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巫の血脈  作者: 櫟木 惺
第18章 逸走の里
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第96話 捕獲の空間、排除の館

「お待ちしておりました。旅の方、どうぞこちらに」


 長い髪を後ろで束ね、着物姿の細い眼の男が那岐(なぎ)たちに笑いかける。

 どうにも胡散臭いと榛冴(はるひ)は思ったが、男はそれ以上何も話さず、くるりと背を向けて歩き出した。


(……どう思う、那岐兄さん?)

(どうやら僕らをもてなそうとしているみたいだけど)

(そうなのか? どこかに拉致されるんじゃ……)

(あの口調でそれはないんじゃない? 琉斗(りゅうと)兄さん一人ならともかく、那岐兄さんがいるんだからその心配はないと思うよ。でも、どこに連れて行かれるのか気になるね)

(……マヨヒガ、とかかな?)


 男から距離が離れた所で、榛冴と那岐と琉斗はこそこそと話し合う。

 マヨヒガと聞いて、榛冴が首を傾げた。


(あー、旅人をもてなす富の館、だっけ?)

(まあ、多分違うだろうけど。こんなに邪気を含んだ霧を操るくらいだ、善意の存在ではないよね)

(邪気?)

(霧を操る、だと?)


 榛冴と琉斗が同時に那岐を見つめる。

 那岐は口元に笑みを作りながら頷いた。


(うん、さっき二人に臨戦態勢を指示した途端に霧が僕らの周囲から離れたでしょ)

(……言われてみれば、さっきより少し薄れたね。相変わらず遠くは見えないけど)

(四神の気配に気付いたんだと思う。だからあの人が迎えにきたんだろうね)

(何のためにだ?)

(僕らを大事な場所に近付けないため、じゃないかな)


 少し離れた所で、男が立ち止まってこちらを見ている。

 どうするべきか一瞬迷った那岐は、榛冴と琉斗に目配せをして男の後を追った。

 小さく、琉斗に指示する事も忘れてはいなかった。


(琉斗兄さん、青龍さまと繋がれるようにしておいてね。まだ呼んじゃダメだよ)



 * * * * * *



 森の中を見渡しながら、采希(さいき)凱斗(かいと)の呆れた声を聞いていた。

 笑い出しそうになるが、ここは多分、笑ってはいけない状況だろうと必死に(こら)える。


「はあ? お前、異世界を目指してこんな所に迷い込んだってのか? 何のために? は? 勇者? お前、中学生にもなってゲームやラノベの世界と現実を混同してるのか?」

「……凱斗、ラノベは読んだことがあるのか?」

「うちの会社に異世界転生物が好きな先輩がいてな、かなり読まされた」

「それは初耳だな。そういうのに興味ないと思ってた」

「何の取柄もない、目標もないような奴が事故で異世界に転移して? もしくは前世の記憶を持ったまま転生して? 特段の理由もなく神様からチート能力を与えられて? 無双しながらハーレムを作ったり、自分の気に入らない奴にざまぁしながらハーレムを作ったり、鈍感系を気取って現実味のない自分に都合のいい女たちとハーレムを作る。──お前、そんな人生を送りたいのか?」


 最後の言葉は少年の眼を覗き込みながら真顔で言った。どうしても終着点はハーレムなのか、と采希はそっと額に手を当てた。

 少年は『それの何が悪いのか』とでも言いたげに凱斗を睨もうとする。だが、その視線は頼りなく逸らされた。


「何かを成すために自分の人生をやり直したいとか、そういう話は面白かったけどな。単に現実逃避したいだけの奴が異世界に行って無双して、本来その世界があるべき姿を壊して、それでどうすんだ? こうして勇者はずっと好き勝手し放題でした、で終わりか? 何のために転移したのか分からないな。召喚した神様からも見棄てられそうだ。そういや、その手の話は未完で終わる場合が多いって先輩が言ってたな」


 凱斗が少年を見ると、その眼は忙しなく泳いでいた。


「つまり、そういう事だ。何の意味もなく転生しても、ダメだって事だろ?」


 鼻で笑って、凱斗は少年と並ぶように地面に座り込む。

 何も反論出来ず悔しそうに俯く少年の様子を眺めながら、采希は凱斗がどうしてそんな言葉を吐き出したのか、気付いた気がした。


 ずっと『力が欲しい』と言っていた凱斗は、いつからかその想いを口に出さなくなった。

 今でも『出来る事ならこんな力は誰かに全て押し付けたい』と言っている榛冴の言葉を聞いた頃からだろう。


『何となくだけどさ、能力を持つこと(イコール)責任を持つこと、みたいな気がするんだよね。采希兄さんも那岐兄さんも、小さな頃から何度も危険な目に遭ってたし。僕にとっては力を持つことにデメリットしか感じられない。見知らぬ誰かのために善意だけで頑張ろうとか、僕には無理だと思ってる』


 凱斗は弟が苦々し気に言った事を思い出していた。

 隣に座っている少年は、昔の自分と同じだ。

 口元を歪めながら、凱斗は立ち上がって少年を促す。


「いつまでもここに居ても仕方ないな。紗矢(さや)さんの依頼を果たすためにも、出口、探そうぜ」



 * * * * * *



「皆様、遅れぬよう、ついて来て頂けますか。この霧で迷われたら大変な事になります」


 中々動き出さなかった那岐を咎めるように、細い眼の男が那岐を横目で見る。


「ああ、すみません。こっちにも都合があるので」

「……あなた達は客人です。勝手な真似は控えて頂きたいものですね」

「勝手な真似をするなって、まるで罪人扱いされてるみたいですね。こんな珍しい場所に紛れ込んだんだから、少しゆっくり見てみたいんですけど」

「罪人扱いした覚えはございません」

「そうですか? じゃあ、さっきから僕らの周りをうろついている()()の悪意は何のためですか?」


 男がぎくりとしたように那岐を見る。

 那岐は全く気にしていないように、すたすたと歩き続ける。

 男に気付かれないように朱雀の力を薄く拡げると、そのセンサーには進行方向に邪気に溢れた建物と、はるか右手の方向に大きな邪気の塊が感知された。

 男が現れる前に榛冴が進もうとしていた方向だと気付き、那岐は密かに笑みを作る。


 そっと両手を前に出し一気に霧を吹き飛ばすと、遠くにその邪気を纏う家屋が小さく見えた。


「僕らを誘い込みたいのはあの家ですか?」


 無表情に告げながら振り返る那岐は、それでも歩みを止める事はなかった。

 男が急ぎ足で那岐に追いつく。


「誘い込むなど……あの屋敷では皆様にお(くつろ)ぎ頂けるよう、酒肴をご用意しております」

「それは、いらないかな。別にお腹すいてないし。じゃ、僕らはここでお(いとま)させていただきます。──魂を捕らえられるのは御免(ごめん)(こうむ)りたいですから」


 唐突に那岐は足を止め、琉斗と榛冴に向き直る。


「目的は分かったから、采希兄さんたちと合流しよう。もうここに用はない」


 細い眼を見開いた男は、悔しそうに表情を歪める。その鼻先が次第に伸び、顔色が黒ずんでいく。

 巨大な鼠のように姿を変えた男は、周囲を(うかが)うと跳躍すべく四肢に力を込めた。


「おっと、逃がさないよ」


 那岐が器用に後肢を足払いし、鼠はべたりと地に倒れた。


「玄武さま、押さえてください」


 榛冴の声に、鼠の体躯が何かに押し潰されたように地に張り付く。


「青龍、霧を操っている者を捜してほしい」


 足元で苦しそうにもがく鼠を一瞥し、那岐は三節棍(さんせつこん)を取り出す。

 那岐が力を通すと、三節棍は朱雀の金の炎を纏う。


「榛冴、そいつ押さえておいてね。琉斗兄さん、ロキさん、まずは周りの連中を片付けようか」



 * * * * * *



 森の中を采希たちは黙ったまま進む。

 采希と凱斗からは足音すら聞こえない事に少年は気付いた。


「あの……どうして歩く音がしないんですか? 足元は枝や葉で埋め尽くされているのに」

「ああ、采希が身体を少し浮かせてくれているからな。足元が歩きにくいとそれだけで体力は消耗するし」

「……僕には……」

「名乗ろうとすらしない奴にそこまで気遣う(いわ)れはないな。それに、こんな場所に入り込んだのは自分のせいだろ」


 先頭を歩く采希の冷たい言い方に、少年はむっとした顔を隠そうともしなかった。

 そんな二人の間を歩く凱斗は、苦笑しながら左前方に眼を向けた。


「采希、あれは?」

「……来たか」


 むっとした顔のまま凱斗に釣られて左手の方向を見た少年は、驚愕の表情に変わる。

 そこには作り物のように畳んだ羽根を背に生やした、天狗のような姿が何体もこちらを睨みつけていた。


「じゃ、お前、あいつを片付けてみろ」

「……は?」


 天狗たちを顎で示し、凱斗と采希は少年の前から姿を消した。


「え……ちょ……うああああっ!」


 眼の前にいた邪魔な存在(かいと)が居なくなった途端に、天狗のような生き物が一斉に動き出す。

 思わず後退った少年は唇を噛みしめて両手を身体の前に構える。


(今度こそ魔法が使えるかもしれない。あんなおっさんに出来たんだ、きっと僕にだって!)


 そんな必死な少年を嘲笑(あざわら)うかのように天狗の手が薙ぐように払われ、少年はあっさりと吹き飛ばされた。


(そんな……僕に力が無いなんて、そんな筈は……)


 更に近付こうとする天狗たちと自分の間にふわりと降りて来た背中を呆然と見つめる。


「……めんどくせぇなぁ」


 ぽつりと呟きが聞こえたかと思うと、眼の前に立つ人物の前に現れた障壁が天狗の攻撃を受け止めた。


()()天狗? 化けるにしてももう少し強そうなのにしろよ」


 そう言って右手に錫杖(しゃくじょう)のような物を出現させた。


「凱斗、サボってないで、お前も動け」

「へいへい。それ、貸してくれ」


 凱斗の言葉が終わる前に、采希は錫杖を木の上から飛び降りた凱斗に向かって放る。

 ちらりと後ろを見て少年が呆けたように固まっているのを確認し、采希は軽く左手を上げた。


「琥珀、行くぞ」


 ほのかな光を放って白銀の弓が現れた。

 天狗のような生き物たちが慌てたように動き出すと、何処(どこ)からともなく様々な動物が集まって来た。そのいずれも、本来の動物とはどこか違っていた。


「……だから面倒なんだっつってんだろ。ヴァイス、あの小僧を護ってろ。三郎、蛍丸、来い。姫、地の力をこの場から切り離せ」


 ゆっくりと采希が弓を頭上に掲げると、凱斗は錫杖を手に嬉々として飛び出した。


炎駒(スルト)、防御はいらないから攻撃の方で頼む」


 凱斗の声で錫杖が紅い炎に包まれる。

 触れる念を全て焼き尽くす炎駒の炎に、地上にいた動物のような生き物たちが次々と消えて行った。

 中空に浮かぶ天狗は采希の矢で射抜かれ、煙のように消える。

 三郎は隠形したまま少年の背後に回り、静かに敵を屠っていた。


「凱斗、気を付けろ。お前に邪気は効かないが、邪気が放つ物理攻撃は効くんだ」


 采希が叫ぶのとほぼ同時に、凱斗に向かって木の上から(つる)のような物が放たれる。

 落ち着いて錫杖を身体の前に(かざ)した凱斗の周りに、ぴちょんと音を立てて光が波紋を描く。

 弦による攻撃は光の波に阻まれた。


「おう。だから(れい)さんに教わってこんな練習してみたぞ。この位の攻撃なら問題ないな」

「……黎さん、すげぇな」


 凱斗が(さく)の当主の元で訓練を繰り返しているのは知っていたが、ここまで急激に成長していたとは思わなかった。

 采希が眼を見張っていると、凱斗は錫杖に込めた力を一気に絞り出すように振り切った。



 * * * * * *



 那岐たちの周囲に潜んでいた何かの気配は、半分ほど消し去った辺りで一斉に逃げ出した。


「那岐、追うか?」

「追わなくていいよ。僕らが行こうとしていた方の先に、でっかい邪気の塊みたいなのがいるから、そこに向かったんだと思う」

「戦力補給に向かったのか?」

「さあ? でもあの邪気の濃さだと、凱斗兄さんクラスじゃないと厳しいかも」


 那岐の言葉に軽く首を傾げた榛冴が、足元の鼠の傍にしゃがみ込む。


「ねぇ、采希兄さんたちは何処? それと、あの家、僕らに何をしようとしたの?」


 嘲笑うように顔を上げた鼠の表情が強張(こわば)る。

 にこやかに笑う榛冴の手には、茶枳尼天(ダキニてん)のお札があった。

 自分の魂を消滅させる力を持つその札に、鼠の顔が絶望に歪む。


「さっさと言って。僕はそんなに悠長じゃない」

「他の客人は壁の向こうに……あの家は入り口しかない袋小路になっています」

「へえー。で、壁の向こうにはどうやって行くの? どっちの方向?」

「壁の向こう側には行けません。そもそも向こうは魂を捕らえるための空間です。魂を逃さないための頑強な結界に護られている。私たちも向こうへはいけません」

「じゃあこっちの空間は何のため? 侵入者を排除するための空間?」

「……その通りです」


 鼠の返答に、琉斗が怪訝そうに首を傾ける。


「俺たちは侵入者として認定されたのに、兄貴と采希は侵入者ではないと判断されたのか?」

「それだけ采希兄さんの隠形が完成されてたって事だろうね。凱斗兄さんは瀧夜叉さまの呪で覆われていたはずだし」

「……俺たちの力が未熟で隠し切れていなかったからか? 俺はまだしも、那岐まで?」

「僕もまだまだって事だねぇ」


 榛冴が小さく頷きながら立ち上がる。


「頑強な結界か。采希兄さんと凱斗兄さんに合流できないと、その邪気の塊は消せないらしいんでしょ?」

「うん」

「それを倒さないとこの空間からの脱出は不可能なのか?」

「そんな事はないよ。朱雀がいるからね」


 だったら、と口を開きかけた琉斗を榛冴が睨みつける。


「まさか、采希兄さんたちを置いて戻ろうとか思ってないよね?」

「そうじゃない。その頑強な結界とやらも朱雀なら越えられるんじゃないかと思ったんだ」


 訝し気に片眉を上げた榛冴に笑いながら、那岐が遠くの方を眺める。


「ひとまずは、その壁に向かってみようか。どっちに行けばいいのかな」


 小さく呟いた声に応えるように、遠くの方から破壊音が聞こえた。ご丁寧に、雷光で空が輝く。


「「「──あ……」」」


 三人が揃って空を走る紫電を目にした。


「向こうだね、行こうか」



 * * * * * *



「全く、勇者を目指す奴が腰抜かしている場合じゃねぇだろ」


 少年を背負った凱斗が忌々しげに吐き捨てる。


「……すいません」

「『()()()()()』だろ。お前さ、甘えすぎじゃないか?」

「……」


 腰を抜かしてしまったんだから、移動するなら自分を運んでくれるのが当然だ。そう考えていた少年は不服そうに口を尖らせる。


「あの念どもにも、本気で立ち向かおうって思ってなかっただろ」

「……だって、あんな力を持ってるなら、僕を助けてくれるべきじゃないですか」


 ぴたりと凱斗が立ち止まる。その身体からぴりぴりとした感覚が伝わってきた。


「力がある者は力のない者を助けるのが当然って、そう言いたいのか?」

「……え? あの…………いえ」

「俺にはそう聞こえたな。それは協力じゃなく、依存だ。俺たちにはお前を助ける義理はない。そんな考えなら、ここに放り出して行くぞ」


 慌てて何か取り繕おうと考えるが、自分を背負っているこの男には上辺だけの言葉は通じないような気がした。

 小さな声で一言だけ絞り出す。


「……ごめんなさい」


 隣を歩く采希が意外そうに少年の顔を見た。

 ふっと破顔した采希に、少年は何故かほっとする。


「まあいい。あのな、ラノベみたいに誰かから無償で与えられた力を欲しがる気持ちは分からんでもない。だけどな、力を持つって事はリスクもあるんだ。そこにいる采希は、何度も死にかけてるぞ」


 驚いたように采希を見つめる少年に、采希は苦笑してみせる。


「それは俺が未熟なせいだな。ちなみにお前が乗っかってるその男は、力が大きすぎて全く使えなかったんだ。さっき見せた力は、こいつの努力の結果だな」


 嬉しそうに笑う凱斗と采希を、交互に見る。


「お前のその想像力も、悪くはないと思うけどな。だけど、現状が気に入らないからって、自分では何もせずに異世界に逃げ出そうって考えには賛成できない。無理に思い通りにしようと犯罪行為に走る奴は論外だけどな」


 最初に会った時とは打って変わった静かな口調に、少年は采希の横顔をじっと見つめた。


「自分が世界を変えてやる、って気概を持った大人になれるといいな、小僧」


 自分を背負った凱斗から笑い含みに言われ、少年は何かを思い出したような表情になった。

 采希はその変化に目ざとく気付く。


「──お前、叔母さんがいるだろ?」

「はい。……どうして知って……」

「紗矢さんが会ったらしい。ずいぶんと偏ったスピ系の考えみたいだな」

「…………偏って、ますか?」

「俺は、そう思った。まあ、思想は自由だと思うけど、自分の考えに沿わない人に対して『信じないなら不幸になる』って脅す時点で胡散臭い」

「そう、ですね。……あの、あなたは──」

「違うぞ」


 即座に少年の言葉を遮った采希に、凱斗が不思議そうな顔をする。


「采希、何を──」

「俺は別に光の勢力とやらじゃない。ごく普通に悩んで迷って失敗するただの人間だ。大事な人すら護り切れない、情けない奴だ」


 不快そうに眉を寄せて眼を逸らす采希に、少年は口を(つぐ)んだ。


「……何の話かは後で聞くとして、采希、この壁は何だ?」


 突如眼の前にそびえ立った壁に、采希も思わず立ち止まった。

 ずっと上空まで続いている。

 何気なく振り返ると後ろにも壁が出来ていて、采希たちは円筒形の壁に囲まれていた。


「おぉ……いつの間に」

「なぁ。急に現れたんだ。何なんだろうな」


 目の前の半透明な壁は、采気が触れようとすると、ほんの少しだけ窪みが出来る。

 手を引くと元通りになった。


「……やな感じだ。俺を避けてるのか?」

「正確には力を感知して身構えてるんじゃないか? ほら、俺がやっても同じように少し歪むぞ」


 采希にはこの壁がどの位の厚みなのか分からなかったが、窪み方が浅いことから恐らくかなり頑丈なのだろうと思った。

 ほんの少し触れただけで、簡単には壊れそうにないのが分かった。


 唸るように琥珀を呼ぶと、采希の前に水干(すいかん)の童子が現れる。


「琥珀、これって俺たち、囚われたって事か?」

《ほぼ間違いなく。この空間のある地点に達すると自動的にこの壁に囲まれるようですね》

「……出るためには?」

(しゅ)による解除も可能です。時間があれば》

「ない」

《では、巫女(マスター)の方針に(なら)うべきかと》


 琥珀が淡々と告げ、采希と凱斗は顔を見合わせる。


「……力尽く、と言うことらしいぞ」

「そうみたいだな。小僧、ちょっと離れてろ」


 凱斗が背中から少年を降ろす。

 不安そうに見上げると、采希がすっと少年に手を(かざ)した。

 小さな半球のドームで自分の周りが囲まれ、驚いていると眼の前に大きな白虎が現れる。


「ヴァイス、全力でその子を護れ。──凱斗、防護壁を張りながら攻撃できるか?」

「俺に、そんな器用な真似が出来ると思う?」

「…………ガイア、俺はいいから凱斗の防御を頼む」


 悪いな、と言うように軽く手を上げた凱斗が、ぐるんと左肩を回した。


「素手の方がいいかな? そんなに固い感触じゃなかったけど、大丈夫だよな?」

「そうだな。──ああ凱斗、感電しないように気を付けろ」

「…………は?」


 にやりと笑った采希が、凱斗を真似るように右肩を回す。


「んじゃ、行くぞ。全力で頼む」

「ちょっと不穏な単語が気になるけど。──じゃあ遠慮なく」


 采希の右手、凱斗の左手が身体の後方に引かれ、その拳がそれぞれの気を纏う。

 同時に壁に向かって突き出された。


「「こ わ れ ろおおおおぉぉぉぉ!」」


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