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“あの日”  作者: 一条 幸
6/9

3月 嫉妬と憎しみ

3月7日(木曜日)


あれから1週間が経ったが、勿論彼は1度もこの家に帰ってきていない。


つまり私達の関係が壊れた事を示唆していた。


思いを伝えるまでは、関係が破綻したら私達は合わない運命だったと思うことが出来ていた。

しかし実際壊れると見える景色は全く違うものであった。


諦めがつくなんてことは無く、寧ろ嫉妬心は増す一方だった。


この一週間、彼は何処で何をしているのか

考えなくても分かっているのに考えてしまう。


未だに彼がいない生活に慣れずにいた。

その証拠にふとした瞬間に名前を呼んでしまったり朝ごはんを二人分作ったりしていた。


居ないと気がついた瞬間

胸がキュッと締め付けられる。


きっと私は、彼がいないと駄目なんだと思う様になっていた。


感情が無かったはずの私に愛情や優しさを教えてくれたのも彼であり、

それと同時に嫉妬や妬み憎みを知ったきっかけも彼であった。


彼には少なからず感謝している。


そして間違いなく彼の事を愛していた、いや今もまだ愛している。


私がこう思える日が来るなど想像もしていなかったので自分でも吃驚している。


しかし、感情を手に入れた代償に彼を失ってしまったように感じてしまう。

こうなる位なら感情なんて要らなかった、

知らなくて良かった。


私は今頃しても遅い後悔を1人でしては

このように綴っていた。




◇◆◇◆◇




3月18日(金曜日)


以前記録を書いてから1週間半程経っていた。

私は3月に入ってからパートも無断欠勤して家に引きこもっている。


自分を否定していく内に体がだんだんと動かなくなっていった。

食事もひゆ必要最低限だけを摂取し

この数週間で5kg程痩せ細っていた。


下手したらこのまま死んでしまうのではないと思っていた。

しかし私は、彼がいない生活に生きる意味が無いと感じていたのでその結果でも後悔はない。


寧ろ私が孤独死して、彼が私のせいで罪悪感を背負いながら生きていくなら本望であった。



ピロン、

埋もれた携帯が小さく鳴り拾い上げて画面を覗き込む。


「お願い見ていたら返事をして。大丈夫?」


咲良からだった。

別れたことを伝えてから1度も連絡を返していなかったのだ。


「遅くなってごめんね。自分が大丈夫なのか、どうしたらいいのかも分からなくて…。

お願い助けて欲しい。」


私は素直な気持ちをぶつけることで少し気が楽になった。


「明日、家に行くね。」


咲良からの返信は直ぐだった。

明日全てを話そう、

心配してくれた咲良を目の当たりにして

「このままじゃいけない」と強く感じた。




◇◆◇◆◇




3月19日(火曜日)


「おはよう、陽向」


ドアを開けるとそこにはいつもの優しい笑顔を浮かべている咲良がいた。


咲良は私を優しく抱きしめて

「こんなになるまで1人でよく頑張ったね。」

と震えた声で言った。


その瞬間、閉じこもっていた感情が一気に溢れ出し体の重荷が消えた。


一段落した所で本題に入り

彼と何があったのかを全て話した。


「結局、あの人を忘れられないの。

浮気されても離れて行っても私は今でも彼が好きで、嫉妬心が増す一方で自分が怖い。」


私は自分の思いを拙い言葉ではあったが

咲良に伝えることが出来た。


「悪いことじゃないと思う。

それほど陽向が一途に思っていた証拠だし絶対に諦める必要だって無いと思うよ。」


「…え?」


彼には愛し合っている相手がいて、私の事をもう好きではないのに諦める必要がないとはどういう事なのか。

私の頭では理解出来なかった。


「陽向は永遠くんの隣に今でもいたいんじゃないの?」


「それはそうだけど、もう無…」


「無理じゃないよ、決めつけちゃダメ。」


私の声を遮って咲良が言う。

私が隣にいる為の選択肢…。


「永遠をあの女から取り返すって事?」


「そうだよ、悔しいんでしょ!」


そうだ、そうだよ。

悔しいなら奪い返せばいい、どんな手を使ってでも奪い返して見せる。


永遠は私のモノだ。


咲良にお礼を言って以前と同じ様に

また会うことを約束して別れを告げた。


また1人になったこの家に彼を呼び戻すべく

私は作戦を練ることにした。




◇◆◇◆◇




3月25日(月曜日)


あれから6日間、

私は彼を奪い返す術を考えていた。


先ず、彼が今どこにいるのかを認知しておく必要があったが彼の携帯にはもう繋がらない。


私は彼と鈴木美奈が愛を囁きあっていたあの場所にヒントがあるのではと思った。


彼から貰った淡い桃色のカーディガンを纏い

家を後にした。


握ったドアノブからは微かな温もりを感じた。



目的地に着き、辺りを見渡す。

目の前には大きな公園があり、隣には割に合わない小さなアパートがあった。


もう日が落ちているので、遊んでいた子供は家に帰り公園は静まり返っていた。


手がかりを掴むまで暫く公園のベンチに座って待つ事にした。


しかし、何時間経っても手掛かりどころか

人が通る気配すら無かった。


私の行動を冷やかすかの様に肌寒い春風が吹きつける。


諦めて帰ろうとした時だった。

鈴木美奈がスーパーの袋を腕にぶら下げ現れたのだ。

アパートの階段を登り、奥の部屋に入ったのが見えた。



ここだ、きっと彼はここにいる。




◇◆◇◆◇




3月30日(土曜日)


彼がいる確証を持つべく、あれから数日間同じ時間にこの大きな公園のベンチから彼の姿を探していた。


そしてついに、今日見つけたのだ。


いつも通り鈴木美奈がスーパー袋を腕にぶら下げ歩いていた。

今日もハズレか...。


しかし数分後、

彼と鈴木美奈が手を繋ぎアパートから出て来たのだ。

まるで初めから私の存在はなかったかの様な仲の良さに吐き気がする。


本当はここで、彼を奪い引き離す筈だった。


しかし私には出来なかったのだ。

いや、しても無駄だったのだ。


私が彼らの中を邪魔しても、彼を奪おうとしても、きっとこの2人の関係は変わらない。


寧ろ私への嫌悪感が増える一方だと感じる程

仲睦まじく見え、私には到底叶わない関係性になっていた。


目で見て分かるほど彼らは愛を育んでいて

奪い返すことはもう出来ない。


私は絶望のどん底へと突き落とされたのだ。


奪えないなら、私のものにならないなら、



殺して仕舞えばいいじゃないか。



私は不敵な笑みを浮かべ、彼らの後ろ姿を見送った。



◇◆◇◆◇


“あの日”まで後約1ヶ月半。







以前、彼を疑いミナミモールに行く時は

「握ったドアノブは冷たく、まだ肌寒い外の気温を感じた。」


今回、彼を探しに家を出た時は

「握ったドアノブからは微かな温もりを感じた」


と表現している。

ドアノブから微かな温もりを感じたのは気温の変化のせいなのか。


それとも、感情が...

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