第029話 本陣突入
ワイバーンに続いて黒の大地を進んでいくと、ややあって、上空のワイバーンが声を上げ始めた。翼をはためかせて滑空しながら、地上へと降下していく。
「どうやら、着いたようだな。さて、ここからが本番だ。準備は良いか、お前たち」
ネルビスが団員たちに号令をかけると、男たちは鬨の声を上げた。
「へ、腕が鳴るぜ」
「貴様が役に立つとは思えんがな。せいぜい、死なないように逃げ回っているがいい。くれぐれも我々の邪魔だけはしてくれるなよ」
「んだとコラ? ワイバーンの前にテメェをぶちのめしてやろうか?」
「戦う前から敵を見誤るな。貴様の目は節穴か、馬鹿者?」
「おぉん?」
二人が顔を突き合わせてにらみ合う。
そこへ、深緑の群れが沼地より飛び上がってきた。
ザックスとネルビスは、彼方より押し寄せるワイバーンたちへと振り向く。
その数、十頭。
中央で先陣を切り群れを率いる一際大きな個体が、黄色の双眸でザックスらを捉えた。
「奴が、この群れのリーダーだ」
ネルビスが緊張の面持ちで呟き、盾の持ち手を強く握る。
ザックスは強敵の登場に不敵な笑みを浮かべた。
額に十字の傷を持った一際大きな竜が近づいてくると、顎を開き、奥の歯をカチカチと鳴らす。
「お前たち、防御陣形を組め! 来るぞ!」
ワイバーンの動きに気が付き、ネルビスが振り返って叫んだ。
「貴様は我々の後ろに下がっていろ、丸焼きにされるぞ!」
ザックスの前で壁をつくるように、盾を持った団員たちが隙間を埋めて密集した。
先頭のワイバーンが喉を鳴らす。すると、口から勢いよくガスを噴き出した。同時に、歯が鳴り、小さな火花が起きる。火花は吐き出されたガスに引火すると、たちまち巨大な炎となってザックスらに放射された。
ザックスは唐突に空から降り注がれた炎の雲に目を見開き、驚きに身を固くする。が、ネルビスらがザックスを押し倒し、盾の束によって炎を弾いた。
続けて、周りのワイバーンも奥歯をカチカチと鳴らす。喉を鳴らしワイバーン達から次々と炎が放出された。
襲い来る火の嵐を、ネルビスらは盾の束で次々と受ける。熱風が波のように押し寄せ、盾に弾かれて割かれると、背後へ流れていった。
「何とか持ちこたえろよ、お前たち……そう、長くは続かないはずだ!」
盾を構えながら、ザックス以外の全員が額に汗を浮かべて頷く。
「おい、コイツは一体なんなんだ? ここじゃ魔力が使えねぇんだろ?」
「だから言っただろう。奴らは、魔力を使わずに敵を葬る術に長けていると。あれは、奴らのゲップだ」
「げ、ゲップぅ?」
「腹に貯め込んだガスを一気に噴き出しながら、牙を火打石のように打ち引火させる。それほど大量には溜め込めないから、すぐに枯渇はするが……こうも断続的に放射されると相当に厄介なものだ」
チッと舌打ちしながら、ネルビスは粛々と炎に耐える。
断続的に盾へ打ち付けられる炎は勢いこそ変わらないものの、次第に頻度が減っていった。
打ち付けられる炎の明かりが消える。と、今度は猛烈な風が辺りに吹き荒れた。
一団は盾を構えたまま、吹き荒ぶ嵐の中で次々と降り立つ竜の姿を見る。
翼をはためかせ降臨する、ザックスの三倍程度の全長をもつワイバーン達。
気がつけば、ザックス達はワイバーンの群れに取り囲まれていた。
ネルビスの前に降り立つ十字の傷を持つワイバーンが、鋭い眼光を放ち一団を見下ろす。
「ギュウウゥルルル」
「ふん、その傷……あの時のワイバーンか。いまや群れのボスとは、偉くなったものだな」
ネルビスが鎌首をもたげてよだれを垂らす、傷持ちのワイバーンを睨みつけた。
「なんだ、ネルビス。お前、こいつのこと知ってんのか?」
ザックスは立ち上がると、ガン・ソードを構えながらネルビスをちらりと見やる。
「まあな。以前、巣のワイバーンを討滅させたときに、一匹だけ取り逃がした奴がいる」
ネルビスはふっと口元だけ笑みをつくる。目は真剣なままだ。
「こいつは、その当時のボスと戦っている最中に傷を負わせた奴だな。額に一撃を浴びせ、怯んだ隙にとどめの一撃を喰らわせてやろうとしたときに、横からボスの頭突きで邪魔された。当時のボスのお気に入りかは知らんが、運の良い奴だ。そのまま逃げおおせて、仲間を集めたか。まさか、こうして再び相見えることになろうとはな」
ネルビスが鋼鉄剣『シグムンド』の切っ先を眼前のワイバーンへと向けた。
「今度は、逃がしはしない。覚悟しろ」
「ギィイエェェェエ」
翼を広げ、傷持ちのワイバーンは空への咆哮で応える。と、それを合図に周囲のワイバーンらが一斉にザックスらへ襲い掛かった。
一匹のワイバーンが、大きく口を開けて迫り来る。
「対竜ネット用意、二人一組になって各個捕縛に動け!」
ネルビスの指示に男たちは短く返事をして、隣同士の者と即座に申し合わせる。
ワイバーンの口がガチンと空を噛み、その竜の両脇を素早くハゲと茶髪を先頭にした二組が駆けて行った。
反対側では、男たちを踏みつぶさんと迫る竜の足を、そばかすの男がすれすれで転げながら躱す。大男が剣での反撃を試み、大地を踏みつけた竜の右足へと突き立てた。
痛みから悲鳴を上げたワイバーンは、踏み込んだ足とは逆、左翼を大男へ向ける。すぐさま剣を引き抜き盾を構えると、大男は翼を打ち付けられてよろめいた。
同時にそばかすを薙ぎ払うように振られた尻尾を、彼は宙返りするようにしてひらりとかわす。着地し、大男の背後に回って対竜ネットを素早く引っ掛けた。
体制を持ち直し、大男がそばかすの来た方向へすれ違うように走り出す。振り返ったワイバーンは、牙を逃げる大男へ向け咆哮した。
「ギャアァァア」
そばかすと大男は網を引きながら両者対になって駆ける。それぞれ別に迫るワイバーンの口撃を躱しながら叫びをあげたワイバーンの周りをぐるりと駆けたなら、ネットが竜の顔へと張り付いた。
慌てて抵抗をするように首を動かすと、網はその隙間を翼の爪へと絡ませる。翼を動かせば今度は足の爪へと絡みついた。
男たちは網ごと強く引き込まれ空中へ投げ出されるが、素早く自身の鎧から網を外すと、中空で弧を描いてそのまま地面を転がった。
「一丁あがりだぜ」
腕を立て、上体を起こしながら、そばかすがニヤリとほくそ笑む。後に残されたのは全身を絡めとられて身動きが取れなくなったワイバーンのみ。
各方向へ散らばった他の組も、同様にして他のワイバーン達を絡めとって身動きを封じていた。




