第4-11話 白銀の騎士
アスタちゃんが走り出し姿が見えなくなってから、半日が過ぎすっかり辺りには夕日が顔を隠そうとしていた。
「アスタちゃん…一体何処に行ったの…」
汗だくになりながら街を走り、周囲を見渡していると、風に乗り薄い血の匂いが鼻をくすぐる。アスタちゃん程ではないが、何度か嗅いだこの不快な匂いはすぐに気付ける。
彼女には悪いがそちらを見に行く事にし、方向を少し変え裏路地を入り、路地の間を縫っていく。
そこで僕は…一番見たくないものを見てしまった…
地に落ちている紙袋の側面には「Waltz」とロゴが入っており、中から若草色のリボンが特徴的なグリーンのスカート。
その近くには赤い血液の絨毯の上に横たわる、アスタちゃんが居た…呼吸はあるが…手に持ったダガーに加え体には無数の傷。何者かと戦闘をしたのは明白。
「ア…アス…タちゃん…アスタちゃん!!!」
「ん…んぅ…ジン君…アスタね頑張ったよ…、でも負けちゃった、悔しいな…ししょー以外に負けるなんて思ってなかった…」
彼女を抱えあげると、僕からは見えないが服を掴み額を胸にこすり付けてくる、…じんわりと服を濡らす温かい水の感触。
彼女を抱えたまま、大通りを駆け抜け診療所へ足を運んでいく、彼女の体から幾つもの血が滴り落ち、地面を濡らしていく。もちろん僕の服も彼女の血で、ゆっくりと変色を始め、彼女の顔がゆっくりと青くなっているのが見える。
「ジン君…アスタ…どうなっちゃうのかな?…せっかくジン君といっぱいお喋り出来て、お友達になれたのに…」
「大丈夫!!!アスタちゃんを死なせたりしない…、もう少しで病院に付くからそれまで頑張ってね」
「そっかぁ…なら大丈夫だね」と言った彼女は目を閉じる、抱きしめた腕から感じる心臓の鼓動、彼女の体温はまだ間に合うと言っている様で少し安心する。
~~~城下町・診療所~~~
「一命は取り留めた、だが彼女は暫く戦闘には参加は出来ないだろう。…君が気付くのが遅ければ、彼女は裏路地で命を落としていただろう。誇りなさい、君は彼女の命を救ったんだ」
白髪の白衣を着た老医師から、治療が間に合ったと聞き、安心した僕は膝から崩れ落ち、大粒の涙が頬を伝い零れ落ちる。
「よかった……ほんとに…良かった、アスタちゃんが無事で…」
彼女が無事で良かった…、彼女を助けれて本当に良かった…。
その時僕の心臓の鼓動が、激しく胸打つ理由を理解した…
彼女の笑顔が好きだ、太陽のように暖かく何者にも負けないあの笑顔。彼女のあの柔らかい手、初めて握った女の子の手。一緒に食べたイーニャの味、それを頬張る彼女の愛らしさ。
何もかもが好きなんだ…、知らない内に彼女に惹かれ、僕は彼女に恋をしていた。
僕は…アスタちゃんが好きだ、突拍子も無い行動をするし、いつも元気いっぱいな彼女が好きだ。
老医師に案内され、彼女の病室へと向うと、彼女は穏やかに寝息を立てて、気持ちよさげに眠っていた。
「先生ー、怪我人ってのはこっちか?…ってジン君居たのか!」
病室に入ってきたのは、怪我人を運ぶ少年が居ると通報を受けた、ガルムさんだった。
一連の事を説明し、納得したガルムさんはその大きな手で、僕の頭を撫で落ち着かせてくれる。
「ジン君、良くやったな。…アスタちゃんは暫く戦線から下ろすが、その分ジン君が働いてくれるって信じてるぜ!」
「はい!……僕は許せない…アスタちゃんをこんなにした人を…絶対に許せないし…許しちゃいけない!!!」
ガルムは少し驚いた『何故こんなにも順と似ているのか』と、愛する者を傷つけられた怒りか、それとも心根の根本が同じだからか。だがそれと同時に確信する、この子は確実に順の背中を見て成長していると。
自分の信頼に長ける男の背中、それがこの少年にも熱となり確実に受け継がれている。
「よっしゃ!ジン君、ここは先生に任せて俺達は、アスタちゃんをこんなにした犯人を見つけようぜ!見つけてぶっ飛ばしやるか!」
「はいっ!」
老医師に彼女をお願いし、僕達は診療所を後にする。
街にはすっかり夜の帳が降り、爽やかな夜風が頬を撫でる、今は夜すなわち『城下町で一番危険な時間』なのだ。
でも僕はそれに臆することはない、彼女が勇気をくれる。
~~~城下町・西通り~~~
あれからどれだけ捜索しただろうか、ごった返した人達はなりを潜め、辺りには静寂と夜霧だけが僕とガルムさんを包む。
「ジン君止まれ…なにか来る」
ガルムさんはそう言うと、背中に背負っている槍を構え、目の前の濃霧から現れる人物を警戒し始める。
僕もその鉄が擦れる様な音の足音、一度聞いたことがある。
『白銀の騎士』が来た!と僕とガルムさんは瞬時に理解する。
「あの風神の子は一命をとりとめたようだな…私とあろう者がトドメを刺し損ねるなどと…」
白銀の騎士は額に手を当て、心底残念そうに振る舞ってみせる。
「お前がぁぁぁぁぁあぁ!!!」
「ジン君落ち着け!!!」
ガルムさんの静止を聞く前に、僕はジキルで連射を始めている。
「ふん!俺に魔術など無意味!!響け魔封具【アベリッシュ・レイド】」
男は魔弾が当たる前に、右手をかざすと不思議な磁場空間を作り出し、魔弾を全て霧散させてしまう。
「この魔封具、一体どれだけの力を秘めている事か…」
ガルムさんは即座に警戒の色を強め、槍の先端部を伸ばし騎士の体めがけ射抜こうとするも、一度作られた磁場空間の前で槍は力なく地面に落ちてしまう。
「言っただろう…無意味だと、それに貴様の中で一番警戒すべき『風神の子』は、もはや戦闘不能、貴様らに勝つ道理など無い。」
にじり寄って来る騎士の、磁場空間に体が覆われたその時、またもや体が動かなくなってしまう。
だが僕は倒れない、ここで倒れたら…誰がこの男を止める
「ここで倒れたら、誰がアスタちゃんを守る!!!」
「風神の子など取るに足らん、それに俺はこの国の『天才達』を全て屠り、魔核で差別されること無く、真の平等を世界に築いてやろう!」
ジン VS 白銀の騎士 開戦
To Be Continued




