ありきたりな授業風景
授業の合間、合間にある休み時間。
加奈は誰とも話さず、次の授業に向けての準備をする。
机から教科書、ノート、辞書。
色々な物を取り出し準備を終えたちょうどその時だった。
クラスの男子が加奈の机にぶつかってしまう。
どっさと床に落ちる教科書。
バラバラと広がる筆箱の中身。
「あ、わりい」
男子は加奈の机から落ちたものを拾う。
その男子に対し、陰キャでない普通の人は『へいきへいき』とか『え~、許さない。な~んてね?』とか答える。
「……だいじょぶ」
小さな声。
もちろん、筆箱の中身と教科書を拾う男子には届かない。
「わるかったな」
加奈の言葉は届かないまま、男子は去って行ってしまうのであった。
しかも、加奈の使っているシャーペンが壊れてしまったことにさえ気が付かずに。
普通は何本かシャーペンを持っている事が多いのだが、生憎と加奈は持ち合わせていない。
そして、シャーペンを借りられるような友達は居ない。
結局、その日。
すべての授業でノートにシャーペンではなく、ボールペンで文字を書き込んだ。
「ただいま!」
元気よく響くただいまの声。
もちろん、俺はこんな馬鹿なテンションでただいまなど言わない。
言ったのは俺の前だけで陽キャな幼馴染である加奈だ。
「おい、ここはお前んちじゃないぞ? 不法侵入で通報されたいのか?」
「酷い。昨日は、あんなにも私の事を激しく抱いてくれたのに……。私は一晩だけの女だったのね……」
「抱いてないんだが? 変な小芝居は辞めろ。近所の人に聞かれたらたまったもんじゃない」
部屋に入り浸られるのを阻止すべく、玄関を入ったばかりの加奈をブロッキング。
すると、わざとらしく体をくねらせて加奈は俺に言った。
「今日は玄関で私を抱こうだなんて……。いいよ、幸太。来て?」
「お前、俺にどんだけ抱かれたいんだよ」
「だって、幸太。お金持ってるもん! 抱かれたら、何だかんだでお金ふんだくれるもん!」
「そりゃあまあ、持ってるな。はあ……」
玄関からその奥へ行かせなければ、おとなしく帰ってくれると思ったが、玄関前でず~っと居座ろうとしているので仕方が無く玄関前から離れた。
すると、靴を脱いで、俺の横をするりとすり抜けて、俺の部屋へと入り、ベッドにダイブ。
もう、何こいつ?
「てか、お前。シャーペン買って来たのか?」
学校が終わり、俺の後ろを大体10メートルくらい離れてついて来た加奈。
彼女はどこにも寄り道していない。
せめて、シャーペンが壊れているのなら、文房具を買いに行けという訳だ。
「ネットで買う!」
加奈の陰キャは酷い。
店員さんが居るお店ではまともに物すら買えない。
今、加奈が物を買うときはネット通販。
しかも、今流行りの不在だった場合、家の前や庭、倉庫に置くと言った置き配達で物を受け取る。
「ったく、仕方ねえな」
筆箱から俺が二番目に愛用しているシャーペンを加奈に投げつける。
「酷い! ものを投げるとかDVだよ?」
「おま、そんなこと言うと、返してもらうぞ?」
「ごめんごめんって。お詫びに胸揉む?」
「お前の貧相な胸なんか揉まん。てか、貸してやるだけだ。新しいシャーペンを買ったらそれは返せ? 良いな?」
「え~、くれたんじゃないの? ケチだな~。お金持ちな癖に」
「あのなあ……」
「さてと、幸太のお母さんは今日は帰って来るの?」
今さっき、携帯に届いていたメッセージ。
『すまん、我が息子よ。楽しいから、今日も走って来る。適当にご飯は済ませといて?』
から察するに今日は帰って来ないはずだ。
「多分帰って来ないぞ」
「もうしょうがないなあ。シャーペンのお礼に、ご飯作ったげる!」
という訳で、加奈が今日は夕食を作ってくれるらしい。