第4-35話 激突戦・防衛戦・撤退戦 開始
庄司へ二人がかりで来いと言った仁、それは決して庄司を軽視した発言ではない、庄司の高くそびえ立つプライドを根本から叩き折る為。
実際強化されているマリードであれ、今の仁とは歴然の差が生まれている、人の営みに影を落とす庄司の凶行に激怒した彼の心は、蒸気機関車を動かす豪火のように燃え盛っている。
「一号…てめぇはもういい。逃げたやつの追跡でもしてろぉっ!…こいつは俺が一対一で殺す」
二人の血の波動と光の波動は、大気を揺るがし、大地を騒がせ、遠く離れた海をも波立たせた。
~~~城下町・城門前~~~
ここに居たミア・リューコ・ルナ・カシオでさえ、遠く離れた二人の激突の衝動を感じ取れた。
「なっ何…この振動!」
「恐らく…誰かが戦ってる。ジュンちゃんに及ばないにしろ、あたしやギルに匹敵する戦闘力の持ち主達、それも互いの実力は均衡」
リューコの問いにカシオは武術家の勘として、遠くを見据えながらじっくりと答える。
「師匠、私達も出ますか?ジュンさんの勘だと、今回の戦いはかなり面白い事になるらしいですし」
ジュンの言葉を伝えたミアは、カシオに判断を仰ぐように佇み、彼と同じ方角をしっかりと見据えている。
「…そうね。でもその前に、あの化物の集団を何とかするのが先じゃないかしら?」
二人の見据えていた方向、それは血を吸う怪物が此方に行進しているというもの、目的は不明だが普通ではない。
「はいはいはーい!大勢相手ならルナとリューコ姉さんにお任せッス!」
片手を挙手しぴょんぴょんと飛び跳ね、カシオに主張するルナはリューコを巻き込み、名乗りを上げた。
「あら頼もしいわね、ならお願いしちゃおうかしら」
「はぁ…まぁ私もたまには派手にぶっ放して、溜まったストレスを解消しないとだしね!」
ルナとリューコは、カシオとミアに衝撃の中心、そう仁と庄司の激突している場所へ迎えるよう、親指を立て彼らを送り出す。
ルナ&リューコ VS 怪物の軍団 防衛戦開始
~~~約束の平原・中間地点~~~
デレク&アスタは何度と無く、この怪物達を撃破しているが、彼らは倒される度に立ち上がり傷も修復していく。
「はぁ…はぁ…、立ち上がらないで…よ…」
「…こいつら…不死身か…」
二人は敵の中心で、互いに背中を預け奮闘しているも、不死身の化物相手に退路も塞がれ、体力も魔力も消耗する一方だ。
「おっちゃん!この間みたいに、魔力をバーって出来ないの?」
「無理だ!魔封具はあの化物に奪われたからな…、それに私自身…この腕の止血に魔力を回している、これ以上魔力を消費するのは…」
互いに満身創痍、隻腕の騎士に一人の少女、互いに強いと言っても持久戦に持ち込まれれば、勝ち目は皆無に等しい。
「…おっちゃん!アスタ…これから全力で走るから…その間におっちゃんだけでも…逃げて」
頬を自分で叩き覚悟を決めた、アスタは仁との約束で有る『デレクを逃がす』、その約束を守るために彼女は、初めて『本気で走る』。
デレクがそれを拒否する寸前、彼女の周りの時間は止まった。正確に言うのであれば、時間は非常に緩やかに動き、音も光も彼女には追いつけない。
彼女の走り抜ける風圧、ダガーによる斬撃は、周囲を取り囲んでいた怪物を一瞬の内に一掃し、空からは怪物達の肉塊が降り注ぐ。
デレクの前に再度姿を表したアスタ、彼女の体はそのトップスピードに耐えきなかった箇所から、徐々に鮮やかな血を吹き出した。
まさに諸刃の剣、この速度で走るのには、彼女の体は幼すぎたのだ。だが怪物の再生を少しでも食い止める為、アスタはまた自壊する可能性を秘めた体で、その吹き出す血が止まらない足で駆けた。
恐らく最強と言われ、この世に勝てる者はいないと言われたジュンでさえ、彼女の今の速度を視認するのは…不可能。
「アスタ…頑張ったよ…ジン君…ししょー…」
爆風を身に纏った彼女は、一人の時間から帰ってきた。体のいたる所からの出血、風の勢いに負け裂けた皮膚、そしてアスタは「やり切った」と言った表情で、地面に倒れ込む。
風神の子 アスタロッテ 戦闘不能
デレクは幼くも、才能に満ち溢れ、きちんと正しい心を持った少女に今まで自分が忌み嫌っていた、天才達と一括りにしていた者たちへの見方が、間違っていたと胸を締め付けられた。
彼女を抱きかかえながら、破壊が進み再生の速度も異常なまでに落ちた肉塊の海を渡る。
「この子を…何としてでも、街へ届けなければ」
だがその背後から、何やら高速で此方に向かう何者かが居た。
背中を激しく蹴られ、アスタ共々彼らは地面に投げ出される。
「先生…何処へ行こうと?」
彼に攻撃を加えたのはマリードだ、仁へ真実を話そうとしたデレクと、後に合流する手はずだった彼は庄司に血で支配され、一号と言われる化物へと姿を変えてしまったのだ。
「マリー…ド…、お前が何故、敵に」
「さぁ?こうなる前の記憶はあやふやな物ですので。ですが先生…貴方もショージ様の糧となるため、逃しはしません」
庄司と同じ様に、自身の血液を利用した2本の剣は、手負いのデレクには捌くのも難しい。
蹴りを腹に浴び、口から吐血するデレクは、そのまま岩に体を預け自分の死を覚悟した。
「(他人を裏切り、自分の嫉妬に駆られ、人の道を踏み違えた外道には…相応しい最後…か)」
目をつぶり、教え子の凶刃を受ける覚悟を決めた時、颯爽と姿を表したのは、誰よりも知った人狼ガルムだ。
「デレク…ジン君がオメェを逃して、アスタちゃんもこんなになった理由…後でたっぷり聞かせてもらうからな」
槍の先をマリードに向け、臨戦態勢に入ったガルム。
イーリア国・全体指揮長 ガルム VS 一号化物 マリード 撤退戦開始
To Be Continued




