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巫の血脈  作者: 櫟木 惺
第2章 龍神様の捧げ物
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第8話 悪意の仕掛け

 采希たち四人はそれぞれ、不安と心配を抱えながらも布団に入る。眠れそうにないと誰もが思ったが、日中の移動の疲れと先程の騒動で、程なくして全員が眠りに落ちて行く。

 怖がりの琉斗ですら、あっさりと寝息を立てていた。

 シェンも采希(さいき)の枕の横に丸くなった。


(一体何が、起こってるんだ? ──ったく、全部あのおっさんのせいなんじゃないのか?)


 叔母に旅館の宿泊券を譲ったという、近所に住む還暦間際の男。普段から誰に対しても態度が悪いその男の行動に、榛冴は『何かウラがあるんじゃないか』と言っていた。

 狙いすましたように拐われた那岐。そして琉斗に(実際には凱斗に)放たれた呪い。

 完全にあの男の意図だろう。


 そう考えながら眠ったせいか、気付くと采希の眼の前には頭のてっぺんが極薄で青白い肌、顔の下半分が濃い髭の剃り跡で限りなく青く見える、骸骨のような初老の男──件のおっさんの姿があった。

 コンビニ帰りのようで、手には小さなビニール袋を下げている。


(──俺、なんでこんなヤツの夢、見てるんだよ)


「か、上代(かみしろ)の……? ば、化けて……お化け……」


 そう言うなり、家の近所に住むその男は泡を吹いて仰向けにばったりと倒れる。頭をアスファルトに強打したようだが、心配する気は起きなかった。


(……? 夢にしちゃ、リアルな気が……)

《こんな所まで飛んできたのですか?》


 聞き覚えのある声に振り返ると、空中に浮いたシェンの姿があった。

 そこで初めて、采希は自分の身体が地面より高い所にいることに気付く。


「シェン、飛ぶって?」

《ご自分の身体が、見えますか?》

「身体……? ……おぉ、透けてますけど」

《幽体ですから。結界まであっさり抜けてしまったようですね》


 幽体って、俺の身体はどうなってんだ? と問いただそうとして、采希の思考は留まる。


「……結界? 抜けた?」

《あの旅館の周囲にあったものです。周辺の山一帯が結界に覆われていました。気付かなかったですか?》


 言われてみれば思い当たる。全く他の生き物の気配がなかった。


「なるほど、結界ね。道理で那岐が違和感を感じたわけだ。じゃ、あの小さな建物の周りにあったのは結界の中の二重結界? 結界って、用途によって違うのか……めんどくせーな」

《そうですね。旅館の周りの結界は、どんな意図のためか不明ですが》

「結界って言うからには、何かから護るか、何かを閉じ込めるか、だよな」

《そうだと思います。それで、采希さんがここまで来た理由を聞いても?》

「俺たちに旅館のタダ券くれたヤツに、本当の狙いを問い質したいと──そう思いながら寝たらここにいた」

《思った……? 無意識に飛んだということですか。まだ大部分の封印が効いている状態で……》


 シェンの目が見開かれ、虹彩がきゅっと縦になった。


「事情を聞きたくても、こいつ、気絶しちゃったしな」

《でしたら、読み取ればよろしいかと。その人の身体に触ってみて下さい》


 おっさんの身体にか、と采希は思いっきり嫌な表情になる。

 ただでさえ、普段からいい印象を持っていない近所のおっさんに、何でわざわざ──と思う。

 シェンの視線で促され、渋々初老の男の肩のあたりに指で触れる。触れた感触は全くなく、采希はちょっとほっとした。

 完全に白目を剝いているし、どうやら倒れた時に縁石に頭をぶつけたようだが幽体である自分にはどうしようもない、と自分に言い訳する。


 触れた途端、采希の額の辺りに、先刻と同様のスクリーンに次々と映像が浮かび上がる。


 ──違う、俺の欲しい情報だけでいいんだ。


 考えると同時に、欲しかった答えが映し出された。

 その情報を得て満足を覚えた瞬間、采希の意識は旅館の布団で天井を見つめる身体に戻っていた。





 朝になるのを待って、采希は目覚めた従兄弟たちに知り得た情報を聞かせる。


 自分たちは生贄だった、と。


「生贄って、何のだ?」


 琉斗(りゅうと)が低い声で尋ねる。


「龍神、らしいな。条件がさ、男性で二十代までとか、血筋がどうのとか……。あのジジイが居酒屋で知り合った男と話しているのが見えた」

「……なんで、男なんだよ。そこは普通、穢れのない少女とかだろ?」


 凱斗(かいと)が不愉快な顔をする。


「その辺は龍神の好みとかじゃないか? もしくは()()()()()()意味合いだったりとか。血筋の方を重視していたみたいだったしな」

「血筋?」

「宗教に関連する家、だそうだ。神社仏閣教会の関係者であればいいと。新興宗教でもいいらしいぞ」


 それにどんな意味があるのか、と言いかけた凱斗は、質問の無意味さを悟って口を閉じる。多分、犯人たちに意図を尋ねても自分たちには理解出来ないはずだ。


「それで、この先にその龍神のいる沼があるらしい。さっきついでに、倒れてるここの従業員からサイコメトってきた」

「サイコ……?」

「サイコメトリー。触れた物に残った人の残留思念を読み取る力のことだよ。俺はどうやらそれが人の身体でも出来るらしい」

「あー……、それってさぁ、精神感応とかポストコグ何とかってヤツじゃねーの?」

「……面倒だから、一括りでもいいかなと」


 采希の言い訳に、凱斗が笑いながらなるほどと頷く。

 見た目繊細そうなこの従兄弟(さいき)は、自分の事に関してはとても大雑把だ。


「沼、ねぇ。龍が棲むならある程度は大きいか? すぐに見つかってくれればいいけどな。遭難したらシャレになんないぞ」


 龍神の沼に向かう気満々な凱斗の様子を見て、榛冴(はるひ)が恐る恐る采希に尋ねる。


「……采希兄さん、そこ行くの?」

「そうだな、今のままじゃ八方塞がりだ。もしかしたら那岐を助ける手がかりがあるかもしれないし」


 采希がそれでも迷うように俯き加減で小さく呟く。

 榛冴が眼で嫌だと訴えているのを見て、ちょっと困ったように笑った。


「……行って、そのまま俺たち、生贄になったりしないよな?」

「凱斗は確実に平気だろ。最後の条件が、全く霊力を持たない事、だそうだから」

「……じゃ、僕や琉斗兄さんは危険ってこと? マズいでしょ、生贄とか」


 蒼褪(あおざ)めて慌てる榛冴に、采希がにっと笑う。


「榛冴、お前、そう思ってたのか?」

「だって……」

「あのジジイもそう思ったらしいな。『あの家の遥か先祖が神職にあったとは言っても、そんなのは昔の話だ。実際あそこの婆も生意気な娘たちも、そんな大層な人間じゃない。なのに、優秀な教職である自分の事を敬う素振りもない。だから息子どもを生贄にしてやる。確か誰かは霊感があるとか言われていたが、五人もいれば、どれかは生贄として役立つだろう。自分を(ないがし)ろにしたことを思い知ればいい』ってね」


 采希が無表情に言った言葉に、凱斗が眉を顰める。


「……何だよ、それ。俺ら別に蔑ろにとか、してねぇじゃん。母さんたちだってそうだ。朱莉さんなんてこめかみに青筋立てながら我慢してるし。熟年離婚されたのも奥さんのせいにしてるんだって聞いてるぞ。自分が愛想いい振りしても実は底意地が悪くて、近所中に嫌われてるのを自覚してねぇのか?」

「ま、どうあっても『自分が正しい。自分は間違ってない。相手が悪い』と思い込んでいる人間はいるって事じゃないのか? 迷惑な話だけどな」


 榛冴と琉斗も、むっとした顔で腕を組んでいる。

 誰にとっても、いい思い出は皆無だった。


「でも俺、今ならわかるんだ。多分俺たち全員、それぞれ違う力を持ってる。どんな力なのかはよく見えないんだけどな」


 同意を求めるようにシェンを振り返る。


《……?》


 急に振られ、驚いて固まったシェンに向かって、采希はこっそり片目を瞑ってみせる。

 話を合わせろ。その意図を受け取ったシェンは黙って頷く。


「ま、あの爺さんの人選ミスってことだな。そう言う訳で、おそらく全員、生贄の条件からは外れてる。……行く?」



 * * * * * *



 前人未踏、というほどではないが、ほぼ獣道しかないような山を進んでいく。

 先頭で邪魔になる枝葉を掻き分けているのは琉斗だ。

 道どころか、どの方向に進めばいいのかすら分からない。

 ただ何となく采希は、こっちかな、という勘を頼って先頭の琉斗に方向を指示する。

 恐らく方向には間違いはないだろうと思いながら、辿り着ける保証はない。なのに何故か、采希の足は進んで行く。


「そっち、行くの? 何だか嫌なんだけど……」


 何度目かに榛冴に言われて、采希はふと気付いた。


(榛冴が進みたくない方向……もしかして……)


 ここまで何度か、榛冴が急に息を飲んだり、突然びくりと反応していた事を思い出す。

 単に慣れない山中で警戒していただけ、とは思えない程度には、奇妙なその行動。その度、何かを探すかのようにきょろきょろと彷徨う視線。

 記憶のどこかに、同じような反応をしていた子供の頃の(なぎ)を思い出していた。


「榛冴、お前、もしかして……何か、視えて──いや、聞こえてるのか?」


 采希がゆっくりと振り返りながら尋ねると、榛冴がびくっと身体を震わせる。


「榛冴……」


 琉斗が心配そうに声を掛ける。


「何も! 聞こえない! 聞こえてないから!」


(……こいつ、怖いから、聞こえないことにしようとしてる)


 榛冴ならありそうなことだ、と采希と凱斗は同時に思った。


「榛冴、今は急ぐんだ。聞こえてるなら、教えてくれ」

「聞こえないったら!」


 頑固だな。そう思いつつ、采希が榛冴の横に立つ。


「……榛冴、ごめんな」


 抑揚のない声でそう言って、采希は榛冴の首の後ろに手刀を入れる。

 そのまま崩れ落ちる身体を、琉斗が受け止めた。


「ちょ……采希? 何をするんだ!?」


 琉斗が慌てているが、凱斗には、采希の意図がわかった。


「あのな、琉斗、こいつ、多分何かの──誰かの声が聞こえてんだよ。でも、恐怖心が勝って聞こえない事にしようとしてるな。采希が言うように、俺たちには時間がない。……で、采希、榛冴が気を失ってても大丈夫な方法があるから、落としたんだよな?」

「多分だけど、榛冴には口寄せのような力があると思うんだ。シャーマンみたいな」

「それは、本当か?」

「榛冴に誰かの声が聞こえてるとしたら、だけどな。ま、榛冴の様子だと十中八九、聞こえてるだろ」


 俺にもはっきり分かる訳じゃないけどね、と言いながら采希が凱斗と琉斗に説明する。

 采希の封印されていた力がどんなものなのか、凱斗には分からなかったが、采希の眼を見てふと幼い頃のことを思い出した。

 自分たちの眼には視えないモノを捉えるその力。子供心にも羨ましいと思った。あの時と、同じ眼だ。

 ならば、ここは采希に任せよう。そう思った凱斗だったが、弟の琉斗は心配そうに口を開く。


「口寄せって、霊を憑依させるようなものだろう? 大丈夫か? 俺のようになったりしたら──」

「身体を乗っ取られた琉斗とは違うと思う。憑依と口寄せは同じじゃないからな。でも一応、榛冴を押さえててくれるか?」

「……了解」


 突然弟を昏倒させた采希に対して怪訝そうな様子を隠せない琉斗に、心配ないと笑いかけながら采希は頭の中で言葉を形作る。もうかなりコツを覚えた。

 頭部の中心部、松果体と呼ばれる辺りから溢れ出す力。それを意識しながら言葉を並べる。相手は、おそらく榛冴に声を送っていた存在。采希は両手で榛冴の手を包み込む。


(俺には弟を助けるための手段が必要なんだ。俺の声が聞こえるなら、ここに器を用意した。──来てくれ)


 榛冴の身体がびくんと跳ね上がる。

 琉斗の腕の筋肉が、力が入って固くなったのが見て取れた。


《──来ないでって、言ったのに》


 榛冴の口から、少女の声がする。


「は?」


(来ないで? って……あ、あの夢の!)


 膝丈の衣装を纏った小さな存在を思い出した。大きな目の、人形のような姿が脳裏に浮かぶ。


《そう、どういう訳かあなたの夢と繋がったから、あなたに来ないように忠告した。あなたが来ることは分かっていたけど、来たら飲み込まれてしまうから。でも、あなたの力、強くなってる?》

「あ、うん、そうだな。ちょっと強くなってる、とは思う」


 封印が一部でも開放されているなら、その分、力も強くなっていると言ってもいいのだろう、と采希は答える。


《だけど、一番強い子がいない……》

「ああ、どうやら閉じ込められたみたいでさ。助けるためのヒントを探しに来たんだけど……何か、知らないか?」

《分からない。私も閉じ込められてるから》

「……どこに?」

《狭い、筒の中……獣の臭いがするところ》


(それだけじゃ、この子の居場所が特定できない)


「周りの風景は? 何か見えるか?」


 采希が思わず唇を噛んで俯いた時、突然凱斗が尋ねた。


《周り……? 見えないけど、時々水の音がする》

「水、か。大丈夫、俺たち──こいつがきっと助けてやるから」


 凱斗が采希を指差しながらにやっと笑う。


《……ホントに?》

「ああ、助ける。ここからどっちの方向か、わかるか?」

《案内、する》


 榛冴の身体がふらふらと歩き出す。

 それまで榛冴の身体を支えていた琉斗は、あっけに取られて見つめていた。


「凱斗が、助けるって? ……お前、どうする気だ?」

「いや、思わず……だって閉じ込められているとか、何だか可哀想じゃん」

「勝手に采希に振るとか、無責任じゃないか」

「いや、俺はそのつもりだから、いいんだけど。……俺より、凱斗の方が交霊(コンタクト)に向いてんじゃないのか? 俺が向いてないだけか……」


 琉斗が慰めるように、俯いた采希の頭をぽんぽんと叩く。

 凱斗がヒトと交渉するのに長けているのは、営業という仕事柄、当然だと思っていた。

 何かの霊を呼び出すなど、采希の方が凄いだろう。そう伝えようと琉斗は口を開きかける。


「あ、待て待て、榛冴行っちゃうぞ。追いかけろ」


 凱斗の声で、慌てて榛冴の後を追いかけた。





 龍神の沼とはいうものの、山の中ということもあってそこまで大きなモノではないだろう、と想像していた采希たちは、思っていた以上に大きな沼に到着する。


「……なんていうか……(よど)んでないか?」


 凱斗がちょっと嫌そうな顔になる。


「うーん、特に流れ込む小川もないみたいだし、澱んでるみたいだな」

「龍神が棲むには、ふさわしくない気がする。もっとも、生贄を要求するような龍なら邪龍とか?」


 凱斗がそう言いながら振り返る。


「ちょっとそこの……えっと、お嬢さん、あんたはどこにいるんだ?」


 榛冴の中の女の子の声が苦しそうに答える。


《ここ……あいつ……来る……逃げ……》


 ふっと榛冴の身体が倒れかけた。

 急いで琉斗が受け止める。

 みんなが榛冴の方を見ていたせいで、沼に背を向けた格好になっていた。その背後でごぼごぼという音が次第に大きくなる。


 振り返って、采希は息を飲んだ。


 沼の中央あたりが泡立つように盛り上がっている。

 そこから黒い、煙のようなものが立ち上り、凝縮されながらもどんどん膨れ上がっていく。

 辺りには腐臭が漂い始めた。


「凱斗、下がってみんなの傍に居てくれ! 琉斗、榛冴を頼む!」


 咄嗟にそう叫び、未知の物体に対する恐怖を抑えながら、采希は沼にゆっくり近付く。


「シェン、あれ、何?」

《いろいろ集まったよくないモノ、瘴気です。すぐに消すべきモノですね。飲み込まれたくないのであれば》

「飲み込まれ……? もしかして、生贄を要求していたのは、あれか?」

《恐らく、そうでしょう。微かにヒトの気配が残っています》

「それって、以前に生贄になった人とか?」

《と、思われます》


 采希の顔が嫌悪に歪む。今にも舌打ちしそうな気持ちを(こら)えて大きく息を吐く。


「了解。ヴァイス、来てくれ」


 采希の声に応えるように、目の前の空間の一部が捻じ曲がる。

 ぽうっと光ったと思うと、白虎が空中に浮かんでいた。以前見た時とは違い、実際の虎ほどの大きさになっていた。


(そういえば、大きさは俺の力に比例するんだったか)


「お願いだ。凱斗達を護っていてくれ」


 白虎はふわりと采希を飛び越し、その言葉に従って凱斗たちを庇うように降り立つ。


《瘴気の消し方は、お分かりですか?》


 シェンの問いに、采希はちょっと考えるように視線を一瞬、上に向ける。


「いや、やった事ないし。そもそもあれ、消せるのか?」

《出来ます。力を放出するには、まず身体の中にある気を巡らせるのですが》

「…………気?」


 采希の口元が歪む。

 そんなもの、扱えるとは思えなかった。


「……何かこう、呪文を唱えたりとか?」

《ええ、そういう方もいらっしゃいますね。ですが采希さんにはそういったモノは必要ないと伺っております》


「……そんな事、誰から……って聞くのは愚問か」


 おそらく封印を施した巫女殿だろうな、と思いつつ、采希は足元のシェンを見下ろす。

 気を巡らせると言われても、采希にはよく分からない。

 不安そうな采希に、シェンは笑顔で応える。


《采希さんなら、イメージのみで力の具現化が可能だそうですよ》

「……ソウデスカ……。まあ、やってみるけど。──あれは負の気の集合なんだな? だったら光を当てて溶かすようなイメージ、でどうだろう?」

《大丈夫だと思います》


 采希は眼を閉じて、両手の平を瘴気に向ける。

 光を手に集めるようなイメージを頭に描く。

 すると、身体の中で何かが急速に循環し始めたのを感じた。

 掌が熱くなっていくのが分かる。同時に、瘴気が大きくなって自分の近くまで膨れ上がったことも、感覚的にわかった。


「采希!」


 慌てたような琉斗の声を合図に眼を開け、力を一気に解き放った。

 大きな光の珠が瘴気の中心で弾け飛び、一瞬で消滅させた。

 采希の耳は同時に、何処かで何かが砕けたような音を捉える。

 想像より派手なその力の出現に、采希は驚いて思わず自分の手を見下ろす。


《……溶かした……とは、違いますね……》


 シェンもあっけに取られた表情をしている。確かに、溶かしたと言うよりは蒸発させたという表現の方が近い。

 振り返ってみると、凱斗と琉斗も口をあんぐりと開けていたが、白虎だけは『知っていた』とでも言うようにゆっくり采希の方に歩いてきた。

 采希の身体に頭をすり寄せる。

 膝をついて、その頭と喉をさすってあげると、嬉しそうに喉を鳴らすような振動が伝わった。


「ヴァイス、ありがとな。お前、俺の力、うまく瘴気の中心に運んでくれただろ?」

《……そうなのですか?》

「ああ、眼を開けた瞬間、中心からずれてるのが分かったんだ。でも、何かの力で軌道が曲がったから、ヴァイスだなって思った」


 喉を鳴らす音が聞こえないのが不思議だったが、采希は気にせずヴァイスに顔を寄せる。

 ふわふわの感触。感謝の気持ちを込めながら、その毛並みを堪能する。

 ヴァイスが、すっと采希から離れて歩き出した。


(……?)


 少し進んで、ついて来ないのかというように白虎が振り返る。

 采希が慌てて後を追うと、小さな木くずが積み重なった場所で立ち止まる。さっきの何かが砕けた音は、これだったのかと気付いた。

 小さな祠のようなものの残骸に見える。


「何だ? ここが何か……」


 木くずの中にぽうっと光が見える。

 その光を目指して木くずを退かすと、中から金属製のものが出て来た。

 見知った形の金属の塊。

 崩れた祠に祀られていたのだろう。軽く掌から浮かせてそれ(・・)を持ち直し、采希は凱斗たちの方へと踵を返した。

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