第5-4話 本当に大切なダチ公は、おっさんになっても結局つるむ仲になる。
~~~ 狛猫亭・ロビー ~~~
普段は宿泊客や従業員でごった返しているこの店だが、深夜ともなれば客は自分の部屋に帰り、従業員も自分の寝床か家に帰った後だ。
一杯引っ掛けて程よい酔いにまかせ、そのまま部屋で寝ようかと思ったが、思うように酔えず無駄に頭が冴え渡っていた。
「ありゃ……おばちゃん、まだ起きてたんな」
カウンターで一人で酒を飲み、帳簿を見つめる女将。目尻の皺は深く影が入り、帳面を睨みつけ所々に何かを書き入れている。
「おやデュークかい。あんた金の工面は出来たのかい、あんたの宿泊費がえらい金額たまって、こっちも頭抱えてんだからね」
こりゃあまた耳の痛い話を……、女将は自分の座ってる椅子を叩き、横へ座るよう促してきたので大人しく座っておくか。
「デューク…あんたまだ飲めるかい」
「えっ……おっさん外で飲んできたのバレてた?」
「なーに言ってんだい、こっちゃ客商売してんだよ。そんなもんお見通しさ。……なんかあったのかい」
ガラス製のコップに酒を注がれ、それを女将のペースにあわせチビチビと飲んでいく。どうもこの酒は自分の体に合っていないのか、頭にガツンとくる……だが味は嫌いじゃない。
「おっさんさぁ……今日スカウトされちゃった」
「へぇ~珍しい、あんたみたいなボンクラに興味持つ、神様みたいな人もいるもんだねぇ。で何処にスカウトされたんだい?」
「赤岩探偵事務所……断ったけど」
その名前を聞くと女将は口に含んでいた酒を吹き出し、怪異でも見たように此方をじっと見つめている。
女将にも冒険者の皆と同じ反応をされたが、真面目な顔に急に変わり酒を飲み直し、此方が喋るのを待っている。
「ええとねぇ……どっから話したもんかね。おっさん真面目な話しとか雰囲気苦手なのよねぇ~」
「ヘラヘラしちゃって……前にあんた自分で言ってたでしょ「離れ離れになったダチ公探してんだー」ってさ。それが関係してんじゃないの」
「え?おっさんそんな事言ってたっけ?」
「言ってたよ!ベロンベロンに酔って、帰って来た挙げ句に身の上話してたんだよあんたは」
こりゃもう全て話してしまわないといけない雰囲気のようで、女将は話を聞かせるまで返しちゃくれない腹積もりだ。
「ったく……今から話する事、誰にも言わないでよおばちゃん」
「当たり前だよ。客商売してる以上、客の個人情報漏らす馬鹿が何処にいるってんだい」
「ははっそりゃあ頼もしいこって」
ここから先は半分独り言に近い容量で、自分の軽い生い立ちから何から何まで喋っていった。
生まれ自体は、地元じゃそれなりの名を持つ家柄に生まれたが、ある日戦争に勝つためと言われ、地元の中で若い俺ともう一人の友が抜擢されとある研究機関に入れられた。
その話は今から約25年前だ。人工的に【能力】を発現させる研究機関の被検体として10年以上囚われの身だった。
精神的にも肉体的にも極限の状況下に置かれ、1週間水だけの生活は序の口。時には猛獣と素手で戦わされ、時には昨日まで同じ飯を食っていた隣人と殺し合いをやらされた。
生き残るために、隣人を殺し飯を食っていた。だが仕方のないことだったと、今では割り切れている。
だが問題はその後の事だ、元より才能があったのか、研究の結果なのか『友人』が能力の発現に成功した。
発現自体はしていたのだが、度重なる実験の結果人間性が破綻し、目につく研究員や隣人を殺して回っていった。今までの彼では考えられない、残虐な笑みで本当に楽しそうに。
白かった肌はドス黒く変色し、鮮やかな黒い頭髪は年寄りの様に白く変色し、緑に輝く宝石の様な瞳はもう見る影もなく濁っていた。
俺も例外では無かった、瀕死の重傷を負って死体の山に紛れ、一命は取り留めていたが俺を除く誰一人として生き残っていなかったのだ。
そこからは武者修行ついでに、日銭を依頼で稼ぎ世界各地を転々と回ってきた。
これが俺『デューク・エル・ヴァンパイア』の人生だ。
「………ふぅん」
女将は酒をクイッと飲み干すと、また次の一杯をグラスに注いでいく。
「そりゃ大した話だ。なら尚更あの最強様の力を借りたほうが良いんじゃないのかい」
「……それは……できねぇよ。アイツを変えちまった地獄の日々を知ってるのは、もうおっさんしか居ねぇんだ。……もう誰にも関わらせちゃいけねぇんだよ……おばちゃん」
自分一人でアイツを見つけて始末する、それが俺の選んだ道でありダチ公に対する救いなんだと、俺はずっと信じてるし今も探し続けているんだ。
To Be Continued




