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“あの日”  作者: 一条 幸
7/9

4月 終わりの始まり

 4月1日(月曜日)


  彼を殺す計画を立てたは良いがここからが難しいかった。


 彼と2人で会う術は無いのでバレない様に

 後をつけて後ろから一突きする。

 それくらいしか私には思いつかなかった。


 失敗は許されないので、

 完全に彼を殺れる方法を考えて実行する。


 まずはその計画を考える事にした。




 ◇◆◇◆◇




 4月18日(木曜日)


 あれから約2週間半、

 私は彼の殺害計画について考えた。


 その全貌をまずはここで紹介したいと思う。


 単に彼を後ろから一突きするだけでは

 足音で気づかれるか、いつも隣にいる鈴木美奈に見つかる可能性があった。


 この計画を完全に成功させる為には鈴木美奈の存在が壁となってしまっていた。


 しかし鈴木美奈を殺してしまっては

 彼がこれからの人生私を恨み続けるという最悪の展開になってしまう。


 そこで私は考えた、鈴木美奈の誘拐を…。




 ◇◆◇◆◇




 4月20日(土曜日)


 私は鈴木美奈が仕事から戻る時間を狙い

 公園で姿を晦ましていた。


 コツ、コツ、コツ

 ピンヒールの音が静寂な夜の空間に響き渡る。


 彼女はメトロノームの様に正確なリズムで

 此方に向かって歩いている。


 彼女が公園を少し通り過ぎたくらいで

 私は立ち上がり声をかけた。


「あの、鈴木美奈さんですよね?」


 彼女は小さく声を上げ驚いた顔で此方を見つめている。


「誰…なの?」


 荒れた息遣いが此方まで伝わってくる。

 きっと彼女は色々な可能性が頭を飛び交っているんだろう。


「私は一条 陽向と申します。」


 その瞬間彼女の顔が引きつったのが分かった。

 成程、永遠が私の事を話しているのか。

 それなら話は早い。



「では改めて、鈴木美奈さん。

 あなたを誘拐させて下さい。」



 彼女の頭を飛び交っていた可能性、その中に正解は無かったのだろう。

 頭が追いついていないのが見て分かった。


「あなた、急に何を言ってるの?」


 そう言われるのは分かっていたが、

 これは先に結果を言う事で衝撃を与え

 この場から逃げさせない様にする罠であった。


「貴方にとっても悪い話じゃ無いと思いますが。」


 驚きを隠せていない彼女に続けて言う。


「本当は彼が自分の事を愛しているか不安なんじゃないんですか?」


「だったら何なのよ…!

 5年半も付き合ってたあなたと別れて

 永遠に未練がないわけが無いじゃない!」


 震えた声で言っている彼女は

 目に涙が浮かんでいる。


「それを確かめてみたいとは思いませんか?」




 ◇◆◇◆◇




 4月21日(日曜日)


 鈴木美奈が唯一の休みである日曜日。

 今日は彼女が私の家に来ることになっていた。


 数ヶ月前まで彼女が家に来るなど全く想像も出来なかった。


 ピンポン、

 今は抜け殻になってしまったこの家にベルの音が鳴り響く。


「いらっしゃい、鈴木美奈さん。」


「お邪魔します。美奈でいいですよ?

 私達もう他人じゃないんだから。」


「いえ、此方の方が慣れているので…」


 嘘だ、私は敢えてこの呼び方をしている。


 私の生活を壊した女の名を彼と同じ呼び捨てで呼ぶなど、反吐が出るほど嫌だった。


「どうぞ、お掛け下さい。」


 彼女がソファーに腰を下ろし気まずそうに俯いている。


「珈琲でいいですか?」


「お構いなく…」


 良くドラマで見る様な会話を済ませ

 私達は本題に入った。



「まず偽装誘拐を実行するのはこの家。

 私は彼が起きる前にこっそり家を出て此処に来る。これでいいんですよね?」


「はい、そこで部屋の椅子に座って頂きロープで手と椅子を括ります。」


 彼女は真剣にメモを取りながら頷いている。


「勿論見せかけですので、少し引っ張れば直ぐに解けるよう細工しておきます。」


「分かりました…。」


 小さくか細い返事から

 彼女が緊張しているのが伝わってくる。


「そこで私があなたの携帯で写真を撮り、彼に送り付けます。

 彼も後ろの壁や家具を見て家は此処だと分かるはずでしょう。」


「それを見て永遠が助けに来れば私を愛してくれていると確かめる事が出来るという訳ですね。」


 私は大きく頷き、

 彼女にはバレない様に口角を上げる。


 之は計画通り彼女という壁を壊す為

 口実を作り計画に参加してもらう為だった。


 つまりこの作戦には

 彼女の知らない続きがある。


 彼はきっと彼女が誘拐された事を知れば

 直ぐに此処に来るはずだ。


 そしてその姿を実際目の当たりにした彼は彼女の元へ駆け寄るはず、

 そのスピードを活かし間に入り彼を一突き。


 之が計画の全貌だ。


 後は偽造誘拐の際に使うロープや、彼を痛めつける為の切れ味の悪い包丁を準備するだけ。


 あと少しで彼は私のモノだ。




 ◇◆◇◆◇




 4月28日(日曜日)


 偽装誘拐当日。


 この日の為に毎晩頭でイメージトレーニングを繰り返していた、失敗は許されない。


 辺りが明るくなってきた頃彼女はやって来た。


 ピンポン、

「いらっしゃい、さあ中に入って。」


「お邪魔します、

 永遠はそろそろ起きる頃だと思います。」


「では予定より少し早いですが準備に取り掛かりましょうか。」


 彼女を椅子に座らせて動けばすぐに取れるよう優しく腕にロープを巻く。

 彼女の顔は引き攣り、額からは汗が滲み出ている。


 ここに来て躊躇ってしまう、

 然し永遠に来て欲しいと願う彼女の姿を見ると

 彼への殺意はふつふつと湧いてきた。


 ピピピ、ピピピ、

 彼女の携帯から鳴るアラーム音が

 私の考えを遮った。


「そろそろ永遠が起きる時間ですね。」


 私は彼女の携帯を借り、椅子に縛り付けられている姿を写真に収め彼のメールに添付する。


「助けて」と言う文字と共に。


「では送ります、もうこれで後戻りはできない。

 それでも良いんですよね?」


 拒否をされたら計画が全て終わってしまう。

 然し、ここで彼女が頷くことで自分を正当化出来る気がしたのだ。


「………はい。」


 長い間の末、彼女は返事をした。

 返事を聞いた私は送信ボタンを力強く押した。


 之はこの計画の始まりで有り、終わりである事を

 この時の私は知る由もなかった。



 数分後、彼から彼女の携帯に電話が掛かる。

 私にはもう二度と繋がらないはずの電話が

 彼女の携帯で繋がっている事に心が痛む。


 電話が鳴り止む頃、彼女が口を開いた。


「出て!」


 力強い声に驚き思わず電話に出てしまう。

 計画が狂ってしまう、

 焦る私を横目に彼女は続けて口を開く。


「永遠お願い、助けて…。

 私このままだと殺されてしまう...。」


 震えた声で言った後、私に切ってと口で合図をしたのが分かった。


 電話を切ると彼女が私を見て口を開く。

「こうした方が臨場感もあって彼が来る可能性も高まるでしょ?」


 私からすると成功に近づいたので有難かった。


 きっと彼女は不安だったのだろう、もしかしたら来ないんじゃないか、私を見捨てて逃げるんじゃないか。

 そんな気持ちから出た咄嗟の行動だったはず。

 この気持ちが私には痛いほど分かる。


 色んな思いが脳裏を駆け巡る。


 ガチャッ

 ドアの開く音が聞こえ力強い足音が近づいてくるのが分かった。


「彼が来たわね。」


 私のこの言葉には

 嬉しさと悲しさが入り交じっていた。


「陽向!!お前何してんだよ!」


 大きい怒声が私の頭に響く。

 数週間、いや数ヶ月ぶりに見た彼の姿がそこにはあった。


 初めて浴びせられた怒りの言葉に心が痛む。

 彼が鈴木美奈の事でこれまで真剣になっている。

 私と過ごしていた間もきっと沢山の愛を育んでいたのだろう。


 そんな事を考えれば考えるほど

 殺意が湧き上がり、ナイフを握る拳が固くなる。


「美奈…!今助けに行くからな、待ってろ。」



 今だ!



 彼が駆け足で鈴木美奈に駆け寄ったその瞬間

 私は間に入りコートで隠していたナイフを

 前に突き出す。


 既に日は上り、太陽の光によって鈍く光るナイフが私の視界を奪う。


 その瞬間目の前が真っ暗になり

 床の冷たい感触が頬に伝わった。




 ◇◆◇◆◇


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