第4-33話 思い出ってのは、相手と築いた信頼関係の証明書
ミアの口から真実、いや、ジュンのことの狙いを聞かされた仁だが、やはり衝撃は大きく素直に立ち直る事は出来ない。
「僕が今まで目指していたのって…何だったんだろう…」
狭い路地の奥で、一人膝を抱えこの世界に第二の生を受けて、赤岩順に憧れ、ギリアムに追いつくため、同年代の者より桁違いの鍛錬に加え、死線をくぐってきた。
だがガルムから聞かされた、デレクと赤岩順の交渉内容、それは仁の心を揺さぶるには十分な重さを持っていた。
「もう…何も…わかんないよ…」
一人物思いにふけり、気がつくと辺には太陽の明かりはなくなり、代わりに町人達が灯した街頭の明かりに変わり、昼とは変わった街の顔を見せていた。
「(そういえば…もうちょっとでデレクって人と話しが有るって…ガルムさん言ってたな……戻らなきゃ…)」
冴えない頭に、泣きはらした眼、曲がった背筋で力なく下を向き歩く仁。
雨でも無いのにどこか寒いし、何よりもほんの少し『懐かしい』。
地球で嫌という程味わって、何度もこの心を蝕んだ孤独という寒さは本当に懐かしい。
2ヶ月3ヶ月とはいえ、悪夢も見なくなり、うなされる事もなくなった。
「おーい!ジンちゃんじゃねぇか!どうしたんだしょぼくれて!」
声を掛けてきたのは、城下町に来てから知り合った魚屋のおじさんだ。
「おう!ゲンロク、この子が前に言ってたアカイワさん所の新しい坊主か?」
「へぇ!思ったよりヒョロッこいガキだなぁ~」
ゲンロクというおじさんの元に、商店街の皆が集まってくる。皆酔っており飲みの席へと仁も連行されていく。
「ほれ!お前も飲みねぇ!」
「いっいや僕は、まだ飲んじゃ駄目ですし」
酔ったおじさん達は仁に、ジョッキを差し出しグイグイと勧めてくるも、やはり飲んでいい年では無いので断りを入れる。
「仁く~ん、まだ酒が飲めねぇなんて残念だなぁ~!ワハハハ!」
「ガキはガキらしくジュースでも啜ってろ!ダハハハハ!」
「もう!ちょっとアンタ達酔いすぎよ!またミアちゃんに怒られても知らないからね!!」
屋敷で夜になるといつも、赤岩さんとギリアムさんの飲み比べが始まり、それに絡まれ、リューコさんが止めに入り、ミアさんが怒ってお開きになるのも、僕は知っている。
「そうそう!ジンちゃん、アカイワさんに礼言っててくれや。ウチの雨漏り直してくれたんだよ」
「そういやウチも立て付けの悪かった戸、修理して貰ったなぁ」
「ウチは壁の張替え手伝ってもらったぜ、丸一日かかると思ってたのによぉ、30分だぜ30分!」
そして次に始まったのは、赤岩さんに手伝ってもらった事や、彼の人柄の話だ。
「おーい仁君!釘持ってきてくれ!」
「はい!」
「サンキュー!」
「赤岩さんいつも何か作ってますよね。今日は何でしょうか?」
「ん?これか?ミアが食料庫に穴が空いて雨漏りしてるって言ってたから、修理してんのよ。」
いつも周りの為に奔走し、知らない内に周りを笑顔にし、赤岩さん自身も笑っているあの光景を、僕は知っている。
「~でよぉアカイワさんが来てから面白くなったよな闘技場の試合」
「確かにそうだ!前よりも皆熱いっていうかよ、何かどの試合もワクワクすんだよ!」
「お前ら知ってるか?西の街道の魔物を掃討したのがアカイワさんで、工事の速度が大幅に短縮されたって話」
彼らが次に始めたのは、赤岩さんの代名詞でも有る、強さの話だ。
「赤岩さんって何の為に強くなったんですか?」
「ん?何だ急に。でも強いて言うならミアの為だな。ミアが安心して暮らせる世界を守る、それが俺の強くなった理由さ」
「ふふふ、赤岩さんって本当にミアさんが大好きなんですね」
「あぁ。本当に俺なんかには勿体無い女だよ。だからミアに相応しい男になる為に、もっと強くならなきゃなんねぇんだよ」
僕は知ってる…、心の底からミアさんを愛していたあの人を…。
僕は知ってる…、あの人の背中を。いつも何かを守って、皆の盾になってくれたあの大きな背中を。
知らない内に、僕は涙を流し机を濡らしていた。
一粒一粒、大きな涙が。
すこしでもあの人を疑った自分が恥ずかしい、ずっと見てきたあの人の背中を否定してしまったのが情けない。
赤岩さんの口から答えを聞いて、自分の口で謝罪したい。そんな気持ちで胸が張り裂けてしまいそうだ。
「すみません!僕そろそろ行く所有るんで!!!」
飲みの席から飛び出し、ごった返す人混みをかき分け、高くそびえ下からは街頭が、空からは月明かりで照らされる城へと駆け戻っていく。
~~~王城・城門前~~~
「遅いなぁジン君…」
「ガルムさん、心配せずともあの子は戻ってきますよ。きっと」
城門前でミア・ガルム・アスタ・ルナから始まり、稽古に4日間付き合ったカシオに国王や、屋敷から急遽『ある物』を持ってきたリューコも居て、ギリアムを除いた赤岩ファミリーが勢揃いしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、ミアさーーん!ガルムさーーーん!」
汗だくで皆の元に駆け寄り、ガルムとアスタとじゃれ始める。
「吹っ切れたんですねジンさん。…ほら涙拭きますから、こちらを向いてください」
少し残っていた涙を、ミアはハンカチで優しく拭うと、リューコからプレゼントが有ると言う。
「やっと完成したのよジン君!これがあんた専用のマシン。設計はジュン、デザインはギリアム、そして製造はこの私リューコを始めとしたゲリュオーンの魔道具開発チーム!ありがたく受けとんなさい!」
大きな布が被せられている大きな荷物を叩きながら、リューコは熱弁しているが、見せたほうが早いとアスタと共にその布を勢い良く引いていく。
すると中から現れたのは、大きな二輪バイクだ。
テレビなんかで見たことが有る、確か名前は『CBR 1000RR』という中型のバイクだったのだ。
形なんかはジュンの知識からなのか、だが性能なんかは地球のものとは段違い。
「すっ凄い!…でも良いんですか僕が…これを」
「良いのよ!それにこの子は、ジキル&ハイドとワンセットで初めて動く代物なんだから。」
「いえ、その、免許的な…アレは?」
「そんな細かい事は良いの!動かしたら慣れるし、四捨五入すればアンタもあたしも二十歳何だから!」
ドカッと運転席に座らされると、一つ違和感が有った。
ハンドルが無いのだ…
「えーと…リューコさん、これハンドルが…」
「あっ!これ?ほらジキルとハイドをブレードモードにして、この穴に突っ込んだら良いのよ」
言われるがまま指示通り、ハンドルが有る部分に有った2つの筒にジキル&ハイドを入れると、鍵を回したようにヘッドライトが点灯し、エンジンが勢い良く掛かった。
そして一通り、リューコから説明を受けている時、その後ろでガルム・アスタ・ルナがじゃんけんを始めていた。
「俺が後ろに乗るんだ!ジュンは中々乗せてくんねぇもん!」
「やだ!アスタが乗るの!」
「いやいや、新入りといえどこればっかりは譲れないッス!アレを馬として考えたら、その後ろに乗るのは乙女のステータスッス!憧れッス!」
そこに自分も乗りたいと、リューコもじゃんけんに混ざる。
「あっあはは…うまく出来るかな」
「バイク?とやらの運転はよくわかりませんが、ジンさんならきっと出来ますよ」
結局じゃんけんには、アスタが一人勝ちしちょこんと乗り込み、両手を腰に回し体重を預けていく。
「ジン君、集合場所は解るな?」
「はい!」
「それじゃジン君!出発しんこーー!」
「うん!アスタちゃん、しっかり捕まってね」
国王が合図を出すと、ごった返してた人は脇に寄り、皆パレードを見るようにこちらを見ている。
その中を初めて自分の手でマシンを操り、 観客の前を駆け抜いていく。
少年はこの数日で大きく成長した、本当に心から信じる事を知り。今回の最大の敵デレクの元へ一台のマシンと、一人のパートナーと共に向かう。
To Be Continued




