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最強竜殺しの弟子   作者: つぶれたアンパンみたいな顔の人
第一章 いざ、竜狩りへ!
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第006話 対決 / 翡翠竜

 目の前のターゲットは一匹しかいないように見える。ザックスはこれ幸いと、ガン・ソードをホルスターから引き抜く。その場で魔力莢(まりょくきょう)装填(そうてん)した。


「ここからじゃ、壁が邪魔(じゃま)だな。少し近づくか」


 尻をわずかに上下させて寝入る竜の頭部。そこへ狙いをつけ、ザックスはやや回り込むようにゆっくりと近づいていった。(ひたい)のゴーグルを降ろし、寝息を立てる翡翠色(ひすいいろ)のこめかみを睨む。

 固唾(かたず)()み、トリガーのついたグリップを引いた。安全装置が外れ、魔力が銃口へ注がれて光が(たぎ)る。

 ザックスが引き金を引こうとしたその時。群青色(ぐんじょういろ)の瞳がこちらを(にら)んだ。


「ちっ、気づきやがった!」


 ザックスは慌ててトリガーを引く。瞬時に光は弾丸となって竜の額へ飛ぶも、すぐに爆散した。


「グオオオオオオッッッ!」


 咆哮(ほうこう)。そして、巨大な首を持ち上げ立ち上がる翠色(みどりいろ)の竜。


 雨風を防いでいた神殿の天井が崩れ落ちた。がしかし、そんなことなどお構いなしに、竜はその巨躯(きょく)を持ち上げ続ける。

 巻き起こる粉塵(ふんじん)。ザックスはガン・ソードをかざして時おり飛来する石片から頭を守る。砂煙(すなけむり)(わず)かな隙間(すきま)から竜を見上げた。

 琥珀色(こはくいろ)の双角が(きらめ)めき、群青色の瞳がザックスを見下ろしていた。


「おいおい、魔力障壁(まりょくしょうへき)なんて聞いてねぇぞ? ワイバーンは魔力をほとんど持たないんじゃなかったのか、親父?」


『ワイバーンは、手が(つばさ)と一体化していて深緑色の鱗に(おお)われた翼竜(よくりゅう)の一種だ。魔力はほとんど持っていねぇし、竜族の中では弱くて群れなきゃ生きられねぇ。ただ、住んでる土地が厄介(やっかい)だ。あそこじゃ、魔力を使った攻撃が霧散(むさん)しちまうから、ガン・ソードの攻撃はほとんど意味がねぇ。まずは“沼“から離れることが先決だ、いいな? 無駄な魔力消費はテメェの生存率を減らすだけだぞ』


 ザックスはビゴットの言葉を思い出した。「そういえば、そんなことを言ってたな」と(つぶや)きながら、次の手を考える。


「とりあえず、この程度じゃ傷ひとつ付けられやしねぇな。となれば、まずはこの場から離れるしかねぇわけだけど……」


 ザックスが竜を睨みながら後ずさる。それに合わせて、翡翠竜(ひすいりゅう)も一歩踏み出した。


「大人しくついて来てくれる雰囲気じゃ、なさそうだな」

「ゴアアアアアァァァ!」


 ふたたび翡翠竜が吠える。明らかな威嚇(いかく)だった。ザックスはすぐに(きびす)を返して()けだした。


「ついて来やが――ぐふっ!」


 突如(とつじょ)、横から翡翠色の分厚い尻尾がたたきこまれた。ザックスは咄嗟(とっさ)にガン・ソードで身を(かば)ったが、自身の体重よりも重いその力。(あらが)えるはずもない。ザックスは真横に弾き飛ばされ、巨木へ(したた)かに打ち付けられた。


『竜に背を向けるな。奴らから顔を背けるな。目を閉じるな。獲物から目を離したら、奴らはその隙をすかさず突いて来る。野生との(たたか)いは、生きるか死ぬか、食うか食われるかだ。目を背けたやつから食われるぞ。それが常識だ。しっかりその小せぇ脳みそに刻んでおけ』


 一瞬真っ白になった頭に、ビゴットからの叱責(しっせき)が飛んだ。


「うっせぇ、このハゲっ! 逃げろって言ったり背を向けるなって言ったり、どっちもできるか馬鹿野郎!」


 気合一擲(きあいいってき)。ザックスは樹幹からずり落ちる最中(さなか)で意識を取り戻すと、(かろ)うじて(ひざ)をつくことなく着地した。


「はぁ……危うくぶっとびかけたぜ。おかげで助かったが、タコ野郎め。この期に及んで、相変わらず小言しか言いやがらねえ。ふざけんなよ」


 やり場のない怒りを呪詛(じゅそ)のようにつぶやくと、ザックスはゴーグルを額に持ち上げながら(つば)に混じった血を吐き捨てた。

 竜はザックスへ群青色の瞳を向けながら、巨大な尻尾(しっぽ)をしならせる。しかし、近づくそぶりは見せてこない。一撃を見舞ってなお、警戒(けいかい)している様子だった。

 結果的に射程外へと逃れたザックス。今度は、竜から目を背けることなく大扉の方へ足を滑らせていった。竜はのどを鳴らして重低音を(ひび)かせながら、首だけをザックスに向ける。ザックスが離れようと一歩動くと、やはり前足を出して距離を保とうとする。逃す気は無いらしい。


 ザックスは直線状に伸びた石畳へとにじり寄る。じりじりと、大扉までの距離を稼ぐと、


「この距離なら……いけるっ!」


 ザックスは、今やと駆けだした。


 ザックスが駆けだすのを見て、翡翠の竜も四肢を(うな)らせる。地響きを(とどろ)かせながら、ザックスを追いかけてきた。(から)みつく木々をなぎ倒し、寝転がる遺跡(いせき)の一部を()み砕いていく。だが、それらのせいでザックスに追いつけない。小さな人間と違い、この通路は障害物が多すぎた。

 ザックスは、してやったりとほくそ笑む。大扉までたどり着くと勝手口に体を滑り込ませ、壁の反対側へと飛び出した。


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