7 泥棒と犯人
[災暦1482年7月30日8:00]
今、私は言葉では表現できない。とても複雑な感情で満たされてる。
なんと今日はおめでたい日。なんせ国王様の子供――第一王女がもう間も無く生まれそうなのだ。
それなのに、どうして今複雑な気持ちなのかと言うと……
「神具はあったか?」
「どこにもねぇ。クソ!」
「確実に見つけろ。あれは伝説の認証盤、アレさえあれば王派の力を大幅に削ることができる」
「わかってる。だけどよ、もしかしたら。あのクソジジイが持ってるんじゃねぇのか?」
「それはない。ついさっき、王妃の出産の警護をしているのを見かけたが、認証盤は貴族用の指輪だった。だからこの部屋のどこかに有るはずだ。何としてでも探し出せ。あの漆黒の首飾り、龍帝の認証盤を何としてでも見つけるんだ」
お父さんと私の暮らす部屋でそう言っているのは、焦げ茶色のローブを顔が見えなくなるように被り、部屋の中を荒らす二人組。
泥棒……と言うよりも、おそらくは王の敵――殿下派の兵士たちだろう。
「おいおい。あったぜ!」
二人組の内。一人が目的の物を見つけたようだ……
先ほど見えなかった顔が、はっきりと笑っているのが目に見えてわかる。
何で顔を見えないように隠してるはずの顔がみえるのかと言うと。
「このガキの首についてやがるぜ!」
私の体をフードの男が持ち上げてきた。
(あぁ、泥棒さん初めまして……)
彼らが探しているもの、それは今私の首にかかっている。
認証盤と呼ばれ、この世界において自身のステータスや金銭を管理し、私のステータスを擬装している道具だ。
お父さんの様子を見るに何か別の機能もありそうだが、いまわそんなことよりも、考えなければいけないことがある。
「参謀の子供か……厄介だな……」
「何がだよ。さっさと奪っちまえばいいじゃねぇか?」
「よく見ろ。認証盤に記録石が付いてる。この子供が今装備してるってことだ」
「嘘だろ!? こんなガキが、装備なんて出来るのか? 自我があるかわからない状態で」
「さぁな。普通、記録石は自我が生まれてから作るが、あの国王の番犬の子供。何か特殊な方法でも使ったんだろう……」
(特殊な方法もなにも、自我あるんですよね......)
フードの二人の顔がはっきり見える。
一人は金髪もう一人は黒髪。顔を見る限りでは20代前半で、言葉づかいは少し良く無いが、人柄は良さそうに見える。
「そのガキが所有者ならどうするよ?」
「決まってるだろ? 第二王子をやった時と同じ。自我がないんだ。殺すしかない?」
頭が真っ白になり、そして直ぐに理解する。
「ガキ殺すの嫌なんだよな、泣き喚いてうるさいし」
「我慢しろ。それに今回は痛めつける必要はない。首を折れば終わりだ」
(こいつらがやったんだ……国王の子供を、あのバラバラにされた子供を……)
怒りが込み上げてくる。
彼らが殺した第二王子は当時1歳にも満たない年齢だった。
そんな小さな子を殺して、泣き喚いてうるさかったと言い放った。
「その子供の記録石を取って元の場所に戻せ。俺が殺す」
「了解。運がなかったな、ガキ」
黒髪の男がニコッと笑いながら、私のことをベビーベッドに戻し、お父さんがくれた真っ黒なネックレスを首から外される。
「認証盤を持っておけよ」
「あぁ、もちろん……」
「どうした?」
「いや、そのガキ枕の下に手を突っ込んで何やってんだ?」
(おっと、気づかれちゃったね。……でも、もう遅いよ。)
枕の下から水色で半透明の石――水の魔石を取り出して、想像する。
想像するのはこのローブの男二人の体を包み込み、まるで張り付いて剥がれない。無重力状態で水に取り込まれてしまったかのように――絶対に楽に死なせないように……
「何だこれ?!」
男達の体の近くから水が溢れ出し、その体を包み込んでゆく。
「まずい! この子供!」
金髪の男は私が今持っている魔石を見て、今何が起きているのか気がつき、咄嗟に私が持つ魔石へと手を伸ばして来た。
(もう遅いよ……)
「ーーくそ!」
二人の体を水が包み込み浮かび上がる。
黒髪の男は未だ自分に何が起きているのかわからないようで、ジダバタと暴れ。金髪の方はローブの中から短い短剣を抜きどうにかして私のことを殺そうとしているようだが、水ごと体が空中に浮いてしまって為す術もないといった様子だ。
(死ね......死ね......死ね......)
少しすると黒髪の男は動かなくなり、金髪の男の方は未だ意識はあるようだが、握っていた短剣を離し体を動かすことができないようだ。
『バァシャァー!』
手に握っていた魔石の欠けらが消えてしまうのと同時に宙に浮いていた水と男たちの体が床へと落ち。
床一面が水浸しになってしまった。
「ーーエルよ。赤子は無事に生まれ……」
(おかえり。お父さん......)
部屋の扉が開かれ、お父さんが部屋へ戻ってきた。
今の言葉からして、赤ちゃんは無事に生まれたのだろう。
「何があった!?」
(泥棒……それと、第二王子をバラバラにした犯人を……)
「エル……」
(ねぇ、何でかな……何で私……)
男二人は確実に悪党だ。
国王の子供を殺し、私のことを殺そうとした。
それでも、相手は生きている人間だった......
だが、今横に転がっているのはただの死体......私は人を殺ころしてしまった。
誤字脱字わからない表現があれば教えてください。
意見大歓迎です。ありがたく読ませてもらいます。
順次修正して行きます。