第4-29話 悪の姉妹
カシオとジン&アスタ・ギルバート&ガルム、彼らの血の滲むぶつかり稽古は、あれから翌朝までにも及んだ。
泥に塗れ生傷ばかりを付け、空を仰ぎ見る様に三人は中庭に寝そべり、穏やかな寝息を立てている。
「えーと、ルナちゃんだったかしら?三人の手当てお願いしても良いかしら?」
「良いッスよ~」
カシオはその長く伸びたブロンドの髪を風に揺らし、国王と共に中庭から立ち去っていき、ルナは彼らにパタパタと駆け寄り、打撲・裂傷・擦り傷・打ち身・疲労に効く薬を調合し、彼らに塗り飲ませていく。
仁が最後となったが、彼が一番傷だらけで有り、三人の中で一番満足そうに笑って眠っていた。
「(…あっ…ジン君のお肌意外とモチモチ…)」
頬に塗り薬を塗っている時、そんなどうでもいい事を考えながらも、彼女は頭の中で「彼は敵なのだな」と再確認し、両手は彼の首へと向かっている。
「(触診した感じだと、やっぱり光魔力の純度が上がってるッスね…姉さんの目的の為にも…今…ッスかねぇ)」
ギュッと力を込め、彼の首を締め上げようとした時、ニヤけた仁は寝言を漏らす。
「サブローさん…僕…強くなりますから…すぅ…」
あまりに平和な寝言と、彼の恩師なのだろうか…、大切な人なのだろうか…、そんな考えが無意識の内によぎる。
「(…………興ざめッス…まぁ、この子がいくら成長しようと、姉さんには勝てないんッスから)」
両手を首からゆっくりと離し、傷だらけのこの彼に薬を塗り込んでいく、ゆっくり撫でるように。
「ん…むぅ…」
擽ったそうに悶える仁に、少しイタズラ心が芽生えたのか、少し鼻を摘んだり、頬を引っ張ったりする彼女は傍から見ていても、とても楽しそうにしている。
少ししてから、仁は目を覚まし、目の前でかがみ込みこちらを覗くルナに戸惑う。
「あっあわわ!ルナさん!…ってあれ?体が軽い、それに酷かった痛みもない!」
薬の効果に驚きながらも、目を煌めかせ関節を動かし、楽しげに体を動かしストレッチしている。
「ふふっどうっすか?エッチなサキュバスの治療の効果」
小悪魔の様に笑う彼女は、一言一言に赤面したり狼狽える仁が面白くてしょうがない。「(あぁ…敵でなければなぁ…)」
「えっ!えぇぇぇ!」
「やっぱりジン君は面白いッスね~、勿論嘘ッス」
騙された事に気付き、仁は更に赤面し両手で頭を抱え込む。
「でもジン君結構鍛えてるんッスね~」
「はい!僕もいつか赤岩さんやギリアムさんの様に強くなりたいですから!」
微笑ましそうに姉が弟を見るように、彼を見つめ慈愛の笑みを向ける。「(何故…自分はこんな顔を?)」
「そういえば寝言で『サブロー』って人の事呼んでたんすけど、その人ってどんな人なんッスか?」
「サブローさんはですね、僕に大事なことを教えてくれた人なんです。人としてどうするか、人としての生き方とは何かを教えてくれたんです」
少し寂しそうに笑い、照れくさそうな彼は頬を掻く。その時に彼の膝を借りる様に、アスタがズリズリと潜り込み、ジトーっとした瞳で仁の顔を見つめる。
「ルナちゃんばっかりずるい…zzz」
それだけを言い残し、また眠りに付く彼女。
「ジン君モテモテッスね~、こんな美少女を二人も侍らすなんて~」
そんなんじゃないと否定する仁だが、アスタがこうなると起きるまでは動かないのは知っているので、彼もまた一眠りする事にした。
~~~王城・???~~~
その日の夜もまた同じ様に、国王とカシオの二人に鍛えられる仁達、そしてその目を盗みルナは闇へと紛れる。
「状況はどうかしら、ルナ」
「まぁ~ぼちぼちって所っすね。…姉さん…聞きたいことあるんすけど良いッスか?」
闇へと戻ろうとしたロザミアを止め、少し寂しそうに彼女は言葉にする。
「なにかしら?」
「いえ、人生の先輩として聞きたいんすけど…姉さんは誰かに恋したり…愛したことは有るッスか?」
ロザミアは長い沈黙の後に「はぁ…」と、短いため息を付き座るルナの横に座る。
「有るわよ…」
「どんな方だったんッスか」
「そうね…一言で言うと可愛い人だったわ。ころりころりと表情を変えて、いつも私の見たことの無かった物を見せてくれて、初めて私を愛してくれた方だったわ」
「素敵な人なんすね」
「えぇ。あの方に勝るお方は未だ出会ったことは無いわ。…誰かに恋したのかしら?ルナ」
少し茶目っ気を交え、ロザミアはルナに質問する。
「あははまさか~。でもあの二人を見てると少し、ほんの少し、思うんッス…年相応に夢を見て…顔は良くなくてもいい、素敵な男性と一緒に歩けたらって」
ロザミアは笑っては居るが、彼女の事を茶化す様子も無く、静かに耳を傾けている。
「でも…私には無理ッス…私には人を憎めど…愛する事は出来ないんス」
「えぇ…そうね。でもねルナ、『あの人』が蘇ればきっと貴方ももう一度、真の意味で人として生き直せるわ。それまで私に力を貸してくれる?」
「勿論ッスよ姉さん!約束ッスから!」
彼女の笑顔を確認すると、ロザミアは闇の中へ戻り姿を消す。
「人として…もう一度…ッスかぁ」
~~~???・???~~~
「フェミリア、少し良いかしら?」
「ん?何だね、君から声を掛けられるとは。厄介事の匂いしかしないのだがね」
紅茶をすする骸骨は、目の代わりになっている赤いモヤを細め、ロザミアの方へ振り向き、侍女の代わりにしている骸骨にロザミアの紅茶を入れさせる。
「貴方は確か妻と息子が居たのよね」
「あぁそうだが」
「人を好きになるっていうのは、やっぱり私達魔族も人間も本質は同じなのかしら?」
「あー…ロザミア、済まないが話の本題が読めない。説明してくれると有り難いのだが」
彼女はフェミリアに、ルナから受けた質問を彼に伝える。
「あっはははははは!いや失礼!君達の事を笑っていたのではない、君から人間らしい言葉が出るとは思わなくてな。」
「あら失礼な殿方だ事。魔族も人の子も本質的には同じなのに」
「そうだな済まない。だがそのルナと言ったか?私の息子も生きていれば彼女と同じ年頃だっただろう、では人の子ではなく、一人の親として助言してやろう」
紅茶をすすりティーカップを机に置くと、フェミリアは楽しげに語る。
「ルナの好きにさせてやりなさい。例えそれが最強に付く事になったとしても、敵に回るならその時は我々がねじ伏せれば済む話だ。だから決断や考えは彼女を尊重してやりなさい。それが復讐という絆で結ばれた我々にできることさ」
妙に納得したロザミアは、飲み終わったカップを置き、椅子から立ち上がる。
「ふふっ、人に言っておきながら貴方もまだまだ人間臭さが残ってるわよ。それに貴方の言い回し少し臭いわ、次の人生は詩人でも目指したらどうかしら?」
「ははは検討しておくよ、ほら夜更かしは美容の敵なんだろ。早く休み給え」
To Be Continued




