日常
高校1年生の秋。
新しいクラスメイト達の仲が確固たるものになる時期。
俺のクラスには陰キャで誰とも仲良く出来ていない奴が居る。
「ん? 何、向井さんを見てんだ? まさか、気があるってんじゃねえだろうな~」
クラスメイトで仲が良い山梨が茶化してきた。
「見てねえよ」
嘘である。
俺はクラスで陰キャな向井さんを見ていた。
だって、彼女は俺の幼馴染なのだから。
未だに独りぼっちで過ごす、向井 加奈に視線が行くのは当然だ。
「おうおう。ま、あいつはねえよな。顔は良いのに、なんて言うか態度が気持ち悪いっていうか、なんかよ~」
「そうだな……あれはない」
時として、世界は残酷だ。
加奈がああなってしまっているのには理由がある。
いじめだ。
中学時代、加奈は陰キャなんかじゃ無くて陽キャも陽キャ。
しかし、一部の女子はそれを良く思わなかったのだ。
ちょっとした態度の悪さを理由にいじめられ、結果として人と話すときに『あ、え、』と行き詰る様になってしまった。
「っと、わりいわりい。ちょっと、トイレ行ってくるわ」
友達である山梨はトイレへ。
他の奴らも一緒にトイレへ行ってしまう。
……まあ、俺は行かないがな。
お昼休みの教室を見渡す。
誰もが、誰かと話してお昼ご飯を食べていて、明るく楽しく笑いが絶えない。
そんな中、一人でいるのは、友達のトイレに付き添わなかった俺。
そして、向井 加奈 だけだった。
この日常はきっと、これからも続く……。
「ただいま」
玄関を開け、制服を脱ぎ、手洗いやうがいを律儀に済ませ自分の部屋へ。
ベッドで寝転び、スマホを弄る。
「クラスで陰キャの加奈……」
ぼやく。
あいつはもうどうしようもなく、これからの人生が辛そう。
そんな向井 加奈 のもう一つの顔を知っている。
ドタバタと階段を駆け上がって来る音。
閉めた俺の部屋のドアをバンっと強く開けられた。
「もう死にたい!」
「おう、ご自由に死ね」
「うええええ、もう死にたいんだよーーー」
「だから自由に死ねって言ってんだろ?」
「と言うかさ~、酷い。酷くない? あれは無いとか言われて、まあなとかさ。幼馴染でしょ? ねえ?」
「ん、だって今のお前は紛れもなく『ゴミカス』みたいなもんだし」
「そうだけどさあ……」
俺の部屋に唐突にやって来たのは幼馴染。
向井 加奈。
彼女はクラスで陰キャでどうしようもない。
でも、幼馴染である俺の前だけでは、苛められて『あ、え、その』と話始めに言葉が詰まらない陽キャオブ陽キャのまま。
「という訳で、どうしよも無く人生詰んでる私が逆転する方法は一つ!」
「またか……」
「宝くじを当てて、ちょっとお金持ちな幸太に養って貰う!」
なんとなく宝くじを買ったら当たった2億円。
利回り年2.5%の手堅い投資信託にすべてをつぎ込み。
その得たお金だけで生活しているのが俺だ。
人生イージモードまっしぐらだ。
そんな俺にクラスで陰キャな幼馴染である加奈はいつもこう言う。
「私と結婚して?」
「断る!」
クラスで陰キャな幼馴染だ、俺にだけは陽キャオブ陽キャ。
宝くじを当てて人生イージモードな俺。
これは、ちょっと変わった俺と幼馴染である加奈の日常だ。