4 真夜中の客
[災暦1482年 6月26日 2:00]
『コン、コン、コン』
(ーーん? 誰だろ。こんな時間に……)
深夜、魔石のランプによって照らされる。
私とお父さんが暮らしている部屋に誰かが訪れた。
『コン、コン、コン』
(お爺さん! 誰か来たよ!)
そばにいるはずのお爺さんに心の声で呼びかけるも、反応がない。そして、まさかと思いながらーー
(お、お父さん! 誰か来たよ!)
「なんか言ったか......エル?」
眠そうな声でお父さんが返事を返した。
おそらく本当に眠っていたのだろうが、お父さんと言わなければ起きなかった様子を見るにーーお父さん呼びは、これからずっとなのだろう。
少し面倒に思いながら。
再度、部屋へ誰かが訪れたことを伝える。
「誰だ?」
「フェル、私だ。今、国へ帰った」
「ーーオイロスか、気にせず入れ!」
(お父さん、オイロスって?)
「この国の国王だ」
(?!?!)
突然訪れた訪問者が、この国の国王だと聞かされ。
口を大きく開けながら驚いていると、部屋の扉が開かれーーそこから焦げ茶色の短い髪に無精髭を生やし、体には頑丈そうな甲冑を着た男が立っていた。
威厳はあまり感じないが、この人物が国王なのだろう。
「フェル……左腕が……」
国王は、お父さんの姿をーーその失われた左腕を見ると。
「私の留守中にーー本当にすまない!」
頭を深く下げて謝罪する。
「頭を上げろ。お前は国王だろ? それなら儂に頭を下げてはいかん」
「何を言うんだ! フェル、貴方は十六天位の一人。私などより、遥かに高い身分は高いではないか!」
(えっと、どう言うこと?)
(説明は後でする。今は静かに寝ておれ……)
(わ、わかりました……)
お父さんの声が直接頭に響いてくる。
今のもお父さんの魔術なのかな?
ーーあっ、いつもお父さんは私の声を今みたいに聞いてるのかな?
普段どうやって私の声を聞いているのか何となく理解してからお父さんのことを見ると。
国王へ近づきその肩へ手を置いていた。
「万を背負うものが個に謝るなと言っているんだ。昔教えただろ?」
「だが……」
「儂は気にしておらん。それに今回、儂が行かなければ間違いなくこの国は滅んでいた。お前の弟は儂を殺すつもりで、ダンジョンへ行くよう言ったのだろうが、そのことで奇跡的にこの国は救われたのだ。とは言っても、お前の弟が敵であることは変わらんが......」
「それはもちろん分かっている」
国王はそう言うと短くため息をついて、一度目をつぶって何かを考えた後、口を開いた。
「話は変わるが、その子供。本当に貴方の子なのか?」
「そうだ」
「いったい誰との? ーーいや、それ以前にいつ?」
「儂だぞ?」
「わかってはいる。だが子が作れなかったのではないか?」
「儂の異名を忘れたか?」
お爺さんがニヤリと笑うのに対して、国王は苦笑を返し。
「確かに、貴方なら不能を直すのも容易いか」
「不能だと? オイロスお前儂に喧嘩を売っているのか!?」
「すまない! 子種がないのだったな。すまない…… 許してくれ」
「二度と言うなよ!」
「あぁ、二度と言わない。国王として誓おう」
お父さんのどうでもいいことで怒る姿を、ゴミか虫でも見る様な目をして眺めていると。
「ーー子供を見せてもらってもいいか?」
「もちろん」
国王はお父さんに許可を得て、私の体を抱き上げた。
「真っ白な髪に黒い瞳。貴方に似ているな」
「そうだろ? 名をエルと言う」
「エル……英雄の……?」
「あぁ、祖父の名を付けた」
「溺愛しているな」
「勿論だ。……どうした?」
私を抱きかかえていた国王が急に黙り込み。
何かを考え込んだ様子に、お父さんも気づいて質問する。
「この子は強くなるか?」
「なぜそんなことを聞く?」
「来月あたり次の子が生まれる……その子が娘なのだ……」
「それは、第一王女かーー厄介だな」
「ーーフェル、頼みがある」
「なんだ......?」
「この子を、娘の守護騎士にしてはくれないか? ーーもちろん無理なことを言っていることはわかっている。だが、もうこれ以上、妻や子に辛い目は合わせられない……」
国王はそう言うと、悲痛な表情を浮かべ。
「オイロス......」
「――頼む!」
「ーー聞け、オイロス! 明日また来い。その時に返事をする」
「……わかった。また明日ーーこの時間に必ず来る」
そう言うと国王は、部屋の扉から出て行った。
(ーーどう言うことか、説明してくれるよね?)
「あぁ、もちろんだ」
そう言うとお父さんは、私を片手で抱き上げ。
近くにあった椅子に腰掛けて、私の質問に答えようとしてくれた。
誤字脱字わからない表現があれば教えてください。
意見大歓迎です。ありがたく読ませてもらいます。
順次修正して行きます。