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異世界の語り部~僕は主人公じゃない  作者: 時雨
第4章 裏切り者をぶっ飛ばせ! 編
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第4-2話 王とオカマ

 ガルムさんと別れた後、2人で絢爛豪華な王城を歩いていると、廊下から陽の光で照らされ若葉色の草が、絨毯でも敷いたように敷き詰められている中庭を発見した。

 その中庭の中心には、筋肉隆々の長い金髪の髪を一本に結び、上半身裸で拳を空に振っている大男が目に入った。洗練されたその体の動きは、1種の芸術に近く見るものを圧倒し感動させる、流れる水のように緩急を付け、時には激しく打ち、時には拳をひねり体を回転させ型を取る。

 横顔は皺を深く掘らせ、目の堀は深く中から一つの宝石の様な蒼眼が覗き、空想上の敵をしっかりと見据え目で追う。長い年月を掛け鍛え上げられた筋肉は、白い肌には似合わぬ火傷痕・裂傷痕が浮かび、まるで鍾乳石の様な歴史を感じさせる。

 腰から下は白く長いズボンを履いているが、はち切れんばかりに発達した、筋肉はズボンを広げ外からでも解るほどぴっちりと仕舞われている。

「おーい、おやっさん!トレーニング中悪い!久し振り!」

 赤岩さんは彼に話しかけ横に並ぶが、彼の身長は約170cm程に比べると、おやっさんと呼ばれた男は赤岩さんを遥かに凌駕する190cm程か、2人並ぶと赤岩さんが子供に見える程に差が空いている。

「おぉジュンか!久しいな!どうした?」

「ははは、今回は直接書類を渡しに来たのと、ウチの新しいのを紹介しようと思ってな」


 僕はガルムさんの時と同様に、手招きをされ彼の横に立つと、おそらくこの眼の前の大男が赤岩さんの言っていた国王様なのだろう、彼の前に立つと天高く登った太陽が隠れ、僕はその陰の中にすっぽりと入ってしまう。

「こっちは俺と同じ地球から来た、『岡野 仁』君だ。これからこの子もよろしく。んで仁君この人が、ミアの義理の親父兼この国のトップの国王様だ、失礼のないようにな」

「おっ岡野仁です…はじめまして…」

 緊張のあまり声が裏返り、プルプルと腕を震わせながら握手をするが、国王様の手は僕の手の何倍もあるような大きな掌で握手を返してくれる。

「おうよろしくな。儂はジュンの紹介の通り国王の『ギルバート・フェン・イーリア』じゃ。…にしても、ジュンこの坊はひょろっこいのぉ…本当にお主と同じ地球出身か?」

「アホか!地球じゃこの子くらいが普通サイズだよ!俺がちょっと鍛えてた部類に入るんだよ」

 孫を心配するかのように、僕の体を触りいとも容易く持ち上げる国王様、赤岩さんは確かに地球でも鍛えた人には入る部類だ、それと比べられると少し僕は貧弱に映るのは必然だが、少々悲しくなってきた。


「ジュン!久し振りに会った記念じゃ!いっちょ手合わせせんか?」

 僕を下ろすと、国王様は赤岩さんの肩に手を置き、満面の笑みで爽やかに誘うと赤岩さんは、やれやれと言ってから上着二枚を僕に預け、白いシャツの腕をまくり僕に離れたベンチの所へ行くよう指示を言う。

「仁君悪いな、この人言い出すと聞かねぇから。衝撃波で怪我しないよう気をつけなよ」


 そう言われると2人から距離を取る為、駆け足でベンチに向かう。…今この人なんて言った?!


 もう考えた時には遅かった、2人の振りかぶった拳と拳がぶつかると、まるで重機と重機がぶつかるような激しい音に加え、空気を伝う並々ならぬ衝撃波で、簡単に僕の体はベンチから転げ落ちる。

 互いの戦車の大砲の様な一撃は、ぶつかり合う度に激しい轟音と衝撃波を撒き散らす、次第に速度は上がっていき2人共腕が6本7本はあるように見えてしまう。

「ジュンや、最近仕事はどうじゃ?お主がカイシャ?とやらを作ると言ったときは心底驚いたぞ」

「あ~異世界こっちじゃ、珍しいと思ってな。あくまでやってることは魔人の討伐と、殺しをしない傭兵業みたいなもんだから、やっぱ大変だよ。でも楽しいぜ」

「そうか、それは良かった!そうそうミアは元気か?最近顔を見せてくれんでな、シュリも寂しがっていおる」

「元気だぜ。本当にいい女だよ、今度2人で遊びに来るからさ。もう毎日惚れ直しちゃって大変だぜ」

「そうじゃろそうじゃろ、儂や妻が丹精込めて可愛がった娘の一人じゃからの」


 2人がこんな世間話しをしているのだが、あくまで手合わせ中で衝撃波を巻きながらなのだ、2人共人間を大きくかけ離れ人間かどうかも怪しくなってきた。

 巡回をする兵は足を止め、給仕に勤しむメイドも2人を眺め、いつしかギャラリーが庭前の廊下に溢れている。

 あるものは赤岩さんを応援し、またあるものは国王を応援している、一人は正義の象徴、もう一人は国のトップなのだ。互いに人間性はどうあれ、人に慕われ人を導く者としてのカリスマ性の現れがギャラリーを見て取れる。

「いけー国王様!」

最強ザ・ワン様ー!頑張ってー!」



 歓声に巻かれ2人の打ち合いは、更に熱を帯びて拳だけだったが、やがて足技も織り交ぜた実践的な手合わせになりつつある、国王はその巨体とは似ても似つかない軽いフットーワークに、赤岩さんは相手の土俵に合わせ真正面から、打ち合いを続けている。

 談笑を混ぜながらも、2人は爽やかな笑顔で喜々として打ち合いを続けているのだ、まるでスポーツをし健康的な汗を流すように。

 だが僕からすれば、あまりにも知っている常識からかけ離れているので、処理が追いつかない。



 そうして打ち合いが終わったのは、約20分くらい経った頃か、互いに肩で息をして爽やかな汗を流している。

 国王は執務があると良い、若草色のマントと朱色の上着を着こなし、廊下をガハガハと笑いながら歩き去っていく。


「っしゃ…仁君!俺らも帰るついでに、次の目的地行くぞー」

 コートと陣羽織を着直した赤岩さんは、来た道を戻るように歩いていくのを、僕は後ろから追いかけるように小走りで付いていく。

「赤岩さん…僕も鍛えて強くなったら、国王様や赤岩さんみたいに強くなれますか?」

「ん~…わかんねぇな。まぁ仁君は仁君の強さを見つけなさい、俺やおやっさんを真似するのは駄目だぞ、才能のベクトルが違うからな。仁君なら一番近いのはミアかギリアムじゃねぇか?」

 彼は豪快に笑いながらも、戦いに関しては決して軽はずみな発言はせず、僕に似たタイプとしてギリアムさんやミアさんを名指す。


~~~城下町・酒場「エンジェル・キッス」~~~

 大通りからは離れ、薄暗い路地裏の一角にある怪しい酒場へと来ていた。

 看板は夕日に照らされ、1枚の扉が不気味な音を立てて開いていく、2人で中に入ると店内は薄暗くまだ準備中なのか、本来付いている照明は消え、一人のドレスを着た大男はモップで床を掃除していた。

「まだ準備中よ、飲みたいならもう少し後の時間に来なさい」

「いや飲み来たんじゃねぇよ。お久しぶりです『カシオ』さん」

 カシオと呼ばれた、女性の様な大男はゆっくりとこちらを向くと、少し疑問が混じった表情でこちらを見つめる。


「ジュン…あんた少し縮んだ?」

「いや…カシオさん、俺はこっちな」

 僕に向けした質問は、あっさりと隣の赤岩さんに訂正される。

「あら~!ジュン、暫く見ない内にあたし好みのいい男になったじゃないの~」

 赤岩さんの方へ視線を戻すと、その鍛え上げられた丸太のような逞しい腕が、赤岩さんを万力で締め付けるよう抱きしめる。これには赤岩さんも「潰れる」と何度も言いながら、悲鳴を上げている。

「カ…カシオさん…ウチの新しいのしょ…紹介するよ『岡野 仁』君だ…」


 熱い抱擁から開放された赤岩さんは、床に寝そべり魂が半分出かかっているのを見て、体が自然と身構えてしまう。

「あらあら、はじめましてね。あたしはカシオ・ショールド、この酒場を経営してんのよ、よろしくねおちびちゃん」

 野太い声に似合わない女性口調、凄まじいギャップとは裏に彼と握手をしていくと、カウンター席に通されジュースを人数分彼?彼女?は出してくれ、にこやかに会話をしてくれる。

「でも珍しいわね。ジュンが人を新しく雇うなんて」

「ん~まぁ色々縁があったんだよ、それにこの子は光魔法を使えるからな、磨けば光ると思ったんだよ」

「あらあら、光魔法ね~伝説だけじゃなかったのね。頑張んなさいよ、おチビちゃん」


 彼の逞しい手は、僕の頭をグリグリと押し付けるように、激しく撫で回している。

「仁君、紹介が少し遅れたね。この人はミアの師匠だ」

「じゃ…じゃあカシオさんも、物凄く強かったり…」

「あぁ超強いぜ、国王と同じ位かな」

 昼に見た国王と同じほどとは、と考えただけでゴクリと生唾を飲み込んでしまう。

「そんな緊張しなくても、取って食ったりしないわよ~。」

 僕の表情を読んだのか、彼はこちらに笑みを向け、緊張をほぐそうとしてくれている。


「ジュン、ミアはどう?元気してるかしら?」

「おう、超元気だぜ。ほんと俺には勿体無い位いい女だよ。飯も美味いし優しいし、超絶美人だからな!」

 赤岩さんは本当にミアさんの事好きなんだな、さっき国王様にも同じ事言ってたし、と思ったがやっぱりあんな綺麗な人が奥さんなら当然なのだろう。

「うふふ、あの子が聞いたら恥ずかしがるでしょうね」

「ははは確かに。ミアはああ見えて結構恥ずかしがり屋だからな」

「そうなんですか?」

「そうだぜ、結婚したての頃はドレスを着て外出するのが、恥ずかしくて嫌だと部屋に閉じ籠もった事もあったんだぜ」


 あの優しくて綺麗なミアさんも、そんな面があったんだと赤岩さんは思い出と言う名のノロケを、カシオさんや僕の居る前で本当に楽しそうに語っている。



 話し込んでいるとすっかり帰る時間になり、席を立って酒場を後にしようとすると、カシオさんが声を掛けてくれた。

「おチビちゃん、近くに来たらいつでも寄りなさい。ジュースくらいは飲ませてあげるからね」

 互いに手を振り、酒場を後にする。



 おだやかな夕日を背に、男二人はバイクに乗る。今日一日で沢山の出会いがあり、仁は少し戸惑いながらも楽しい思い出を噛み締めていた。

 帰ろう我が家へ。


To Be Continued

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