第4-5話 ジキル&ハイド 大型アップデート
心臓が早く鼓動を打ち、彼女を見る度に体の温度が上がる。それは昨夜に見た光景のせいか、それとも他の要因なのかは不明だが、顔が熱くまともに彼女に顔を合わせられない。
朝食を済ませミアさんに僕とアスタちゃんは呼び出された、一通の書類とお金が入った小袋を手渡され、説明が入る。
「ジンさん、これから暫く2人で協力し城下町で、危険人物『通称・リッパー』の無力化及び、憲兵隊への引き渡し任務へと入っていただきます。作戦指揮に関しては、現地で2人よく話し合って決める事、今回私達は力を貸せません。その事をよく考え、無茶な怪我などしないよう気を付けて下さいね」
ミアさんから説明を受け、手渡された資料を読み込む。
「『通称・リッパー』命名は赤岩順。地球の人斬りジャック・ザ・リッパーから引用。主に使用する武器は、死傷者の傷から小型の刀剣類と推測される。身長は約180cm中頃から後半、細身の体で軽業師の様に壁や周囲の障害物を足場に逃走する、その身軽さから憲兵隊は追跡困難とし、今回赤岩探偵事務所に依頼をした。」
書類を朗読していると、アスタちゃんは自分の目でも追うように、書類を覗き込み繊細な情報を記憶していく。
「また不思議な、流動体を模した様な白と黒の仮面に、全身濃紺のコートにその身を包み、夜の街を歩く15~30代の男女を無差別に攻撃する残忍性により、第一級犯罪者と認定。事前の調べにより魔人では無いことは確定。だってアスタちゃん…大丈夫かな?」
「うん!悪いやつは懲らしめないと!それにししょーより強くないなら勝てるよ!」
自分の胸を強く叩き、自信たっぷりのアスタちゃんは、笑いながら尻込みする僕を元気づける。
「うん!頑張ろうねアスタちゃん!」
握手を交わすと、彼女の柔らかい手がギュッと握り返され、その真っ白な尻尾はゆらゆらと風に煽られるように揺れている。
その時庭の方から、激しい破裂音が聞こえ、食堂の窓から身を乗り出し2人で覗き込んでいると、真っ黒の銃身に黄金の刃が装着されている魔導銃『ハイド』を構えた赤岩さんに、何やらメモをいそいそと書いているリューコさんが居た。
~~~屋敷・庭~~~
「赤岩さん!どうしたんですか?」
「おぉ仁君か。いやちょっとハイドの試し打ちをしてたんだよ。リューコがジキルとハイドを強化したんで、そのデータ収集だよ。」
その光景を見ていると、ハイドは以前から防御用というのと、ここぞという時用に使うための高火力の銃の為、ジキルより耐久度は上だが連射は効かない銃だが、今赤岩さんが打つと銃口から打たれた火の魔弾は、激しい爆発音に加え着弾点を燃焼させていた・
「ハイドはいい感じに仕上がったな、次はジキル…っと」
彼は手に持つ魔導銃を机に置き、もう一丁の魔導銃へと持ち替える、その銃口は薪に狙いを定めると、トリガーを引いている間に何発もの魔弾を打ち宙に打ち上げた薪を何度も弾いていく。
赤岩さんは正確に狙いを定め、百発百中の精度で薪を撃ち抜いていくと、薪の着弾点には火の魔弾の影響か焦げ跡と、衝撃による削れ跡とへこみが生じている。
「ジュン、もういいわよ。必要なデータは取れた、あっジン君良い所に!」
リューコさんは今僕に気付いたのか、キラキラと目を光らせ赤岩さんを突き飛ばし、ジキル&ハイドを試し打ちするよう両手を握りながら催促してくる。
それに勢い負けしたかのように、僕は赤岩さんから受け取ったジキルを受け取ると不思議な感覚が手から感じられた、今までは無機質な感覚だったが、今は僕が魔力を込めるのに合わせ脈打つように感じられ、どこか生物的な印象を与えた。
「どうした仁君?」
「いっいえ…なんか、ジキルが呼吸というか…僕の手に吸い付くような感覚がして…」
「…?俺のときはそんな事無かったぞ」
ジキルを試しに撃ってみると、今までとは圧倒的に火力が違う、数発連射した所で体が威力に負け尻もちを付いてしまう。
「ジン君!!!ちょっと撃つの待って!!!」
再度撃ち始めようとした時、リューコさんが突然僕を静止させ、撃った薪に駆け寄り銃痕を舐めるように見つめている。
「ジュン…これ見て」
彼女は焦った表情で赤岩さんを呼ぶと、その薪を彼に見せ詳しく状況説明を始めた。
「ジュン、これがあんたの火の魔弾で撃った箇所ね。表面が焦げて周りは炭になってる。それでこれがジン君の撃った箇所、見て弾が貫通して向こうの景色が見えちゃってる」
「!!!これが光の魔弾、俺の撃った弾より火力が段違いだ、それにこの貫通力は凄いな…想定以上だ!!」
彼らが戻ってくると、今度はハイドを上空に向け撃つよう指示をされ、その指示通り空を通過する雲めがけ、全力で魔力を注ぎ打ち込むと、空気の激しい揺れと共にめがけた雲を打ち抜くレーザービームが発射された。
ひと目見て異常な威力というのは解るが、それよりも不思議なのは自分の体が【身体強化】も使っていないのに無事だったこと、それとハイドが全く破損等していないことだ。
「リューコ…このジキル&ハイドにロック機能は付けることは可能か?」
「言われるまでも無いわよ、ちゃちゃっと改造すればジン君以外使えないようにするなんて朝飯前よ。ねっジン君次はさ小刀モードにしてトリガーを引いてくれない?」
そう言われるまま、モードを変えトリガーを引くと、その時不思議な事が起こった。
光の粒子は刀身を延長させるように形作り、約刀身だけで1mはある長さまで成長する。その刀身は淡く光り、見るもの全てを魅入らせる不思議な輝きを帯びている。
「ジン君、それが今回の改造の大本命よ。そうね…ジュン、軽くジン君と手合わせしてくれない?」
そう彼女が言うと、赤岩さんも快く了解し僕に同意を求めてくる、僕もただの手合わせなら渋る理由は無いし、何より赤岩さんとの手合わせは初めてで、とてもドキドキしている。
2人は適切な位置まで離れると、後ろを付いてきたアスタちゃんは、リューコさんと共にベンチへ座りこちらを見つめている。
「仁君、俺も軽い力で行くけど…怪我だけはしてくれるなよ」
そう言うと彼はいつかのごとく、その両手をポケットに仕舞いゆっくりと僕を見据える。
僕は2丁の銃を小刀モードにしたまま、赤岩さんに斬りかかると彼は受け止めるではなく、何故か後ろに避け距離をとった。
何度も何度も斬りかかるが、彼は無重力の宇宙を飛び回る、宇宙飛行士の如く華麗に攻撃をかわしてみせる。
しばらくするとデータの収集が終わったのか、リューコさんは僕達の手合わせを止めた。そして彼女の指示のもと魔導銃を預け、中庭を後にする。
~~~中庭・ジュン&リューコ~~~
「あんたにしては珍しいわね、攻撃をただ避けるだけなんて」
「…リューコ、もう一度俺の体を詳しく調べてくれ。」
いつものニヤついた表情ではなく、真剣そのものでジュンはリューコへ願う。自分の体に関して、1種の疑惑が生じたのだ。
「これはあくまでも仮定の話だ、ミアには言わんで欲しい」
「…何よ、ハッキリ言いなさい」
「俺の体さ…魔族かも知れん」
リューコは絶句し、ジュンも自分の勘違いであって欲しいと願うが、彼は感じていたのだ。仁との手合わせ中、最初は刀身に触れ詳細を調べようとしたが、本能が警鐘を鳴らした。
その感覚は随分と久し振りで、顔に出す事は無いにしろ、背中にはびっしょりと汗を掻き、心臓の鼓動は早まっていた。
「…わかった、ミアちゃんには言わないわ。定期検診って名目で言っておくから、後であたしの研究所に来て。」
「あぁ…」
赤岩順、この男の正体はいかに?
To Be Continued




