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第037話 星杖ドラゴン・アイ

 会食が終わり、ザックスとネルビス、マーブル、そしてダンクルーザーを残して他の面子は帰宅していった。


 時刻はまだ昼を少し回ったばかり。


 ダンクルーザーは、ザックスとネルビスをドラガリア中央にある協会本部へと案内していた。マーブルは関係者以外立ち入り禁止との事で、外で待たされることとなった。


「いやぁ、ザックス君は本当に運が良いよ。この先に行けるのは、一部の関係者だけだからね。滅多なことが無ければ、ネルビス君だって入ることは出来ないんだからさ」


 言って、ダンクルーザーは厚い金属の扉についたダイヤルをくるくると回す。


 右に左に回すこと五回。その後、ダイヤルの真ん中についた突起を外すとくぼみが現れた。


 ダンクルーザーはポケットから白色ダークマターの欠片を取り出し、くぼみへ入れると、突起を元の位置へはめ込む。


 パキリと音を鳴らして中の白色ダークマターが割れれば、金属製の重厚な扉が音を立てて左右に開いた。


「ようこそ、ドラゴンビジネス協会現本部『星杖の間』へ」


 扉の先は、ほの明るいドーム状の空間だった。


 窓のない広間の中央には、ザックスの上半身程度の直径を持つ化石のような球体。


 壁面は黒と青の中間のような色合いをしており、球体を中心に広がる天蓋には小さな丸い光が幾つも映し出されていた。


「足元に気をつけて、上がってくれ。そこに幾つか椅子が見えるだろう? 自由にかけてもらって構わないよ」


 ダンクルーザーが球体の傍を指さすと、キャスターのついた座り心地のよさそうな椅子が幾つか無造作に置かれていた。


 ザックスは言われるがままに、手近な椅子へと腰かける。背もたれに寄りかかると、ゆっくりと傾いて天井を見上げる形となった。


「すっげぇな、これ。まるで星空みてぇだ」


 天井に映し出された様々な丸い光が、星々のように見える。


 幻想的な景観を映し出していた。


「どうだい、面白いもんだろう? この星々のような明かりは、全て竜の存在を示すものなんだ。竜なんてのは、この世に星の数ほどいるんだよ」


 ダンクルーザーも椅子に腰かけると、ザックスと同様にもたれかかって、天蓋に浮かぶ星々を見上げた。


「これが、星杖『ドラゴン・アイ』の機能さ。この世に存在するあらゆる竜の居場所を映し出す。伝説として語り継がれる竜神『ヨルムンガルド』の目と云われている大変貴重な遺物のひとつなんだ」


「竜神『ヨルムンガルド』?」


 ザックスが、聞いたことのない竜の名前に反応して身体を起こしダンクルーザーへ顔を向けた。


「なんだい、知らないのか。竜神『ヨルムンガルド』は、ドラゴニアを創生した神とされる竜だよ。伝承によると、世界を創った後に息絶え、この世に幾つかの遺物と三体の竜を産み落としたとされている」


 ダンクルーザーはザックスを一目見やると、すぐに天井の煌めきに視線を戻して言葉を続けた。


「あの離れたところにある一つの白い星が見えるだろう? あれが、三体の竜が一体、聖竜『セフィルス』だ」


 ダンクルーザーは天井に浮かぶ様々な光のうち、やや離れて浮かぶ一点の白い星を指した。ザックスは指された星に目を向けながら、


「へぇ。光の色で竜の種類まで特定できんのか。そりゃあ、便利だな」


 再び横になり、頭の後ろに手を組んで感嘆の声を漏らした。


「分かると言っても、誰かがそれと確認して報告を上げてくれたり、種々の情報から推測したりと、そんな感じだよ。僕たちだって、すべてを把握できている訳じゃない。たとえば、あそこにある星のように。多分、何かの竜なんだろうけれど、あれが何の竜を表しているのか、僕でも分からないな」


 ダンクルーザーが指した先には、一点の青い光――がしかし、次の瞬間には赤い星へと変化していた。


「他の星を観察していても、色の変化する星はどこにも無い。あそこに浮かんでいる星だけが、その特徴を持っているのさ。これの意味することが何なのか、僕にはサッパリだ」


 額に手をあてて軽くおどけて見せる。ザックスはそれに目をやることもなく「ふぅん」とだけ呟いた。


「なあ、あそこに点滅しているやつは何だ?」


 ザックスが、ぽっかりと空いた空間で点滅する薄い白色光を指す。


「あれかい? さあ、何だろうね。ごめん、分からないや」


「そっか。分からないことも結構あるんだな」


 眉をひそめて困ったように笑うダンクルーザーに、ザックスはやや落胆の表情で答えた。


「まあね。もともと、人智を越えた代物だから。それでも、これのおかげで色んな竜の住処が分かっているし、巣の移動も把握できる。当然、都市の危機察知にも役に立つ。人類はこれの発見で、充分すぎるほどの恩恵を受けているよ。どう、少しは興味を持ってくれたかな?」


「ああ、面白かったぜ」


 ザックスは起き上がり、ダンクルーザーに向き直った。


 ダンクルーザーも一緒に起き上がると、椅子から立ち上がる。


「さて、これで、僕たちドラゴンビジネス協会の役割を少し認識してくれたかな。君たち竜追い人から情報を収集して、星杖『ドラゴン・アイ』の分析を進めることも重要な業務のひとつ。そして、これによって得られた情報を竜追い人達に還元することで、より狩りを行いやすく管理するのが主な業務だ。同時に、先ほどネルビス君が言ってたように竜追い人同士で無用な争いが起きないように対象を分散させることも大事な任務だね。何か、他に聞きたいことはあるかい?」


 ダンクルーザーからの説明を聞き終え、ザックスはひとつ思っていたことを尋ねた。


「……親父も、協会の竜追い人として登録していたんだよな?」


 その言葉に、これまでずっとダンクルーザーの背後で話を聞いていたネルビスが、ピクリと眉を動かした。


「残念ながら、あの男――ビゴットは非公式の竜追い人だ」


「なんだって……?」


 ネルビスからの思いもよらない返答に、ザックスは目を見開いて唖然とした。


「そうなんだよね。彼は伝説の竜達すべてと遭遇したことがあるらしいし、是非とも情報提供してほしいんだけれど……悲しいかな、断られてしまったんだ」


「なんで、親父は……?」


「不可解なのは、こちらの方だ。父上のいう事には、他の竜追い人の獲物を奪って回る、知りえた情報はほとんど報告しない、誰かと組むことも頑なに拒む……そのくせ、どういう訳か次々と竜を見つけ出しては屠っていく。我々が分かっていることは奴の実力だけで、あまりにも多くの竜を殺したことから『竜殺し』などと呼ばれ、マーブルのように一部の熱狂的な信望者までいるということだ」


「そういう訳だから、ザックス君。お父さんから何か聞いていないかな? 何でもいいから、知ってることがあれば教えてくれたまえよ」


 途端に、ダンクルーザーがザックスに詰め寄る。


 貼り付けた笑顔を崩さぬまま、端正な顔が近づく。


「いや、俺は何にも聞いてねぇぜ……? 強いて言えば、ガン・ソードの扱い方とか、ワイバーンを狩る方法とかくらいしか……」


「なるほど。ビゴット君は、その腰の武器をどうやって扱っていたのかな? どうやってワイバーンを狩っていたのかな? もっと詳しく――」


「それ以上はやめておけ。お前の悪い癖だぞ」


 矢継ぎ早に繰り出されるダンクルーザーの詰問を、その背後に立っていたネルビスが見るに見かねて制止した。


 ダンクルーザーは「ふぅ……」と一息つくと、ザックスから手を放してネルビスに振り返る。


「ああ、すまないね、ネルビス君。でもここでは、僕は年上で君の上司だ。宴の席では何も言わなかったけれど、言葉を慎みたまえよ。君の悪いところだ」


 ダンクルーザーはザックスに見えないように、貼り付けていた柔和な笑みをそっと崩した。見開いた目からは、やや怒気が放たれ、上司としてネルビスの態度を咎める。


「……申し訳ない、ダンクルーザー殿」


「それでいい」


 ダンクルーザーはわずかに剥がしたベールを再び貼りなおすように笑みを作ると、ザックスに向き直った。


「失敬した。すまないね、ザックス君。言い訳ではあるんだけど……こう、僕は好奇心が強くてね。あれこれ詮索して申し訳ない。君が正式に竜追い人として登録してくれたら、また話す機会もあるだろう。今度、詳しく聞かせてくれよ」


「お、おう……」


「それじゃあ、ネルビス君。ザックス君を玄関まで送ってくれたまえ」


「……承知した」


 ダンクルーザーがザックスの肩をポンと叩く。


 一方で、ダンクルーザーの言葉を受けたネルビスはやや沈鬱そうな表情で頷きを返した。


 ネルビスが前に出て、ザックスの隣に並ぶ。


「そうそう。ネルビス君には、あとで聞きたいことがあるんだ。ザックス君を送ったら、戻って来てくれるかな?」


「承知した。いくぞ、ザックス」


「お、おう……?」


 ネルビスが僅かに首だけをダンクルーザーへ向けて返事をすると、さっさと部屋を出て歩き出してしまった。ザックスは怪訝な表情で二人を交互に見ながら、ネルビスの後を追いかけていく。


 ダンクルーザーは、柔和な笑みを貼り付けたまま、手を振っていた。


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