6 国の実情
「王は今までに、妃との間に二度子供を授かったことがある。一人目は5年前生まれた男児。いずれこの国の王を約束された子だったが……」
あぁ……やっぱり気分が悪くなる話だ。
まだ、話は始まったばかりだけれどもーー私には分かる。
きっと国王の子は死んだ――いや、厳密に言えば殺されたが正しいのだろうか……どちらにしても胸糞悪い話だ。
「エルよ……」
(ごめん……今の聞こえてたね……)
すぐに忘れてしまうが、私の考えたことは全てお父さんに筒抜けだ。だから今考えたことも聞かれてしまったのだろう。
「いや、いいさ。お前の想像通り王の子は二度とも殺された。表向きには一度目は城の上層からの転落事故。二度目は2年前。元気だったはずの子が、儂と王が国から離れている間に何故か突然急死し、妃の反対を押し切りそのまま埋葬され。
その後、儂と王の二人で掘り返してみれば、四肢やその首が無く。誰が見ても鋭利な刃物で切られた跡があった……」
最悪だ……最悪過ぎる。
(一体誰がやったの?)
「王の弟だ。証拠は一切ないがな……」
(弟は国王になりたいの?)
「いや……自分の子を王にしたいんだ。王に子がいなければ、ゆくゆくは弟の子が王になる」
(なんで、国王は弟のことを殺さないの?)
「先ほども言ったが、弟がやったと言う証拠はない。それに、もし王が弟を殺せばこの国は一瞬にして崩壊する。今この国には二つの派閥があり。お前のことだ、もうわかっているとは思うが、その二つの派閥は王派と、弟派――殿下派と言ったほうが正しいか。今この国はその二つの派閥が、やや殿下派に偏りつつあり、そんな状態で王が殿下を殺せば酷い内戦に発展するだろう」
(それじゃ、私を第一王女の守護騎士にって、王女の命を守れってこと? 赤子の私に……?)
体を動かして誰かを守る力がないことを証明する。
「流石に今のお前に守護騎士は無理なことは王も分かっている。それに今回、娘の第一王女が殺されることはない」
(なんで? いや――そっか!)
第一王女の旦那さんになれば、きっとその相手は国王になることができるのか!
「その通り、国王になることができる……とは言え、王がそんなことを許すはずがない。だからいずれは命を狙われてしまう。だからこそ、そのいずれの為――強い守護騎士が必要になるんだ」
そう言い終えるとお父さんは私のことを見つめ、何か回答を待つかのように黙り込んでいた。
きっと、私が第一王女の守護騎士になるのかどうかの返事を待っているのだろう。
「すまない……強要するつもりはない。ただ......)
(――いいよ。私が守護騎士なんかになれるかわからないけど、お父さんができるって言うならやるよ。それに……)
「――ある人?」
(勝手に心読まないで!)
心を読まれて先に言われてしまったが、そう。
もしかしたら第一王女が、私が助けると約束した――『ある人』と、いった可能性がある……
いや、確証は何もないが――それでも何の罪もない。
生まれてすらいない子の未来が残酷なものだと考えてしまったら、どうしても何かしてあげなきゃいけないと思ってしまう。
勘違いして欲しくないが、これは善意じゃない。
ただ、もし国王の子供が私の子供だったらと考えると、どうしても何かしなきゃと思ってしまうのだ。
「子供がいたのか……」
(ーーだから心読まないでって! どうやったら心読まれなくなるの! このままじゃ全部筒抜けじゃん! いやだよ私。考えたこと全部筒抜けって!)
お父さんは少しだけ苦笑し、ため息を吐く。
「恐らくだが魔力断絶というお前が持つスキルを使えば、聞こえなくなるとは思うぞ。ただその代わり、再び心の声を聞くためには、また魔術をお前にかけることになるから、面倒なことになるがな」
(……お父さんが自主的に聞かないことってできないの?)
「聞かないようにすることは出来るが、そしたら言いたいことがあっても儂にはわからなくなるぞ?」
まるで煽ってくるかのようにそう言ってくるお父さんを横目でにらみつけた。
(どうぞ好きに心を読んでくださいよ。まったく!)
「そうさせてもらう……エルよ、本当にいいんだな?」
(騎士のことならやるよ。その代わりに守るための方法っていうか、戦い方? ――を、おしえてね)
「あぁ、もちろんだ。初めから、儂の全てをお前に教えるつもりだ」
そして次の日の深夜。
約束通り国王が再び部屋へ訪れ、私が第一王女の守護騎士になることを、お父さんが伝えた。
国王は私が守護騎士になることを聞くと「そうか......そうか」と言いながら私を抱きかかえ、笑顔で涙を流していた。
きっと、この人にとっても......いや、誰にとってもそうだろうが、自分の子供には幸せで、平和な生活を送って欲しいと願っているんだ。
誤字脱字わからない表現があれば教えてください。
意見大歓迎です。ありがたく読ませてもらいます。
順次修正して行きます。