第38話 空虚な器
《……兄さん?》
かすかに耳に届いた声に、采希は思わず声を上げる。
「那岐!! 無事か?」
《やっぱり采希兄さんだ! 榛冴、正解だよ。外に居るのは采希兄さんだ》
「……確かに俺だけど……は? どういう事だ? お前ら、外の様子が視えているんじゃなかったのか?」
《さっきまで、視えなくなっていたんだよ。榛冴と母さんが『采希の気配に見えるけど、何か違う』って言ってて、だから確認したんだ。もしかして、兄さんの封印がないせいとか、かなぁ。とにかく兄さん、金剛杵を貸して!》
「……えっと、話がよく……」
采希は頭に血が上ってぼうっとしてきた。こめかみが痛い。
《凱斗兄さんの意識が戻った。今ならこの家を開放できそう》
なるほど、そういう事ならと采希は気力をかき集め、弓を引き絞る。
矢の先端に金剛杵を出現させたつもりだったが、そこには直径5センチほどのオパールのような虹色の光の珠があった。
采希は朦朧としながらも、なぜか『これでいい』と直感した。母屋の居間あたりを狙って矢を打ち込む。
家の中に吸い込まれた矢が見えなくなって、数秒後。
「うおおおおりゃあああ!!!」
鬱憤を晴らすような凱斗の叫び声とともに、家の内部から放射状に光が溢れた。
光に触れ、母屋を取り巻いていた触手が次々に消えていく。その様子に、采希は思わず笑みを浮かべた。
(さっすが凱斗。──って、やば……!)
采希を吊り上げていた触手も力を失って拘束していた采希の脚を開放する。
当然、采希の身体は自由落下を始めた。
「……ちょ……ま……あ……うあああああ」
覚悟した衝撃の代わりに、采希の身体は柔らかい毛皮にふわりと埋まる。
「白虎さん、ナイスキャッチ!」
玄関から飛び出した那岐が手を高々と上げているのが眼に入った。
凱斗と榛冴も飛び出してくる。
采希を空中で受け止めた白虎が、そのまま那岐の前に降り立った。
「采希兄さん!」
那岐の渾身の抱擁を、采希は眩暈に耐えながら受け止める。
「琉斗兄さん! 血まみれで平然と刀を振り回すとか、怖いんですけど! ……あ……れ?」
榛冴が琉斗に駆け寄ろうとして、ふと足を止める。
やっぱり気付いたか、と采希はほくそ笑んだ。
姿は琉斗でも、纏う気配が違う。
琉斗の弟で見鬼である榛冴にはすぐに分かるだろうと思ってはいた。
「──琉斗兄さんの中に、別の気配がする。どこかで……」
榛冴が首を傾げる。榛冴は巫女に会った事がない。
それでも琥珀や紅蓮に近い気配を読み取って、何とか思い出そうとしていた。
「見た目は琉斗なんだけどな。憑依されてる感じじゃねえし、どういう事態なんだ采希?」
凱斗が采希の肩に手を掛ける。
「……あ、巫女さま! 巫女さまだ!」
(──さすがだな、那岐)
那岐の声を合図に、琉斗の身体が二重に歪む。琉斗の姿にダブって巫女の姿が投影された。
「ちょっと、この身体を借りていたんだ。驚かせてすまない、榛冴。榛冴と凱斗は、はじめましてだな」
意思の強そうなきりりとしたその姿に、凱斗と榛冴が息を飲むのがわかった。
采希は含み笑いをしながら、呆けたままの凱斗に声を掛ける。
「とにかく合流できてよかった。近くに親玉がいるらしいんだ、だからそいつを──」
「待って、采希兄さん。今すぐ向かう気なの?」
榛冴が慌てて采希を制する。
「……え?」
榛冴は何を言っているのだろう、と采希は思った。
この事態を収束させるために、巫女までも呼びつけてここまで駆け付けた。早く解決することに何の問題があるのだろうと、眉を顰める。
「まあ落ち着けって、采希。とっとと片づけたい気持ちも分かるけどな。でもさ、お前らの身体はどうなんだ?」
「……身体?」
確かに疲れてはいるが、と答えようとした采希の視界の隅で何かが動いた。
「!! 巫女さま!」
那岐の声に振り返る。頭を垂れてぐらりと傾ぐ琉斗の身体。
その光景に、さっきの恐怖が甦る。
呼び掛けると同時に駆け寄ろうとした那岐より、近くにいた采希の腕の方が速かった。再び琉斗の身体を抱き止める。
「──あきら?」
「……すまない、大丈夫だ。ちょっとフラついただけで──」
「兄さん! 後ろ!」
「采希、危ない!」
那岐と凱斗の叫びと同時に、采希の眼も捉えていた。
触手の生き残り──いや、本体にごく近い部分か。狙いは弱っている巫女の、琉斗の背中だった。
《采希さん!》
采希は琥珀の意図を一瞬で読み取る。
琥珀を右手に持ち替えたその刹那、琥珀が和弓から短刀に姿を変えた。
琉斗の身体を庇いながら、逆手に握ったその刃で最後の触手を断ち切る。
素早く辺りを見渡した榛冴が、道路の一点を指し示した。
「凱斗兄さん、那岐兄さん、あそこだ!」
那岐が両手を胸の前でがっしりと組み合わせる。軽やかな音を立てて結界が張られた。
そこに金剛杵が凱斗の手で無造作に投げ入れられ、空中で独鈷杵に変化し綺麗に地面に突き刺さる。
後を追うように榛冴のお札が空を切って飛来し、独鈷杵に巻き付いた。
「采希兄さん、止めを──」
榛冴に声を掛けられた采希は、琉斗の身体を支えながら呆然と手の中の短刀を見つめる。
「……采希兄さん?」
ゆっくりと顔を上げ、榛冴を見返す。
「……琥珀が……琥珀の声が聞こえない」
驚いて駆け寄ってくる那岐たちに囲まれ、采希の腕の中の琉斗の身体が身じろぎした。
「……琥珀は……本体に……」
全員の眼が、一斉に琉斗を見つめる。
琉斗の身体は、浅く小さな呼吸を繰り返しながら、支えている采希の肩に手を掛けて身体を真っすぐにしようとした。
「……穢れを受けた状態では、琥珀を使役できないんだ。その短刀は使えるが、あくまで刀としてで……これまでのように龍の気を纏うことは……」
采希を見る巫女の表情が哀しげに見えた。
「……ごめん」
「いや、采希のせいじゃない。俺の──私のせいだ」
「……巫女さま、回復する方法はあるの?」
那岐が口元に手を当てながら巫女に尋ねる。
「大丈夫だ。短刀から人型には戻れないが、このまま神気に当てて──」
「ううん、そうじゃない」
那岐がぷるんと首を横に振る。
「そうじゃなくて、巫女さまが、だよ。おそらくだけど、琉斗兄さんの回復のためにかなり力を費やしたんじゃないかと思って」
那岐の言葉に、凱斗が小さく溜息を吐く。
「……優先事項は?」
「ひとまず、あの触手野郎の復活を阻止すること、かな」
采希が答えると、凱斗も『だろうな』と頷いた。
☆☆☆
まだフラつく琉斗の身体を那岐に預け、采希は触手の本体が縛り付けられている結界に近付く。
試しに琥珀に力を通してみると、刀身が白銀の光を帯びた。
「これなら、いけるか?」
采希は呟いて、榛冴のお札が巻き付いたまま、アスファルトに突き刺さった独鈷杵の傍にしゃがみ込む。視線を向けずに榛冴に尋ねた。
「──で? 本体はどこだって?」
「あ、あぁ、えっと……」
采希の声に弾かれたように、榛冴が采希の傍に駆け寄って来た。
「この真下、1メートルくらい。その短剣で届く?」
榛冴が指した一点に向かって振りかぶる。
「問題ない」
無表情に告げながら、采希は琥珀をアスファルトに突き立てると同時に渾身の気を流し込む。
短刀になった琥珀の刃渡りよりもかなり長く伸びた気が、地中深くまで切り裂いて行く。一瞬で触手を操っていた本体に到達した感触を確認した。
断末魔の叫びと共に、地面が采希と榛冴の乗ったアスファルトごと、一気に盛り上がった。
バランスを崩して榛冴が背中から滑り落ち、采希はキレイに後転しながら凱斗たちの足元まで転がっていった。
「お疲れさん。取りあえず、うちで休もうぜ」
元の形に戻った金剛杵を拾い上げながら、凱斗がにっと笑う。
「この可怪しな空間を何とかしたいとこだけど……まずは回復が先だろな。采希、お前もな」
母屋の居間に入り、いつも食事をしている大きな卓の周りに集まる。
家の中では母親たちが、そわそわしながら待っていた。
「母さん、ただいま──何?」
帰宅の報告と謝罪を、と思っていた采希は朱莉に強く腕を引かれて台所に引きずり込まれる。
「采希、巫女殿は顕在化出来ないの?」
「は?」
「リュウの中に居るのが巫女ちゃんなの? 会いたい! 采希、巫女ちゃんにお願いして」
反対側の腕を蒼依に掴まれた。母たち二人から懇願され、采希は困ったように首を振った。
「あきらは、かなり疲れてると思う。だから、悪いけど元気になってからにして。ごめん」
不満そうに唸りながらも、二人は嬉しそうに居間を覗き込んでいる。
何がそんなに嬉しいんだろうと思いながら、采希は居間に戻った。
横になってはどうかという提案に巫女が難色を示したので、ソファにクッションを並べて寄り掛からせた。
つらそうな呼吸の割に、琉斗の顔色は悪くない。
巫女が優先的に琉斗の身体の回復に努めてくれているおかげだろうと采希は思った。
無表情で琉斗の身体を見つめていた凱斗が立ち上がり、正面に座り込む。
「……なぁ、巫女さん。あのさ」
真っすぐに凱斗を見返すその眼は、琉斗よりも明るい色になっている。
それだけでもいつもの琉斗の雰囲気とは全然違って見えた。
違う気配を纏った弟に戸惑うように、凱斗はちょっと頭を掻きながら言葉を選んでいた。
「……あ~、もしかしてさ、俺の力、あんたの回復に使えたりしない? なんかさ、さっきから首の後ろのあたり──背中とか、むずむずするんだよね」
一斉にみんなの視線が凱斗に集中する。那岐は『むずむずする』と言われた首から背中の辺りを凝視していた。
「那岐、何か視えるか?」
凱斗の言葉に那岐が首を振る。
「いや……う~ん……どう……なんだろ? 榛冴?」
「僕に振らないでよ。……表面的には何も──身体の内部かなぁ? 采希兄さん?」
「俺に振るなよ。……俺もかなり疲れてるんですけどね」
一度落ち着いて座ってしまうと、身体がかなり重く感じた。仕方なしに采希は凱斗の傍まで四つん這いで進む。
凱斗の隣に座り、首の後ろ辺りに手を翳してみる。
眼を閉じると、イメージが浮かび上がった。
荒れ狂う海のような、今にも弾けて飛びだして来そうな力の奔流。
(これが凱斗の力……? 前に感じた時よりも強くなってないか?)
采希が少し驚いていると、肩に地龍の姫がふわりと降りた。ようやく、那岐の中から出られたらしい。
采希の肩の上から、凱斗のジーンズの尻ポケットにねじ込まれた金剛杵を指差す。
《それが、使えると思う。凱斗の力なら、それを通じて巫女に移すことができる》
慌ててポケットから金剛杵を取り出す凱斗を眺め、采希はふと疑問に思った。
「姫、凱斗の力を金剛杵が通してくれるなら、琉斗に力を渡すことが出来たんじゃないのか? 別に俺のでも凱斗のでも」
片眉を上げて訴える采希に、地龍の姫があっさりと否定した。
《無理。采希の力も凱斗の力も、金剛杵はそのまま通してしまうから、琉斗には受け取れない。いつかみたいに暴走する。それに、凱斗の力を受け取るのは普通の人には無理だよ。巫女だから受け取れるけど、采希でも相当苦しいと思う》
「……そうですか」
地龍の姫が、ふわりと采希の肩から浮かび上がる。
さっきまで両端が五鈷だった金剛杵は、采希が初めて手にした時と同じ──片側の中心に淡く虹色に輝く宝珠が納まった形に変わっていた。
地龍の姫の指示に従い、凱斗が恐る恐る琉斗のみぞおち辺りに宝珠を当てがう。うまくコントロールが出来ないのか、凱斗の額に汗が浮かぶ。
見かねた那岐が凱斗の後ろから肩に手を乗せた。
那岐によって導かれた力が琉斗の身体に向かって流れていくのが、采希にも確認できた。
あとは那岐に任せればいい、と、采希は榛冴を振り返った。
「これまでの様子を聞かせてくれ」
そう言った采希の額に、にっこり笑った榛冴がそっとお札を貼りつけた。
その途端、采希の視界から色が消え白くなっていく。
* * * * * *
白い、白い世界の中。遠くに小さな気配が見えた。
采希がゆっくり近付くと、琉斗だった。
振り返って采希を認め、嬉しそうに微笑む。
「采希! 迎えに来てくれたのか?」
「……迎えに? お前、ずっとここに居たのか?」
「いや、さっき凱斗の力が俺の身体に注ぎ込まれた時、凄い大波が来たみたいに弾き出されそうになったんだ。でもあきらが、俺が流されないように繋いでくれた。凱斗の力が俺の身体に──あきらに馴染むまでここに退避していろと、そう言われた」
言われてみれば、琉斗の腰の辺りに光の帯のような物が見えた。
その先がどこに続いているのかを考えつつ、采希は首を捻る。
「流されないためのアンカーって訳か? どっちかってーと、犬のリードみたいだな」
「アンカー?」
「錨のことだ。凱斗の力が馴染むまでって、あきらでも、すぐには取り込めない程の力なのか」
采希が考え込んでいると、琉斗が嬉しそうに袖を引いた。
「やっぱり采希の力の方がいいな」
「……は?」
「凱斗の力は俺には刺激が強いというか……触れたら痛みのようなものを感じたんだ。采希の力だとそんな事はないのに」
琉斗の言葉に、采希は顔を強張らせた。
凱斗の力は邪気を排除する。その力に触れて痛みを感じると言う事は、まさか琉斗は邪気を纏っているのか? と思わず身構える。
《そうじゃないよ。凱斗の力が強すぎるだけ。邪気の持ち主だったら紅蓮を使う事はできないよ》
采希の眼の前に、唐突に紅蓮が現れる。
「──あれ? 紅蓮、なんでここに……あ、そっか、お前、琉斗の回復のためにって琉斗の中に居たんだったな。一緒に流されて来たのか?」
《ううん、凱斗の力なら紅蓮には平気。二人を迎えに来た》
言われてみれば、紅蓮は龍神の力を使って巫女に作られている。
龍神の力ならば確かに、凱斗の力とは馴染みそうだと思った。
「あきらは、もう大丈夫なのか?」
琉斗が紅蓮を手の平に乗せて尋ねる。
《大丈夫だって。采希も回復した頃合いだろうから、迎えに行ってって言われたの》
「……どうやって帰るんだ?」
嫌な予感を覚えながら、采希は恐る恐る聞いてみる。かなり不安がよぎった。
《どうって……こうやって》
「「うあああああああぁぁぁぁ!!!」」
紅蓮の言葉が終わらないうちに、采希と琉斗は、いきなり宙に浮かび上がった。
天地が逆転したかと思う程の勢いで空に舞い上がり、そのままどこかに運ばれる。
(……こいつら人外生物は、揃いも揃って……)
無事に戻れたら丁寧という言葉の意味を教えてやろう、そう采希は心に誓った。
「お帰り、采希兄さん」
ゆっくり眼を開けて、まだ衝撃の残る頭をぶるんと振る。
眼の前には那岐と榛冴がいて、凱斗は榛冴が采希に使ったお札を不思議そうに眺めている。
「……なんで? どういう仕組みなの?」
榛冴は管狐に向かって真剣な顔で聞いていた。
「お札を貼ったら采希兄さんが白目を剝いて倒れて、起きたら身体が回復してるって、一体どうなってるの?」
「兄さん、どう? 休めた?」
騒ぐ榛冴には構わず、那岐が心配そうに聞いて来る。
采希は自分の手をきゅっと握り込んでみた。握って、開いて、ぐるんと肩を回す。
立ち上がろうとして、かなり身体が軽くなっていることに気付いた。
「マジか──本当に回復してる」
驚いて自分の身体を見下ろす采希に、凱斗が声を掛けた。
「采希も回復したみたいだな。じゃ、行くか」
《凱斗も行くのか? うちにいた方が安全じゃないか?》
どこからともなく、琉斗の声が聞こえる。
采希と凱斗が琉斗の身体を振り返ると、苦笑いの表情を浮かべていた。
「……琉斗も回復したようだな。では、この身体は任せる。離れるぞ、琉斗」
《了解だ》
一瞬、琉斗の身体の輪郭がブレたように見えた。半透明な巫女が琉斗の身体から抜け出し、隣に立つ。
「中々に刺激的な体験だったな。この身体にあんな動きができるとは思わなかったぞ。あきらは身体がなくても攻撃はできるのか?」
「武器は扱えないが、問題ない」
巫女が応えると、凱斗がいきなり手を上げた。
「じゃ、今度は俺の身体、使っていいぞ」
「「「「はああああ?」」」」
一斉に非難の声が上がる。
「何だよ、なんかおかしいか?」
「いや、だって……いくら巫女さま相手でも、すき好んで身体を明け渡すとか……」
「何があった、凱斗?」
「凱斗兄さんが女の子の身体に憑依したい、って言われた方が納得できる」
「なんでそんな事を思い付いたんだ?」
口々に凱斗に詰め寄る。
「だってな、俺の力って誰にも──俺自身にさえ使えないじゃん? でも巫女さんなら使うことが出来る。だったら有効利用してもらうのが一番だと思ったわけだ」
みんな揃って黙り込む。台所から覗いていた母親たちも、何とも言えない表情で凱斗を見つめていた。
「確かに、一理あるけどな」
采希がそっと琉斗の隣を横目で見ると、当の巫女は困惑顔だった。
「俺は、確かにあいつらの攻撃を受けないかもしれない。でも、それだけだろ? 巫女さんなら俺の力で攻撃も出来るんだし、だったら一人でも攻撃要員が多い方がいい」
名案だろ? とでも言い出しそうな凱斗を遮るように、采希は眉を顰める。
「あれ? 采希は反対派か?」
「いや、いい案かもしれないけど大問題がある。あんな人間離れした動きに、この鈍った凱斗の身体が耐えられるとは思えない」
真顔で告げる采希の言葉に、那岐が『おおっ』と声をあげて手をぽんっと叩く。
「そっか、凱斗兄さんは見ていないんだよ」
「あぁ、あれは凄かったね」
那岐と榛冴が互いに頷き合う。
「あの動きに凱斗兄さんの身体がついて行けると思う?」
「いや、絶対に無理でしょ」
二人は揃って首を横に振っている。
「お前らなぁ……お前らが何を見たのか知らんけど、きっと、だーいじょうぶだって」
「凱斗がそれでいいなら、構わないぞ」
巫女が笑いを堪えているように、ちょっと眼を逸らしながら言った。
「ただし、意識がない方が凱斗のためだとは思うがな」
「……俺も、そう思う」
巫女の言葉を受け、采希と琉斗も頷く。
「え~~? 大丈夫だって」
妙に自信あり気な凱斗に、榛冴が諦めたようにため息をつく。
采希が台所の方を振り返ると、蒼依と視線が合った。
「本人がそこまで言うなら、仕方ないんじゃない? まだ骨もくっ付いていないってのにバカだよね」
榛冴がそう言って肩を竦めると、息子たちの邪魔にならないようにずっと控えていた朱莉と蒼依が、大きく頷いた。
「おぉい榛冴、お兄ちゃんに向かってバカはないだろ」
「いや、バカでしょ? 痛みが治まっても骨折が治った訳じゃない。それに采希兄さんが止せって言ってるのは、ちゃんと理由があるからだよ。僕と那岐兄さんも反対だ。それでも押し通すってんなら、それはバカだよ」
「僕もそう思う。でも、凱斗兄さんがそうしたいんだったら、自己責任だよね」
「凱斗、お前のためだ。やめておけ」
次々とたたみ掛けられる凱斗の姿に、巫女が戸惑ったように采希を見る。采希は小さく首を振った。
「那岐の言う通りだな。凱斗の自己責任だから、好きにさせてやってくれ」




