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異世界の語り部~僕は主人公じゃない  作者: 時雨
第3章 獣人国・宝物蔵の守護者編
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第3ー15話 「少し…昔話をしようか…」

 昼頃に僕達3人は、館に戻ると庭を通った時、物凄い物を見てしまった。

 ギリアムさんは階段に座り込み、タバコを蒸かしているが見つめる瞳は真剣そのもの、視線の方へ目をやると赤岩さんにサブローさんが対峙していた。


 きっと手合わせなのだろう、いやそうであって欲しい。

 2人が離れた素人同然の僕でさえ察知出来る程の、濃厚な殺気の渦が空間を捻じ曲げるように、小さな針が皮膚を何度も貫いていく様に、ハッキリと物理的に感じれる。

「こ…これが…殺気…ですか」

「あぁそうだ、2人が本気で手合わせをする、お前もよく見ておけ。ほんの一瞬かも知れんが、勉強になるかも知れんぞ」


 互いに睨み合った2頭の獣は、ギリアムさんの口に咥えられたタバコの灰が落ちるのを合図に、サブローさんが動いた。

 視認する事はとても難しい、神速の一太刀は赤岩さんの頸動脈に狙いを定めその一秒後には、首を跳ねるかと思われた先、構えなどしておらず両手をポケットに仕舞っていた赤岩さんが、右手の人指し指と親指の2本のみで、サブローさんの剣を完全に静止させていた。

「…ありがとうございました、アカイワ殿。やはりアカイワ殿の殺気は良い刺激になるでござる」

「ははは。サブローさんも良かったぜ、タイミング間違えてたら俺も首が跳んだかも知れなかったからね」


 2人はいつもの様ににこやかに笑い、握手を交わすがその殺気を全身で浴びた僕は呼吸すら忘れそうになる程だった、『怖い』いいや…そんな次元を越えていた、近寄れば死ぬということ完全に理解できていた。

「どうだヘタレ、あれでもアカイワは本気の半分も出してないぞ」

「えぇっ!?…あれが半分…以下ですか?」


 何処か悔しそうに、アカイワさんを睨むギリアムさんは「いつまで遊んでる!」と、怒りながら赤岩さんの首根っこを捕まえ、何処かへ連れ去っていく。

 間の抜けた彼の顔は、先程の殺気の持ち主とは思えない気の抜き用だった、自分が憧れている人がこんなにも、常人離れしているなんて全く想像していなかった。


 これが赤岩さん‹最強ザ・ワン›の片鱗、いや…ほんの少しかも知れない。

 

 あまりの殺気を浴び、ふわふわした脳がきちんと機能する様になったのは夕方頃だった、とても長い期間宙を舞ったような感覚で、会話も身に入ってこない。

 頭をよぎるのはあの一瞬の、衝撃だけだった。


 夕方僕とアスタちゃんは、九尾の間で赤岩さんとリューコさんや他の事務所メンバーから、ある講義…というか説明を受けていた。

「仁君…これから、俺達が戦っていくかも知れない敵の情報の一つとして、1番大事なことを説明する。アスタもよく聞くように」

「はいっ!」

「はーい!」

 2人は元気よく返事をすると、赤岩さんは【能力】というものの説明に入った。


【能力】

 それは魂が発する、とても強い未知の現象。宿した者は力に恵まれたり、はたまた知が異常な程まで早熟したりする事もある。

 文献では古代人という、今から800年前の偉人達でも持つものは少数、現代人でも持つものはわずかという、非常に稀な才能だ。


「…と、ここまでは良いか?少し小難しい説明になったが」

 仁はある程度理解出来ているが、アスタは頭に『?』を浮かべ非常に困惑している、それをわかりやすく掻い摘んで仁が彼女に説明すると、彼女も完全に理解した様だ。

「んでコレが、リューコが2年の歳月を掛けて完成させた【能力鑑識用術式】だ。俺達は2人の上司兼保護者として、能力や実力を全て把握する義務がある」

 2枚の羊皮紙と果物ナイフを、ジュンはミアから受け取ると畳の上へと広げていく。


「仁君・アスタ、このナイフで少し指を切って1滴この紋様の上に落としてくれ、今から2人に能力が宿っているかどうか検査する」

 2人は指にサッと傷を付け、血を垂らしていく。

 アスタの方の羊皮紙は、突然紋章から突風が吹き荒れ、紋様の下に文字が印字されてゆく。


 仁の羊皮紙は、突然目も眩む閃光が発せられ、その後九尾の間にいる全員が包まれた。

「こ…これで…出たんですか?」


 2人の鑑識を見た皆は「仁君らしい」「優しい能力だ」「…良いじゃねぇか」と、微笑むように眺めている。

「仁君!アスタ!今からお前たち2人の能力及び能力名を発表しよう!」


‹岡野 仁›

【能力】七転八倒

 仲間や自分が傷つく度に魂が熱を持ち、怒り・悲しみ・愛情を力に変える。


‹アスタロッテ›

【能力】風神

 風の魔法を使用する際に、人類を越えた未知の領域へ踏み込む事が可能


「…2人共、凄い能力だ。だが!これに慢心せず、日々鍛錬を怠らず、自分の大切なもの、困っている人を助ける為に力を使うように!自分の気ままに仕えばそれはただの『暴力』だ!俺はそんな事…断じて許さん。」

 最後はとても語尾が強いもの言いだったが、ジュンの強い思いを2人は継ぐべき人物なのだろうと、そう感じたジュンは改めて2人に思いの丈を伝えたのだ。


「ししょー…一つ聞いていい?」

「ん?なんだ?」

 いつもの様にふんわりとしたトーンで、彼女は口を開いた。

「アスタも人を守るのは良いことだと思うよ!それでお友達になれるし!…でも何でししょーはそんなに守ろうとするの?」


 彼女の質問にジュンは、少し面食らっていたが、ゆっくりとその胸の内を語っていく。

「俺は昔【地球】に住んでいたのは皆知ってるな?…この世界に来る前日にな、俺の大好きな憧れの先輩が仕事中に死んじまったんだ…殺されたんだよ」

 彼の発言に周囲の皆は、より一層彼の言葉に耳を傾けていく。

「先輩はとっても優しかったんだ、休憩になると「疲れたろ、コーヒーでも飲もうや」と言ってよく俺の飲めないブラックコーヒーを持ってきた。そこからいつも奥さんと、娘さんの自慢話だったんだぜ。そんな人が死んだのを知ったのは、気まぐれで目を通した新聞だった」

 それから彼は仁に向け、一つ質問をした「誰に殺されたと思う?」と。

「…犯罪者…とかですか?」

「いいや…ロザミアと言うこっちの世界の魔族だ。俺の宿敵であり、一度完全に殺したと思っていた。」

「と思っていた…と言うと、生き返ったんですか?」

「あぁ…察しが良くて助かるよ、奴はまた何か企んでいる。俺は事前に阻止したい!これ以上俺のように大切な家族・友人・知人を失い辛い思いをする人を一人でも減らすために!」

 そう言ったジュンは、いつもと変わらない笑みで「んじゃそういう事で~」と言いながら、ミアさんと共に九尾の間を出ていった。



「(赤岩さんは本当に『優しい』人だ、…いや優しすぎるのだ。自分に出来ることなら、迷わず暗闇だろうと突き進むその魂の強さに、僕は憧れ…惹かれたんだ)」

 仁は赤岩順と言う男の、新たな一面を見て心に刻んだ『新たな1ページ』を。


~~~国主館・???~~~


 屋根の上に2人佇み、街を一望しているジュンとミア。

「ジュンさん…泣いているんですか?」

「…すまないなこんなみっともない所」

「いいえ…私は強くて、逞しくて、豪快で私を少し困らせるジュンさんが大好きですし、人の為や死んでいった人の為に涙を流す優しいジュンさんも大好きですよ」


 今はもう亡き恩師とも言える、先輩との思い出を口にした彼は、一粒涙を零し街をただ…眺めていた。夕日に染まる街を


To Be Continued

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