第4-10話 解らない気持ち
僕とアスタちゃんは今城下町を並んで歩いている、それはもちろん白銀の騎士の情報を一つでも多く手に入れる為、というのが本当の目的なのだが1時間もしているとアスタちゃんが飽きた…。
「ねージン君…アスタ飽きたよー…」
「そうだね、僕もちょっと疲れたかな。」
そうして僕達は近くのベンチに腰掛け、いつぞやのようにドリンクを2人で飲んでいく。
朝の寝ぼけた彼女の温かく、柔らかいあの感触が僕の頭でグルグル渦巻いて、普段以上にドキドキしてしまう。
「ねージン君!あれ見て!あれ!」
彼女が指さしたのは僕達より1つか2つ上の町娘、彼女が着ている衣服を指差し僕にも見るよう促してくる。アスタちゃんが指さした彼女の服はと言うと、短く折られたスカートにシャツと言うラフな格好だったが、そのスカートが特徴的で腰紐が大きなリボンとなっており目を引かれてしまう。
「あのスカート可愛いなぁ…」
ストローを口に咥えたまま、彼女はそのスカートを羨ましそうに眺めている。欲しいのに手が出ない、というよりも何か事情有りきで買わない、と言った表情に見えた。
「アスタちゃんはスカートとか履かないの?」
「うーん…あんまり履かないかな、すぐに破けるしちょっと動きにくい…」
洒落た格好はしようにも、彼女の生活を考えればやっぱり履くのは難しく思える。
「アっ…アスタちゃん、その…お店に見に行くだけ行ってみる?」
驚きで目を見開き、開いた口から咥えていたストローが零れ落ちた彼女を見ていると、自分の言葉は何かミスだったのかと思ってしまうが、彼女は少し興奮気味に「行きたい」と手を握りながら言ってくれた。
暫くウィンドウショッピングとして、色んな店を見てみたが彼女の言っていたスカートは中々見つからないが、それでも僕は楽しいんだ。
「あれは似合うかな?」
「これも可愛いね!」
「うーん…見つからないなぁ…」
等と、一喜一憂する彼女は本当に見ていて飽きない、百面相の如くコロコロと変わる表情に、気持ちに嘘を付かずに揺れる尻尾。
そんな彼女を見ていると自然に笑顔が溢れ、もっと楽しい時を共有していたくなる。地球に居た頃の『弱虫』な僕じゃ出来なかった、とても楽しく何よりもかけがえのない時間。
「あーーーーーーーーーー!!!」
大きな声を上げ急に走り出したかと思うと、その店のガラスケースの向こうには、彼女が気にかけていたスカートが赤や青、他にも色とりどりの色でバラエティに富んだ種類で並べられていた。
僕が追いつくよりも先に、彼女は店内に一人入って行ってしまう。
~~~衣服屋「Waltz」~~~
店内には女性客で賑わっており、男性客はと言うと僕以外に見当たらない、そんな中彼女を見つけるのは少し苦労した。
「あらあら、可愛らしいカップルです事」
「彼女の買い物に付き合う彼氏なんて羨ましいわ~、それに比べてウチのはホント…」
などとある種の好奇の目晒され、少し尻込みしているが彼女と見る商品はどれも、最上級の布で作られた宝物に見える。
「ねージン君!ジン君はどれが良いと思う?」
そう言葉を掛けられた時、やっぱり彼女との距離は近く少しドキッとしてしまう。顔が紅潮しているのではないか、心臓の鼓動は聞かれていないか、等と心配になるも、彼女に似合うであろうスカートは僕の中でもう決まっていた。
「こ…これなんか、どうかな…」
僕の手渡した物を持つと、嬉しそうに喜々として試着室に入っていく彼女、試着室の前で待機している僕は布1枚隔てた先で彼女が着替えているのかと思うと、緊張は最高潮に達していたが、カーテンが開くと緊張なんか忘れてしまった。
若草色のリボンに、彼女の髪とよく似た色のフワリと舞い上がるスカートは、普段の印象を一瞬にして攫っていく。
「どう…かな?」
見入りすぎたのか、彼女も少し緊張した様子で僕に感想を求めてくる。その返答はもちろん「素敵だ」「似合っている」と、言ってあげるべきなのだろうが、僕にはそれを言うだけの勇気がなかった。
僕が何も言わずに立っている様子を見た彼女は、恥ずかしさからか少し涙ぐみ、試着室に戻ろうとカーテンを引こうとした時、僕は彼女の腕を掴んでいた。
完全に意識よりも先に、体が動き彼女を引き止めていた。
「似合ってるよ!…すぐに言えなくてゴメン…でも、すごい似合ってる」
溢れた言葉は止まらない、もう僕にも止められるかわからない。
「あ…ありがとう…、もうアスタ着替えるね!」
そう言った彼女の顔はよく見えなかった、でも少し赤く見えたのは恥ずかしかったのか、それなら大声で言ってしまったのは申し訳なかったな。
着替え終わった彼女が、僕の背中を押し店外へ先に出ているよう無言でのアピール、訳も分からず店先に出された僕を置いて彼女は店内に戻っていった。
そうして5分程待たされた頃か、彼女が一つの紙袋を持って店から出てきた。辺は夕日でも無いのに僕達は顔を合わせると、何故かお互いに頬を紅潮させてしまう。
「か…買ったの?」
「う…うん、ジン君が似合うって言ってくれたから…」
そう言った彼女は、突然僕の首筋辺に噛み付いてきた。細く鋭い犬歯が肌に刺さり、中々痛いのだが血は出ずに済んだ。
やっぱり大きな声で言ったのは不味かったかな、彼女を恥ずかしがらせてしまったのは本当に申し訳なく、どう謝っていいかわからない。
離れたと思うと彼女は全力で、何処かに走り去っていってしまう、とてもじゃないが追いつけそうにない。
「(何でだろ…ジン君を見てたら…すっごい噛みつきたくなっちゃう…それに心臓もバクバクしてるし…ししょーもミアちゃんもこんなの教えてくれなかったよぉ…)」
自分の初めての感情、なんとも理解しづらい気持ち。昨夜から自分が可笑しい、薄れゆく意識の中白刃が迫り、もうだめだと思った自分の前に立っていたのはジンだった。
そう守ってもらった事はある、師匠やギリアムに何度も窮地を救ってもらった。だが…こんな経験は初めてなのだ。
小さな胸が張り裂けそうな程脈を打ち、異常な程彼に噛みつきたくなる、彼の放つ落ち着く香り、この気持ちの正体は何だろうか。でもこの事を彼に聞くのは出来ない、何故か出来ない。
恥ずかしいとか、聞きにくい、なんて言葉じゃ形容が出来ない。
彼に似合うと言ってもらったこのスカートを購入し、今は宝物の様に握りしめている。彼の言葉が胸の奥で反響して、体温が上昇してしまう。
「なんでだろ…」
To Be Continued




