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第055話 義父との別れ

「それじゃ、立ち話はこのくらいにして、そろそろ始めるか」


「おう」


「俺の“魔法”を使うのも久しぶりだな。そういえば、お前相手に使うのは初めてか?」


「あん? 親父、魔法なんて使えるのかよ?」


「俺たち魔女の末裔は皆、魔法を使えるさ。俺の得意魔法は“身体強化“だ」


 ビゴットの周りの空気がゆがむ。


「さ、かかってきな。今の俺なら、ガン・ソードの銃撃くらい平気だぜ」


「マジかよ。それじゃあ、日ごろの恨み!」


 ザックスが紫弾を放つ。


 ビゴットは手に持った角材でガン・ソードの銃撃を弾き飛ばした。


「はぁっ!?」


「おいおい、日頃の恨みって、何だよ。ひとつ言っておくが、“身体強化”は俺が触れてる物も含めて強化できるからな」


 ビゴットが一瞬で間合いを詰める。


 角材を振るうビゴットの姿がザックスの目の前に現れた。


「真っ二つにならん程度には加減してやる。本番じゃ、これだけで死んでるぜ?」


「うごっ!」


 ザックスがビゴットの角材に薙ぎ払われて吹き飛ぶ。森の木々を数本へし折ると、ザックスの身体が地面を転がった。


「さ、要領は分かっただろ? 次は、殺す気で行くぞ。一応、火竜『アラネーア』のつもりで動くってルールだからな」


 ビゴットが背負った二本の角材を左右に動かしながら、ザックスの方へ向けて歩く。


 ザックスはうつ伏せから辛うじて体を持ち上げると、四つん這いのまま一度嘔吐した。


 森の向こうでゆらゆらとしながら向かってくるビゴットを睨みつけて、「それ、竜の動きのつもりかよ」と内心で呟く。が、声は出せなかった。


 そこで、ビゴットが動きを止める。


 思いついたように、ビゴットは角材を地面に突き立てた。


 そして、足で歩くのを止めると、手に持った角材二本で歩行を始めた。


「くそ親父め、舐めやがって。遊んでやがんな」


 ザックスが立ち上がると、ガン・ソードを握りしめてビゴットのもとへ走り出した。


 ザックスが森から出てくると、ビゴットの目がザックスを捉える。


「そんな木の棒なんざ知ったことか! 素直にその頭を叩き割ってやんよ、親父!」


 ザックスが飛び上がると、ビゴットは角材の一本を突き出す。


 それを足で蹴飛ばすと、ザックスはビゴットの頭目掛けてガン・ソードを振り下ろした。


「おいおい、目標は背中の角材だと言っただろ」


 ビゴットが言うと、頭突きでガン・ソードを受け止める。


 衝撃がザックスの腕に伝わり、ジンと痺れた。


「言っとくが、そんなもんじゃ火竜の皮膚に傷ひとつ付けられねぇぞ? あんまり、舐めてんじゃねぇぞ、ザックス」


 ボッと音を立てて、角材がザックスの胸を貫く。


 そこで、ザックスはガン・ソードと意識を手放した。




「おい、起きろ、ザックス」


「あ……」


 ビゴットの声に、ザックスが目を覚ましてゆっくりと起き上がった。


 隣ではビゴットが空を見上げながら胡坐をかいていた。


 空は、いつにもまして綺麗な茜色だった。


「お前な、あれくらいのことでいちいち冷静さを失ってたら、命がいくつあっても足りねぇぞ」


 ビゴットがザックスに顔を向けてひとつため息をつく。


 ザックスは咄嗟に何か言い返そうとした。


 しかし、それ以前に身体が思うように動かない。


「あ、くそっ……なんか、身体が重いぞ」


「なるほどな。生き返る代償として、相当体力を使うみてぇだな。そりゃお前、迂闊に死なない方が良いな」


「は? なんだそれ。まるで俺が一回死んだみてぇじゃねぇか」


「何だお前、気づいてねぇのか?」


 ザックスとビゴットが目を合わせて沈黙する。


 ややあって、ザックスがおもむろに口を開いた。


「嘘だろ?」


「わりぃな。一回殺した。殺す気でやるって言ったろ?」


「ひっでぇ!」


 ザックスが驚きながらばふっと倒れる。


「てか俺、そしたら何で生きてんだよ」


 ビゴットがザックスと視線の先を合わせるように、空を見上げた。


「お前、聖竜からあの馬鹿みてぇな生命力を受け継いだんだよ。たぶん、不死身だ。よかったな」


「マジか。知らなかったぜ」


「俺の知ってる限りだと、これで三回目だぜ、死んだのは」


「はぁ!?」


 ザックスは横になりながら、ビゴットの顔を睨む。


 ビゴットはくつくつと笑いながら答えた。


「一回目は、おめぇがまだちっせぇ頃だ。重竜にぶん殴られて吹っ飛んだ時だな。ありゃあ死んだわ、約束がふいになっちまったって焦ったよ。だがまあ、奇跡的に無事だったから、そん時は不思議に思ってたんだが……しばらく考えて、何となく予想がついた。それも、二回目で確信したよ。お前が昨日レオレッグスに食われて死んだときだ。目の前で傷が完治しやがったもんだから、ああ、こいつは不死身なんだってな。おかげで、今日は心置きなくお前をぶっ殺せたってわけだ」


「心置きなくってなんだよ!」


「お前、これまで俺に散々迷惑かけてきただろ。これまでに何度殺してやろうと思った事か。だから、一回くらい殺したって罰は当たらねぇだろ」


「当たれよ、罰! このクソ親父!」


「はっはっはっ!」


 ビゴットは動けないザックスの隣で豪快に笑った。


「まぁ、お前が不死身なのは良かったが、そう喜んでもいられねぇな。何回も死ねるってのは、案外辛いもんだぜ」


「親父が転生するときってのは、やっぱり死んだときなのか?」


「ああ。俺だって、死ぬときは死ぬ。お前みてぇに肉体が復活することもねぇからな。新たに生まれ変わるまで、この世からおさらばだ」


「こんなひでぇ親父の事だ。ろくな死に方しねぇだろ」


「まぁな。ミンチになったときは流石に辛かったぜ」


「おいおい、本当にろくな死に方してねぇな」


 ザックスが嘆息する。


 その様子をみたビゴットは、やや心配そうにザックスを見下ろした。


「お前も気をつけろよ。竜に殺されて動けなくなったら、そのまま食われて、ずっと竜の腹の中で過ごすことになるかもしれねぇぞ」


「うげぇ、それは勘弁だぜ」


 げんなりとした顔で、ザックスはビゴットの忠告を聞いた。


 その言葉を最後に、ふたりの間に僅かな沈黙が流れる。


 話に区切りがついたと判断して、ビゴットは「よっこいせ」とつぶやきながら立ち上がった。


「ザックス。明日、発つんだろ? 今日はゆっくり休んで、体力を養っておけ」


「分かってるよ。人を殺しといて、よく言うぜ」


 ザックスは舌打ちする。


 ビゴットはハハッと笑ってその場を後にしようとした。


「親父!」


 ビゴットの背中に向けて、ザックスが叫ぶ。


 仰向けのまま、顔は空を向いたままだった。


「生きて、また会おうな!」


 ザックスが叫んだ。


 ビゴットは顔だけをザックスに向ける。


「ったく。誰に物言ってんだ、おめぇは……」


 すぐにザックスから顔を背けると、ビゴットは禿げた頭を撫でた。


「お前こそ、どこぞの竜に食われるんじゃねぇぞ!」


 ビゴットも、前を向いて叫んだ。


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