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第044話 レオレッグスとの戦い

 ザックスは銃口をレオレッグスへ向け、レオレッグスと対峙した。レオレッグスは鬣を細かに震わせて、ザックスの方へ鬣から突き出た口を向けている。


「そういや、あいつの鬣……風も無いのに何で動いてんだ?」


 ザックスは改めて正面からレオレッグスと対峙したことで、違和感を覚えた。


 森の中は静けさに包まれており、風は一切吹いていない。にも関わらず、レオレッグスの鬣は常にザワザワと震え続けている。


 ザックスはトリガー部を引き絞り、魔力を銃口に注ぐ。レオレッグスはすぐさまザックスの動きに気が付くと、身を僅かに屈めた。


「もしかすると……コイツでテメェの手品のタネが暴けるかも知れねぇな!」


 十分に魔力を集め、引き金に指をかける。狙いはレオレッグスの鬣の中心――ちょうど額にあたる部分だ。


「受けてみやがれ! 魔弾(マジック)の射手(・バレット)!」


 ガン・ソードから紫色の光が迸り、目前のレオレッグスを射抜いた。と、同時に、ザックスは見た。


 ザックスへ飛びかかろうとして光の弾に貫かれたレオレッグスと、横から牙を向けるレオレッグスの本体。


 ザックスは銃身をレオレッグスの本体へ向けて振り上げる。レオレッグスの牙がガン・ソードを挟みこむと、ザックスから得物ひったくるように顔を振るった。


「うぉっ!」


 ザックスはレオレッグスの力に振り回されるも、ガン・ソードは手放さない。二、三度レオレッグスの力に翻弄されたザックスは、そのまま魔銃ごと放られ樹木へと叩きつけられた。


「がっ……!」


 ミシミシと、ザックスの体と樹木、互いの幹から悲鳴が出る。辛うじてどちらも折れる事は無かったが、ザックスは手と膝を地面に着いて荒々しく息を吐き出した。


「ちっくしょう……だが、今ので分かったぜ。テメェの能力が」


 ザックスはガン・ソードを杖のようにして立ち上がると、再びレオレッグスに銃口を向ける。レオレッグスは鬣をわななかせて周囲を探り、やがてザックスへと体を向けた。


「テメェのその鬣は、触覚だな? 空気の動きや魔力を感知できる。目がねぇから、その分感覚にはかなり鋭敏みてぇだな!」


 ザックスは再びトリガーを引き、魔力弾を放つ。今度は出力を落とし、小さな魔力弾を横薙ぎに連射した。


 レオレッグスは横に飛び退く仕草をするが、複数放たれた魔力弾が当たり残像が霧散した。本体は既にその更に遠くへ飛び退いており、ザックスの射程の外へと逃れていた。


「そして、テメェの残像は魔力によって引き起こされた錯覚だ。位置を誤認させて、幻影に攻撃を誘導すると同時に反撃の隙をつくる。厄介だったが、タネさえ分かれば対処はそう難しくねぇぜ!」


 ザックスはさらに距離を稼ぐため、離れた標的へ銃口を向け直し連弾を放った。


 レオレッグスの幻影は容易く霧散し、本体は樹木の陰に身を隠した。


 ザックスは空になった魔力莢を取り外すと、新たな魔力莢を装填する。レオレッグスを見逃さないよう、樹木に半身を隠した本体からは目を離さなかった。


「出力を落とした魔力弾じゃなけりゃ、そんな樹ごと吹っ飛ばしてやるぜ。覚悟しろよ!」


 ザックスはジリジリとレオレッグスの隠れる樹へと近づく。レオレッグスは幹の脇から顔を出すと、鬣で周囲の気配を探り出した。


 それを見てザックスはトリガー部分を引き、魔力を銃口へ注ぎ出す。銃口に紫の光を湛えさせながら、ザックスは走り出した。


 レオレッグスが顔を背け、森の奥へ逃げようと動き出す。


「逃がすかっ!」


 ザックスは十分に魔力を注ぎ込んだ銃口を向けてトリガーを引こうとしたところで、強烈な違和感を覚えた。ゾクリ、と。背後を覆う気配で咄嗟に振り返ると、レオレッグスの顎が。


「な、馬鹿なっ!」


 片時も目を離さなかったはず。だのに、いつの間にか背後へまわられていた。そうか――



 ザックスは、色が落ちゆっくりとなる視界の中で理解した。レオレッグスが顔を背けたのは、逃げるためでは無い。ザックスへ飛びかかる姿が、魔力で作られた幻影として目の前に映し出されていただけだったのだ。


 樹木の陰に隠れ半身を現した時。離れたレオレッグスの姿をザックスが視認した時には、既に幻影が作られていた。


 それに気付かず、まんまと術中にハマったザックスは死の淵に立たされた。避ける暇が無い。せいぜい、手を差し出すのが精一杯なもの。


『ザックス。竜狩りをやっていれば、何度か死の淵に放り込まれる事があると思う。その時に生き残るコツを教えておいてやる』


 刹那に、ビゴットの言葉が脳裏を過ぎった。


『お前が取れる方針は2つある。ひとつは、あえて全力で飛びこむことだ。中途半端に飛べば、死へ真っ逆さまだからな。覚悟を決めろ』


 翡翠竜と対峙した時のように。敵の口へ飛び込み、死中に活を見出した瞬間があった。


『もうひとつは、必死で堪えることだ。首の皮一枚でも繋がれば、反撃の機会は必ずある。ピンチの時こそ、チャンスが見える。そういうもんだ』


 ザックスは、直感で判断した。ガン・ソードから左手を離し、レオレッグスの口中へ突き出した。


「がぁっ!」


 容赦なく、レオレッグスの牙がザックスの左肩に食い込む。しかし、ザックスは食いちぎられようとしている腕に力を込め、口中からレオレッグスの牙を掴んだ。


「へっへ……ここは、踏ん張り時だ。おかげで、ようやく実体を掴んだぜ……!」


 ザックスは、右手に持つガン・ソードの銃口をレオレッグスの下顎にあてる。


「腕の一本、テメェにくれてやる……だが、その代わりその命いただくぜ」


 言って、右脇を支えに下顎へあてたガン・ソードのトリガーを捻った。


「くたばれ! 征服す(ヴァンキッシュ・)る楔(ウェッジ)!」


 紫の楔がレオレッグスの顎下から伸び、ザックス自身の左腕ごと口蓋を貫き、レオレッグスの頭頂から天へと突き上がる。


 程なくして光の柱が消え去ると、頭を焼失したレオレッグスは、膝から力なく崩れ落ちた。


「はぁ……はぁ…! やった、ぜ……」


 少し遅れて、ザックスはガン・ソードから手を離した。


 どさりと、ガン・ソードが地に落ちる。同時に、ザックスも地に膝をついて力なく倒れ込んだ。


「ダメだ……血が止まんねぇ……。力が、入らねぇ……」


 腕を噛みちぎられたために、ザックスの肩からは夥しい量の血が流れている。レオレッグスを倒したは良いが、相打ちだった。


「俺……死ぬのかな……。血、止まらねぇもんな……。こりゃあ、流石に……」


 ザックスの意識はそこで途絶えた。



 ◇   ◇   ◇




「お、決着がついたか」


 森の中を歩くビゴットが、空を見上げた。


 空に立ち上がる紫に輝く光の柱を見たビゴットは、ザックスとレオレッグスの戦いに決着がついたことを知る。


「竜の気配は消えたな。やれやれ……飛び出して行ったかと思えば、憂さ晴らしに竜狩りとはな。まったく、そんな事のために竜の狩り方を教えた訳じゃねぇんだけどな」


 ビゴットは光の柱が立ち上った方向に進む。


 草をかき分け、茂みの中を突き進んでいくと、程なくしてレオレッグスの亡骸を発見した。その傍で横たわるザックスの姿も。


「ひでぇもんだな、こりゃあ。流石のおめぇも肝が冷えたろう。だが……」


 ビゴットがザックスの有り様を見て、顎を撫でる。


「俺が親父なら、アレはお前の母ちゃんになるか。母ちゃん譲りの力が、お前にはあるはずだ。そんなもんじゃあ、くたばらねぇ筈だがな?」


 ビゴットが腰に手をあて、深いため息をつく。しばらく血が流れ続けるのを眺めていると、その瞬間は訪れた。


 ザックスの肩から白い光が溢れ出す。やがて光はザックスの千切れた左腕のシルエットを型作っていった。


 ビゴットは黙ってその様子を眺めている。既に見知った光景であるような素振りで、ただ成り行きを見守っていた。


 ややあって輝きが失われていくと、ザックスの左腕は元通りとなっていた。気を失ったままではあるものの、顔色も戻り、一切の傷は無くなっていた。


「これで二度目か。やはりと言うか、もう疑う余地はねぇな。おめぇは、もう、人間じゃあねぇ」


 呟いて、ビゴットは禿げた頭を撫でた。


「いや、『もう』というよりは、俺が預かってきた時点で『すでに』か。すげぇもんだな、竜の血ってやつは……まさか、種族の違う生き物すら、竜に変えちまうってんだから」


 ビゴットは、辺りを見回して他の竜の気配を探る。


「ま、目が覚めるまでは、俺がここらを見張っててやる。気が済んだら、帰って来い。その時に、全てを話してやる。聖竜『セフィルス』との契約も合わせてな」


 伏して眠るザックスを一瞥すると、ビゴットは頭を撫でながら森の闇へとその姿を消した。



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