第3ー16話 あふれる魔物達
僕とアスタちゃんの【能力】が判明したその日、事務所の全員と九尾様にナナさんを交え夕食を取った。これが獣人国で取る最後の食事だ、明日の早朝から出る船便で僕達はイーリアの地へ戻る。
夕食が終わり、突然の帰還にサブローさんへ挨拶をする為庭へ、来たのだがサブローさんはいつも僕が到着すると、スグに気付いてくれるのだが今回は違った。
蔵の対角線上にある、大きな桜の木を見上げ腕を組み佇んでいる、その時の彼は何処か寂しそうで儚げな笑みを浮かべていた。
「さっサブローさん、こんばんわ…」
「…!ジン殿か…、どうなされたのでござるか?」
「…明日の朝、僕らイーリアに戻る事に…なりました」
親しくなり、楽しかった毎日の稽古を思い出し、僕は辛いながらもサブローさんへの別れを告げる。
「そうでござるか。それは寂しくなるでござるな、だがまた暇が出来れば稽古をつけるし、何も今生の別れでは無いでござるよ」
そうだ…また遊びに来れば良いんだ、その時までにもっと強くなってサブローさんを驚かせよう!
サブローさんと別れ借りている寝室に戻る道中、九尾様とナナさんの2人と出会った。2人共寝間着で今から床につく準備、といった風貌だったが廊下で少し立ち話をしていた。
「あっ!九尾様、ナナさんこんばんわ」
「おう!ジンか!…明日じゃのぉ、出発は」
九尾様は少し別れを惜しむように、明日の事を僕に告げてきた、正直僕だって辛い気持ちは有る。
「ジン!また遊びに来るが良い!今度は仕事など考えずゆっくり出来る時にな!…その時は良いじゃろナナ?」
「えぇ構いませんよ。ジン殿やアスタ様なら何時でも大歓迎です」
2人はそう言うと「では」と言い残し、歩き去っていく。
そんな風にここで出会った人と別れの言葉を交わし、次また会う約束や遊ぶ予定を立てる、それがとてつもなく嬉しく、別れの寂しさなんか吹き飛んでいった。
そして僕は明日の朝に備え、寝室でゆっくりと眠りに付いていく。
~~~深夜2時30分~~~
「ジン君!起きて!起きてよーーーーっ!!!」
まだ太陽すら顔を見せていない時間なのに、アスタちゃんに激しく揺さぶられ、叩き起こされた。
「なっ何?アスタちゃん」
「ヤバイよ!!変な魔物が街に一杯居るの!!ギリアムがジン君を起こしてキュウビちゃんを守れって…」
彼女から聞かされた事実は、正直耳を疑う代物だった。
赤黒いヘドロの様な魔物が街に急に現れ、国主館に向けて行進していると。
街には赤岩さん・ミアさん・ギリアムさん・リューコさんが、迎撃に出ており屋敷を開けていると。
「早く九尾様達と合流しなきゃ!!」
服を即座に着替え、魔導銃を構え寝室から2人で飛び出していくと、真っ先に以上を感じた。
空気の匂いが違うんだ、風上から鉄の様な匂いが乗って鼻に運び込まれ、不快感を覚える…紛れもなくこれは『血の匂い』と確信した僕は、2人で道中を阻むヘドロの魔物を蹴散らしていく。
国主館の中にも紛れ込んでおり、倒してもキリがない。倒した側から他の個体とくっつき再生していき、進行速度は遅いにしてもやはり数では圧倒される。
「どっどうしよう、ジン君」
「…このままじゃ、九尾様の所に付く前に…僕等の体力が…」
そう考え必死に目の前の魔物を、蹴散らしながら思考を巡らせた。
「(赤岩さんなら…どうする…ギリアムさんなら…どうする、考えろ、考えろ僕!!)」
その時庭の方から、爆発物が炸裂する音が聞こえ、空気がビリビリと震えているのが伝わってくる。
~~~国主館・庭~~~
「はぁぁぁぁっ!!ナナ殿!!九尾様を頼んだでござる!!此奴等相手には、拙者の剣足止めにしかならん!!」
魔物をいとも容易く切ってのけるサブローの背後には、無数の札を構えたナナさんと九尾が居た。
「サブロー…私の札では限界が有ります、それにいくら燃やしてもこいつ達は回復してしまいます。せめて…九尾様さえ逃げれるのなら…」
「ナナ殿!!」
サブローは懐から、一本の金色に光る鍵を放り投げナナに渡した。
「ナナ殿それは宝物蔵の鍵でござる!!早く2人で中へ!!宝物蔵は先祖様が作った特殊な結界が張っておるゆえ、奴らの侵入を防いでくれる!!早く!!」
2人の進路を確保しながら、剣で魔物を薙ぎ払っていくサブローは、いつぞやの夜を思い返していた。
宝物蔵に入った2人は、扉を閉めようとした時に九尾が必死に叫んでいた。
「サブローーーー!お主も早く入らんか!!何をしておるこの馬鹿者!!」
「…九尾様、拙者は此奴等を片付け次第、直ぐそちらへ向かうでござる。…しばしの辛抱を…」
泣き叫び暴れる九尾を抑えるナナ、その2人を見つめながらもサブローは宝物蔵の扉を締めていく。
ガチャリと鍵が締まった音を聞くとサブローは、自身の剣を地面に突き刺し、印を結びながら結界の起動に入っていった。
「九尾様…すみませぬ。この結界は外からしか掛けれんゆえ…、先祖代々受け継がれし三尾狐の秘技!『守護の陣・狐火』」
サブローが術を発動させると、大きな火炎の渦が宝物蔵の周りを囲い、天高く火柱を上げていった。突き刺した剣を抜き、両手でしっかりと構え眼前の敵を見据える。
「魔物…これから先は、我が主「九尾様」の御前なるぞ!貴様らの様に下賤な者!1匹たりとも通しはせん!!いざ…尋常に!!」
~~~宝物蔵・内部~~~
「何故じゃ!何故サブローを一人にした!!ナナの馬鹿!!」
九尾は泣きじゃくり、ナナに感情をぶつけているが、ナナは何も言わずただ静かに九尾の言葉を聞いている。
「もし…もしサブローが死んじゃったら…」
頬に無限にこぼれ落ちる涙を拭きながら、サブローの身を案じる九尾。
その時九尾の頬にきつい平手打ちが打ち付けられる、 ナナの手は九尾の頬を打った事により真っ赤になっており、九尾の頬もまた同じ。
「九尾様!!!…あなたは自分の家臣一人信用できない愚か者なのですか!!!…サブローは貴方に無事で居て欲しい。そのためにこの蔵の外に残った!!!違いますか?!!!」
普段物静かな彼女が、珍しく大声を上げ九尾に叱咤する。
今はもう亡き夫の姿と、九尾と自分を守る為にあえて危険を取った男の背中を重ねていた。
その時2人の背後、というよりも宝物蔵の奥【玉章・殺生石】の眠る祭壇に、白髪の頭に2本の漆黒の角、紐の様な布が全身を覆い腰からは悪魔のような翼が生えている女が、闇の中から姿を突然表した。
「これが狐の秘宝【玉章・殺生石】ねぇ。私から見ればただの石ころにしか見えないけど…」
官能的な脳を刺激する甘ったるい声は、九尾とナナにこれ以上無い不気味さを与える。
ナナは悟った「自分とこの女は格が違う」と、気配も魔力も感じさせず突然現れた女は、掌に殺生石という球形に丸められた一つの石を不思議そうに眺めていたのを見て、ナナはどう九尾を逃がすという事を頭に張り巡らせていた。
眼の前の白髪の女は、突然姿を煙のように消し秘宝は取られたが、九尾の命が助かったと安心したナナの背後に現れた。
先程の煙のような闇を纏いながら、背後からゆっくりとナナの頬を撫でる。
「安心しなさい、殺すつもりはないわぁ~。あなた達は驚異にすらなりえないの、私の瞳に映るのはただ一人、敬愛して止まない「魔王様」ただ一人なの」
女はそう言うと「バァイ」と言い、手を振りながら闇の中へと姿を消していく。
九尾とナナは動けずに居た、あの女の存在自体が恐怖の塊と感じ、呼吸も不規則、汗は異常なほど滴り落ちる、気がついたのはどれだけの時間が過ぎたのか解らない程、後の事だった。
~~~国主館・庭~~~
庭の爆発音を聞きつけ、仁の瞳に写ったのは無数の魔物に囲まれ、必死に応戦するサブローと燃え盛る宝物蔵だった。
「サブローさん!!九尾様は?!」
「ジン殿!!!九尾様は宝物蔵に居るでござる!!ジン殿アスタ殿!!!この魔物を掃討するのを助力して欲しい!!!…頼めるか?」
仁・サブロー・アスタ 国主館の庭にて、今共同戦線が始まる。
To Be Continued




