第5-2話 密着冒険者24時!免罪逮捕?
あれからリューコちゃんには話してもらえなくなったが、ジュンとジン君とは話せる中にはなりつつ合った。
「へぇ~、ってことはジュンちゃんはこっちに来てから、スグに結婚したんだ」
「まぁ~ね。俺もあそこまでトントン拍子で進むとは、思ってなかったんだけどね」
会話していると、引き立ての豆の香り匂わせるコーヒーが出され、口に含む前に匂いを嗅ぎ鼻を楽しませ、黒くも透き通っており納得のいく出来だ。
一口含むと硬水で入れたのか、苦味が口いっぱいに広がりコーヒーの旨さを楽しませてくれる。ティーカップも白を基調にしており、取っ手などに小さくあしらわれた金装飾が可愛らしく、これも目を楽しませてくれる。
「おぉ美味い。マスターおっさんここ気に入ったわ!明日からここに通おっと」
「ははは、ありがとうございます」
手際よく料理を用意するマスターと言葉をかわし、続きを飲んでいると時間がやってきた。そろそろ出発しないと、依頼人との待ち合わせに遅れる。
「いやぁ~あの子可愛かったな。ポヨンポヨンしてるあのおっぱい、一度は揉んでみたいもんだ。それに気が強いのもまた可愛らしい」
道を歩きながらも、店で出会ったリューコの事を思い出し、朝から幸福だったことを実感し意気揚々と現場に向かう。
到着するとそこには依頼人である小太りの行商人と、ギルドから同じ依頼を受けた数名の冒険者が待っていた。
「おっデュークだ」
顔見知りも何人か居るようで、今日の陣形を考え段取りを組んでいく。
「……ってことで、シギ・ヨシヤ・レコの3人は馬車の前、俺とデュークは馬車の後方、両サイドは二人一組で警戒に当たる。いいな?」
全員が良い返事を返したが、俺はこの作戦に少し違和感を感じた。護衛任務は基本的に4人から5人一組で行われる、だが今回はその倍に近い人数。
そこまでの人数を使うような大型馬車でも無ければ、この男はただの一般行商人だ。この人数を雇い売りに出たとして、普通のレートで売るなら確実に『赤』が出る。
「こりゃ……やばい仕事かもねぇ」
「デュークなんか言ったか?」
「いんや~なんでも無いよ~」
「ならとっとと配置に付け、出発だ」
自分たちが護衛する積荷が一体何かと、やはり気になるが突き詰めた所で碌なことにならないと悟ったので、適当に茶を濁し決められた担当ポジションに付き馬車に配置する。
馬車が動き出すと、冒険者達とデュークは決められた隊列を守り、門をくぐり抜け平原へと出ていく。
門を出てからしばらく行くと、地面は盛り上がったりや、道がえぐれていたりする部分がちらほら見える。
「にしてもこの辺、こんな道荒れてたっけ?」
「おいおいデューク……2週間くらい前に、ここで赤岩探偵事務所のメンツが大暴れしてたって話、知らねぇのか?」
「あー……多分その日、俺酔って寝てたし、喋るって言っても宿屋のおばちゃんか、ギルドのおねぇちゃんくらいだかんね~」
デュークと一緒に後方を守っている、一人の中年の男は呆れたようにため息をつき、風俗情報ばかりじゃなく世の中の動きに関してももっと知れと説教を垂れていた。
しばらく歩くと前方から、全身おびただしい量の血を出し、傷まみれの男が立っていた。
全員様子がおかしいと警戒し、それぞれ剣を抜き、いつでも魔術が使える様に準備をする。
突然怪我まみれの男は常人離れした筋力で、獲物を見つけた獣の様に此方へ向かってきた。視線は何処を見ているかわからず、不気味な上に信じられないほどの怪力は、噂に聞く魔人だとみんな口を揃えて言った。
魔術師の少女『レコ』は前衛二人がなぎ飛ばされ、組み敷かれるように伸し掛かられ、血と腐臭を漂わせる口が接近する。
他の冒険者は助けに行くものはおらず、腕自慢の二人『シギ』『ヨシヤ』が一瞬で倒され、完全に怯えきっている。
腐ったヘドロの様な唾液が垂れ、鋭い犬歯が首筋の柔肌目掛け徐々に降りていく。
噛みつかれる寸前の所でデュークが援護に入り、男が噛み付いたのは牡丹の花があしらわれ黒ツヤが美しい、デュークの居合刀の鞘だ。
「こんなか弱い乙女に乱暴はいただけねぇな、どれおっさんが紳士の嗜みっての、教えてやろう」
どれだけ軽く見積もっても男の体は60kg以上は有り、鞘を咥えながら暴れているのに、デュークは簡単に持ち上げ後頭部を叩きつける様に振り下ろした。
勢いで男の下顎の骨は砕ける、立ち上がった所男の右足を踏みつけ鳩尾に突きを打ち込む。
抜刀はしておらず、ただ殴りつける形だがそれでも常人とは比較にならない強さ。
しばらく一方的な攻撃が続き、男も立ち上がれない程になった頃、後方から腹の底を叩く轟音と土煙を上げながら走行する、二つの車輪で動いている妙な馬のような乗り物が近づいてくる。
その乗り物から二人の男が降りてくると、見慣れない鉄仮面を外し此方へ振り向いてく。
「ギリアムさん、あれが今回通報のあった馬車です」
「……うぷ……わかった、だがヘタレ……もう少し揺れない様に運転は出来んのか……」
「すみません……精一杯気をつけたんですけど」
その二人組はなんと、早朝に喫茶店で知り合った『ジン』と『ギリアム』だったのだ。
通報があったというのは初耳だが、商人の様子からするとなにやらヤバイ仕事をさせられていたという事には間違いないのだろう。
「あっデュークさんじゃないですか!」
「おぉ~やっほージン君」
爽やかな笑顔で応対したが、やはり彼には刺激が強すぎたか。ほとんど肉塊と変わらない男が、足元でくたばっているのだから。表情は強張り、無言で足元の男をジッと見つめている。
「デュークさん!危ない!」
その瞬間、彼の腰に装着されていた未知の鉄塊が激しい音と光を放った。足元でくたばったハズの男が、起き上がり此方に噛み付こうとしていた所、ジン君はとっさに攻撃したという訳だ。
魔術か魔道具かは不明だが、彼の一撃がこめかみを打ち抜きこの男を仕留めていた。
「ギリアムさん……この人間違いなく、あの時の」
「報告書で一通り読んだが、ここまで魔人に近いとはな」
二人は仕留めた男の佇まいを正すと、亡骸の前でゆっくり目を閉じ手を合わせていた。
「ギリアムさん……やっぱりこういうの悲しいですね」
「……無駄口は叩くな。悲しかろうが、辛かろうが、これは俺達の仕事だ。泣きごと言ってんじゃねぇ」
一分ほど瞑想を彼らはすると、ゆっくりと立ち上がり馬車の方へ歩みだす。
「すみません少し荷物の確認を……」
ジン君がそう言うと、馬車の運転をしていた商人は絶叫しながら、平原を猛スピードで馬を走らせていく。
「追うぞヘタレ!あの反応は間違いなく、何か隠し持ってやがる!」
「はい!」
二人は乗ってきた乗り物に乗り込むと、馬以上のスピードで走り去っていった。
此方も事態の行方が分からず終いでは、ギルドに報告出来ない所か、始末書を書かなくてはいけなくなるので、皆の話し合った結果俺が様子を見に行くことになった。
しばらくすると停車している馬車と、木に拘束された商人に尋問しているギリアム、馬を撫で落ち着かせているジン君が目に入った。
「逃げてんじゃねぇ……手間かけさせやがって……」
随分と調子が悪そうな彼は、普段の数倍も人相が悪く商人をより怯えさせていた。
「おいヘタレ、馬が落ち着いたならとっとと荷物調べろ」
此方も様子を見ていると、ジン君が何やら小さなズタ袋を持ち馬車から降りてくる。それをギリアムと一緒に確認し、二人は此方から見ていても解るほど激昂していた。
穏やかそうで怒った表情など、全く想像も出来なかったジン君ですら商人を睨みつけているではないか。
「この【爆裂結晶】って確か輸出規制品ですよね。しかもこんな量」
「おいこらおっさん、取扱免許は持ってんのか?持ってねぇよな、こんな危ねぇもんを袋に入れて運ぶなんてよ」
【爆裂結晶】
結晶内に火の魔力を溜め、砕かれたと同時に半径数十mを吹き飛ばす結晶。戦時中は単体で武器として扱われていたが、今現在は魔道機関の中枢疑似魔核として、主にエネルギー関連で人々の生活に恩恵を与えている。
だが危険な代物のために国で定められた基準を越え、公的な証明書【危険物取扱免許】を所持している者でしか『使用・運搬・破棄・販売』が出来ないのだ。
こんな危険な物を無免許で扱うのはもちろん、二人の話を聞いているとこれは鍛冶師の工場から盗んできた物らしく、一昨日から警戒網を敷いていたとの事だ。
憲兵隊だけでは手が回らず、赤岩探偵事務所のメンツにも協力要請があったそうな。
「(えぇぇぇぇぇ……俺達知らずにそんな物を運ばされてたのかよ)」
もちろん道中で事故などあれば、冒険者達や自分も含めた辺り一帯が焼け野原になっていたのだ。
さらに今の時代は、この結晶自体が不足気味であり、どの国でも輸出・輸入の規制がかかっていたとの事。
「ヘタレ犯人確保の合図弾撃て。その袋はお前がキチッと管理して、後で憲兵の専門部隊に渡せ」
そう言った彼は、チンピラの恫喝まがいの罵詈雑言で商人を問い詰め、ジン君は言われた指示通り空に向かって先程の鉄塊を使い、空に光弾を浮かび上がらせた。
「…………って事を見てきた」
「マジかよ……」
他の冒険者達が居るポイントへ戻り、見てきた全ての事を皆に伝える。そうしたら皆かなり落ち込み、会話もなくため息しか出ない。
「今夜も食いっぱぐれかぁ」
「どうしよ……デート代が……」
かくいう自分もこの高額な依頼に期待し、溜まっていた宿賃に当てるつもりだったので、肩を落とすしかないのは事実。
「あーもしもし、君達は運搬警護を任されていたギルド所属冒険者達で間違いないかね」
イーリア国の紋章が入った鎧と武器を構えた、十数名の騎士たちに囲まれ間違いが無い事を伝えた。
「じゃあすまないね、ちょっと詰め所まで良いかな」
え?今この人なんて?
そう言われ皆意味も不明なまま、彼らが乗ってきた馬車へ詰められていく。
「俺は無実だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!逮捕はヤダァァァァァァァァァァ!!!!」
馬車の鉄格子からは、デュークの悲痛な叫びが草原にこだまする。
To Be Continued




