所、異空間や地底、空の上なんかだと、ちょっと難しい。──琥珀、紅蓮」


 采希の呼び掛けに、琥珀と紅蓮がふわりと采希の中から姿を現わす。


「どうだ? いけそうか?」


 琥珀と紅蓮が同時に頷いた。


《平気》

《かなり回復できました。問題ありません》

「それなら、何とかなるかもな。采希、どんな方法で捜すつもりだ?」


 凱斗の眼が面白がっているように輝く。

 采希はゆっくりと立ち上がって、みんなを見渡した。



「名前って、不思議だと思わないか? 例えば、大勢が話している中でも自分の名前って聞こえやすいし、反応してしまう。なので今回は、その心理を利用したいと思います」


 那岐が『おお……なるほど』と言いながら拍手をしてくれた。他の三人はよく分からない、といった顔だ。


「つまり、人混みで自分の名前を呼ばれたら、つい振り返っちゃうでしょ? だからあきらちゃんの名前を呼んで、反応があった場所を特定しようってわけ」


 那岐が説明しても、全員、難しい顔のままだ。


「──そんなにうまく行くか? あきらのことだから、呼ばれても反応しない位の芸当はできそうなものだが」


 琉斗の言葉に榛冴も頷く。


「そうだよ。そんなに意気込んでさ、無視されちゃったら恥ずかしいよね」


 腕組みをして考え込んでいた凱斗が、ふと顔を上げた。


「采希、もしかして真名(まな)を持ってたら──そんで、その真名を呼ばれたら無視できない、とか?」

「正解。よく分かったな」


 采希がちょっと首を傾けて笑ってみせると、凱斗もにやりと笑った。

 琉斗と榛冴が揃って凱斗を見る。


「なんでそんな事を知っているんだ、兄貴」

「まぁ、ちょっとね」

「そもそも真名って何なのか、知ってるの?」

「いや、よく分かってない」

「じゃあなんで? 凱斗兄さんの口から『真名』って言葉が出てくること自体、びっくりなんですけど」

「──あー、俺も真名を教えられたからさ」

「「誰に?」」


 綺麗に凱斗の弟たちの声が揃う。


「──へぇ、凱斗、それってもしかして、この間の?」

「お? 采希、気付いてた?」

「ああ、時々独り言いってたしな。誰かが力を貸してくれることになったんだろうな、って思ってた」

「采希兄さん、それって、きり……」


 慌てて那岐の口を手で塞いだ凱斗が、采希に向かって口角をあげてみせる。


「そんな訳だからさ、采希、今回は俺も同行すっから」


 伝説級の神獣の手が借りられるのであれば、断る理由はない。

 采希と凱斗は互いにがっちりと握手を交わした。



「──さてっと。じゃ、今から呼ぶから、榛冴と那岐よろしく頼む」

「ちょっと待って、那岐兄さんは分かるけど……僕? 僕に何を?」


 驚きに眼をまん丸にしている榛冴の頭に、采希はそっと手を乗せる。


「そうだな、那岐は気配を感じ取ることが出来る。そしてお前は、耳だ。神様クラスの声を聞き取れるお前の耳で、あきらの返事を拾って欲しいんだ。頼む」


 じっと采希の眼を見つめながら聞いていた榛冴が、きゅっと唇を噛みしめて頷くのを確認し、采希は榛冴に笑ってみせる。


「那岐、お前は気配を確認したら──捕まえろ。分かるな?」

「了解」

「ちょっと待て、采希。真名というのはそんなに簡単に口に出していいものなのか?」


 珍しく、琉斗が的を射た事を聞いてきた事に、ちょっと驚いて采希は眼を(みは)る。


「──いや、よくないですね」

「だったら──」

「大丈夫だ。みんなには聞こえないからな」

「「「──は?」」」


 揃って疑問の声を上げる中で、那岐だけがにこにこと笑っている。

 目ざとく気付いた榛冴が那岐に向かって『どう言うこと?』と首を傾げてみせる。


「僕と兄さんで実験したことがあって。あきらちゃんの本当の名前の話をしてたんだけど、兄さんは普通に話しているのに、名前の所だけ耳鳴りみたいな音で聞こえなかったんだ。何度試してもね。だから、そういう風になってるんだね~って話してたんだよ」

「そういう風になってるんだね~、じゃなくてさ、どういう仕組みなわけ?」

「「──さあ?」」


 今度は采希と那岐がぴったり揃った。三人が同時に額を手で抑える。こちらも息が合っている。


「そんな不思議界隈の現象の理由を模索しても無駄な気がしないか? 俺としちゃ、さっさと巫女殿を捜しに行きたいんだけどな」

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