第4-26話 何事も実戦経験がものを言う、って言うけど物事には順序も必要
一度行ったことのあるカシオの経営する、少々アダルティーな雰囲気が醸し出されるBAR【エンジェル・キッス】。
開店準備中との札を掛けられた両開きの戸をくぐり、そこは初めて合った時と同じ様に、真っ赤なドレスを着た筋肉隆々の大男『カシオ・ショールド』。
彼は次に来る客の為、丹精込めとても幸せそうな顔で床を掃除している。
「あら!いらっしゃい。アスタちゃん久しぶりね~、ジュース飲む?」
「うん!」
アスタはカウンターにパタパタと走り、キッチンに入っていくカシオを見つめ、ジュースをただ行儀よく待っている。
「ジンちゃんもいらっしゃい。こっちに座ってアスタちゃんと一緒にジュースでも飲みなさい、勿論横のお友達も一緒にね」
言葉に甘え、最奥のカウンター席からアスタ・ジン・ルナで並び、それぞれ順番に飲み物が提供されていく。
「あっありがとうございます」
出された飲み物に口を付けようとしたその時、彼の大きな掌が頭を優しく包む。
「よくやったじゃないの。客から聞いたけど、大通りで戦ったんだって?…戦場から生きて帰れるなんて凄い事よ」
「ありがとうございます!」
「アスタも頑張ったよ!」
そう言うと二人揃って、彼に頭をクシャクシャと撫でられ、とても気持ちよさそうにしている。
一段落会話を済ませると、本題のガルムから預かった言葉を伝える。
「…はぁ、今日は開店ちょっと遅くなりそうだわ」
ジン達は先に行かせ、カシオは店の準備が済み次第向かう事を伝えると、3人を退室させる。
掃除道具を片付け、2階にある私用部屋のクローゼットを開き、服を着替え始める。
普段は女性用のドレスを身に着けている彼だが、ガルムに呼ばれたという事は荒事になる可能性が高い。そう考え一着の滾る武術家の血を連想させる、紅蓮色の長袍。地球でなら、中国の民族衣装の一つとして、カンフー映画等でよく見られ、幅広い層に認知されている。
幅広の袖口に動きやすさを追求された流動的なフォルム、だが内側はカシオ独自の改造が施されており、多種多様の武器を収納するポケットが取り付けられ、生地も特殊な繊維で編まれた最高クラスの防具。
ズボンも幅広のものを履いているが、袖口とは逆にくるぶしを締め付けるデザインとなっている。靴も平坦に伸びた黒艶が目立つ、何層もの布から形成される靴底が特徴の布靴。
「この服に袖を通す日がまた来るなんてね」
~~~イーリア国・王城・謁見の間~~~
昼の謁見の間は、町人や貴族達が王と言葉を交える場だが、夜は警備も必要最低限で留められ静寂が包まれている。
その静寂の中会話するのは、ガルムと国王のただ二人だけなのだ。
「話しは解った。…じゃがデレクが裏切るとは…これもあやつの内情を知らず、目を向けてやれなかった儂の不徳かのぉ…」
「…国王様、無礼と承知の上で願いがございます…」
隻眼の人狼は王に乞う、嫉妬にその身を焦がし、憎悪という魔物にとりつかれた同僚の事を。
「デレクは…私の…いや、俺の手で捕らえさせてください。こればかりは…誰にも譲りたくありません」
「そ~ゆう事情なのね。あんた達が真面目な話しばっかりしてるから、おチビちゃん達が入れないじゃない」
謁見の間に響いた静寂を打ち破る様に、カシオは戸を勢いよく開き、扉の前で待機していたジン達と一緒に入室してくる。
「カシオさん…すまねぇ」
「な~に謝ってんのよ。それより私達に頼みたい事があったんじゃないの?」
考えを見透かされた様で、ガルムはポリポリと頬を掻き、苦笑いを浮かべる。
「まぁ頼みたい事ってのは、国王様とカシオさんに稽古付けてほしくてさ。」
「あらてっきり私は「露払いしてくれ」って言われると思ってたわ。」
ニヤニヤと笑みを浮かべ、カシオは国王と共にアイコンタクトを取り、何処かへ歩いていく。
~~~王城・中庭~~~
ジン達も何故かカシオ達に連れられ、中庭へとやってきたのだ。
「えっ…何ですか…うわっ!」
突然首を狩る様に、カシオの手刀が繰り出されるも、間一髪抜刀したジキル&ハイドで防御へ転じる。
「あらやるじゃない!手加減はしたけど、あれを防ぐなんて」
「うぐぐっ…やっぱり、稽古ってことは…僕たちも入ってるんですね!」
体重を掛けられ、徐々に後退を強いられるジンは、体を横へ捻りすれ違い様ジキルを銃モードへ変更し牽制の弾幕を打つ。
袖から突如現れた鉄扇で、否応なく魔弾は弾かれ爆煙の様に煙が広がる。
「まずあんた達に一つ、戦場に一度でも身を置いたなら、いついかなる時でも敵襲や、意図しない戦闘があると思いなさい。」
爆炎が晴れるその刹那、煙の中からアスタが姿を表し顔目掛け、飛び蹴りを放つ。
「稽古ならアスタも好きだよ!」
「アスタちゃん、貴方は本当にいい子よ。でもねその良くも悪くも純粋さが、敗北につながる事も覚えなさい」
高速帯から繰り出される蹴りを、いとも容易く見切り彼女の足首を掴み、ジンの元へ投げ飛ばす。
アスタを受け止めたジンの瞳に写ったのは、月を背に跳躍し鋭い闘争心が剥き出しとなったカシオが映る、素早くアスタ突き飛ばし、自分も横へ体を回転させ次の攻撃へ備える。
ジンの判断は正しかった、あのまま二人で防御に転じているのであれば、今地面を刳り刈り取ったカシオの踵落としが二人の命を終わらせていた所だ。
振り下ろした右足を軸に、そのまま左足で旋回するかの如くジンの足元目掛け薙ぎ払う、間一髪の所ジンは両手で地面を叩き空中へと逃げる。
空中で回転し体制を整えたジンは、攻撃に転じようとするも、後ろに控えた右の正拳が見え両手を目の前でクロスし防御を取る。
だがカシオはその読みをあっさり看破し、左の拳で組んだ腕の間を縫う様に振り上げ、防御姿勢を崩す。
崩れた防御態勢に叩き込まれたのは、顎へ向かっての右手掌底、胸部への左拳掌底。後ろに仰け反った体へ踵落とし、叩きつけられた体は反動で再度宙へ戻される。
そして留めと言わんばかりに、鳩尾ちへ向けた両手での掌底。
ここまで必要とされた時間は、10秒すら経っていない。
「(じ…次元が…違いすぎる)」
咄嗟の身体強化で、体を強化しダメージを軽減してはいるも、掌底を叩き込まれた胸から伝わる衝撃は呼吸を乱し、魔力の流れも乱す。
「ジンちゃん、貴方はスイッチが入るまでが遅い!戦うとなったら、即座に入れれる様になさい!」
カシオに喝を入れられ、痛む体を起こし、ゆっくりと神経を研ぎ澄ませていく。
背後から先程分断されたアスタの拳が、カシオを目掛け放たれるが先程同じ、流れる水に攻撃する様にカシオはゆるりとアスタの拳を交わす。
「アスタちゃん、貴方は気配が伝わりすぎよ!もっと気配を殺し、一撃一撃に重さをもたせなさい!」
数撃の拳をやり取りしたカシオは、その丸太の様に太く逞しい脚で、軽く小さいアスタの体を吹き飛ばしていく。
「ほら!もっと二人の呼吸を合わせなさい!タイミングも手法もバラバラよ!もっとお互いを見なさい!」
カシオは二人相手に全くの苦戦無く、容易く捌いていく。
だが二人も何度も何度も、投げられ、叩きつけられ、弾き飛ばされようとも、膝を折らずボロボロの身を起こしていく。
「若いとは良いのぉ、カシオの奴があんなに楽しそうに稽古するのはミア以来じゃ」
「あはは、でもカシオさんエゲツねぇなぁ。アスタちゃん相手でも容赦なしとは」
突然の稽古、病み上がりのジン・アスタでも一切の容赦無しのカシオ。
彼らは無事にこの稽古を、きちんとモノにすることが出来るか。
To Be Continued




