第4-8話 リッパー
あれからしばらくすると、太陽は沈み例の通り魔の時間がやって来た。
皆通り魔を恐れてか、街道に人の姿や気配は無く静寂が街を包んでいる。そして僕達は今、先日事件が有ったという裏路地へ来て対象の痕跡となるものを探している。
「ん~…無いねージン君」
「そうだね…ん?これ何だろ?」
裏路地の荷物等をどけながら周囲を散策していると、1枚の布切れを発見しアスタちゃんと一緒に観察に入る。
「布?ハンカチにしては小さいし…」
観察をしていると、彼女は鼻をその布に近づけ匂いを嗅ぎ始めると、何やら不快そうに顔を歪ませた。
「これ…リッパーの服の一部じゃないかな?なんかね染み付いた血の匂いがするの」
そうしていると背後から、重い足音が聞こえ2人でそちらへ気を向け、いつでも戦闘に入れるよう僕はジキル&ハイドに手を、アスタちゃんは腰を低く落とし、腰に携えるダガーへと手を当てる。
闇から現れたのは、長く伸びた鼻と大きく裂けた口に、全身黒と白のツートンカラーの体毛が特徴的な隻眼の人狼。
「こぉぉぉぉぉっらお前ら!こんな時間に何やってんだバカタレ!」
姿を表したのは、王城で出会ったガルムさんだった。こちらに真っ先に気付き巡回ルートから離れ、追ってきたそうだ。
僕もアスタちゃんも彼から重いげんこつを貰い、2人揃って涙目になってしまう。
「ったく…今城下町の夜は危ねぇってのに…ジュンは何も言ってねぇのか?」
「そっ…その事なんですが…、赤岩さんから通り魔を撃退して、憲兵隊に引き渡せって言われて…」
その言葉に驚きを隠せないガルムさんは、胸の辺りで太い腕を組み唸っている。
「てっきり俺はギリアムかジュンが来ると思ってたからなぁ…」
頭を掻きながら、なにか悩んだ彼は決心したように言葉を続ける。
「はぁ…まぁジュンが寄越したって事は、それなりの力量はあるんだろ…いいか2人共、通り魔は魔人じゃないと言っても、普通の人間かも怪しい、無茶だけはするなよ!」
いいな!と強めに念を押し、彼は他の巡回兵の元へ戻っていくのを確認すると、僕達も再度路地裏を2人で進んでいく。
路地裏を進んでいると、先程までニコニコと笑っていたアスタちゃんだったが、急に顔を引き締め何処かへ走っていく。
「どっどうしたの、アスタちゃん!」
「ジン君!やばいよ、近くで血の匂いがする!」
僕では気づけない、風に乗って運ばれる血の匂いに彼女は反応をし、直ぐ様そちらの方へと走っていく。
「たっ助けて…誰か!」
「んっん~悪い人達だ、こんな夜更けにデートなんて、今は通り魔が出るから危ないのにさ~」
破壊された木箱に横たわるよう男性は気絶し、女性は肩にナイフが突き刺さって、必死にもがき助けを求めている。
負傷した女性にゆっくりと歩み寄る、仮面を付け濃紺の布を纏った男。
「守ってくれる彼氏は気絶しちゃったし…はてさてどうしたもんか、殺すにしてもアッサリしてしまっては面白みがない…」
女性の長い髪を掴み上げ、仮面越しでも解る好奇の目は狂っているとしか言いようがない、そんな男は迫りくる幾つもの光源を認識すると、その身を軽く翻しかわしていく。
「アスタちゃん!2人共命には別状は無いよ!大丈夫!」
少年がそう言うと、上空から天を舞う天女の様に、一人の緑髪の少女は空中で体を捻り、踵を通り魔めがけ一直線に振り下ろす。
振り下ろされた踵は、地面をえぐりレンガ等たやすく砕いてしまうも、通り魔にはかすり傷一つ与えていない。
「ジン君!そっちはお願いね!アスタはこいつやっつけるから!」
「うっうん…、気を付けてね」
仁は男性を背負い上げ、肩にナイフが突き刺さった女性を傍らに一度戦線を離脱していく。
アスタVS通り魔 リッパー 開戦
「ん~…実に不愉快だ、せっかくの玩具を取られてしまったよ」
「おもちゃ?…それって、あの人達の事?」
「そうさ、でも気が変わった。…あの少年の前で君をたっぷり蹂躙し、2人絶望を背負ってあの世に行ってもらうとしよう」
男は仮面越しにクスリと笑うと、急に2人に分裂した。
「驚いたろ?恐怖したろ?不思議だろ?」
自慢の技を披露するかのように、2人から3人へ、そこから3人から4人へと分裂を続けていく。ゆっくりと4人は足並みを揃え、アスタの方へと近づいてくる。
「別に~、だってそんな事ししょーも出来るし、もっといっぱい増えるよ!」
引き合いにジュンを出す彼女は、リッパーの分裂をいともたやすく見破っている。
現象としては【残像】に近い、一般人なら見切るのは不能な芸当だが、高速帯で活動が出来る彼女からすれば、動体視力が一般人より並外れておりどれが本体かいとも容易く視えるのだ。
「ならこれはどうだい?」
四方から飛び交う無数のナイフは、アスタめがけ一直線に襲いかかるが、急にナイフは何処かあらぬ方向へ飛び、アスタは手に持っていなかったダガーを抜刀している。
なぜだかと言うと、ナイフが投げられた瞬間にアスタを中心に空間はゆっくりと時間は進み、0.1秒は1秒に1秒は1分に進む、高速の世界で生きる彼女は並外れた動体視力と風の恩恵により、視認不可能な速度で動くことが可能だからだ。
「なっ何だ、その速度は…」
「おじさん…遅いよ」
本体の前へと姿を表したアスタ、ダガーを持たない左の拳でリッパーの顎を撃ち抜いていく。
仮面はひび割れ上空を舞うリッパー、加速状態から繰り出される一撃はリッパーを再起不能にまでしてしまう。
「アスタちゃん!大丈夫!?」
そこへ仁がやって来ると同時に、リッパーは空から頭から落ちてくる、脳が揺れ立ち上がる事すら不能な彼は仁とアスタにより、近くの荒縄で拘束されてしまう。
「やったねジン君!これで終わりだよ!」
そう言い僕の両手を握りしめる彼女は、ブンブンと上下に振り今回の任務が終了したと言ってくれる。
戦闘に関しては彼女に任せきりだったが、彼女も無事であのカップルも無事だったから喜ぶべきなのだろうと、彼女と共に終了を喜んでいる所にガルムさん率いる巡回兵がやって来る。
「…もう終わったのか…、これじゃあ俺達の立つ瀬がないなぁ」
そう言いながらもガルムさんは部下に、リッパーの身柄を預けると僕達の頭を豪快に撫で、今回の事を祝福してくれる。
その時僕等3人は、急に体が重くなり立つことすら不能になってしまう。
「なっ…なんですか…こ…れは…」
「こっこれは…、おっ…おそらく、魔封具の類だ…、体内の魔力を乱されてる…」
ガルムさんがそう言うと、遠くからリッパーを確保したと思われる巡回兵達の悲鳴が聞こえ、風に乗り血の匂いが運ばれてくる。
歩くことも立つこともままならない僕等の前に、白銀の鎧と兜を身に纏った男がゆっくりと歩いてくる、1番印象的なのは右の手の甲に装着された、淡い水色の宝石だ。
兜の中で反響した声は、特殊な魔術なのだろうか2重にも3重にも響いて聞こえ、鎧の人物が男という事しかわからない。
「奴を倒したと言うことは…やはり赤岩探偵事務所が動いたか…予定よりも早く事を進めなければならんな…」
白銀の男が腰に携えたブレードを抜刀すると、青い顔をし横たわるアスタちゃんに向け振り下ろそうとする。
重たくなった体を引き起こし、その一撃をジキル&ハイドで防ぎ切る。サブローさんや庄司君の一撃に比べれば、何てことはないが、何故か体の力が抜けていく。
「ふむ…この結界発動中でも、動くことが可能か…なんとも煩わしい、だがこの結界がある限り誰も俺には勝てん。」
そう言った男はグラつく仁の腹部を蹴り抜き、壁へと激突させる。
混濁した意識、猛烈な腹部の痛み、乱れた体内魔力、それにより仁は悲鳴無く横たわり意識を失ってしまう。
「イーリア国・全体指揮長ガルム、今日は時間が無いので貴様を殺すのは今度だ。最後に一つ言って置いてやろう…『コノウラミハラサデオクベキカ』」
そうガルムを指差し言い残すと、夜の闇に紛れ白銀の男は姿を消していく。
To Be Continued




