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巫の血脈  作者: 櫟木 惺
第17章 呼応する邪神
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第92話 見据える先の光

 船内の奥まった豪奢な部屋を落ち着きなく歩き回っていた男は、ブリッジからの内線の音で通話機に飛びつく。

 推進機関の修理が完了したとの報告に、カーンは安堵の息を漏らした。


「──そうか、では航行を開始する。準備を急げ」


 イライラと爪を噛むカーンの様子を、ゆったりと一人掛けのソファーに座った『琉斗の姿をした者』が片肘をつきながら眺めていた。


「そう焦らずとも、この力に手出しは出来ないだろう」

「それは分かっています。ですが本国からは一刻も早くお連れするようにと言われておりますので」


 外側に跳ねた髪の毛を耳に掛けながら、カーンは舌打ちしそうになるのを堪えた。

 自分たちが思っていた存在とは違うモノを呼び出してしまった事を、本国の上層部にどう伝えたらいいのかと考え、思わず項垂れそうになる。

 想定されていた者とは違う名のモノを、このまま本国に連れて行っても良いのだろうか。


(もっと、こちらの言いなりに出来るかと思ったが……あの儀式は本当に正しかったのか?)


 術者は確かに自分たちよりも高位の存在を呼ぶことが出来たと胸を張って答えた。

 だが、降りて来た者が行使したのは、意識を封じた琉斗が持っていた力だった。


(私たちより高位の存在なら、あの身体が内包しているよりも大きな力を持っているはずでは?)


 疑念が湧き上がるカーンの耳に、けたたましい警報が響いた。




 船の周囲で大きな水柱がいくつも立ち上がった。

 その度に船は大きく揺れる。


「何事ですか?」


 カーンの問いに、甲板にいた者は誰も答えることが出来ない。

 船尾の方向から駆け寄ろうとしていた集団の前に、転移して来た那岐と、那岐に抱えられた柊耶が立ち塞がる。


「じゃあ那岐くん、こいつら片付けちゃおうか」

「はい、柊耶さん」


 嬉しそうに笑う二人が同時に背中からそれぞれ武器を取り出した。




「奴らが足掻いているのだろう。無駄な事を」


 ゆっくりとした足取りで甲板に現れた琉斗の身体は、甲板の中央で海面を押さえつけるように力を放った。

 派手に暴れる音のする、船尾の方へと視線を送る。


 その瞬間、眼の前に一人の男が現れた。

 男は琉斗の身体に一歩近付き、鼻先が触れそうな位置で凶悪な笑みを作った。


「迎えに来たぜ、相棒」


 その声を合図に、男の真後ろに張り付いていたもう一人が叫んだ。


「北方玄武、南方朱雀、西方白虎、開放する! 方陣を張れ! 東方の守護神、青龍に願い奉る。()く、参られよ!」


 采希の声に、船の上空で地龍の姫の背に乗った榛冴と船尾で暴れていた那岐から、玄武と朱雀が飛び出して光を放った。

 船の前方に竜巻のような空気の渦が現れ、急激に凝縮されて行った。

 琉斗の身体を中心に、方陣が完成する。

 傍に立つ凱斗は息が詰まりそうな程に空気が圧縮されたように感じた。

 歯を食いしばって圧迫感に耐える。

 目の前にいる弟の身体が身動(みじろ)ぎしたのに気付いた。


「おっと、逃げるなよ。炎駒(スルト)、来い」


 後退(あとずさ)ろうと動いた琉斗の肩を、凱斗の両手が押さえた。

 凱斗の身体から紅い炎が噴き出す。


「まさか……この惑星のヒトごときが操る気に、私が抑え込めるはずはない。──邪魔だ!」


 琉斗の身体から目に見えない圧が放たれ、凱斗が押し戻されそうになる。


「凱斗、(こら)えてくれ。──天照坐(あまてらします)皇大御神(すめおおかみ)祝詞(のりと)は俺には分からない。それでも俺に力を、貸して頂きたい」


 凱斗の背中を支える采希の身体から、透明な気が噴き出して凱斗と琉斗の身体までも包み込んだ。

 琉斗の身体が恐怖したように強張った。何かを抑えるように口元を覆い、身をかがめる。


「紅蓮!!」


 待ち望んでいた采希の声に、巫女姿の童女・紅蓮が瞬時に反応した。

 東の方角から、小さな光が采希を目指して飛ぶ。


《采希!》

「紅蓮、今からお前を琉斗の中に送る。俺が確実に琉斗に届けてやる。──頼んだぞ」


 采希は凱斗の隣に立って、右手に乗せた光の珠を琉斗の胸部に当てる。ごく小さな声で、瀧夜叉姫の名を呟いた。

 驚愕に見開かれた琉斗の瞳孔は爬虫類のように見えた。


「琉斗! 受け取れ!」





(これは……凱斗か。嫌な顔をしているな、あくどい笑顔だ。一体誰に──)

『迎えに来たぜ、相棒』

(…………俺に向けていたのか。手間を掛けさせたようだな、兄貴)

《──四神の方陣に囲まれているようだ。琉斗、今なら呪の檻を押し戻せるかもしれん。出来るか?》

(押し戻す……こうか?)

《…………お前は不器用だな》


 呆れたように白狼(ロキ)が嘆息する。同時に聞き慣れた声が琉斗の耳に届いた気がした。


『琉斗! 受け取れ!』

(采希?)


 琉斗の中が、待ち望んだ気配で満たされる。


《琉斗!》

(紅蓮!! 瀧夜叉、お前も一緒か? ……そうか、解呪のためか)


 琉斗の中で、呪術師が動き出す。

 瀧夜叉姫が内部から少しずつ解いた呪の檻を、白狼(ロキ)が押し広げるように破壊していった。

 外側から二本の矢が突き刺さり、一気に亀裂が走って外部と繋がった気配がした。


《琉斗》

(了解だ、ロキ。紅蓮、斬り裂け!)





 琉斗の内部から発現した力で、憑依が強制的に解除される。

 琉斗の身体から抜け出した霊体は、龍神と海神、そして地龍の姫が作った檻に捉われた。


《……ようやく手に入れた『力を持つ器』だというのに、口惜しい。あの者たちの歪んだ愚かな望みを叶えてやろうと思っていたが、使えない奴らだ》


 悔し気に歪むその姿が、采希にはうっすらと見えた。

 鱗に覆われたような質感の肌を持つその顔には鼻がなく、頭部の中央付近が盛り上がっていて小さな穴が二つあった。頭髪はなく、眼は爬虫類を思わせる虹彩で、口も大きく横に広がっている。


「お前は、誰だ? 何処から来た?」

《答える必要があるのか? たかがヒトであるお前に理解は出来ない。お前ほどの力の気配は惜しいが、そこまで護られていては手出ししない方が無難だろう。ここは見逃してやる》


 異形の存在の言葉に、采希は眉を寄せる。


「これまでも人に憑依した事がありそうな言い方に聞こえる。他にもお前のような者がいるのか?」

《この国だけではない。至る所にいる。ある程度の力を持つ者が望ましいがそのような者はこの世界に()る高位の存在が護っている。せっかく術師と魔方陣の力で憑依出来たものを……」


「その、術師とやらが居なければお前は憑依出来なかったと言う事か?」

《光に護られた者には、近付くのも困難だ。光の守護を僅かにも受ける事すら敵わないような、魂の質も悪く心根も卑しい、力もほとんどない者。悪意や嫉妬、絶望により守護を遠ざけた者。そのような者に憑依するしかないが、それでも使い様はある。どのような手を使っても、その者の地位を上げればいい。そうしてその者に集まって来る、似たような低俗な気を喰らい、それらを隷属化する。この世界を手玉に取るなど容易い》


 醜悪な笑みをみせる爬虫類に、采希の中に怒りが湧き上がってきた。

 誰も望んで絶望する人間など居ない。人の心の隙につけ入るような爬虫類の言葉に苛立った。

 気持ちを抑えるように、采希は小さく溜息をつく。


「お前、自分の立場が分かってるのか? お前は今、空と海、そして地の気を持つ龍たちに抑えられている。しかも、その周囲は麒麟と四神が囲んでいる。まさか逃げ出せるとは思っていないだろう」

《いつまでも抑えていられるものでもあるまい》

「…………そうだな、抑えているだけでは解決しない」


 ゆっくりと采希が左腕を身体の前に上げると、その手に白銀の弓が現れる。

 両腕を頭上に掲げ、弦を引きながら肩の位置まで降ろすと、紫電を纏った矢が現れた。

 その矢を向けられた爬虫類のような顔が引き攣れる。


《その力…………やめろ!》

「力があれば、人より高位の次元に存在すれば、それだけで自らを神と呼び人を見下す。そのような者を神とは呼べない。そんな神なら、不要だ。──大神さま、行きます」


 きりりと引き絞られた弦から矢が放たれる。

 矢は紫の軌跡を描いて龍たちの作る檻の中心を貫いた。




 ごっ、と鈍い音がして、采希は振り返る。

 男の身体が後方に大きく倒れるのが見えた。

 凱斗と並んで仁王立ちしている琉斗の背中に、采希は溜息と共に声を掛けた。


「……琉斗、少しは手加減を──」

「こんな奴に配慮が必要か?」

「要らねぇだろ。琉斗、俺の分は残しておけ」

「……煽るな、凱斗。俺に話をさせろ」


 不穏な空気を纏う双子を押し留め、采希が前に出る。思い切り体重を乗せて殴ったのだろう、男の傍には血に(まみ)れた歯が数本転がっていた。

 男──カーンは口元を手で押さえているが、その指の間から血が溢れている。

 采希は倒れた男に近付いて眼の前にしゃがみ込んだ。


「さっきのあの気味悪い奴は、何処から呼んだ? どんな方法を使ったんだ?」

「……本部から送られて来た魔方陣を使い、本国の術師が召喚しました。私には詳細は分かりません」

「その魔方陣とやらが何を表しているのか、どんな術を使ったのかだ。知らないとでも言うのか?」

「……知りません」


 采希の片眉が訝しそうに上がる。軽やかな足音を耳にして振り返った。棒を肩に乗せた柊耶と、三節棍を片手にまとめた那岐が並んで来た。


「采希兄さん、そいつ、嘘はついていないよ」

「そうなのか?」

「そうだね、那岐くんの言う通り、その男は嘘はついていない。必要な情報を秘匿しているだけだ」


 男の眼が驚きに見開かれる。

 何故それが分かるのか、それともう一つ、何故たった二人に数十人いた戦闘要員が全員倒されているのか。

 凱斗の口が嬉しそうに歪む。


「そっか、秘匿ねぇ。言いたくなるようにしてやろうか?」

「兄貴、それは俺にやらせろ」

「お前らは黙ってろ。怯えてんだろうが」

「「…………」」


 どう見ても采希と那岐と柊耶に対して怯えていると思ったが、凱斗と琉斗は同時に口を噤んだ。


「とりあえず、なんで悪魔を呼び出そうと考えたのか、言ってみろ」

「……神など、いないのです」


 そうして男は琉斗に熱く訴えた自論を繰り返す。

 采希は黙ってその男の聞き取りにくい声に耳を傾ける。

 その表情を自分の言葉を受け入れているように感じたのか、男は采希に同意を求めるように顔を見上げた。


「あなただって、この世の不条理、理不尽さは感じているでしょう?」

「そうだな」

「だったら──」

「理不尽だから、なんだ? 理不尽なのが気に入らないからと無理に自分の道理を押し通すのか? それではお前も相手にとって理不尽な事をするってことだな」

「いや、私が行うのは道理であって理不尽ではない!」

「誰でも自分は間違っていない、自分の方が正しいと思うものだろう。相手の考えを誤った物と信じ込み、それを正すのがお前の正義なら、それを貫けばいい。ただし、自分一人でやれ」

「……」

「この世が理不尽だからと訴え、騒ぎ立てて周りを巻き込んで、それで事態は変わるのか?」

「ですから、事態を変えようと──」

「変えるために悪魔を呼ぼうとしたのか? そうしたら、変わると思ったのか?」

「少なくとも自分の知る腐った連中に鉄槌を下すことはできます!」


 身を乗り出して叫ぶ男に、采希は冷たい眼を向ける。


「悪魔をお前たちが制御出来るつもりでいたのか?」

「それは……」

「例え悪魔を操れたとしても、お前に他人を裁く権利はない」

「しかし! 誰かが天罰を下さなければ──」

「『天』の『罰』なら下すのはお前じゃない」

「……なら、あなたはどうすればいいと思っているのですか?」

「何も」

「は?」

「何もしない」

「何故です!? あなたには力もある! 腐り切った者共を滅することもできるはずだ、あのガノーシュのように!」


 あの爬虫類はそんな名前だったのか、と采希は興味なく考えた。


「俺は人を裁けるような人間じゃない。自分の正義は自分の物であって、誰かに押し付ける物じゃない。お前の言う腐った連中だって、自分が正しいと思う事をしているんだろう。それを咎める資格があるのは俺やお前じゃないな」

「……でも実際は誰も裁かない」

「それは残念だな」

「──! あなたは……」


 采希の眼が細められ、口元が笑みを形作る。

 だがその気配は、周囲の温度を急激に下げたようにカーンには感じられた。


「誰も正してくれないなら、そいつらはそのまま堕ちていくだけだ。自分の良心が消えていくだけだな。卑劣な真似を平然と行い、それを正当だと言い訳しながら、自らを省みる事もしない。そんな魂しか持てないような奴が、本当に幸せだと思うのか?」

「ですが……」

「他人を見下したり卑劣な真似をする者は、いずれ自分も同じ事をされる。本人が自覚していなくても、自分の中の良心がそんな事態を呼び寄せると俺は思っている。天罰はなくても、因果応報ってのは、あるんだよ」

「……あなたは、神の存在を信じているのですか?」

「さあな。お前の言うような万物に平等で万能の神はいないと思っているぞ」

「でしたら──」

「所詮、人間が作った神だからな。万能だとしても全員に平等には有り得ない。それに人間が居なきゃ、その神様も存在しないんじゃないか?」

「……」

「俺は神様に褒めて欲しくて邪気を退治してる訳じゃない。たとえ自己満足であっても、自分の良心に恥じないように生きたいと思ってるだけだ。……まだまだだけどな。さてと──」


 冷たい眼のまま、采希は男の眼を覗き込む。


「そろそろ、内緒の話ってのを教えてもらおうか」


 采希はじっと男を見つめ、男の額の真ん中に人差し指をそっと当てる。

 その指先は、額から脳の中心を貫いたように感じた。

 指が離れると同時に男は、怒りに燃えた采希の視線に射抜かれたと思った。


「…………お前ら、あきらを」


 采希の身体から刃のような気が放たれた。男の身体に無数の傷が走る。


「うおぁっ! 采希、落ち着け!」

「兄さん!」


 凱斗と那岐の声に采希の肩がぴくりと震える。

 その肩にそっと手を乗せ、柊耶が采希の隣に並んでしゃがみ込んだ。


「君たちの教団が、あきらちゃんを陥れたの?」


 柊耶の背中から発された冷たい気配に、凱斗と琉斗は思わず顔を見合わせた。


(あきらちゃんを? 琉斗、マズい。采希がキレるぞ!)

(分かっている、だから俺が叩きのめそうと思っていたんだ)

(……お前、知ってたのか?)

(こいつとあの爬虫類顔の奴が話していた。『せっかく邪魔な巫女を消したのに、もう一人いるとは誤算だった』と教団幹部が言っていたとな)

(……マジかよ)


 凱斗は思わず頭を抱える。眼の前に今にもキレそうな背中が並んでいる。

 こんな事なら黎たちにも来てもらえば良かったと思ったが、姪を(かどわ)かされた叔父がいてもややこしくなるだけだと気付いた。

 落ち着きなく全身から汗を流していると、東の方の気配が大きくなった。


《落ち着け、白虎の主》


 気配の方に顔を向けた凱斗が、思わず後退る。

 青白い炎を纏った巨大な龍の頭部が采希のすぐ脇に迫っていた。


「……青龍」

《白虎の主、自らが手を下してはならない。お前の正義とやらにも反するだろう》


 青龍の纏った炎が大きくなり、口と鼻から血を流している男を包み込む。男は声も上げずにぱたりと倒れた。


「……あー、青龍? まさか命を奪ったりとかは……」

《身体の全ての感覚を遮断しただけだ。この男のいる教団が最も得意とする術を返した》

「遮断……? いつか俺がニット帽から喰らった、あれか?」

《そうだ。二度と解ける事はない。この者にお前のような力はないからな》

「……」

《これで、手打ちとしろ。教団もここまで打ち砕かれれば、しばらく手を出そうとは考えないだろう。じきに海上を警備する者たちがやってくる。この船はその者たちに救助できる時機(タイミング)で沈めてやろう。一人も逃すつもりはない。お前たちは早くここから立ち去れ》


「青龍!!」


 そっと押さえていた凱斗の腕を強引に押し切り、琉斗が前に出た。


「申し訳なかった。俺は勝手に貴殿の力を引き出したらしいので、許していただきたいのだが」


 龍の頭部が琉斗の方に向く。琉斗と並んで立つ凱斗は思わず息を止める。

 琉斗は真っすぐ青龍の視線を受け止め、静かに頭を下げた。


「罰は如何様(いかよう)にも受けようと覚悟は出来ております。申し訳、ありませんでした」

《構わない。守護は出来ないが、お前に力を貸そう》

「…………え?」


 琉斗は呆けたように声を上げて顔を上げる。


《荒ぶる魂を持つ者、それを制御できるお前は、白虎の主の助けとなるだろう。お前の眷属には、かつて私が守護を与えた者に繋がる気配があった。懐かしい()の者に繋がる気配の主であれば、いつでも手を貸そう》


 琉斗は思わず身体を見降ろした。いつもは左手に付けたバングルに居る紅蓮は、今は琉斗の中にいる。


「紅蓮が……」

《白虎の主、頭は冷えたか? ならばもう刻限だ。皆を連れて跳べ》


 青龍の声に振り返った采希の眼には、小型の船が急速に近付いて来るのが見えた。



 * * * * * *



「そうか、あきらを嵌めたのはあいつらか」


 眉間に深い皺を刻んだ黎に、采希は出来るだけ平静を装って答える。


「はい。実行犯を洗い出したかったんですけど、青龍に手打ちにしろと言われて」

「……お前、実行犯を目の前にして冷静でいられる自信があるか?」

「ないです」

「……だろうな、俺もだ。だから青龍は止めたんだろう。お前の手を汚させたくなかったんだろうな。結局ガノーシュとかいう爬虫類みたいな奴も消さなかったって、柊耶が苦笑いしてたぞ」


 采希はちょっと眼を見張った。あんな暴れ方をしていた一方で、柊耶はいつ確認したのだろうと思った。


「…………バレないように徹底的に砕いたんですけどね」

「柊耶もそう言ってたぞ。『あれじゃ、魂が元の大きさに戻るのに何百年かかるか分からない』ってな。……消しちまえばよかったのに」


 采希はふっと笑い返す。

 黎が本気で言ったのではないと伝わって来た。


「ヒトに憑依する異星人、か。高次元の存在がこの世界の人間に憑依する話は稀に聞くが」


 黎の呟きに采希が苦笑を浮かべた。


「あれは──ガノーシュとやらは高次元生命体ではないと思います。たしかに異星人ではあるけれど、魂の格はかなり低いようですよ」

「……それは、誰情報だ?」

「三郎です。今回、別件で出張っていたせいで暴れ足りないらしく、『あのような低級生命体にしてやられたとは』って琉斗に説教してました」


 戦国武将の威圧にも怯まない琉斗だが、そんな状況は周囲がさぞ迷惑しただろうと黎は呆れて嘆息した。


「それにしても、琉斗に青龍か」

「そうですね、守護は頂けなかったですけど」

「あんな事を仕出かしたのに、心の広い事だな」

「紅蓮の……いや、あきらと黎さんのおかげですけどね」

「……?」

「紅蓮を創った者の気配が、かつて自分が守護を与えた者に繋がるから。そう言っていました。宮守の御先祖様のことじゃないですか?」

「……なるほど」


 かつて榛冴には四神を揃えてどうしたいんだ、と采希は言った。それでも采希は、唯一守護のいない琉斗のことが、ずっと気に掛かっていた。

 白狼は守護として琉斗についているが、琉斗では白狼に気を送ることが出来ず、白狼も防御より攻撃を得意としている。

 守護としてではなくとも、琉斗に青龍が手を貸してくれるのはありがたいと思った。


(後は──)


 采希は黎に向かって頭を下げる。


「黎さん、俺を黎さんの組織で使ってくれませんか?」

「あ? 今でも手伝ってもらっているだろう。──正式にうちの組織に所属するってことか? 仕事はどうするんだ?」

「辞めて来ました。こんな俺でも急に居なくなると困ると思うんで、きちんと話して引き継ぎも終えました」

「急にって……お前、何を考えている?」

「……」


 何かを決意したような采希の表情に、黎の中で不安が大きくなる。


「自分の成すべき事を、確認したいと思って」


 静かに、采希は微笑んだ。


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