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巫の血脈  作者: 櫟木 惺
第6章 海神の誓約者
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第31話 波及する業

「小春!」


 采希(さいき)たちの乗った車が家の前に到着するかどうかといったタイミングで、晴海が玄関から駆け出してくる。

 采希の腕の中で眠ったままの小春をそっと受け取り、涙に濡れた顔を小春に押し付ける。


「采希くん、ありがとう。本当にありがとう。とにかく、みんな上がって」


 ぞろぞろとお邪魔すると、小太郎が一人でみんなが座れるように居間を整えていた。


「お帰り、采希くん。──みんなの活躍は龍の姫様が見せてくれてたよ」

「え?」


 そういえば、龍の姫の姿が見当たらなかったと気付く。

 きょろきょろと見渡すと、ソファの背もたれの上に憮然とした顔で座っている小さな姿を見つけた。

 采希はその表情にちょっと笑いながら黙って近寄り、傍に腰掛ける。ちょうど並んで座るような恰好になった。


「姫、ごめんな」


 顔を向けずに、ぽつりと告げる。


《何が?》

「無理矢理、凱斗(かいと)たちの所に送ったこと」

《采希がみんなを、私も含めて巻き込みたくないって思っているのは分かったから。怒ってない》

「小太郎さんたちに付いていてくれたんだな」

《うん、きっと不安で居ても立ってもいられないと思ったから》


 心遣いに感謝しつつ、采希は龍の姫に手を差し出す。

 手の上から采希の肩の上に移動し、そっと顔をすり寄せる。

 その様子を見ていた琉斗(りゅうと)が紅蓮に声を掛けた。


「紅蓮、いいのか? 采希の所に行きたいんじゃないのか?」


 琉斗の肩の上では、紅蓮が明らかに拗ねていた。

 琉斗の首筋にしがみ付きながら、顔を半分こちらに向けて様子を窺っている。

 その表情に思わず采希から笑みが零れた。


「紅蓮」


 采希が呼び掛けて手を差し伸べると、泣きそうな顔でふわりと飛んで来た。


「ごめんな、紅蓮。でもお前は……」


 顔にべったりと張り付き、采希の言葉を遮る。


「兄さん、紅蓮は分かってるよ。自分は琉斗兄さんの武器だから、琉斗兄さんの傍にいないといけないんだって」


 采希の顔に張り付いたままの紅蓮の背中を指で撫でながら、那岐(なぎ)が笑う。


「だからさ、大変だったんだよ。琉斗兄さんに『采希の傍に連れて行って!』って言い続けてて」

「紅蓮、悪かった。だからちょっと離れてくれるか。さすがにこの人数でお邪魔してるから、晴海さんの手伝いをさせてくれ」


 不満そうな紅蓮を琉斗がつまみ上げて自分の肩に乗せる。

 何やら小太郎と盛り上がっている凱斗の脇を通り抜けて采希が台所に向かうと、晴海が天板をオーブンに入れる所だった。


「晴海さん、俺、手伝います」

「あ、ありがとう采希くん。疲れてるのにごめんね」

「いえ」


 シンクに置かれていたボウルやらの調理器具を丁寧に洗っていく。


「采希くん、みんなも迎えに来たことだし、逃げるのはもうやめるの?」

「…………」


 采希の手が、ぴたりと止まった。ゆっくりと晴海に視線を向ける。


「何かから逃げて来ている。それは多分、自分の運命に怯えているんだと思う。いや、自分の運命に大切な人達を巻き込みたくない、という恐怖からかな。あれ程の力を持っていても、不安になるものなんだな」


「……晴海さん?」

「初めて采希くんがやって来た日、小太郎がそう言ってたの」

「そう、ですか」


 采希の声が少し喉に絡まるように震えた。

 それを感じ取って小太郎さんは俺を拾ってくれたのか、と采希は唇を噛みしめる。


「大切な人達を巻き込みたくないって気持ちは分かるなぁ。でも、その大切な人達はこうして采希くんを追って来ている。巻き込まれるんじゃなくて、一緒に運命に向かって行こうって、そういう気持ちなんじゃない?」


 俯いた采希の眼から、ぽつりと涙が落ちた。




「お待たせ! 焼きたてだから、気を付けてね」


 そう言いながら晴海がテーブルに置いた焼き菓子の皿に、凱斗が即座に手を伸ばす。

 忠告されたにも関わらず、予想以上の熱さに取り落とすと、琉斗が呆れたように凱斗を白い眼で見ていた。

 采希たちも笑っていると、晴海が采希たちを面白そうに見渡す。


「こうして見ると、本当に全員、力の気配が違うね。最初にうちに駆け込んできた時には驚いたけど」



 采希を追って来た四人は、姫の案内でまずこの家に来た。

 突然現れた四人のうちの双子に『采希、どこですか?』と大声で言われた晴海は、何が起こったのか分からず悲鳴を上げそうになった。

 面識のある龍の姫が姿を現わして事情を説明した事で、近隣住民等による通報は免れたが、小太郎も飛び出して来て那岐と榛冴(はるひ)が平謝りする羽目になった。


 晴海から誘拐犯と思われる人物宅を聞き出して、すぐさま車に乗り込んだ凱斗と琉斗に『待て、コラ!』と叫びながら提案した榛冴の言葉に従って、龍の姫が残る事になった。


 そんな話をしていると、小さくむずかるような声を上げて小春が目を覚ました。

 眼を開けて部屋を見渡し、采希の所で視線が止まる。


「ちーにーしゃ」


 にっこりと笑って采希に両手を伸ばす。抱かれていた小太郎の腕から降ろされると、一直線に采希に向かって来て膝に飛び乗った。


「すごいね、この子、迷わず采希兄さんの所に来たよ。よっぽど好かれたみたいだね。こんにちは、小春ちゃん。僕は榛冴お兄ちゃんだよ」


 小春が采希にしがみ付いたまま首を傾げる。


「……う?」

「榛冴、お兄ちゃんって呼んで欲しかったのか?」


 采希が笑いながら榛冴に尋ねると、ちょっと拗ねたように口を尖らせてそっぽを向いた。


「ねーねー、俺も~! 凱斗、凱斗兄ちゃんだよ!」


 勢い込んで話しかけて来た凱斗に、小春が少し怯えるように采希にしがみ付く。


「……やぁあ」


 小さく言いながら、すっかり采希の胸に顔を埋めてしまった。


「采希兄さん、すっごい懐かれてる」


 那岐が呟くと、凱斗も同意した。


「ほんとそれな。采希は猫とか小っちゃい子とか、めっちゃ好かれるよなぁ。俺も女の子にお兄ちゃんって言われたい」


 両手で顔を覆う凱斗を押し退けるようにして、琉斗が采希の前に立った。


「……采希、ちょっといいか? 話がある」


 真顔で親指で後ろを指差しながら言われ、采希が少し戸惑っていると那岐が琉斗の後ろから顔を出した。


「采希兄さん、一緒に付いて行っていい?」

「いや、那岐──」

「もちろん。……いいよな、琉斗」

「……ああ」



 陽が傾きかけた道を海の方角に向かって、三人で押し黙ったまま歩く。


 琉斗は何か考え込むように、俯きがちに眉間に皺を寄せながら歩いている。

 采希はその様子を怒っているのだろうと思っていた。

 那岐は采希を挟んで琉斗と反対側を、空を見上げながら鼻歌でも歌い出しそうな様子で歩いている。


 無言のまま、三人はあの小島が見える海沿いの道路に出た。


「あれが、あの海岸にあった祠と対の祠がある島?」


 小島を指差しながらの那岐の問いに、采希は頷く。


「なるほど、人為的に作られた【道】の跡が見えるね。海岸から島に向かって伸びていたのか。島の方を先に浄化したのは正解だったみたい」

「へぇ、そうなのか?」


 那岐の言葉に、采希はちょっと驚きながら答える。もし、逆だったらどうだったんだろうと少し怖くなった。


「采希、お前……どうして家を出たんだ?」


 唐突に琉斗に声を掛けられ、思考が中断される。


「どう、って。別に──」

朱莉(あかり)さんが言っていたんだが、俺たちを危険な目に合わせたくなかったのか?」

「……」

「俺には分からない。これまではみんなで協力していたじゃないか。それではダメなのか? 采希がいない方が危険だと俺は思うぞ」

「俺の力は──とにかく、俺はお前たちの傍にいない方がいいんだ」

「采希!」

「聞けよ。俺の力が封印されているのは知ってるよな? だけど、これまで色々無茶したせいで封印の効果が薄れているようなんだ。つまり、常に俺の力が漏れ出しているような状態らしい」

「──え?」

「ちなみに、俺の力は邪気に好まれるそうだ。邪気どもは俺の力を取り込もうと躍起になって寄って来るらしいぞ。──餌としてな」


 琉斗が眉間に皺を寄せたまま采希を睨みつける。


「──だから、俺たちから離れるのか? そんな輩は叩き潰せばいいだけの話だろう」

「だから、聞けって琉斗。叩き潰すかどうかは置いておくとして、邪気を持った霊や念が襲ってきた場合、問題があるのは分かるな?」


 むっとした顔のまま琉斗はしばし考えて、閃いたように顔を上げる。


「凱斗だな。凱斗の力が使い物にならない事だ」


 那岐がぎょっとした顔で琉斗の横顔を見る。

 冗談で言っているのかと思ったが、本人は至って真顔なのに気付いて呆然としてしまった。


「──本気で言ってるのか? 問題は、お前だ。俺の傍にいたら、憑依体質で、しかも身を護れないお前が一番危ない」

「でも一度や二度、そんな事があったぐらいで──」

「四度だ。ひと月やそこらで四回だぞ」


 反論しようと口を開きかけ、さすがに琉斗も口を噤んだ。



 睨みあうような二人の間でおろおろと困った顔をしていた那岐が、ふと思い付いて采希の腕を掴む。


「あ……そうだ、兄さんに聞こうと思ってたんだ。『闘気』って何? 普通に琉斗兄さんが紅蓮を使ってたけど」


 那岐の問いに、采希の表情が和らいだ。


「あー、あれな。晴海さんと話してる時『気と力は別物か?』って聞かれて、俺も疑問に思ったんだ。那岐に癒しの気を送った時はすんなり出来ただろ? そしたら晴海さんに『気の質が違うのかな?』って言われて気付いた。紅蓮の起動に必要なのは、俺の普段の【気】じゃなくて──」


「「あ!!」」


 那岐と琉斗が揃って声を上げる。


「闘おうとする時の気!」

「言われてみれば、そうだな」

「こんな単純な事だったんだ……」


 二人は納得したように頷いているが、采希は不満気に腕を組んでいた。


「確かに単純な事なんだろうけど、普通に暮らしている人間に、気の質の違いなんて気付けると思うか? 龍神(サーガラ)も姫も、最初からそう言ってくれりゃ良かったのに」

「龍は気が具象化したような存在だからじゃない? だから僕らに上手く説明できなかったんだよ、きっと。龍神さまも姫さまも、出来て当たり前のことだったんだろうね」

「まぁ、そうなんだろうけどさ」

「よく分からないが、これでいつでも紅蓮で闘えると言う事だろう?」

「あー、それなんですけど──」


 嬉しそうに尋ねる琉斗に、采希は口籠りながら眼を逸らす。



 * * * * * *



「帰るのは明日でもいいんでしょ? 今日はみんな、泊まっていって」


 疲れ切っていた采希は、晴海の提案をありがたく受けることにした。

 もう陽もほとんど落ちていて、長距離の夜の運転は誰もが嫌がった。


「ちーにーしゃー!」


 戻って来た采希に、待ちかねたように飛び付いて来た小春とも、もう少し一緒に居られる事になる。


「この子……晴海さんと同じ力、ですね」


 那岐が言うと、晴海は驚きもせずに頷いた。


「そう、多分ね。しかも私が子供の頃よりも明らかに強い。──那岐くんには分かると思った。采希くんの言った通りだね、すごい力を感じる。なら、分かるよね、小春も大きくなるにつれて色んな苦労をすると思う。嫌なこととか、怖いこととかね。だから……この子の力、抑えられないかな?」


 晴海の言葉に、全員がお互いの顔を見渡す。


「抑える……って?」

「采希みたいに封印しちゃうとか?」

「でもそしたら采希兄さんみたいに、死にかけたり暴走したりしないかな?」

「いや、采希兄さんは特殊な例だと思う。でも、確かに急に封印が解けたりしたら反動があったりしそうだよね」


 口々に話しているのを聞きながら、采希は膝の上の小春をぎゅっと抱き寄せる。


「小春、むしむし、嫌いだよね?」


 小春が精一杯しかめっ面をして、采希に向かってこくこくと頷く。

 その様子に思わず笑みが零れてしまった。

 小春の眼を見つめながらゆっくり息を吸い込んで、丁寧に気を紡ぎながら言霊に乗せる。


「じゃあさ、小春、兄ちゃんの言う事よく聞いて。小春は、もう『むしむし』も『にゃーにゃ』も見えない。大きくなって自分が見たいって……どうしても見たいって思うまでは、見ることも感じることも出来ない。──わかった?」


 采希の言葉を瞬きもせずに聞いていた小春がこくりと頷いた。


「こはゆ、むしむし、ない」


 破顔した采希が小春の顔の前に右手をかざす。

 ゆっくりと小春の瞼が閉じていき、そのまま眠りに落ちた。

 念のため、采希は手の平に気を込めて小春の眉間のあたりに当てる。


「……終わった?」


 覗き込む晴海に、采希は頷いた。


「封印は俺には無理なんで、暗示を掛けました。これなら小春が望まない限り、大丈夫です。──えっと、多分ですが」




 翌朝、小太郎の漁の最後の手伝いには采希と那岐が同行した。

 采希の漁の話を聞いて、那岐は自分も手伝いたいと眼を輝かせていた。他の三人は早起きが苦手なので留守番だ。


 船が港を出るなり、那岐は嬉々として船上を動き回って漁を手伝う。

 よぼど体幹がしっかりしているのか、船体が波に揺られても那岐は平然としていた。


 網から外した魚を両手で掴んだまま、ふと那岐が沖に視線を向ける。


「何か、声が聞こえる」


 采希には何も聞こえなかったので、黙って那岐が見ている沖を眺めてみる。

 陽が上り始めた沖で、遠くさざ波が煌いている。白い波頭のその合間に見えたのは、鱗を持つ長い尾。

 あんぐりと口を開けていると、那岐が振り返った。


「もしかして、あれが采希兄さんの守護を申し出たっていう──海神(わだつみ)さま?」

「……さあ? 俺にはよく……」

《あの御方ですね》


 琥珀の肯定する声が聞こえる中、采希と那岐は呆けたように薄青く輝くその姿を見つめていた。



 漁が終わると小太郎が采希に茶封筒を渡してくれた。


「今日まで手伝ってもらったお礼だ。ありがとう」

「俺の方こそ、楽しく働かせてもらってありがとうございます。拾ってもらった上に居候までさせてもらったのに、お金は……」

「いや、采希くんが浄化してくれたモノの大きさに比べたら、足りないと思ってる。小春も助けてもらったし。……あいつな、入院したよ。どうやら眼も耳も利かなくて、声を出すことも身体を動かすことも出来ないらしい。だけど意識はしっかりしているらしいんだ。──それって、どんな地獄なんだろうな。自業自得だけどな」


 あのカエル男は小太郎の幼馴染だったと晴海から聞いていた采希は、小太郎の表情に苦し気な色を見て俯く。

 そんな采希に気付いた小太郎は、気にするなと言うように背中を勢いよく叩いた。



 采希たちが戻ってくるのを待ちかねたように、凱斗が外で待っていた。


「帰りは琉斗、運転するか?」

「ああ。……いや、凱斗、頼んでいいか?」

「……? まあいいけど」


 采希は一人で家の中に入り、小太郎と晴海に改めてお礼を述べる。

 小春が眠っていたのは幸いだった。顔を見たら離れがたくなってしまう気がしていた。

 外に出ると、凱斗がエンジンを始動させた所だった。那岐が乗り込もうとしながら采希を振り返る。


「兄さん、早く早く!」

「あぁ、ちょっと待って、スニーカーの紐が──」


 そう言って屈み込むと同時に、采希は白虎を隠形させたまま呼び出し、姿を隠してもらう。

 後部座席に着いた那岐は、まだ気付いていない。


 いそいで白虎の背に跨って、そっと首元を撫でる。

 せっかく迎えに来てもらったが、采希にはまだ家に戻る覚悟がなかった。

 目的も果たしてはいない。


「行こう、ヴァイス」


 小声で促すと、白虎が采希を振り返る。

 本当に行くのか、と問い掛けているのが伝わってくる。


「いいんだ、──さ、行こう」


 白虎の身体が一瞬低く沈み、走り出す。

 那岐が慌てて車を降りた気配がした。多分、泣きそうな顔をしているのだろうと思ったが、采希は振り返らなかった。

 弟の気持ちを考えただけで、涙が溢れそうになった。



「思っていたよりは風を感じないんだな」


 突然背後から聞こえた声に、思わず采希の身体が硬直する。

 嫌な予感に囚われながらそっと振り返ると、采希と背中合わせに琉斗が座っていた。

 何故気付かなかったのかと訝しみながら、さっき白虎が問い掛けるように振り向いた意味を采希はようやく理解した。


「おま……!」

「ちょっと止まってもらえるか? 采希にバレないように咄嗟に後ろ向きに座ったのは我ながら妙案だったが、後ろ向きに進むのはかなり怖いんだ」

「ばっ……何してんだお前! さっさと降りろ!」

「どうしてだ?」


 心底不思議そうに聞かれて、采希は言葉を失った。


「どうしてって……」

「一緒に付いて行ってはいけない理由があるのか?」


 思わず黙り込む。いつの間にか白虎が立ち止まっていた。

 琉斗は座ったままで器用に向きを変え、采希の背中に向き直る。


「ほら、こう座るとどうしても脚が采希の視界に入ってしまうだろう? ──だから反対向きでないと、と判断してだな……」

「んな事聞いてんじゃなくて! なんで付いて来たんだよ!」

「お前を一人で行かせたら、また紅蓮が大騒ぎするだろう?」

「だったら紅蓮も連れてくから、お前は降り……」


 降りろと言いかけて、紅蓮は琉斗にしか扱えないことが頭を過る。

 采希の思考に気付いた琉斗が嬉しそうに笑った。


「──な、だから一緒に行く事にしたんだ」


 采希はがっくりと項垂れる。那岐ならいざ知らず、琉斗と一緒では不安しかなかった。


「よかったな、紅蓮。采希と一緒に旅行が出来るぞ」


 呑気そうに言う琉斗を肩越しに睨みつける。


「旅行じゃないし、連れてくとも言ってないですが」

「じゃ、冒険だな」

「いや、人の話を聞けって」

「どこの山に向かうんだ? 巫女と共に紅蓮を生み出した龍とやらの所か? 紅蓮にとっては里帰りになるのか」


 思わず采希の眉がぴくりと動く。


「……お前、どうして……」

「朱莉さんと那岐が言っていたんだ。采希は自分が封印された原点を確認しに行ったんだろうってな。紅蓮を作ってくれた龍ならば、俺も会って挨拶がしたい」

「……」

「さあ、行こうか。冒険に出発だ」


 お気楽な発言に対して罵ってやろうと振り返ると、琉斗の瞳が微かに揺れているのが見えて、采希は額に手を当てた。


 琉斗には采希と一緒にいる事のリスクが、分かっているのだろうと思った。

 何度も憑依されて怖くないはずがない。それでも他の家族に少しでも危険が及ばないようにと考えたのかもしれない。

 そう思いながらも、采希には琉斗の意図はよく分からなかった。


「覚悟が出来てるんだったら、まぁいいけどな。じゃ、行くぞ。ヴァイス、──飛ばせ」


 開き直った采希の声に、白虎が勢いよく走り出す。

 反動で後ろに倒れそうになった琉斗が、慌てて采希の身体に腕を回した。


 背中に、微かに琉斗の笑う気配が伝わって来た。

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