第049話 血のつながらない親子
「――とまあ、こうして、まだ赤ん坊だったおめぇを引き取ってやったんだ」
ビゴットが話し終わると、日の暮れかけた薄暗い家の中に静寂が訪れた。
ビゴットの話を聞いている間、ザックスはずっと黙ったまま何も言えなかった。
ザックスには、いくつか聞きたいことがあった。今まで知らなかったビゴットの秘密……魔女の末裔のことや、その歴史、竜王との確執など。しかし、自身がその復讐のための条件として引き取られ、育てられただけだったという事実が、ザックスの胸に重くのしかかり、何も言えなかったのだった。
ビゴットはザックスの心中を察すると、ため息をひとつ吐いて目を伏せる。
「すまねぇな……お前を引き取って育てたのは、俺の目的を果たすためだ。とは言え、お前を育ててるうちに情が移ったというのはある。ただの義務感だけで育ててたわけじゃねぇってのは、信じてほしい」
「分かってるよ、そんなこと。でも……」
ビゴットの態度から、義務感だけで育てられたわけでは無いことをザックスは理解していた。しかし、ザックスにとって簡単に割り切れることでもなかった。
「じゃあ……俺の本当の親は、どこにいるんだ?」
まず一番に聞きたいことだった。
ザックスは赤い瞳をビゴットに向ける。
まっすぐ、真剣に。
ビゴットはザックスの様子に気がづくと、しっかりと視線を合わせた。
「残念だが、それは分からねぇ。可能性があるとすれば、ドニカ村出身の誰かだろうな」
「なら、そこに行けば……!」
ガタッと音を立てて、ザックスが立ち上がる。
しかし、すぐに顔を曇らせては、椅子に座った。
「いや、顔も名前も分かんねぇんだ。探しようがねぇよな……」
そう言って気を落とすザックス。彼の落胆ぶりを見て、ビゴットは自身の顎を撫でた。
ややあってビゴットは、今しがた思い出したことを話しだした。
「そういえば、俺がお前を預かってからしばらく後に、ドニカ村の生贄制度は廃止になったと聞いたぜ。近くにあるディストリアとひと悶着あったそうだ。その結果、生贄制度で子供を差し出さなければならなかった母親は、ディストリアの施設で保護されることになったんだそうだ」
「んー、という事は?」
「その施設に行けば、母親のことくらいなら分かるかも知れねぇってことだな」
ビゴットの話を受け、ザックスの心は決まる。
「なら、俺はそこに行くぜ! そうと決まれば、明日から出発だな!」
「まあ待て。どこの誰かも分からねぇお前の言う事を、誰が聞くってんだ?」
「あ……」
ザックスが呆気に取られる。
向かいに座るビゴットは、「やれやれ」と嘆息し、言葉を続けた。
「お前、竜追い人の登録は済んでねぇんだろ? なら、せめてそれくらいやっておけ。そうすりゃあ、最低でも身分は保証されるだろ。竜狩りとは関係ねぇからどこまで融通が利くかは分からねぇが、話くらいなら聞いてくれるだろうよ」
まったく世話の焼ける息子だぜ、とビゴットは苦笑いしながら付け加えた。
話の締めに、ビゴットはトンッとテーブルを叩く。
「さて、これで俺の話は終わりだ。あとはもう、お前の好きにしろ。分からねぇことがあれば、いつでも俺に聞きな」
「ああ。頼りにしてるぜ、親父」
ザックスが手を差し出した。
ビゴットは頬を掻き、複雑な笑みを浮かべる。
「こうやって、改めて言われると変な気分だな」
ビゴットは言うと、差し出された手をしっかりと握った。




