第027話 ワイバーンの狙い
ザックスは、新たに迫り来るワイバーンを視認すると、ゴーグルをかけなおす。ガン・ソードの魔力莢を取り出すと、腰にかけたポーチから替えを取り出して装填しなおした。
「へっ、どんどん来やがれ!」
ザックスはガン・ソードを構え、飛来する新たな小型翼竜に狙いを定めた。
対するワイバーンは、ザックス達を視界に収めながら、高度を落とさずにそのまま上空を駆ける。
「なんだ、あいつ?」
ザックスが訝しみながら、上空のワイバーンへ銃口を向ける。と、ネルビスがザックスの傍までやって来て、背後から声をかけた。
「奴め、おそらく我々の戦いぶりを見ていたな。迂闊に近づいては来ないだろう」
ワイバーンは上空で旋回しながら、しかしザックスへ時おり視線を投げかけていた。
「どうやら、お前の攻撃を警戒しているようだな。やはりあの光弾を見られていたと思って間違いないだろう」
「なら、こっちから仕掛けてやるぜ」
ザックスが鼻を親指でこすり、ぺろりと舌なめずりした。
不敵な笑みを浮かべながら、ワイバーンの動きに注視する。
ワイバーンは相変わらず上空を規則的に旋回していた。
「そこだ!」
ガン・ソードのトリガーを引くと、銃口に紫の光が凝集した。十分にエネルギーを蓄えると、光弾は旋回する小型翼竜の進行方向へと放たれた。
軌跡を描く紫の弾とワイバーンが接近する。が、ワイバーンは翼をはためかせて尻尾を振ると、唐突に進路を変えた。
「ちっ、外した!」
「ふん、貴様の銃撃など想定内だろうさ。空の上なら小回りを利かせられる奴に、そんな攻撃など効くものか」
「知ってんなら言えよ、馬鹿野郎!」
「貴様の目測の甘さを他人のせいにするな。そら、奴が逃げるぞ?」
「あ、この野郎! 待ちやがれ!」
ザックスは慌ててトリガーを引き、再度エネルギーを凝集させる。狙いを定め、遠くへ飛び去ろうとするワイバーンの背に向けて光を解き放つ。
圧倒的速さでワイバーンの背へ追いつこうとした紫弾だが、白色の境界線を越えたところからその体積を収縮させていく。ワイバーンは首だけをザックス達に向けると、尻尾を左に振り少し体の角度を変えた。とはいえ、光の弾がワイバーンの横を掠める頃にはもうほとんどその原型をとどめておらず、そのままかき消えてしまった。
ワイバーンはその様子をしかと捉えると、大きく旋回して再びザックス達の方へと向き直った。
「お、また来るぞ。今度こそ、確実に当てられる距離まで引きつけて……」
ザックスがこれ見よがしにガン・ソードを構える。
しかし、ワイバーンは少しばかりザックス達の方へ近づいたかと思えばすぐに方向転換する。まるで射程距離をうかがっているかのように、何度も近づいては戻りを繰り返すワイバーン。
「くそ、焦れってぇな……」
中々近づいて来ようとしない相手に、ザックスは毒づいた。
「ザックス、奴の旋回する軌道をよく見ろ」
ネルビスが旋回するワイバーンの動きを見て、白線を剣で指した。
「奴め、どうやらさっきの一撃で気付いたようだな。境界線を越えると、貴様の放つ銃撃が無力化されることに。その証拠に、奴は境界線を越えようとしない」
「ちっ、こざかしい奴だぜ……それならっ!」
ザックスは、境界線に向かって走り出した。
「おい、貴様何をするつもりだ?」
ネルビスはすぐさまザックスの後を追いかける。
「俺のガン・ソードは単純に離れるだけ威力が弱くなるんだよ。だから、近づけばその分威力の減少は避けられるって寸法だぜ!」
「いや、それ以前にダークマターの影響下では威力が弱まるだろうに……」
ネルビスのツッコミは誰に届くともなく、虚しく空気に溶けた。
ザックスが境界線ギリギリまでやってくると、滑り込みながら素早くガン・ソードを構える。
ザックスの動きに気付いたワイバーンは、境界線上まで来ることなくすぐに踵を返すと、ザックスから再び距離をとって旋回し始めた。
「なんなんだ、あいつ……!」
ザックスが魔銃を構えながら、遠くで行ったり来たりしている小型翼竜を忌々しげに睨みつけた。
「貴様を誘い込もうとしてるんだよ、間抜け」
ネルビスがザックスに追いつくと、ため息交じりになじる。
「これで分かっただろう、貴様の目論見の甘さがな。初手から手の内をさらけ出したのは痛かったな。とりあえず、目標の半分の素材は確保できたが、これからどうするつもりだ?」
依頼は諦めるか、と腕組しながらネルビスは、ちらりとザックスを見やる。
「……竜穴入らずんば牙を得ず。奴の巣へ乗り込んでやんよ」
ザックスは悔しそうに歯噛みしながら、ネルビスの質問に答えた。
「ほう。竜の巣へ入らなければ、素材となる牙を得ることも出来ない。ゆえに乗り込むか。学のない貴様にしてはなかなか気の利いた答えじゃあないか」
「うっせぇ。さっさと準備するぞ」
ネルビスの嫌味にザックスはそっけなく返して、破壊されたキャンプ場へ足を向けた。
その様子に、ネルビスは両手の平を上へ向けると、
「やれやれ」
ひとつため息をつき、上空をみやった。
ワイバーンは、相変わらずザックスらの様子を伺いながら旋回しているものの、降りてくる気はさらさらない様子。
少しばかりの警戒を維持しながら、ネルビスはザックスの後について行った。




