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巫の血脈  作者: 櫟木 惺
第17章 呼応する邪神
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第91話 内なる布都の力

「采希、大丈夫か? どこか痛むか?」


 眼を開けるなり飛び込んできたのは、青空を背景にして自分を覗き込むカイの顔だった。

 眼を瞬かせ、采希はカイの眼を見る。


「……カイ、さん」

「おう、無事で何よりだ」

「一体、何が……琉斗は? 凱斗、凱斗はどう──」


 起き上がろうとして、采希は身体の異変に気付く。

 身体の感覚がない。


「慌てるな。単に身体が痺れているだ」

「痺れて?」

「覚えてないのか? お前ら全員、凱斗が振るった力の衝撃で飛ばされて海に落ちたんだ」


 カイはそう説明しながら采希の身体を支え、ゆっくりと起こした。

 そう言われて視線を落としてみると、采希の衣類は重く海水を含んでいた。

 座り込んだ黎と柊耶と那岐の間を、シンが忙しなく動き回っているのが見えた。


 凱斗の姿はどこにもない。


「カイさん、凱斗は……」

「至近距離だったからな。かなりの反動を喰らったらしい」


 悔しそうに采希から目を逸らし、俯くカイの様子に、采希はぞわぞわと背筋に悪寒を感じた。


「まさか、凱斗は……」

《やっと、見つけた》


 頭上から降る声と同時に采希の周囲が翳る。眼の前に降りて来た明るい緑色をした地龍の姫は、背に乗せた凱斗をそっと揺すり落とす。

 両手で凱斗の身体を抱き止めたカイの元に、シンが駆け寄ってきた。

 カイと二人でその身体を車に乗せる。


「随分遠くまで飛ばされたね。呼吸はしてる?」

海神(わだつみ)さまが大きな泡で包んで下さってたから、水は飲んでいない》


 シンが凱斗の身体を確認しながら地龍の姫に尋ねている。どうやら自分はカイに騙されかけたらしい、とようやく気付く。

 強張った身体の緊張を解いて、采希は大きく息を吐いた。


「カイさん、悪趣味……」

「俺は、嘘は言ってないぞ」


 にやりと笑うカイの後頭部を、黎が平手で叩く。


「場を和ませるのとふざけるのは違うだろ。采希、身体は動くか?」


 腕を軽く上げて手を握ってみる。少し震えるが、問題はないように思えた。


「平気みたいです。黎さん、何が起こったんですか?」

「……まずは、凱斗が目を覚ますのを待とう」

「だけど、琉斗が……このままだと国外に──」


 遠く沖に浮かぶ船を指差した采希の傍に、柊耶が腕を擦りながらやって来た。


「大丈夫、推進機関を直すのに、丸一日じゃ終わらないはずだから。……たぶん」

「推進機関? 何かあったんですか?」

「何かさぁ、壊れちゃったんだよね。ちょっと触っただけなのに」


 飄々と話す柊耶がずっと左腕を抱えている。

 触っただけで壊れるはずがない、と混ぜ返すつもりはなかった。絶対、何か仕出かしている。追及する気力はないが。


「腕、どうかされたんですか?」


 カイに促されて車に乗り込みながら采希が尋ねると、黙って笑う柊耶に代わり、黎が渋い顔で答えた。


「俺を庇ったんだ。俺は防護壁を張れるってのに、こいつはつい身体が動いてしまうらしい」

「黎くんを護るのが僕の仕事だからね」

「……動かせるなら、折れてはいないみたいですね。榛冴、頼めるか?」


 采希が後席を振り返ると、すかさず榛冴が柊耶の腕に気を送り出す。


「……柊耶さん、これ……」


 眉を寄せて呟く榛冴に、柊耶は人差し指を口元に当ててみせる。

 呆れたように溜息をつきながら、榛冴は柊耶の全身に気を送り始める。この状態で、よく平然と歩いて話していたものだ、と思った。

 柊耶の内臓は損傷しており、両腕と左脚の骨には亀裂が入っていた。




 近くにあるホテルの一室をあてがわれた采希は、ベッドにうつ伏せに倒れ込み、ゆっくりと記憶を辿る。

 自分が琉斗に掛け寄ろうとしたあの時、自分を遮るように空から降下して来たのは、地龍の姫の背から飛び降りた凱斗だった。

 凱斗は炎駒(えんく)の気を纏っていた。そのまま琉斗に殴りかかろうとして、閃光が溢れた。


(あの琉斗には、何かが憑依していた。邪神や悪魔崇拝って聞いたけど、悪魔なんて本当にいるのか?)


 憑依していたモノが何だったのか、采希には見極められなかった。ただ何となく、琉斗の眼に宿った気配と似たものに何処かで触れた記憶がある。

 それが何だったのか思い出せず、采希はごろりと寝返りをうって仰向けに天井を見る。手の甲を額に当てて采希はゆっくりと息を吸い込んだ。


 炎駒の力を借りなくても邪気を寄せ付けない凱斗だが、炎駒の力があれば邪気を滅することもできるだろう。

 采希には凱斗がその力を最大限に利用しようとしていたように見えた。采希は怒りに満ちた凱斗の表情を思い出す。


(大勢の敵に囲まれた時でさえ、笑いながら暴れていたのに。あんな顔、琉斗と喧嘩する時にしか見せたことは……ああ、そうか。琉斗だからか)


 他人と喧嘩する時は笑みを浮かべていても、琉斗と喧嘩する時だけは怒りの表情を見せていた。

 双子の片割れである琉斗は、凱斗にとって特別なんだろうと思った。

 突然殴りかかった理由も、何故全員が吹き飛ばされたのかも分からない。


(大きな邪気を消した反動で弾き飛ばされたのか? 一瞬だったからよく分からない……あれ? 炎駒の気配って……)


 自分の中でも考えがうまく纏まらず、采希は両手で自分の頬を軽く叩いた。


「琥珀、あの凱斗が攻撃した時の閃光は何だったんだ?」

《同質の力が反発したように見えました》

「……同質? 琉斗に降ろされたのは邪神とか悪魔らしいぞ」

《しかしあの波動は琉斗さんでした。采希さんが琉斗さんの中に収容された時に発していたのと同じものです》

「……琉斗が向こうに寝返ったとかじゃないよな」

《波動は琉斗さんですが、気配は琉斗さんではありません。何者かに憑依されているのは間違いないかと》


 きゅっと口を閉じ、采希は自分が見た琉斗の様子を思い出そうと努めた。波動と気配、と琥珀は言ったが、采希にはその違いもよくわからない。

 考え込んだ采希に、琥珀が遠慮がちに声を掛ける。


《采希さん、黎さまが呼んでおられます》

「……分かった。琥珀、あきらはどうしてる?」

《眠っておられるようですが……黎さまの元に、シェリーさまがおいでになっているようです》

「──? 何か分かったのか?」


 巫女の傍にいるはずの光を纏った存在が来ている理由が思い付かず、首を傾げて呟きながら、采希は黎の部屋に急いだ。




 黎の部屋に入ると、凱斗が榛冴の治癒の気を受けながら、采希に向かって軽く手を上げた。


「来たか。じゃ、今回の詳細を確認するぞ」


 黎が集まった采希たちを見渡す。狭い部屋の中で身を寄せ合いながら、全員が頷いた。


「采希、海神(わだつみ)は琉斗の居場所を最初から把握していたのか?」

「いえ、大神さまがあきらの鳳凰を遣いに出されて、海神に捜すよう依頼されたみたいです」

「采希くん、それって邪龍の方じゃないの?」

「依頼を受けたのは海神さまです。邪龍はその情報を掠め取って俺に伝えたんですよ。情報そのものは大過(たいか)ないです」


 柊耶の疑問に答えながら采希は説明を続ける。


「船の内部の気配から、海神さまは降臨の儀式が行われる事を察して俺に知らせてくれました。黎さんたちを待とうかとも思ったんですが、もう儀式は始まっていました。なので俺と那岐と柊耶さんは船の甲板から侵入しようと思いました」

「……正面突破しようとしたわけだ」


 冷ややかに告げる黎に、柊耶がにこりと笑った。


「船の構造がよく分からなかったからね、とりあえず警備が厳重な方に向かえばいいんじゃないかって思って。そこまで辿り着かなかったけど」

「柊耶、それはお前らが嬉々として敵を殲滅させようと暴れたからじゃないのか?」


 那岐と柊耶がそっと眼を逸らす。


「その侵入時に柊耶は推進機関を壊していたのか」

「避雷針もだよ、カイくん。采希くんが雷を操るのに邪魔になると思ったからね」


 柊耶がカイに説明しているのを、那岐は少し考え込みながら聞いていた。


打突武器(トンファー)や竹刀なんかを扱う戦闘員は、ほとんど那岐と柊耶さんが倒しています。俺は主に銃器を持った連中を狙いました。そしたら船の内部から何か衝撃があって……」

「ああ、あの時に琉斗への降臨の儀式とやらが完了したんだろうな」

「恐らく。その後は凱斗が姫から飛び降りて来て俺を突き飛ばした」


 凱斗が苦笑しながら采希に手を合わせる。

 咄嗟に自分を庇うためと琉斗を止めるためだったと理解している采希は、笑顔で頭を横に振る。


「凱斗、なんでいきなり琉斗を殴ろうとしたんだ?」

「邪気だけを消せるかな、って思ってな」

「邪気だけ? 本当か? あっさり捕まってんじゃねえよ、この野郎。……ではなく?」

「いやいやいや」


 顔の前で手を振る凱斗は、悪戯がバレた時と同じ表情をしていた。


「まあ、いいけどな。攻撃した時の感触は、どんな感じがした?」


 采希の問いに凱斗が少し考える。


「邪気に弾かれたりしないように充分に炎駒の気を乗せたつもりだったんだけどな。……何て言えばいいのか、手応えが無いって言うより、ぐにゃっと……押し戻されたみたいな。うまく言えないけど」


 首を傾げる凱斗と同時に采希も頭を傾ける。

 炎駒に聞いたら何か分かるのだろうかと思っていると、カイから声を掛けられた。


「琉斗に降りていたのは結局何だったんだ?」

「あの場にいた戦闘員は『かつては天に居られ、天の不条理に立ち上がって不正を正そうと反旗を翻された御方』だって信じていたみたいです」


 カイの問いに返事を返しながら、采希は小さく首を振る。シンはその表現に真っ先に反応した。


「それって、明けの明星(ルシファー)のこと? そんな大物を呼び出すとか、有り得るの?」

「そうなんですよね、俺もまさかそんな大物が、って思いました。でも、多分違う」

「どうしてだ?」


 黎が少し面白そうに采希に尋ねる。


「ヴァイスも琥珀も反応しなかった。そんな神話級の大物が相手なら、絶対俺たちを護ろうとするはず」


 采希の言葉に、那岐と榛冴が顔を見合わせた。


「そうなのか、那岐?」

「確かに、朱雀さまは動かなかったです」

「黎さんは大物が降臨したと思ったからお姉さん(シェリー)を呼んだんですか?」


 少し頭を傾けながら黎はちょっと考えるように視線を動かした。


「絶対そう思わなかったとは言わないが……。そこまでの技量があいつらにあるとは正直、思えないな。【明けの明星】はたかが人間に呼び出せるような御仁じゃないだろう。それと、いい加減お姉さんと呼ぶのは止めておけ。こいつらに性別は無いが、性格的には男性体(メール)よりだぞ。俺が呼んだ訳じゃない、こいつは大神さまの伝言を伝えに来た。采希、お前にな」


 黎の背後に苦笑したミシェールの姿が浮かび上がる。


(……だったら、あきら。シェリーとか呼ぶなよ)


「お、兄さん? えっと、すみませんでした」


 慌てて采希が頭を下げる。


「失礼ついでに、聞きたい事があるんですが。伝言を聞いた後で、お願いしてもいいですか?」


 目の前のミシェールが微笑んで身体の周りに光が溢れたと思った途端、采希の周囲の風景がぼやけた。



(……な)

《聞きたい事とは?》

(西洋でいう神と、日本における神の違いは?)

《表現は違っても同義と考える。人間よりも高次元の魂の存在を古来より人は神と定義する傾向にある》

(では悪魔と、俺たちが邪霊と呼ぶモノも?)

《同義。高次に存在する『魔』も含め、その存在の強さで人は呼び分けていると考える》

(では、悪魔祓い(エクソシズム)も邪霊の浄化も同じ事か?)

《言葉や道具に大きな意味がある訳ではない。その準備で心と気を高め、どれほどの力で浄化するかが重要》

(呪も言葉の羅列ではなくそこに込められた念の強さが効果に繋がると?)

(イエス)

(琉斗に降りたモノは?)

《お前の予想通り》

(琉斗の意識はどうなっている?)

《身体の中に造られた呪の檻の中。お前が受けた物と同じ呪》

(解けるか?)

《……》

(無理なのか?)

《お前はあの檻を内部から破壊した。それ以外に方法はない》



 采希が思わず唇を噛みしめると、一瞬で周囲の景色が戻る。慌てて見回すと、凱斗が不思議そうに尋ねて来た。


「どうかしたのか、采希? 訊きたい事があるなら、聞いてみれば?」

「……は?」


 今までの会話は何だったのだろう、と瞬きを繰り返す采希に、黎が得心したように教えてくれた。


「あー、シェリーの意識と直接、情報交換されたんだな」

「……俺、どの位黙ってた?」

「質問があるって言って、すぐに俯いたから声を掛けたんだけど。だから一瞬だろ? まさかその一瞬で何かあったのか?」


 凱斗の言葉に驚きながらミシェールを見ると、にっこり微笑んだ。



(だったらまだ聞きたい事がある。紅蓮は何処だ?)

《青龍の元に》

(連れて行かれたのか?)

《保護されている》

(戻っては来ないのか?)

《呼べばよい》

(そうか。では、俺に神殺しの力があると柊耶さんが言った。本当にそうなのか?)

《高次元の魂すら消滅させられる力ならば、お前の中に存在している》

(その力を与えられた理由は?)

《摂理を正すため》

(摂理……)



 少し慌てたように見える目の前の存在に、采希は何かが引っ掛かった。

 つい答えてしまった、そんな気配を僅かに感じ、采希は頭を振る。



(最後の質問。おね……ミシェール、あんたの名前をギリシャ語読みにすると宵の明星(ミカエル)と同じ名前になる。まさか……)

(ノー)()の方はこんな失態(ミス)はしません。采希、大神さまからの言伝(ことづて)です》


建速(たけはや)須佐之男命(すさのおのみこと)に並び立つ力を抑えられるのは我が力。望むのであれば、我を呼びなさい。建御雷神(たけみかづち)の力を秘める者なれば、力を貸そう』



 采希は魂まで吐き出しそうな大きな溜息をついた。



「兄さん、どんな話をしたの?」


 肩に手を掛けた那岐に気付いて顔を上げると、部屋の中のどこにもさっきまで対話していたはずの存在はいなかった。

 思わず舌打ちしそうになる。


「……言うだけ言って、消えるのか? 随分と自由だな。ああ、ついでに聞けばよかった」

「何を?」

「俺の封印、効いていないみたいなんですよ、黎さん。しかも制御(コントロール)できている」

「どうし……あ、采希、お前の守護に海神も就いたのか?」

「はい」

「そのせいじゃないか? 天と地と海の龍の加護をその身に受けたために、あきらの封印が無効化されたのかもな」

「俺もそう思ってあきらに聞きたかったんですけど」

「……聞けばいいだろう」

「寝ているそうです」


 黎は困った顔で天井を仰いだ。


「……それで、琉斗の中に降りた奴の正体は?」


 考えをまとめるように、采希はゆっくりと言葉を探す。


「自分たちを救ってくれる、そんな存在を求める人々の創造した象徴(イメージ)。その願いに惹かれてやって来た、この次元に干渉する力を求めていたモノ、ですかね。この世界(ほし)の存在ではないです」

「……異星人(エイリアン)ってことか? この次元に干渉する力?」

「そいつは、精神体のみの存在です。単体では大した力を持たない。この世界の生物に干渉することで、その生物の力を利用することが出来る」

「…………これまで相手して来た念や邪霊とは、別物ってことか。厄介そうに感じた訳だ」

「そうでもないですよ。黎さんは同じような存在をよく知っている」


 一瞬怪訝そうに眉を顰めた黎が、はっと気付いたように固まった。


「──柊耶さんと同質の、魂だ」





「……どういう事だ、采希。お前、柊耶が『悪しき者』だって、そう言いたいのか?」


 怒りを抑えた表情で見つめるカイを、采希は平然と見返した。


「違うよ、カイさん。カイさんも柊耶さんの事は『すごく変わってる人』って思ってましたよね?」

「……ああ」

「俺たちも、那岐の事をそう思ってました。でも柊耶さんはその上を行っている。もしかしたら柊耶さんの魂はこの世界じゃなくて、もっと高次元に居るはずだったんじゃないかって、そう思ったんです」

「どうしてそう思った?」

「先日、柊耶さんが俺の身体の中に造った【場】です。俺の身体の中に残った柊耶さんの気配が、初めて炎駒に会った時に感じた残り香にそっくりだった。炎駒や四神は、俺たちの身体に負担にならないよう、その波動を下げて俺たちに合わせてくれています。だから普段、ヒトの眼には映らない。柊耶さんは身体を持っているので見えますけど」

「柊耶が四神たちと同じ……?」



 周囲が静寂に包まれた。


 カイは難しい顔で黙り込み、シンは額に手を当てて考え込んでいる。

 那岐と榛冴は自分の中にいる朱雀と玄武に確認するように視線が宙に浮いたままだった。


 巫女が柊耶の力を見極められなかった理由も、気の使い方が自分たちと違っている理由も、それが原因だろうと思った。

 どうやら黎には分かっていたようで、穏やかな眼で柊耶を見ている。

 その柊耶は戸惑うように黎から采希へと視線を移す。


 采希がずっと疑問に思っていた事が、海神が(そら)の気を持つ者と呼び、憑依された琉斗の眼を見た事で、やっと分かった気がした。


「僕は、人とは違う者なの?」

「いいえ、同じですよ。俺たちよりずっと魂の格が高いっていう違いはありますが、柊耶さんは黎さんの片腕で、那岐の尊敬する師匠で、俺たちの仲間です」

「……そうだな、これまでと変わらない。むしろ、これで琉斗に憑依した奴への対抗策も分かるかもしれない」


 黎がふっと息を吐きながら、髪を撫でつけるように両手で後ろに流す。


「黎、お前が憑依された琉斗を見て『厄介だ』と思った理由は?」


 カイの問い掛けに、シンもはっとしたように顔を上げる。


「『神様系』だ、と反射的に思ったからだな」

「高次元の存在を、人は『神』と認識する傾向にあるらしいですよ」

あいつ(シェリー)が言ったのか?」

「はい」

「……黎くんに苦手意識があるからって事? でも柊耶くんとはこんなに仲良しなのに」


 シンとカイが顔を見合わせる。


「そうだな。だったら黎も神様系の呪が苦手ってのは思い込みなんじゃないか?」

「……いや、神様系は本当に面倒なんだ。準備も必要だからな」


 緩く状況を受け入れる黎たちに、凱斗は榛冴と那岐を見て頷き合う。


「黎さん、琉斗の相手は、俺たちに任せて欲しい」


 カイと黎が即座に視線を合わせ、カイが面白そうに笑った。


「凱斗、それは俺たちが邪魔だってことか?」

「まさか。さっきの采希の話を聞いて、朱雀と玄武が本気を出してくれるらしいんですよ。だから俺たちの傍にいたら危ないと思う」

「本気?」

「俺たちに合わせて下げた波動を戻すらしいです。高次元の波動にね。それだけでも俺たちにはきついらしいんですけどね」

「そんな事して、大丈夫なの?」


 不安そうに榛冴の肩に手を掛けるシンに、采希も笑ってみせる。


「全力で、琉斗を取り戻します。シンさん、カイさん、後の事はお願いします」


 采希と同時に、凱斗たちも揃って頭を下げる。


「いや、お前ら……お前らに何かあったら……」


 カイは口籠り、采希たちの表情を確認して片手で頭を掻き毟った。

 何を言っても止められないだろうと思った黎は、瞑目する。


「具体的にどうするつもりなのか、教えろ。話はそれからだ。ちなみに──」


 黎は采希の隣に座る柊耶に視線を向けた。にっこりと笑う柊耶に頷いてみせる。


「どうあっても柊耶はついて行くつもりのようだぞ」



 * * * * * *



(ロキ、俺は今、どうなっているんだ?)

《呪のような物で囲まれているようだ。見た事のない術式だが、恐らくはお前を封じる類の物だろう》

(……解くことは出来そうか?)

《先程、お前の身体に何者かが憑依したようだ。お前に取って代わろうとしている。呪の檻があるおかげで逆にお前の存在が保たれているようだ。皮肉だな》

(それは、俺を消滅させて身体を乗っ取ろうとしている奴がいると言う事か? それがあいつらの信仰する悪魔なのか?)

《そうであろうな》


 琉斗は少し考えるように黙り込む。

 足手纏いになってしまったのは間違いない。


 それならば、ここから挽回するための手立てを探ろう。

 そう心に決めて意識を強くする。


 眼の前に、見慣れた小憎らしい笑みが見えた。


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