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第035話 会食

「よーぅこそ、いらっしゃい、ザックス君! ささ、そちらに掛けてくれたまえ」


 黄金に煌めく天井のもと、大きなターンテーブルの横で男が諸手を広げてザックスを歓迎していた。


「おい、マーブル。俺、こんなところに来て大丈夫だったのか?」


「構わないと思いますわよ。ザックスも、きちんと招待状は受け取ったのでしょう?」


「まぁ、な……」


 ザックスは手元にある厚紙で出来たカードを開いた。


 白地に金色の文様をあしらったその招待状カードには、ザックスの名前と祝勝会のご案内の文字。加えて、日時と場所、食事の内容だ。


 ここは、ドラゴンビジネス協会のすぐそばにある高級料理屋『竜華飯店』。赤と白と黄金が織りなす豪華な内装を背景にして、ターンテーブルには既にネルビスとその一団がついていた。


 そして、両手を広げてザックスを歓迎しているこの男。


「僕は、ドラゴンビジネス協会長のダンクルーザーという者だ。以後お見知りおきを、ザックス君」


「ああ、よろしくな……?」


 言いながら、ザックスは胡乱気な眼差しでダンクルーザーを見やり、徐に椅子を引いて席に着いた。


 マーブルはその横で彼に一礼すると、隣の席に座る。


「そんな目を向けてやるな、ザックス。この男は、この店のオーナーも務めている。今回出される料理について簡単な紹介をするために、わざわざ出向いてきたそうだ」


 ネルビスは腕を組み、両の瞼を伏せてうつむきながら、ザックスへ補足した。


「もっとも、それだけなら料理長の仕事。わざわざこの男が来たという事は、他に何か目的があるに違いないだろうがな」


 ちらりと片目を開け、ネルビスはダンクルーザーを見やる。


 ダンクルーザーは、困ったように眉を寄せた。


「まあ、そう言わないでくれたまえ。ネルビス君の偉大な活躍を祝いに、僕もこうして馳せ参じたわけだよ。まずは、存分にうちの料理を味わってくれたまえ」


「ふん。招待状の手配は頼んだが、まさか協会長殿まで出向いて来るとは思わなかったのでな。何か裏があるとしか思えん」


 ははっと乾いた笑い声を漏らしながら、最後にダンクルーザーも席に着いた。


 それを合図に、厨房に向かう通路の奥から数人の女性が、料理皿を運んできた。


 胸元の開いたセクシーなドレスを纏い、スリットから綺麗な太ももを覗かせながら、男性たちの横へ立ち、テーブルへ料理を乗せていく。


 茶髪の男は鼻の下を伸ばし、そばかすと大男はやや照れくさそうに顔を上げて、目を泳がせていた。


 マーブルは目を伏せて、髪の毛をくるくると弄っている。


「そうですわ。この機会に、皆さん自己紹介をしてはいかがですか?」


 咄嗟に、マーブルが立ち上がって二つほど離れたところに座るネルビスへ提案した。


 背後から料理をテーブルに運ぼうとしていた胸の大きな女性が、驚いてわずかに怯む。


 ネルビスは、やや不機嫌そうに眉を寄せているマーブルを見やると、


「そう言えば、ザックスにはまだ我々の紹介をきちんとしていなかったか」


 言って、ザックスに目配せした。


「言われてみれば。もしかしてここの面子は、皆知り合いなのか?」


 マーブルはゆっくりと腰かけ、ザックスに青い瞳を向ける。


「私とザックス以外の皆さんは、ドラゴンビジネス協会員の竜追い人ですわ。ネルビスさんの祝勝会は、だいたい遠征の度に行われておりますし。私も、お仕事に関わった際はお呼ばれすることもありますのよ」


「へぇ……じゃあ、俺からまずは自己紹介させてもらおうかな」


 言って、ザックスが立ち上がる。


 ザックスがしゃべり始めたのを見ながら、ネルビスはダンクルーザーに耳打ちした。


「おい、今回のセッティングはお前だろう、ダンクルーザー。次からは、招待した客人の面子も考えてやれ」


「耳が痛いね。申し訳ない。君のお仲間さん達をもてなすつもりでサービスしたのだけれど」


「まったく……。これだから、くだらん大人の考えることは」


 ダンクルーザーの困った表情を尻目に、ネルビスはふんっと鼻を鳴らした。


「それじゃあ、次は俺でいいかな?」


 ネルビスとダンクルーザーが話している間にザックスの自己紹介が終わり、隣にかけていた茶髪の男が立ち上がった。


「俺の名前はチャパッツ。よろしくッス、ザックス君」


「おう」


「しっかし、君の胆力には恐れ入ったッスね。あの状況で、よくもまあワイバーンに立ち向かえたもんッスよ」


「まあ、あん時は、意地でも何とかしねぇとって思ったからな。身体が勝手に動いちまったんだよ」


「いやいや、本当にすごい気迫でしたよ」


 チャパッツの隣に座っている大男が立ち上がり、言葉を上げた。


「私の名前はビッグです。どうぞよろしくお願いします、ザックス君」


「おう」


「その年で物怖じしない姿勢は、すごいことですよ。ネルビス旦那もまだ小さい頃は……」


「おい、余計なことは言うな」


 ビッグの言葉を遮って、ネルビスが割って入った。


「よいではないですか、旦那」


「良くないから言っているんだ」


 ビッグの朗らかな笑みとは対照的に、やや凄みを効かせてネルビスは訴える。


「なあ、チャパッツ。ネルビスって、いつから竜追い人(ドラゴン・チェイサー)やってんだ?」


「たぶん、十二とかそのくらいじゃないッスかね。俺もここに入団してまだ一年くらいなんで、あんまり旦那の事を詳しくは知らないッスけど」


 ビッグとネルビスのやり取りをよそに、ザックスがチャパッツと話していると、坊主頭の男が立ち上がった。


「まあまあ、旦那。ビッグも、あまり旦那をからかわないで。自分はグラッツと言います。僭越ながら、ネルビス団の副団長をやらせていただいております。どうぞお見知りおきを」


 グラッツは低い物腰で丁重に頭を下げた。


「そして、コイツの親友である吾輩がクローヒゲでやす。よろしく!」


「お、おう」


 黒髭の男が立ち上がり、グラッツの後ろからひょっこりと顔を出す。


 快活なクローヒゲの挨拶に、ザックスの方が面食らってたじろいでしまっていた。


「そしてあいつが、吾輩の後輩のカッスでやす」


「クローヒゲさん、勝手に紹介しないで下さいよ。あ、どうもカッスでっす」


 クローヒゲに親指でさされて立ち上がったそばかすのカッスは、マーブルの隣の席でザックスに向けて軽く会釈をする。


「最後はぼっくですね。デーブと言いまっす。よろっしくです」


 太めの体躯を持ち上げてデーブがカッスの横に立つと、変なところで間をあける不思議な喋りで挨拶した。


「おう、よろしくな!」


 カッスとデーブに赤い瞳を向けて、ザックスは笑顔を見せる。


「すまないな、ザックス。他に、ホクロスとヒョロウの二人が居るのだが、今日は生憎欠席するそうだ。以上が、我がネルビス団の構成だ」


 ネルビスが立ち上がって、団員たちを代表して紹介した。


 チャパッツ、ビッグ、グラッツ、クローヒゲ、カッス、デーブ、そしてネルビス。加えて、ここには居ないホクロスとヒョロウの計九名が、ネルビス一団のメンバーである。ここにいる男たちは全員、ドラゴンビジネス協会員として登録された公式の竜追(ドラゴン)い人達(・チェイサーズ)であった。


「それでは、自己紹介も済んだところで。皆、今日は当店自慢の料理を存分に堪能してくれたまえ」


 ネルビスが座るのと入れ替わりでダンクルーザーが立ち上がり、右手を上げる。


 すると、奥の通路から巨大な竜肉を吊るした台座が姿を現した。


 凶悪な(かぶり)がついたまま焼かれた長い首。その場ですぐに削ぎ落とせるように、首の鱗は剥がされて筋肉がむき出しになっている。


「当店名物『ワイバーンのかぶりつき』だよ! 味わい濃厚、ぷりっぷりの弾力、そしてこの迫力! いやぁ、何度見ても興奮するね! ちなみに、『(かぶり)つき』と『(かぶ)りつき』をかけているのさ」


「それは蛇足(だそく)だ。つまらん駄洒落(だじゃれ)だな」


 ネルビスが自慢げに語るダンクルーザーの隣で悪態(あくたい)をつく。


「うおー、すっげぇー!」


 対照的に、ザックスは大いに驚いていた。チャパッツやクローヒゲあたりも興奮気味に目を輝かせており、ダンクルーザーは上々の反応に満面の笑みを浮かべて頷いていた。


 マーブルは男たちのテンションについていけず、ザックスの隣で苦笑いを浮かべていた。

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