第3-22話 さらば…
剣の重圧に押しつぶされそうになる仁だが、横から氷柱の援護射撃により窮地を乗り越えるも、その場に膝を付いてしまう。
「ヘタレ…生きてるか」
「はぁ…はぁ……はい…」
「応急処置程度だが止血する、後で魔女に治してもらえ」
彼は駆け寄り仁の背中の傷口を、凍結させ止血として一時的に傷口を塞ぐと、仁に九尾を安全な所へ向かわせるよう支持を出す。
「ギリアムさん…、それじゃあギリアムさんが一人に!」
「馬鹿野郎、戦争ってのは大将取られたら終わりなんだよ。九尾は今は俺達の大将だ、こいつに死なれたら誰が今回の金を払うんだ?」
彼のいつもの無表情での悪態、それを何度も見てきた仁は彼に任せ九尾を屋敷内へと向かわすが、九尾は立ち止まった。
「きゅ…九尾様!早く!」
「嫌じゃ…何故大人達は我に何の説明もしてくれぬのだ!突然変な魔物に襲われて…サブローとお主らが殺し合う…それを何故説明しようとせん!!答えろ仁!何故サブローは我らを襲うのじゃ!!」
涙ながらサブローとギリアムの殺し合いを目にし、温室育ちで可愛がられて育った彼女にはさぞ不安な光景だったのだろう、それに詳しい説明もしてくれず戻ると言ったサブローは様子がおかしい、混乱するなと言うのが無理な話だ。
その時ギリアムさん達の方から、以前感じた殺気のような鋭い感覚が僕の肌を刺した、ふいにそちらの方を振り返ると、剣を構えたサブローさんが振り下ろした瞬間にギリアムさんは対角線上の壁へ吹き飛んでいった。
体からおびただしい量の血に咥え、体には浅いながらも8つの斬撃跡がくっきりと付いており、その切り傷から血が滲み出し白いコートを彩る。
「月見桜・八重…これを拙者に使わせるとは…賊にするには惜しい男だ。だが仇を成す賊は切り伏せる…」
一瞬八斬のサブローの奥義、仁さえも見たことはなく『奥の手』と言った所か、瓦礫の中からギリアムは体を起こしその2本の足で地面を踏む。
「あと一瞬…いや1瞬き遅れていたら…殺されていた。」
サブローが正面に剣を構え、先程の技をもう一度放とうとする、これが発動してしまえば必ずギリアムは『死ぬ』、動きもままならぬ体に激痛が走る彼、回避なんて出来るはずがない。
その時頭上から、黒い服の男がやって来た。
着地した衝撃で、地面の小石は吹き飛びサブローは風圧で立つことすらままならない、そうジュンが到着したのだ。
「よっギリアム、生きてるか?」
「あぁ…遅えんだよクソッタレ。狐が魔人化した…それに瘴気を帯びてる。」
「わかった…、後は俺が引き受ける。巻き添えで死ぬなよ」
「言ってろ」
ギリアムは膝を付くどころか、正面から地面に倒れ込み戦闘不能となってしまう、そしてジュンは本来構えなど必要としないが、左足を前に右足を引き、右手で握り拳を作り左手は腰のあたりで握る。
後ろで倒れているギリアムそっくりの構え、それを見た仁は九尾を庇いながらも彼の戦い方に見入っていた。
体から溢れ出す魔力は、周りの小石を宙に浮かせ、殺気にも似た何かがオーラの様に感じれていた、目視は出来ないにしろ彼から半径3mは一撃必殺の間合い。
瘴気を失ったサブローも、剣士としての本能かその3mの中には入らず、外から抜刀の構えを取っている。
そこで仁は思い出した、2人の稽古とギリアムの言葉「一瞬で決まる」と言ったあの言葉だ、お互いに達人同士というのは一瞬で決着が付く。
1秒が1分に、1秒が1時間に感じられゆっくりと時間が流れていく、先に動いたのは…
アカイワ ジュン だ
神速の域を越えた瞬間移動とも思えるような速度、足には以前オーランド戦で見た雷の魔法「リファレンス・ライジング」というまさに電光石火、神をも凌ぐその刹那。
突き抜けた拳は、サブローの鳩尾ちを容易く射抜き、どうにはガッポリと大きな空洞が出来ている。
そうするとその風穴から、紫に染まった煙が空に舞い消えていく。黒に染まっていた目は、元の白に戻っていき安らかな本当の彼の顔に戻っていく。
「サブローさん!」
「サブロー!!」
仁と九尾は倒れ込む彼の方へ駆け寄る、仁は自分の傷など忘れ彼の体を抱き起こす。
「ジ…仁…殿…か?」
「はいっ!サブローさん気がついたんですか!?」
「…気は…確かだが…少し昔に戦った賊の事を思い出しておった。…それにこの傷…拙者は死ぬのだな…」
「何を言ってるんですか!!!そんな傷リューコさんが治してくれる!!だから意識を!!」
首を横に振るサブロー、仁と九尾の涙が彼の生気を失っていく顔に伝っていく。
「九尾様…すまんでござるな…直ぐに行くと嘘を言って」
「馬鹿者!!サブローのバカ!!…なんで…なんでこんな」
自分の死期を悟ったサブローとは裏腹に、体の傷は魔力により徐々に修復されていく。
「ジン殿…後生でござる。このままでは拙者は心身共に魔人となってしまう。…お主の光魔法で拙者を『殺してくれ』。」
大粒の涙は更に数を増やし、サブローの着物を濡らし、頬に付いた血と一緒に涙が地面へ溢れていく。
「サブロー…お主にまだ言っておらんかったな…逝く前に言わせてくれ」
九尾はある覚悟を決め、サブローの手を握り彼の耳に、その小さな唇を近づけ彼にしか聞こえないよう言った。
「我はお主の事…好きじゃ。昔からも…今も最愛の男として…好きじゃ。我が逝くまで向こうで待っててくれるか?」
「ははっ…九尾様…昔から…知って居ったよ…拙者は…そうでござるな…待っているでござるよ永久に。それまではあっちで退屈してる…父上と酒でも飲むでござる…か…」
2人がひっそりと会話をし、それが終わると仁に視線を向けるサブローと九尾。
「お別れでござる…九尾様…。さっ…ジン殿…やってくれ。九尾様の前で魔人等になりとうないからな…」
彼がそう言い目を閉じたのを合図に、仁は自分の中に回る魔力をサブローに流す。
すると彼の体は、以前のオーランド同様に光の粒子となり天へと還っていく。
「サブローさん…さよなら…」
「あぁ…遠い未来…あっちで会おうジン殿。その時は…話しをたくさん聞かせてくれ…」
「…は…い…っ」
「九尾様…ありがとう」
それだけを言い残すと、彼は光の粒子となり服と剣だけを残し、庭から消えていった。
「父上…庭の桜。まだ…綺麗でござったよ。」
宝物蔵の守護者・サブロー 死亡
~~~人が到達出来ない、はるか高み~~~
「拙者…死んだんでござるな…」
柔らかい光の雲の中を、一人散歩の様に歩くサブロー。
「サブロー…大きゅうなったな…」
「父上!!!」
眼の前に佇むのは、10の時に亡くした父が、背中で語るようにサブローの前に立っていた。
「父上…拙者…拙者、父上に聞かせたい話しが…山程有るでござるよ」
「あぁ聞くさ。時間はたっぷりとある、焦らず聞かせてくれ。」
第3章 宝物蔵の守護者編 ~fin~




