第4-31話 動き出す時代、成長する若者
太陽が真上に向き、光を降ろす正午。
王城の中庭で仁達は4日目の稽古に入ってた。突如開始された、この稽古にも仁とアスタは一度も弱音を上げること無く、ただひたむきに武を学んでいた、
カシオの拳が仁の頬をかすめた時、彼は考えるよりも先に体が反応し、握られた拳の手首を掴み足払い。
「うそっ!」
これにはカシオも驚かされた、この3日間は守りに徹していても、彼には反撃等する余裕は無かった、だが4日目に入った今日、初めて反撃しカシオの一枚上を行ったのだ。
だがカシオは咄嗟の判断で、その逞しい2本の足を背中が地面に付く前に、エビ反った体制で耐え、そのまま鍛えられた背筋を活かして、逆に仁を投げ飛ばしてしまう。
投げ飛ばされた仁は、あえて受け身を取らずにジキルを構え、カシオに向け怒涛の連射を放つ。
カシオは初日と同じく隠し持った鉄扇で防御する、だが彼らの攻撃はまだ終わらない。
弾幕とカシオ自身が広げた鉄扇の影に隠れ、死角を縫うように現れたのはアスタだ、その小柄な体格を活かした連携にはカシオも対応しきれない。
顎を蹴りぬけ、あまりの勢いにカシオは日が射す空を見つめる、そして次に鈍痛が走ったのは背中だった。
正面から攻撃が来たと思えば、次は背中を蹴り上げられた。
普通の少女とは思えない一撃は、カシオをほんの少し地面から浮かせ、浮いたところにもう一撃、それが3回4回と続きカシオをはるか上空まで打ち上げてしまう。
空中ではいくら歴戦の戦士カシオであろうとも、効果的な攻撃や防御は勿論、体制を変える事すら難しい。
カシオの両足を掴んだアスタは、彼の脇に足を掛けそのまま地面に急降下して行く。
彼女の帯びた風の魔力は、噴射されるロケットエンジンが如くどんどん速度を上げていく。
轟音と共にカシオは地面へと激突し、アスタは土煙から飛び出し体制を整え、仁と並び立ち構える。
「ふぅ…ふぅ…大丈夫アスタちゃん」
「うん、大丈夫。でもあれだけ攻撃したけど、手応えが全然無かった…」
土煙の中ゆっくりと立ち上がるカシオは、攻撃が効いていない訳では無いが、まだ至って戦闘する意思は感じ取れる。
二人はカシオに向かい、全力で走り出した。カシオも二人に答えるが如く走り出す。
だが二人はカシオの股の間を滑り抜け、まだ走り続けている。
「ちょっ!ちょっとアンタ達!」
驚きのあまり二人の方へ振り向くが、驚くのはまだ止まらない。
光の魔力で形成された無数の矢が、頭上からカシオの元へと降り注ぐ。
カシオにはこの矢が、いつ、どのタイミングで作られ、発射されていたのか全くわからない。
二人のコンビネーションで完全に隠蔽され、この瞬間をずっと待って、事を運んでいたのか。
少年と少女が相手といえど、カシオはここまでの強敵と久しぶりに出会い、技を教え、立ち上がっても何度も何度も正面から叩き伏せた。
だが彼らは上を行った、度重なる痛みに耐え、4日の間折れそうになった心を何度も叩き上げてきた。
それが勝利へと導いた
矢がひとしきり振り終わると、カシオは土煙の中雄々しく立っていた、だが表皮が傷つき、結んだ髪も解け、柔らかな微笑みので。
「やっぱ…若い子の成長は…怖いわぁ…」
背中から地面に倒れ込み、満面の笑みで彼らの成長を祝う様に、青空を仰ぎ見ている。
「「やったーーーーーー!!!!」」
仁とアスタは手を取り合い、自身の成長、パートナーの成長を心から喜び分かち合った。
その時倒れたカシオの上に、国王が降ってきた。
ズドンと大きな音を立て、彼の上にのしかかるように。
だが彼も幾分満足そうに笑っているではないか。
「ッシャァッ!!」
随分ボロボロになったガルムは、ガッツポーズを取り満面の笑みで、自身の勝利をアピールする。
「…のぉカシオよ」
「なぁに…重いから早く退いて欲しいんだけど」
「若いとは良いものだのう。儂ら年寄りを簡単に超えて行きおる。」
「…そうね。それに久しぶりだわ、アンタ以外に手を抜かずに負けたの」
「よく言いおるわ。手加減しておった癖に」
「手加減はしたけど、手を抜いたつもりは無いって事よ」
「はははそうか!だがこの様な武と正しい心を持つ若者を育てられた事、儂は非常に嬉しい!そして誇らしい!」
カシオと国王も少年時代に帰った様に、青空を仰ぎ見て大きな笑い声を上げている。
すると皆気付いていなかったが、メイド・兵士・学者・大臣等がギャラリーになっていたのか、全員拍手をしている。
「ジン君やったッスね!!」
ルナはその人混みから飛び出し、仁に飛びつき抱きしめる。
彼は拍手とルナの抱擁で、赤面し照れくさそうに傷だらけの頬を釣り上げ笑ってみせる。
中庭が拍手に巻かれている時、一人の兵士が肩で呼吸をしながら、中庭に駆け込んできた。
「ガルム隊長!!!大変です!!!デレク元隊長が、攻め込んできました!!!」
「何!?…相手の兵力は?」
「一人です!ですが奇妙な魔術を使われ、我々では手も足も…」
「解った。俺が行こう」
「それと…『オカノ ジン』を出せと行っていました。」
それを聞くと、ジンとガルムは共に頷き兵士の後ろに付き、一緒に走り去っていく。
~~~王城・城門前~~~
「ジェネス!君は相変わらず打ち込みが甘い!もっと腰に力を入れなさい!ヨート!君は一直線すぎる、もっと相手の動きを見なさい!ダリス!また君は自分には無理だと諦めるのか!剣を持ち戦いなさい!君は国と王を守る誇り高き騎士だろ!」
満身創痍の騎士三人を相手に、デレクは子供をあしらう様に彼らを捌いていく。
三人相手に彼は全く怯む様子等無く、逆に元部下を指導する余裕すら有る。
振り下ろされた剣圧による突風で、三人は吹き飛ばされ、二人は壁に叩きつけられた。
だが一人、ダリスと呼ばれていた若い騎士は、城を囲む水の張られた堀の方へと飛ばされた。
その時ダリスの手を掴み、助けた一本の細い腕。
「大丈夫ですか!?」
仁だ。
必死の形相で、装備品も込めると80kgは軽く越える彼の体を、その細い腕で掴み引き上げる少年。
武装し剣で戦うデレクに奇襲を掛けたのは、軽装で徒手で戦うガルムだった。
「デレク!!!どういうつもりだ!!!裏切った挙げ句、元はといえ部下を手に掛けるなんて!!!
「ガルム!!!邪魔だ!!!裏切った罪など後で幾らでも償ってやる!!!だが今は邪魔をするな!!!貴様はそこの少年を死なせたいのか!!!」
「何が言いてぇんだお前は!!!それにジン君を殺そうとしてたのはお前達だろうが!!!」
デレクの切り下ろしを避け、手首を掴み静止させたガルムは、右手で彼の顔目掛け裏拳を仕掛けるが、デレクはその攻撃を予見していたのか、その拳を掴み静止させる。
互いに膠着状態、だが密着したデレクはガルムに語りかける。
「ガルム…俺は間違っていた…いや…やり方を間違えた事に気付いた…これは覆しようのない事実だ。だが俺はお前が気に食わない!お前が羨ましい!お前が嫌いだ!」
「…いきなり…何いってんだお前は!!」
「俺の話を聞け、最強があの少年を亡き者にする為、俺の元へ来た。」
ガルムは驚きのあまりに、デレクから一度距離を取ると、彼から投げられた羊皮紙に目を通す。
確かに彼の言う通り、ジュンの字で仁の殺害依頼の旨が書かれていた、偽装しようにもジュンの家紋に見慣れた彼の字は、書いたのが本人と決定づけるのに十分だった。
「お前との決着はいずれ付ける!だが今はその少年と話をさせてくれ!頼む…」
憎しみに顔を染めていた彼とは違う、そう感じたガルムは拳を下げ、仁の方へ向き直る。
「奴は言っていた『自分を超え、自分の地位を脅かす彼を早急に排除したいと』」
「うっ嘘だろ…ジュンが…」
To Be Continued




