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第054話 ビゴットと稽古

 その夜。


 ビゴットとザックスのふたりが向かい合ってテーブルについた。


 テーブルの上にはいつものようにビゴットの用意した夕食が並んでいた。


 いつもと違うのは、ダイニングから見える玄関わきに置かれた旅道具一式である。


 それらを眺めながら、ビゴットがザックスに質問を投げる。


「今日は随分買い込んできたな。携帯用の食料に、キャンプ道具か。もう、明日にはドニカ村へ行くのか?」


「いや、明後日の朝に発つ予定だぜ。実は、竜追い人に登録してきたら、さっそく仕事が入っちまってさ。ドニカ村近くの山に火竜が住み着いたんだそうだ。そいつを、追い払って来いっていう話」


「ほう、火竜か。懐かしいな」


 ビゴットが懐かしみながら、ザックスに問いかける。


「たしか、Aランクの竜だろ。大丈夫なのか?」


「やっぱり、やばい竜なのか、火竜って?」


 ビゴットからしてみれば、火竜はまだザックスの手に負える相手だと思っていない。


 何か助言のひとつでもしてやろうと、ビゴットは頭を捻る。


「まあ、狂暴な竜だな。狩り方のコツを知ってりゃ、それほど苦労はしねぇだろうが……ほとんどの奴は知らねぇだろうな」


「お、なんだ。ちゃんと攻略法があんだな。教えてくれよ」


 ザックスはビゴットの提案に食いついた。

 しかし、ビゴットは眉根を顰めて、やや考え込む素振をする。


「まあ、構わねぇが。……それじゃあ、明日時間あるか?」


「おう、大丈夫だぜ」


「なら、明日稽古をつけてやる」


 そう言って、ビゴットは夕食の竜肉をひとかじりした。




 翌日。ザックスはガン・ソードを手に家の裏にある訓練場に出ていた。


 そこへ、角材を二本背負い、両手にも角材を持ったビゴットが現れる。


「親父、なんだその恰好は?」


「いやな、火竜を模して、模擬戦をしてやろうと思ってな。奴は二本の首と、六本の腕を持つ竜だ。とはいえ、俺の手は二本しかねぇから、コレで勘弁してくれや」


 ビゴットのあまりに雑な竜の模倣に、ザックスは呆れながらつぶやく。


「いや、え? マジかよ?」


「大マジだ。これから、お前に模擬戦のルールを説明してやるから、よく聞けよ。この背中の角材は、火竜の首だと思え。まずは、この二本をテメェのガン・ソードで切断しろ」


「お、おう……」


 唐突に始まった模擬戦の説明に、ザックスはたじろいでしまう。


 ビゴットは構わず説明を続ける。


「背中の角材を切り落とせたら、俺の腹の上に乗れ。そうすれば、お前の勝ちだ」


 ビゴットからひと通り説明を聞いたザックスだが、不思議な勝利条件に首をかしげる。


「なんだそれ。そんなんで、火竜を倒せんのか?」


「そうだ。一応、具体的なことを教えておいてやるか」


 ビゴットは角材を地面に突き刺し、腕を組んだ。


「奴の首を最初に落とすのは、柔軟に動かせるのが首だけだからだ。奴は自分の背中に手が届かないから、首を落としておけば背中に回ることができる。ただ、背中に手が届かなくなった火竜は、背中に乗られると飛び跳ねてふるい落としにかかるんだな。しばらくそれに耐えれば、今度はひっくり返って潰しに来る。それで腹ががら空きになるわけなんだが、そこに乗ってやれば後は勝手に自分で自分の体に爪をぶっ刺して死ぬ。面白れぇだろ?」


「おいおい、随分とマヌケな竜だな。なんか、拍子抜けだぜ」


「とはいえ、それが出来る人間は今のところ一人しかいねぇがな」


「その一人って……」


「もちろん、俺だ」


「やっぱりな……」


 ザックスが項垂れる。


「ネルビスが、火竜が討伐された記録が二百年前にあるって言ってたんだ。それって、親父の前世だろ?」


「多分、前に生きてたのがそのあたりだったからそうだろうな。その当時はジェラルドって名乗ってた。懐かしいな」


「誰だよそれ」


 ザックスがツッコミをいれる。


「なあ、親父は、何回転生したことがあるんだ?」


「そうだな……今回が三回目の転生になるな」


「親父が昨日言ってた魔女の末裔ってのは、他に居るのか?」


「あんまりこの話はしたくねぇんだが、まあ、お前には特別に教えてやるか。俺たち一族はせいぜい百人程度だが、全員が転生者としてこの世に留まっている。だが、その中でも実際に生きて活動しているのは数人だ。多分、俺も含めて五人もいないんじゃないか?」


「え、どういうことだ?」


「魂、とでも言えばいいか。この世界には干渉できない形で、俺たち魔女の末裔は今も存在している。そして、転生すんのも順番なんだわ。なにせ、俺たち一族を産める人間はひとりしかいねぇからな……っと、これは喋り過ぎか」


「は? 全然分かんねぇんだけど……」


「お前が理解する必要はねぇよ。要するに、俺もお前も、もはやそこらの人間とは一線を画した存在ってことだ。まあ、そういう所が、聖竜に気に入られたところなんだろう」


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