第4-4話 背中で語れ
やはりこの家の風呂はとてつもなくでかい、こんな風呂を掃除するのは流石のミアさんでも、骨が折れるだろうなと思いながらもこの日本旅館によくある様な、この露天風呂の湯船に身を落としていく。
赤岩さんはそんな歳では無いだろうに、湯船に体を鎮めると「あぁ~」と気持ちよさそうな声を上げ、目も普段以上に細めトロンとさせている。
そこに服の上からでは、全く解らなかったが生々しい傷が体のいたる所にあり、獣人国での傷もまだ抜糸が完了していないギリアムさんがやって来た。
「グゥっ…ふぅ…この湯は傷によく効くな…ヘタレ、居たのか」
「はっはい…ギリアムさん大丈夫ですか?その傷…まだ完治してませんよね?」
「ふん…これくらい、何ともない…」
一応動ける事に関しては安心するべきだろう、特に目立った後遺症等もなく本当に嬉しいばかりだ。
少し不謹慎かも知れないのだが、新しい傷口は切り口がまるで桜の花弁を思わせる形を作り、彼の真っ白な肌も相まって本当の桜の様に見えてしまう。
赤岩さんが熱燗をゆっくり盃に汲むと、ギリアムさんに向け手渡した。
「ギリアム、これからもっとロザミア達との戦いは激化する、俺から一つ命令を与える、良く聞け」
「言ってみろ、ふざけたこと言ったらぶっ飛ばすがな」
受け取った盃をグイッと飲み干し、赤岩さんに再度目を向けた彼は、普段の喧嘩している様子などは全く見せず、命令が下されるのをただ待っている。
「『死ぬな』それが命令だ、お前にはこれから単独で、亜人国家の方へ向かってもらう、今回は魔人とは関係のない依頼だが、これから俺達の戦力増強にもなる可能性を秘めた任務だ。お前にしか任せられん」
赤岩さんがそう言うと、指先で小石程の大きさに固められた氷塊が赤岩さんの額にぶつけられる、ぶつけた本人のギリアムさんはほくそ笑み、自信を誇示するかの如くふんぞり返り岩に手を掛け、胸を張っている。
「アホか、一体俺を何だと思っている。そこまで手のかかる幼児では無い、だが…その命令『道具』として順守しよう」
そう言うとギリアムさんは、僕等より早く湯船を後にしていく、背中にも無数の傷が見えるがどれもとてつもなく古いもの、それも傷としては小さい跡が大きく伸びたかのような、彼の歴史は戦ってきた傷の広がり方を見れば一目瞭然だ。
「俺たちも出るか!」
と言った赤岩さんの背中も、火傷・裂傷・破裂傷さまざまな傷を背負っており、様々な戦場を渡り歩いた男の背中。
この男2人の背中は、物語の1ページとして本人の体に描かれ、そして見るものには物語を読み聞かせるように背中で語る、それが背中で語る男達なのだ。
~~~屋敷・風呂場前~~~
廊下をゆったりと歩いていると、背後から何かが突進してきた感触がし、そちらを振り向くと白雪の様な色白の肌に、すっかり温まった血流で赤く染まった林檎の様な肩、髪はしっとりと濡れどこか色気さえ感じる少女のライトグリーンの髪。
「ジンくーーーん!助けて!ミアちゃんがいじめるよーーーっ!」
「へっ!?あっアス…アスタちゃん!?なっななな、なんでそんな格好で」
「逃げてきたの!お風呂嫌って言ってるのに!」
そういった彼女が体に纏うは、たった1枚の真っ白なバスタオルのみ、これは健康な青少年にはある意味『目の毒』だ。
恥じらう様子は全く見せない彼女は、仁を盾にする様に背に隠れる。
「もうっ!アスタちゃん!ちゃんと拭かないと風邪を引きますよ!」
「いーーーやーーーーっ!!!それにししょーは言ってたよ!「アスタは風邪引かねぇから、大丈夫だ」って!!」
アスタちゃん…気付いて…それ、バカにされてるから。
シャツに丈の短いズボン、という普段のメイド服からは考えつかないミアさん、は少し怒ったようにアスタちゃんとの距離をジリジリと詰めていく。
そうして睨み合った2人だが、背後から急に何かが落ちる音がすると思い悟った、男としては誰でも興味がある光景ではあるが…友人としては決して見てはいけない光景が、今仁の背後に展開されている。
首を動かせばすぐ…そう『すぐそこ』なのだ!
男を取るか、彼女に対しての良き友人を取るか。
頭が風呂に長時間浸かった訳でもない仁は、耳まで真っ赤にし目がグルグルと回っている。
「ジンさん…すみません!!!」
ミアさんの神速の拳打は、見事に僕の鳩尾ちを捉え鈍い音を響かせ、急にテレビの電源を切ったかの如く、意識が消えていく。
~~~翌日・食堂~~~
鈍痛が響く鳩尾ちを抑え、食事の席に着くが意識が途絶える数秒の記憶が無い、ミアさんに突然謝られた所まではほんのり覚えているのだが…
「おっ、来た来た。おはよう仁君」
少し頬を赤らめるミアさんの前で、赤岩さんは朝食のトーストをかじりながら、ニヤつきながらこちらを見つめる。
「ジっジンさん…昨夜はすみません…緊急事態だったですので…」
深々と頭を下げるミアさん、直近の記憶があやふや過ぎて何故謝られているのか解らない。
そうしていると、赤岩さんが隣まで歩いてきてある言葉を耳打ちする。
「どうだった?好きな子の『すっぽんぽん』は」
思い出した瞬間に、昨夜の様に頭の先からつま先まで血液が沸騰していく。…って言うかこの人今なんつった!?
「おはよ~…」
寝惚け眼を擦り、眠たげな声で食堂に来るアスちゃんを見ると、赤岩さんの言葉を思い出して心臓が痛い位「ビクッ」をはねて、不規則な鼓動を始める。
一体彼女とどんな風に接したもんか、思春期独特の悩みで思考を巡らせる仁。
この童貞に春は来るのか…
To Be Continued




