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“あの日”  作者: 一条 幸
3/9

1月 秘密と感情の交差

 1月1日 (火曜日)


 年が明け、辺りは何が目出度いのかお祭りムード一色だった。


 一方私達の関係は

 一歩ずつ破綻への道を歩んでいる。


 この頃から段々と彼の帰りが遅くなり、外食が増え、私との時間が減っていった。


 それは浮気相手との時間が増えた事を指していた。


 彼が浮気相手と過ごした後家に帰ってきた時、

 必ずネクタイが緩んでいるのだ。


 然し私はそれを見て、

指摘することも無ければ触れることも無かった。


 それでも毎日彼の帰宅を待ち、

 マニュアル笑顔で「おかえり」を言い続けていた。



 ◇◆◇◆◇



 1月23日(水曜日)


 年が明けて約3週間が経った頃だった。


 買い物の帰り道に見覚えのある後ろ姿を見つけ

 声をかけようと近寄ると、

 彼が鈴木美奈と仲睦まじく歩いていたのだ。


 気がつけば後を追い、彼等の会話に聞き耳を立てていた。


「……きだよ」

 冒頭部分は聞こえなかったが、きっと愛の囁きに違いない。


 一呼吸置いて冬風に交えた返答が聞こえる。

「俺も好きだよ、美奈」


 やはり実際自分の目で見て耳で聞いて、

 彼が目の前で他の女に送る愛の囁きを聞くと

 何か心にくるものがあった。


 おかしい、私には感情は無いはずなのに。

 この気持ちは一体…。


 その瞬間私の中で何かが外れる音がした。



 ◇◆◇◆◇



 1月24日(木曜日)


 昨日浮気現場を見たせいか、愛の囁きを聞いたせいか全く寝付けなかった。


 一晩中考えた末、伝えようかとも思ったが

 暗黙のルールを破る訳にもいかずその作戦は水の泡となってしまった。


 そして私はまた昨日と同じ時間、同じ場所で

 彼が現れるのを待っていた。


「私、何をしてるんだろう。」

 そんな微かで不安げな独り言は車の音に掻き消されてしまった。


 しかし何十分経っても

 彼と鈴木美奈が現れるの事は無かった。



 ◇◆◇◆◇



 1月31日(木曜日)


 あれから丁度1週間が経ったが

 私は相変わらずあの日と同じ時間と場所に

 毎日出向いている。


 分かっている。

 無駄なことも、なんの意味が無い事も。


 だから1月が終わる今日を、

 本当に最後にしようと思う。


 決めたからには根気強く、日付が変わるまで待つ事にした。


 気がつけばもう日付が変わる数分前に差し掛かっていた。


「やっぱり、あれは一回きりだったのかな…」


 もう諦めて帰ろうとした時、

 後ろから肩を叩かれ振り向くとそこには困惑顔をした彼が立っていた。



 それも1人で。



 ◇◆◇◆◇


 “あの日”まで後 約3ヶ月半



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