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“あの日”  作者: 一条 幸
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“あの日”

 5月14日(火曜日)


 目を覚ますと目の前に沢山のパソコンが広がっていた。

 辺りを見渡そうとしたが紐で繋がれていて

 身動きが取れない。


 一体あの時何が……。


 ナイフを強く握り彼を殺しに行った記憶が

 最後となっていた。


 あれからどうなったのか、ここは何処なのか、私の頭は不安と謎で満ち溢れていた。


「…以上で私の報告会を終わります。

 それではこれからの質疑応答を行います。」


 聞き覚えのある声が微かに聞こえてくる。


 必死に首を伸ばし遠くを見つめると奥の部屋で何かの会議が行われているのが見える。


 そこで立ち上がり話を進行している人物、

 この声の主は彼だったのだ。


 彼が生きている事で私の脳内はぐちゃぐちゃにかき混ぜられた。


 一体どういうことなの!?


「質問がある方は手を挙げてお願い…」

 彼の声を遮る様に周りの声が部屋に響き渡る。


「そんな訳ないだろ!」

「お前は一体何を言っているんだ!!!」

「そうだそうだ!」


 酷く避難され、反対されているのが分かった。


 幾ら殺そうとした相手でも愛していた相手だ、聞いていると胸が苦しくなって来る。


「嘘じゃない!!!」


 彼の声は周りの声をかき消し一瞬にして

 場は静まり返った。



「本当にロボットは感情を持つんだよ…!」



 彼は続けて淡々と喋る。


「俺は今日までの6年間この研究一筋、

 自分の身を使って実験し証明してきた。」


 6年間?

 そういえば今日の日付って…

 そう思い、目の前のパソコンのデスクトップに目を向けるとそこには5月14日と書いてあった。


 私達が今も付き合っていたら今日で

 6年目の記念日だった。


 まさか、嘘でしょ?

 そんなはずない…!!!


 然し考えれば考えるほど辻褄が合ってしまう。


 私にははっきりとした幼少期の記憶も無ければ感情もついこの間まで無いに等しかった。


 私の記憶に残っているのは彼とすごした6年間、唯それだけだったのだ。


  でもそれじゃ

 咲良や鈴木美奈の存在はどうなるのよ。

 そう思いながら彼の居る部屋を覗き込む。


 すると彼の隣には、

 咲良や鈴木美奈、母親や妹の姿があった。


 その光景は、皆がロボット会社の社員だったと言うことを指していた。


 それでも私は、自分がロボットで実験台だったなんて信じられなかった。

 いや、信じたくなかったのだ。


 近くにあるメスに必死に手を伸ばす。

 紐が邪魔で無理やりちぎろうとして下を見るとそこには衝撃の光景が広がっていた。


 私が繋がれていたのは紐ではなくコードだったのだ。

 後ろにある大きな画面から伸びる多数のコードは私の体の至る所を繋いでいる。


 コードを無理やり抜いて、もう一度メスに手を伸ばした。

 メスを握りもう片方の手首を晒す。


 私が人間であれば血がこぼれ落ちる。

 そう思い自らの手首を力強く切り裂いた。


 手首に痺れるような痛みが伝わる。


 やっぱり私はロボットじゃなかったのよ…!!


 そう思い手首を見ると、

 中で複雑に交差する導線が切れて小さく火花が散っていた。


 痺れていた原因も、何もかもが、私がロボットである事の証明であった。


 ピーピーピー、

 サイレンの様な音が部屋中に鳴り響き

 赤いランプが私を照らしている。


 きっと私が今導線を切った事で警告音がなっているのだろう。


 足音が近づいてくる。

 それと同時に私の視界は揺れ辺りは白くなっていったのだった。




 ◇◆◇◆◇




 ー 数日後 ー


「…という事です。

 今配布している資料は、ロボット(陽向)実験中の記録です。」


 そこには陽向が数日前まで書いていた

 日記があった。


「5月14日の出来事やその他で抜けている部分は彼女のSDカードから現像しています。」


 周りで聞いていた人々は静かに記録に目を向け頷いている。


「確かに、本当にロボットは感情を持つのかも知れないな。

 然し、君はこの記録では殺されかけているが

 一体どういうことだ…?」


 聴衆のうちの1人が口を開く。


「これは緊急装置を作動させたんです。

 私と鈴木は同じ会社仲間なので情報は提供し合っていました。つまり、ロボットが私を殺しに来る事は分かっていました。」


 彼は続けて語り続ける。


「ロボットが僕にナイフをつき付けようとしている時、鈴木には背を向けている事になる。

 その隙を狙って鈴木はロープを振りほどきロボットの首にある緊急装置を押して緊急停止させたのです。」


 少し間を開けて、

 悪戯に笑う鈴木美奈が口を開く。


「その後、再起動をする為会社に運びましたがロボットはそこで目を覚ましてしまい私達の初めの報告会の内容を聞いてしまったのでしょう。」


 頷いている周りの反応をみて再び話を続ける。


「人間だと思っているロボットは不安になり近くにあるメスで自らの手を切った結果、複数の導線が切れ不具合が起きサイレンが鳴った。」


「私達が駆けつけた頃には、

 コードが外れ導線も切れているロボットは作動していなかった、という訳です。」


 聴衆は驚いた様子で口がパカっと開いていた。暫く重い空気の沈黙が続いた。

 その沈黙を終わらせたのは先程質問をしてきた聴衆であった。


「之はロボットが想定外の感情を持つことで暴走が起きた、そういう事ですよね?」


 永遠は相手の顔を見てはっきり答える。


「はい、そうです。

 私達もここまで深く重い感情をロボットが抱くのは想定外でした。

 然し、途中から憎しみなどの感情を持たせる為に咲良に感情を教えるよう指示しました。」


 余韻を遮り、またもや質問で返事をする。


「つまり、貴方たちの行動は全てロボットに感情を教えて持たせるためのものだった。そういう事ですよね…?」


 不思議そうな顔をして永遠は答える。

「勿論そうですが。

 何か問題でもありますか?」


 聴衆は物言いた気な顔をしているが誰も口を開かなかった。


 きっと彼らは実験だとしても、相手がロボットだとしても酷すぎると言いたいんだろう。


 然しこのご時世、少子高齢化が進みこれからの日本を担っていく若者は減少傾向にある。

 このままでは近い将来日本は壊れてしまう。


 そこで考えたどり着いたのがロボットだった。


 ロボットを人間そっくりに作れば少子高齢化を補えるのではないかと考えたのだ。

 然しその為には、ロボットには決定的に欠けている部分があった。


 それは ()() であった。


 そこでこの実験を実施し成功に導いたのだ。

 この6年間長いようで短い時間だった、

 漸くこの努力が実ったのだ。


 然し聴衆がこの実験の結果を認め無ければ

 製品化は勿論、今回の実験は失敗となる。


 その聴衆は今、私達に良い印象を持っていないだろう。

 きっと酷い奴らだと思っているに違いない。


 しかしこの日本の現状を前にそんな理想論を唱えていれる程の余裕は無いはずだ。


「これで最後の報告会を終了します。

 後日、ロボットのSDカードを複製して皆さんお送り致しますのでそれをご覧になってからゆっくり決めて下さい。」


「……分かりました。」


 小さくか細い返事が永遠の耳に届く。


 その返事と共に永遠達は立ち上がり聴衆に一礼をして会議室を後にした。


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