第4-3話 大人
屋敷に帰ったのは、太陽が姿を消し夜になった頃だった。
真っ先にいつもの如く、ミアさんが扉を開け出迎えてくれ、その後ろを付いていく様に僕等は歩いていくが、屋敷に入った時1番に目に入ったのはリューコさんだった。
いつもの魔女服とは違う、完全にオフの服装で眼鏡を付け、書類を見ながらブツブツと言いながらフラフラと歩き回っている、白いTシャツを上に着ているが、何故か大々的に『サラダ油』と書かれている。
「あ…赤岩さん…もしかしてあの服も、赤岩さんが?」
「おう、着心地が良いとか言って、ホントは俺が着るやつをぶんどられたんだよ。」
何故『サラダ油』なのか、聞きたかったが色んな意味で突っ込んだら駄目な気がして、そのまま口をつぐむ。
「あのダサT割と力作だったのにな…」
赤岩さんはどこか拗ねた表情だが、直ぐにいつものケロッとした表情に戻ると、一緒に食堂へ行くことになった。
「あれ?リューコさんは誘わないんですか?」
「ん?あー…リューコはあぁなると周りの声が聞こえなくなるんだよ、気が済んだらその内に食堂に来るさ」
「理論的にはここに魔導線を経由して…、そこから圧縮して打ち出す。そうすると、ここの回路が塞がれて…となれば、このAのパーツをここに組み込んで…」
何かを閃いたリューコさんは、床にバッと紙を広げ物凄い勢いで何かを書きあげている、普段の彼女は知っているが研究者としてスイッチが入った彼女は、凄いを通り越して不気味だ。
~~~屋敷・食堂~~~
「ジン君おかえりー!」
ここで出迎えてくれたのは、アスタちゃんだった、自分の食事はもう既に配膳されているのに、僕と赤岩さんが帰るまで食べないと言っていたらしく、食事は既に冷え切っている。
「ねーねージン君、城下町はどうだった?」
「すごく楽しかったよ、それに国王様やミアさんのお師匠さんとも会えたし」
「そっか!あっそうだ!お城にこわーい顔した狼の人居なかった?」
「あー!居たよ!ガルムさんだよね?」
そのあとガルムさんと、アスタちゃんは過去に彼と赤岩さんの3人で冒険をしたことがあると、懐かしさを思い出すように気の抜けた笑顔をこちらへ向けてくれる。
旅が終わると3人は、それぞれの場所へ帰るように散り散りになったが、今こうしてアスタちゃんと赤岩さんは共に仕事をし、ガルムさんとも城下町でたまにすれ違う度に会話出来るのが嬉しいと。
「…ん?なんだ~仁君、ヤキモチか~?」
ニヤついた赤岩さんは、僕を見ると不機嫌そうな顔をしてる様に写ったのか、からかった様に茶々を入れてくる。全くそんな事は無いが、からかわれた事によるものか、とても頬が熱くなってきた。
「ちっ違いますよ!」
ミアさんは赤岩さんの横で、話しを聞きながらクスクスと笑っているが、止める気配は一切無い。
「ヤキモチ?ししょー、なにそれ?」
「ん?それはなぁ…仁君に聞いてみ」
食事中だと言うのに、顔を覗き込むように彼女はこちらを見つめ、先の言葉の意味を質問してくる。そのエメラルドの瞳には、自分の顔がハッキリ映る程透き通っており、見つめられ真っ赤にゆだってしまう。
「えー…えっと、ヤキモチっていうのは、もち米っていう米を練った餅を焼いた物だよ!すっごく美味しんだよ!」
「(あ…逃げた)」
「(逃げましたね)」
我ながらも少々苦しい言い訳に思える、だがアスタちゃんはそれをすっかり信じ込み、ミアさんに今度食べたいとねだっている。
一人顔を真赤にしながら、食を進めていくが急に食堂の扉が強く開かれた。
扉を開けたのは、玄関でブツブツと不気味な独り言を言っていた、リューコさんだった。そのピンクの髪をなびかせ、肩で風を切りながら、こちらへ何かを睨んだような表情で歩み寄ってくる。
すると急に彼女から、腰の辺りをまさぐられたと思うと、素早い手の動きで『ジキル&ハイド』を奪い取り、自分の研究所の方向へと歩き去っていく。
「なっなんだ…ったんですか?今の」
「さぁ、知らん」
一通り食事が済むと、それぞれ食器を洗い場へと持っていく。
「あっミアさん、良かったら洗うのお手伝いします!」
「あら?んー…それじゃ、少しお言葉に甘えちゃいますね」
キッチンには水道設備に似た、魔術道具が配備されており、ミアさんに教えてもらった情報では、赤岩さんの地球でのキッチンを魔術道具で再現したものらしい、屋敷の上に備え付けられた貯水タンクから、水が送られ使った水はろ過器を通し、畑に撒かれていると大雑把に説明をしてもらった。
寒い冬の季節には、大変重宝するとミアさんは楽しげに語っていた、冷水で洗うのは本当に辛い作業だと言っていたのを聞いた赤岩さんが、やがて温水まで出るようにしたのにはお驚いたらしい。
「ジンさんはここに来てからどうですか?辛くないですか?」
洗い終わった皿を、手拭いで拭きながらミアさんは話しかけてくれる、昼も赤岩さんにされた同じ内容のものだ。
「辛くない…訳じゃないですけど、ここに来てからが毎日楽しいです。地球に居た頃じゃ考えられないくらい」
そう言ったらミアさんは、ギュッと優しく背後から子供をあやす母のように抱きしめてくれる。
「それなら良かったです。サブローさんの件、聞きましたよ。落ち込むなとは言いませんし、ここには私やジュンさんと言う大人が居るんです、辛い時は私達、大人に相談してください」
獣人国から帰ってきた僕は、サブローさんの事があったのに1度も涙をしていない事を心配してくれたのか、彼女は優しい言葉を掛けてくれる。
「おーいミアー」
そこに赤岩さんが入ってきた、こちらを見ると「プッ」と笑い、また茶化して来る。
「なんだ~仁君、アスタに照れるだけじゃなく、ミアに甘えてんのか?まだまだおこちゃまだな~」
笑いながら頭をガシガシと撫でる赤岩さん、いつもの様にその豪快な笑顔は少し父親の様な雰囲気を醸し、ミアさんの雰囲気も合わさり2人が父と母のように思えてしまう。
「仁君サブローさんの件、どう思う?」
椅子に座りこちらに向け、笑顔で話しかけてくれる彼は、僕の思いを確認するよう質問を投げてくる。
「辛いです…でも、今は泣いてる場合じゃない、少しでも強くなって、一人でも多く誰かを助けてあげれる人になりたいんです」
「そうか…ミア、あれ用意しててくれるか?」
「はいはい、わかりましたよ」
微笑みながら彼女は、キッチンから退出しどこかへ歩いていく、慌てる素振りなどもなく、事前に打ち合わせをして僕のこの言葉を待っていたように。
「仁君、ここに来てめちゃくちゃ早い段階だけどさ、ウチも今人手が足りないんだ。だから君には次の任務をアスタと2人だけで受けてもらう、それが君の研修期間卒業の任務だ」
「えっ!?もうですか?」
「あぁ、もうだ。正直な話しな、実力なんざ場数を踏めばなんとでもなる、それに生きて帰って欲しいから、絶対にパートナーは付ける。俺達に必要なのは『誰かを守ろうとする心構え』それが、きちんと本心から言い切れる様になった君には、もう研修期間は必要無いと俺が判断したんだよ」
「あっ…ありがとう…ございます」
「それにギリアムとアスタから聞いたぞ、九尾ちゃんを守ろうとして大怪我を負ったし、アスタを守る為にあの庄司とか言う転生者と戦って生き残ったんだろ、それだけやりゃもう一人前だ、自信持てよ。」
詳しい説明は後ほどミアさんからの説明があるとのことで、僕と赤岩さんは風呂場に向かうことにした。
To Be Continued




