第4-38話 激突戦
肋骨の痛みを堪えながら、立ち上がった仁は庄司の悍ましい気配に気後れする事無く、ジキルとハイドを構え突進する。
振り下ろした一撃を受け止めると、刃の部分から急に魔力の飛沫が飛び散る。仁の刃に纏っている光の魔力は、チェーンソーの様に回転する庄司の魔力により、どんどん削られもろくなっている。
「大口叩いてた割に、大したことねぇなぁ!どうした正義のヒーローさんよぉ!」
庄司は自身が完全に、優位に立っていると思い力を上から更に掛けるが、仁はこれを利用し左へ力をいなし体を回転させる。
背筋のバネを活かした肘打ちは、庄司の左頬に打ち込まれた。砕けた頬骨が眼球を潰し、庄司を怯ませる。
「ってぇなぁ……テメェこの糞がぁぁ!!!」
怯んだ庄司の目に写ったのは、両腕が眩しく発光し突進する仁。飛びついた仁は、庄司の首をラリアットで捉えるが、あまりの体格差に庄司はグラつくだけだ。
勢いを付けたまま仁は、回転し腕を入れ替え、遠心力を借りた一撃【スリングブレイド】。
後頭部から激突した庄司の上に乗り、口に銃口を向けトリガーに指をかけるが、背中に鋭いケリが叩き込まれた。
まさに二頭の獣の様に、互いの武器の事など忘れ、ただ純粋に殴り合う両者。
手を組み有って、蹴りの打ち合いや突きが繰り広げられ、互いに一歩も下がらず負けない。
「君はいっつもそうだ!他人を蹴落とし!玩具にして!お前は人の命を何だと思ってるんだ!」
「んなことお前の知った事っちゃねぇ!死ね!このカスが!テメェは肉を食う時に牛や豚の為に泣くってのか!あははははは!」
この時二人の決戦場に、ミアとカシオが到着する。二人が目にしたものは、人間の戦いを逸脱した獣同士の戦いだ。
「ミア……あれが本当に……ジンちゃんなの?」
「えぇ。ジュンさん風に言う所の「ブチ切れた」という事かと」
初めて本気で怒る仁と、人を痛ぶり殺す事に快感を覚える庄司。
二人が彼らを観察していると、空から順が飛んでくる。
「よっミア。それにカシオさん」
「アタシゃついでかい」
三人は彼らの殴り合いを、鳴り止まない衝撃波の中、見守り続けている。
「二人に頼みが有る、どうか仁君が死ぬ結末になっても、止めに入らないでくれ」
カシオとミアは、頷きそれに賛同する。彼らも仁の命は守りたい、だが仁の初めて己の信念を表に出した戦いだ。
「俺はな……あの子を一人前の男にしてやりたいんだ。だから最後まで見届けてやってくれ」
雄叫びと衝撃が交差する、庄司の腹部を狙った蹴りは、仁がしっかりと受け止め静止させる。
「取った!」
見守りながらも、順は仁の成長に喜びを隠せず、声を張り上げてしまう。
だが庄司は、掴まれた足を軸に、上体を起こし仁の側頭葉に蹴りを叩き込む。
「アレは!延髄蹴り!」
一瞬ふらつく仁だが、即座に体を回転させてからのドラゴン・スクリュー、これには順も驚かされた。
完全に自分の予想を、遥かに上回る成長をしていたのだ。
「良いぞ仁君!そのまま決めちまえ!」
掴んだ足を離さず、仁はもう片方の足を掴み、庄司の腰に向け勢いよく座り込んだ。
「おぉアレは逆エビ固め!」
圧迫される胸部、軋む腰骨、ひび割れる背骨。だが仁は更に力を込め、思いっきり仰け反った!
残虐と思われるが、右足を膝から引きちぎり、左足も靭帯を完全に潰した。
「(何故だこの俺が!この俺が仁なんかに!俺は絶対にアイツより優れているはず!なのに何故!)」
自分より劣っていると、そう思っていた相手にここまで追い込まれた。
その事実が、何よりも許せなかった。
「庄司……君の負けだ……」
ホルスターに仕舞っていたジキルを取り、庄司の後頭部に向け構える。
「……ふふっ……アハハハハハハ!!!!じぃぃぃぃん!やっぱテメェは甘ちゃんだ!カッコつけず俺を殺しゃいいのによぉっ!」
引きちぎった足から、血液で作り出された槍が、背後から仁の心臓を狙い突進する。
背面を一切見ず、仁は拳でその槍を粉砕した。
「甘いのは君だよ……、君の行動なんかは全てお見通しだ。小悪党が最後にする行動は、決まってるんだよ……」
庄司はこの時、無意識の内で仁に負けた事を悟り、心の中の何かが折れた。
トリガーを引き、魔弾は発射され庄司に留めを刺した。
誰もがそう思っていた、順でさえ完全に決まったと思っていたのだ。
だが弾は暗黒の空間を通過し、仁の左肩を撃ち抜いた。
「…ッ!」
暗黒が広がる時、それは敵の将『ロザミア』が来る時だ。
「うふふ、やはり魔王様の下に居るだけはあります。今回は素直に称賛を送りましょうか」
気味の悪い薄ら笑い、放たれるオーラは庄司の比にならない絶望感。
「やっぱ来やがったか!」
それを見た順はミア達の下から飛び出し、仁の隣へ一瞬で駆けつけた。
「あら魔王様、ごきげんよう」
「ロザミア……」
仁を庇う様に、彼を自分の背後に隠し、ロザミアを睨みつける。だが、順も攻撃を仕掛けない。
彼女が出てきたということは、何か思惑や算段が必ずある時、庄司なんかとは比べ物にならない程思慮深い。
それを知っているから、順も仕掛けはしないのだ。
「ふふふ魔王様、そんな怖い顔をしないで下さい。今夜は貴方と戦うつもりはありません、この役立たずを回収しに来ただけですので」
そう言いながら、彼女は不気味に独り言を吐く庄司を闇へ送る。
「じぃぃぃぃぃぃん!覚悟しとけ!ギリアムより先にテメェをぶっ殺してやる!!!必ずぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
闇に飲み込まれる寸前、庄司は正気を取り戻し、いつものように暴言を吐き闇に消えていった。
「あらあら、負け犬の遠吠えらしく、うるさい事」
本当に面白い物を見たかのように、彼女は笑い庄司を蔑む。
「待って……下さい……」
重症の仁は、肩を抑えながら消えようとするロザミアに声を掛け、不愉快そうにも彼女は足を止めた。
「なんで……庄司君に……一般人を襲うよう仕向けたんですか……他の人達は関係ないでしょ!!!」
「はぁ……、いいわ答えましょう。今回一般人を襲ったのは、ショージの独断行動。ですが私はそれを罰するつもりも、称賛するつもりもありません」
ただただ冷たく言い放つ彼女は、仁の方に振り向き、しっかりと目を合わせた。
「……ジン、とか言いましたね。無力なままで居れば、最後の時に楽に逝けたのに。自分から死地に来るなんて本当に愚かですね」
そう言った彼女は、手をヒラヒラと振り二人の前から姿を消す。
激突戦 勝者 オカノジン
To Be Continued




