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異世界の語り部~僕は主人公じゃない  作者: 時雨
第4章 裏切り者をぶっ飛ばせ! 編
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第4-37話 撤退戦

~~~約束の平原・撤退戦~~~


 戦闘不能となったアスタと、重症のデレクの前に現れた戦士『全体指揮長 ガルム』、三年前のロザミアとの戦いに参戦し、直接戦闘は無いにしろ生き残った一人。

「魔人との戦闘は初めてだが、何とかなるだろ」

 彼の快活な笑い声は、決して相手を軽視したものでは無いが、負けるつもりは毛頭ないという彼の精神の現れだ。

「…全く何故こうも邪魔ばかり…」

 おびただしい血液の波動は、目の前のマリードからも十分に伝わり、魔人ですら無い人智を超えた何かと言うのは明白。


 一匹の狼と一体の化物は互いににらみ合い、互いの呼吸を読み合う。


 先に動いたのはガルムだ、地面から突き出された血の針はガルムに叩き折られ、隙間を縫う様に接近する。

「魔人って皆こんな力を持ってんのか?…こりゃジュン達も大変だ」

 軽口を叩きながらも、短剣を無限に作り出すマリードと、ガルムは『ただの獣人』でありながらも互角に戦っている。


 ジュンの様に何者も寄せ付けない強さを持っている訳でもなく、ギリアムの様に才能に恵まれた天才でもなければ、いつもその逞しい2本の脚と、挫けることのない鋼の魂でたち続けてきた男。

 それがガルムの生き方なのだ、体の到る所に傷を作り、片目を失い、だがその心は折れず、その膝を地面に付けた事はない。

「何故…何故だガルム!裏切り者の俺を守る!」


 肋骨を折り、体が言うことを聞かないデレクは、地面を芋虫の様に這いずりながら、声を張り上げガルムに問う。

「約束だからさ…、俺は国王様とジュンと約束した!この腕がもげようと、この足が折れようと、この牙が欠けようと、イーリアに住む国民ダチを守るって!」

 ガルムが親指をグッと上げ、爽やかな笑顔を見せる。

「…ははっ…俺が勝てない訳だ…なんで俺は嫉妬なんか…俺はなんで…皆を裏切った…なんでっ!!!」


 地面を叩き、嗚咽を漏らし、自分が裏切り捨ててきたモノを振り返り、涙を流した。

「それに…ジュンも言ってたぜ、人が悪の道に走るのはそれなりの理由がある、罪を認めさせ改心するチャンスを与える。それが人情ってもんだってな」

 一歩的な攻撃を浴びているにもかかわらず、ガルムは笑顔を絶やさない。

「ガルムさん、貴方にはガッカリだ。先生が倒すべき相手と言ってたのに、これじゃ拍子抜けだ」

 鋭い蹴りはガルムの巨体を軽々と吹き飛ばし、デレクの方向まで吹き飛ばす。


「うっ…ぐぅ…なんで、俺の攻撃が当たらねぇんだチキショウ」

 蹴られた鳩尾ちを庇い、暇そうに此方を見るマリードをにらみつける。

「ショージ様の方も、この衝撃の感じだとそろそろ終わりでしょうか。」

 ニタリ顔のマリードは、空気を伝わる衝撃の発信源を見つめ、ただ主の勝利を確信していた。


「ガルム……まだ立てるか……」

「あぁ……すまねぇ」

 デレクは深呼吸をし、肩を貸している戦士に耳打ちをする。


「よく聞け……アイツは未来を見ることが出来る」

「ハァッ?!……ったく厄介な能力だな」

「でもその未来視も、万能という訳でもない。絶大な効果を発動するのは相手が一人の時だけだ」

「でも今ここに戦えるのは……」

 ガルムよりも重症のデレクは微笑み、手から落としていた白銀の大剣を拾い上げ、マントをなびかせる。


「……教え子が間違った道に行けば、それを正してやるのが教師の努めだろ。ガルム……俺が身綺麗に罪を償える手助け……してくれるか?」

「…………死ぬなよ」

 二人一斉に斬りかかるも、マリードは二人の斬撃を軽く受け止めた。


「マリード!お前はやはり反応速度は一品物だ。だが!その過敏すぎる反応速度が、仇になると知れ!」

 デレクは地面を蹴り上げ、血で湿った泥をマリードは後ろに飛び回避するが。すかさずガルムは刺突での追撃。

 一人を集中して観測出来なかったマリード、頬をかすめ槍先に血が付着する。

 その数滴分の血液を見逃さず、小さな針をガルムに向け発射。だがここで懐に入れていたデレクが迫る、斬撃と蹴りの入り乱れる乱撃。


 少しでも回避を疎かにすればデレクから、だがデレク一人に目を取られれば針如きで怯む事のないガルム。

「何故!!!何故!!!アンタ達は諦めない、とっとと死ねば楽なものを、何故抗う!」


「俺は間違いに気付いた。……ホントどうしようもない男だ、ガルムに糞の役にも立たん感情を抱き、狂っていた……」

 大剣をくるりと回し斬撃ではない、柄でマリードのこめかみを殴りぬいた。

「お前が先生と呼ぶ価値もない男だ。後悔しか無いんだよ!マリードお前があの化物に忠誠を誓う理由はわからん!」

 体を一回転させ大剣がマリードの腕を切り飛ばす、噴水の様に血を吹き出し、痛みに悶えるマリード。

「だが教え子のケツを拭くのも、自分のケツを拭くのも俺の役目なんだ!」

 痛みで冷静な判断を失ったマリードは、後方から来るガルムのハイキック、前方からデレクの上段回し蹴り。完全に頭部を狙った同時攻撃に挟まれ、絞ったトマトのように頭を変形させた。


 魔力を殆ど使い切ったデレク、槍を倒れたマリードに向けたままデレクに寄るガルム。

 傷口がブクブクと泡を吹き、再生を開始しているマリード。薄れていた意識が覚醒する時、デレクとの日々や、自分と似た境遇の皆との、楽しかった日々を思い出していた。

「(あぁ……なんで……忘れていたんだろう)」

 そして血を入れ替えられ、庄司が自分の忠義を尽くすべき王と錯覚した事、恩師を手に掛けようとした事。

 全てが交差し、意識が完全に覚醒した。


「うっそだろ、まだ立ち上がんのかよ。魔人……ってのは、本当にタフだな勝てるのかコレ」

 ガルムの目は、体の傷が回復しつつ有るマリードが写った。マリードは立ち上がると、自身の左目を刳り、地面に投げ捨てた。

「先生……はもう動けないみたいですね。……ガルムさん、未来視はもうありません……決着……行きましょうか」

 そして彼は、血で作り上げた武器を捨て拳を構えた、それに合わせるようガルムも槍を投げ捨てた。


「ガ……ルム……俺は……まだ」

「お前は休んでろ、魔力切れで死なれちゃお前を牢屋にぶち込めねえからな」


 デレク戦闘不能。


 そこから幕開けたのは、あまりにも一方的な攻防だ。

 武器がない状態で、ガルムとマリードの差は歴然。未来視も無ければ、武道での技量もない彼。

 顔に飛び膝蹴りを叩き込まれ、魔人としての筋力を活かした一撃はいなされ、剛力で持ち上げられ後頭部を地面に叩きつけられる。

 魔人とはいえ見た目は子供、魔人とはいえ自分よりも格段に弱い相手、魔人といはいえ……涙ながら自殺志願をするかの如く突進を繰り返すマリード。

 ガルムも心が痛んでいるが、戦士として向かってくる相手を無下には出来ない。ガルムも彼に全身全霊で、一撃一撃をマリードに叩き込む。

「ガルム……さん……、あと……1回です」

「一回?」

「あと一回僕を殺してくれたら……僕は死ねる……」


 幸福そうな顔で、恩師を見つめ自分の死期を悟った少年は、目の前のガルムに言葉を綴る。

「先生……貴方との7年間……本当にお世話になりました。………ありがとう」

「…………」

「ガルムさん………、先生は真面目すぎて融通が効かない。……どうか……どうか今度は間違った道に行かないよう……手伝って上げて下さい」

 血みどろのマリードは、ガルムが首に掛ける両手に抗わず、キレイに笑いガルムに身を委ねる。

「ガルムさん……ショージを……倒して……集落の皆の敵を…」

「あぁ……」



 ゴキッ



 傷付き血溜まりが溢れ、静かな平原にはマリードの首が折れた、鈍い音のみがこだまする。

 完全に生命活動が停止し、ショージの支配下から離れた遺体は灰となり、風がそれを空に撒く。



 血液魔人・マリード 死亡


 撤退戦はガルムとデレク、退路を稼ぐ為にその身を粉にしたアスタ、以上3名生存で膜を閉じた。


 残るは目的が不明の庄司、ただ一人だが仁は、勝利を収める事が出来るのか。



To Be Continued

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