陰キャの幼馴染は俺の幼馴染じゃない
「幸太様。どうか、お情けを……」
夕食時、クラスで陰キャな幼馴染である加奈が頭を下げて来た。
仕方がないので、俺が食べていたチキンカツをひと切れ渡す。
「え~、これだけ?」
「俺の夕食が無くなるだろうが。てか、帰れ。いつまで、俺の部屋に居座るつもりだ」
「朝まで? で、既成事実を作って……」
「馬鹿なこと言ってると、警察呼ぶぞ?」
「やーい、呼んでみやがれ! 幸太に犯された~って警察に泣き付いて、幸太を犯罪者にしてやりますから良いですよ~だ。そして、慰謝料をふんだくってやる」
とか言いながら、俺が施したチキンカツを食べている。
こいつ、何様なんだよとか思いながら、俺も残りのチキンカツを食べ進めた。
「今日、幸太のお母さん。帰って来ないんだよね?」
「ん、まあな。だから、こんな感じでチキンカツの作り置きがあったしな」
母さんはちょっとどこかへ旅に出てしまった。
バイクが好きで、気が付けばエンジンを吹かしどこかへ行っている事が多い。
が、しかし、腐っても母親。
今日みたいにチキンカツをきちんと夕食として作り置きしてくれている。
「いっぱいできるね」
「何がだ?」
「エッチ!」
「しねえよ。馬鹿」
クラスで陰キャな幼馴染が俺の前だとこんな奴だとクラスメイトは思うまい。
インスタントの味噌汁をすすりながら、馬鹿をどう追い払おうか考えていた時だ。
「明日も学校か~」
「おう、明後日も明々後日も学校だな。陰キャに優しい休みまで後4日。それまで、頑張れ」
「うへ~。いっそのこと死ぬか!」
死ぬかと明るく言う加奈。
この明るさをクラスメイトの前で見せられたらいいんだがな。
まあ、虐めのトラウマで出来ないだろうけど。
「死ぬときは保険金を掛けておけよ?」
「うわ~、クズが居る。クズが居るよ。そこは、優しく死ぬんじゃない! 俺が居るだろ? ガバッて抱き着くとかさ~、優しく出来ないの?」
「出来ん」
「っけ、こんな薄情者だとは思ってませんでした~。さてと、お腹も満たしたし、そろそろ帰ろっと」
「おう、帰れ帰れ」
しっしっと手を振って邪険に扱う。
こいつの扱いはこれで良い。
「加奈ちゃんはもう帰ります。バイバーイ」
たったっと走って帰って行く。
そんな加奈が置き去りにしたスマホ。
「ったく、忘れてくなよ……」
スマホを手にして、加奈を追いかける。
夜道を歩いている加奈を見つけて、スマホを押し付けた。
「あ、忘れてた?」
「ああ、忘れてた。まあ、スマホなんて陰キャには必要ないだろうけどな」
「まあね」
加奈が俺のチキンカツを強奪した次の日。
学校に着くと、加奈は静かにぽつんと席に座っている。
朝のホームルームが始まり、プリントが一番前の席の人に配られた。
加奈は一番前の席。
後ろにプリントを回そうとするも、後ろの生徒は、その後ろの生徒とのおしゃべりに夢中で加奈に気が付かない。
普通なら、『ごめん、これ回して?』で済む。
でも、加奈はそれが出来ない。
「え、あ、そ、その」
おしゃべりをしている者には聞こえないか細い声。
昨日俺のチキンカツを奪って行った奴とは思えない。
「え、あ」
どうしようもなく、自分に気が付いてくれるのを待つしかない加奈。
助けないのかって? 幼馴染だろ? だって?
俺はあいつを助けてなんかやらない。
前、助けた時、あいつは俺に助けないで! ってガチギレした。
幼馴染にだからこそ、助けられたくないとの事だ。
見下されて、蔑まれたかのように錯覚して、みじめでみじめで辛くなるからって本人は言っていた。
だから、俺は傍観する。
「ん。って、まいまい。プリント渡されてるし」
「うわっ、気が付かんかった。ごめん、向井さん」
「……わ、わたしがわるいから」
誰が見てもド陰キャ丸出しな返答。
まいまいと呼ばれる加奈の後ろに座る生徒は苦笑い。
どうしようもなく、学校で陰キャな加奈に出来る事、それは……。
昨日みたいに、幼馴染である俺にしか見せなくなった陽キャだった頃のあいつと戯れるだけ。
「おいおい、ま~た。向井さん見てんのか?」
「だから、見てねえって。あんな陰キャな奴なんてな」
俺が見るのは陽キャな加奈だけ。
陰キャな加奈?
誰だそれ?