第5-3話 住所不定無職の出所
イーリア国の王城から少し離れたところにある兵士の詰め所、そこではデュークを含めた9名の冒険者たちが、それぞれ個室に入れられ兵士に質問攻めをされていた。
「で……お名前は」
「デューク・エル・ヴァンパイアです」
「職業は」
「一応……冒険者としてギルドに登録してます」
様々な質問をし、素性も何もかもを逐一記録されていく。
「年齢と出身は」
「年が46で、出身は亜人国家です」
「詳しい場所は」
「小さい名前もなかった村ですので……」
此方に質問をしている男の部下は、部屋の隅の机で忙しそうに羽ペンを走らせており、眼の前の自分より年が下か同じくらいの強面兵士が、机を挟んで迎え側に座っている。
「デュークさんさぁ……これがウチの息子みたいな17か18の若い子なら解るよ。でもアンタもいい年じゃん、自分で判断してこの依頼降りようと思わなかったの?」
「はい……でも、事前に荷物を聞かされてなかったので」
「そりゃ違法品を運ぶなんて、自分から言うような奴はいねぇよ。で……身分証は?」
「…………………ないです」
眼の前の兵士は顔に手を当て、大きなため息と共に全身を脱力する。
「それは今持って無いって事?それともそもそも持って無いって事?」
「えーと……今は持ってないっていうかー、作るのを忘れてたっていうかー」
散々言い訳をかましていると、兵士は机を思い切り強く叩きあまりの迫力に身を正してしまう。
「あのねぇ……身分証も無けりゃ渡航履歴もない。かといってアンタの身分を証明出来るような身内も居ないと来たもんだ」
「いやー天涯孤独の身ですんません」
「住所不定の身分証がない不審者ときたもんだ。デュークさん……これの意味わかってる?」
「あっあはは~おじさん想像もつかないな~」
「俺達憲兵からすりゃ、不法入国者にしか見えないの!アンタを別件でブタ箱に入れないといけない事になるの!」
威圧感がすごい顔が鼻息の当たる距離まで迫られ、今にも噛み付いてきそうなこの兵士。ここから出たら絶対に圧迫聴取されたって言いふらしてやる。
その時扉から軽快なノック音がし、一人の若い兵士が入ってくる。
「ネイスン隊長……その、この男の身元引受人という人物が……」
耳打ち気味に眼の前の男へコソコソと話すと、頭を抱えたネイスンは入って貰うよう伝え、若い兵士は扉を礼儀正しく開き、頭を重く下げている。
「よっ!」
「アカイワさん……驚かせんで下さい……」
「いやぁ悪いねネイスンさん、あれこの間会った時より痩せた?」
「痩せましたよ。この間の事後処理や道の舗装なんかでね」
彼はネイスンと雑談を交わすと、押収されていた剣を此方に放り投げた。
「デュークさん、アンタに話がある」
「おっさん難しい話は無理よ?」
取り敢えずこの場所からおさらば出来るならと、彼に付いていくと出た所に、一緒に連行された冒険者達がいたのだ。
やっぱり自分が一番遅いので、皆からは何かあったのか散々聞かれたけれども、不法入国扱いされ危うくブタ箱に入る所だったとは言えない。
「あれってさ……」
「やっべ本人だよ、俺サイン貰っちゃおかな」
ジュンに気付きヒソヒソと会話をしだす彼らは、目の前に生きる伝説が居ることに浮足立っているのだ。
「デュークさん、ちょっとここじゃ何だから、あそこの空き地に行こうぜ。皆には悪いけどちょっと二人にしてくんない?」
ヘラヘラと笑い彼は俺を連れて、更地の空き地にただまっすぐ進んでいく。……こういう時は、嫌な予感がするんだよなぁ。
空き地に到着し中央で彼は立ち止まると、急に振り返り拳を打ち込んできたのだ。
あまりにも突然で攻撃の予兆すら無い一撃、それを居合刀で間一髪防御したがこの瞬間に俺は『こいつには勝てない』『おっさんの嫌な予感はよく当たる』と、一人自分を呪うように考えていた。
驚いたのは此方を狙った攻撃が、本当は拳ではなく人差し指たった一本。その指から伝わる力は怪力自慢の大男ですら凌駕ているし、過去に戦ったことのある大型獣の一撃にも匹敵する。
「おおぉ~コレ防いじゃうか!」
彼は本当に子供の様に喜んでおり、指を引くと此方に称賛の拍手をしてきた。
「いっいやぁ~おっさんびっくりしたよ。チビるかと思った」
「ごめんごめん。仁君とギリアムからの報告聞いてさ、あの化物相手に無傷の勝利、それも居合刀の鋭い刃で切ったのではなく、鞘を付けたまま殴り倒した。あんた面白すぎる!」
彼の喋る勢いは全く衰えず、むしろ勢いを増し此方が喋る暇を与えない。
「デューク・エル・ヴァンパイア、ウチの情報網を使っても20年以上前の事は全く不明、世界各国をフラフラと不定期に渡り歩き、拠点を持たない。謎が多いうえにこの強さ、ぶっちゃけ気に入った!」
「あ~そりゃどうも……で、おっさんに何の用で?まさかあの最強様が、こんなか弱く老い先短いおっさん相手に喧嘩する為だけに、身元引受けした訳じゃないでしょ?」
「自分でか弱く老い先短いっていうか?単刀直入に言うと、ウチに欲しい人材だアンタは」
突然のスカウトは建物の影で見ていた、冒険者の皆も口が開いたまま閉まらず、ただただ驚いている。
「ん~……悪いジュンちゃん、俺さ一箇所に留まれねぇ性格なんだよ。フラフラ西から東へ、明日吹く風はどっちかなってさ」
自分の意見を彼に伝えると、今までの彼の印象的に「駄目だ!絶対欲しい!」なんて言うのかと思っていたが、彼が言葉を放つ前に冒険者達から落ちていた石を投げつけられた。
「ちょ!ちょっと!痛い痛い!おっさん虐待反対!」
「こんのバカタレ!何でこんな美味しい話断るんだよ!」
「そうだそうだ!もし雇えてもらえたら、一生左団扇だぞ!」
段々と皆の怒りは高まっていくが、飛んでくる小石一つをジュンは受け止め、異常な握力により砂粒へと変えてしまう。
「別にいいんだおっさん、無理強いして入れるつもりは無い。でもこれを使うのは卑怯かもしれんが」
間を置き此方に向き直ると、彼はかなり真剣な表情で声色も先程は全く違う。
「俺はアンタの探している人物を、手伝えるだけの財力と人脈はある。だが俺は来るべき日に向けて、一人でも多くの戦力が欲しい。情報と交換でアンタの力を貸してほしい」
何故この男は俺の情報を持っている、それが気がかりで仕方ないが、実際俺も人を探してるのは確かだ。
一体どうするべき……なのかなぁ……
To Be Continued




