第4-39話 男にはプライドが、命よりも大切な時がある
前話は「第4-19話 揺り籠の中の、断頭台」を参照
亜人国家の外れに有る、名工ヨーデル家周辺で、ギリアムは戦闘となり意識を失っていた。
彼に治療をし、献身的に支えていたのはユキという少女だ。彼の看病が終わり、自分も床につこうと、ベットに入ったある日の夜、突発的な地震が起こり、家全体が揺れた。
すぐさま彼女はギリアムの元へ駆けつけ、異常が見当たらない事を確認すると、ユキの背後から本や雑貨類が入っている、大きな棚が此方に向かい倒れてきたのだ。
棚の下敷きになる、そう思っていたユキが開いた瞳には、太い一本の腕が棚を支え、倒れ込むのを阻止しているのが写っていた。
「ギリ……アム……さん?」
「ヨーデルの娘か、俺はいったいどれ位寝てたんだ」
「一週間……位でしょうか?」
そう聞いたギリアムは、棚を押し返し元の位置に戻すと、自分の傷の具合を確認し、敗北した事を再確認する。
「あの男は何処に行ったか解るか。依頼の範疇を超えているが、負けっぱなしは腹が立つ」
そういったギリアムに、ベルードの残した言葉を伝え、自分が今置かれている状況に気づく。
抱きかかえられ、危機的状況を助けてもらったという、絵本で読んだお姫様のような状態に。
片付けを済ませ、リビングの椅子に腰掛けるギリアムは、彼女にこの辺の地図を借り、茶を啜っている。
「……マシには……なったか?」
「え……えっと……何故疑問形……なのでしょう?」
確かに数日練習していたのか、最初よりも飲める段階にはなっているが、美味くもなく不味くもない本当に微妙なのだ。
「おい、この辺の地形はどうなってんだ?」
「えーと……昔に採掘現場として、鉱石や宝石など色々出てきたんですが、落盤事故で陥没の有る場所や、急な傾斜で今じゃほとんど使われない道です」
情報をしっかりと自前のメモに記入し、他の箇所なども同様に聞いては書き込んでいく。
「なるほど、大体わかった」
「でも……どうして突然、地形の事なんか?」
ユキのその言葉を聞き、返事をする前にタバコに火を付け、一服を始めるギリアム。
「アイツの居場所を割り出すためだ」
彼はココだと言う代わりに、洞窟を一つ指し示しトントンとノックをする。
「でも……こんな所、野生の動物すら居ませんよ?」
「何故かと言うと、1つ目は邪魔が入らない為、2つ目はこの洞窟の場所からすりゃ、守るにはうってつけだ。俺が籠城するなら、攻め込まれにくく、敵の存在にいち早く気付けるこの洞窟を使う」
そういった彼は、シャツとコートを服掛けから取り、出発の用意を淡々と済ませていく。
「ギリアムさん……何処に……行かれるんですか?」
「……あの野郎をシバキに行く」
扉に向け足を運ぼうとすると、目の前にユキが立ちはだかる。
「行ったら……駄目……です」
無言のまま彼女を見つめ、小さな口で繋がれる言葉を待つギリアム。立ちはだかる彼女の方は、生まれたての子鹿の様に震え、何かにおびえるようだ。
「だって行っちゃったら……ギリアムさんが……死んじゃうと思うから」
「お前は俺が負けると思ってんだな」
「えっと……上手く言えないんですけど……」
今にも泣き出しそうな彼女は、床を見つめながら、丈の短い着物の裾を掴み言葉を模索する。
「(はぁ……赤岩を、参考にするってのは癪だな……)」
ギリアムは、泣きじゃくり駄々をこねるアスタをなだめ、いつも同じ様に頭を撫でている順の姿を思い出し、ユキの頭に手を乗せ、髪をかき乱すように、左右へ不器用に動かしていく。
「男にはな、命よりもプライドが大事な時が有るんだよ。俺はな誰が相手でも、負けっぱなしってのはプライドが許さねぇ。それとお前の答えを俺は聞いてねぇ、答えを赤岩の奴に伝えるまでは、死ね無ぇんだよ」
ユキの頭から手を離し、入れ替わるように扉の方へ歩き、ドアノブに手を掛けた。
「ギリアムさん……ユキ、考えたんです。ユキはギリアムさんに付いて行って、最強様のお力になりたい……です」
「そうか……なら、これ以上の無駄な残業にならねぇよう、とっとと片付けてくる。これ以上もたついてると、旅費やらなんやら、経費で落ちなくなるからな」
開かれた扉からは、夕日が部屋に強く入り、ギリアムの姿を隠していく。
傷が完全には癒えていないギリアム、向かうは敵の本拠地。




