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異世界の語り部~僕は主人公じゃない  作者: 時雨
第3章 獣人国・宝物蔵の守護者編
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第3ー14話 宝物蔵の守護者

 国主館の庭には、屋根より高く成長し冬には枯れ木のように佇み、春には満開の花を携える一本の桜の大木がある、その大木を眺め1本から9本のそれぞれ尾を携えた狐人達。

 9の尾を持つ狐を筆頭に、1尾は土地の管理、2尾は財政の管理、3尾は蔵の守護、と言った具合でそれぞれ親から子へ、子から孫へ自らの家系の役割・誇りを受け継がれ、獣人の国を300年以上も支え続けていた。

 

 三尾狐蔵守護者・サスケは、傍らに裾を引き手をつなぐ童に向かい、一つの質問をした。

「サブロー…お前は拙者の様に、将来九尾様にお仕えする身、300年紡いだこの先祖様の誇り受け継いでくれるか?」

「はい!拙者も父様の様に、立派な守護者になりとうございます!」


 サスケは優しく童の頭に手を置き、右へ左へゆっくりと撫でる。満足したように童を肩に乗せ、満月と夜桜を見上げた、抱えられた童も父と同じ様に、静かに夜空を見ている。


 その翌日サブローは、自宅から毎日のように父から剣の手解きを受けるため、自前の木刀に荷物を掛け、その小さな足を前へ前へと掛けている。

「父上!!」


 サブローがいつもの如く、元気に朝の挨拶を父にしようとした時、目に入ったのは自身の左胸を抑え安らかな顔で、白い小石で敷き詰められた庭に横たわる父の姿だった。

「ち…父…上?父上!!だ…誰か!父上が!!父上がぁぁっ!!」

 駆けつけた他の狐は、直ぐ様医者を呼びサスケを運んでいった。小さなサブローには、青白い顔に胸を抑えるあの手、父に何かあったとしか解らなかった。


 国主館のある一室に、サブローの母は呼び出され袖で目を拭っている、母の前には館仕えの眼鏡を掛けた中年男性の4尾・専属医師。

「奥様ですか…」

「…はい」

「すみませぬ…サスケ殿は…心の臓を患っており…昨夜…逝かれました。」


 医者の難しい顔に、母のすすり泣く声と沈黙が部屋を包み、真っ白な布が昨夜までサブローと会話をしていた父に被せられている。

「サブロー君には…私から伝えましょうか…?」

「いえ…それは…母である私から…言います」


 サブローはその会話を、部屋と廊下を仕切る襖の外から聞いていおり、脱兎の如く廊下を走っていった。

「(嘘だ!…父上が、死ぬはず無い!昨日も夜に喋ったし…きっと…きっと皆で拙者を騙してるんだ!そうだ!そうに決まっている!後から父上もひょっこり起き上がってくるに違いないんだ!)」

 少年がたどり着いたのは、父との思い出の地である庭だった、毎日ここで剣術の稽古を父から受け、昼は母の作った握り飯を一緒に食べていた、あの庭に足が勝手に体を運んだのだ。


 いつものように少年は、自前の小さな木刀を力一杯素振りし、顔や体中から滝の様に汗を流している。

「(後から父上も、びっくりしたか?って聞いてくるんだ…拙者は言ってやるぞ!「騙されなかったぞ」と、父上は言ってた剣士に1番必要なのは、何事にも動じない屈強な心だと!)」

 父の言葉を思い出し、一心不乱に稽古を一人続けていると、そこに目を真っ赤に泣き腫らした、母がやって来た。

「あっ!母様!!…もう、みんな人が悪いですよ!父上が死んだなんて。拙者はそんなのには動じないでござる!父上の教えでござるからな!!影に父上も居るのでござろ?早く出てくればいいのに!」

 胸を張り残念だったなと、無邪気な笑みを母に向けたサブローだったが、母に抱きしめられサブローは状況が把握出来ていなかった…というより、信じたくなかった。

「サブロー…よくお聞き…父様はね…天国に行かれたのよ…」

「天国?あの仏様が居るあの、天国ですか母様?」

「えぇ…そうよ。あの…天国よ…父様はね…もう戻ってこないの…」


 涙を流す母に釣られたのか、はたまた父が亡くなった現実を理解したのか、彼の瞳からはボロボロと大粒の涙が、一つ…また一つと地面を濡らしていった。

 サスケが埋葬されたのは、それから次の日の事だった。堅牢な黒い棺に父が入り、そこから炎が天に向かい高々と燃え盛っている、この日皮肉か運命かサブローが10になった日だった。



 それから二年後、サブローは亡き父の代わりに蔵前を陣取る様に鎮座し、自身に与えられた蔵の守護をしていたある日、16になったばかりの7本の尾を持つ、艶やかな着物を着た涼し気な女性、髪は毛先が黒く頭頂部は目がくらむ鮮やかな金…。

 サブロは彼女に一目で心奪われた、挨拶を交わす程度の関係だったがその、握れば折れそうな程の華奢な手、抱き寄せれば霧散しそうなしなやかな体、そして笑うと向日葵のような暖かな笑み、サブローから見ればとても眩しい太陽の様な女性だった。

 彼女はある日生まれたばかりの赤子を連れ、サブローの前へと姿を表した、その赤子は9本の尾を持ち七尾の腕の中で眠っている。

「なっナナ殿!…その赤子は次の九尾…様でござるか?」

「えぇそうですよ。こんな小さくて可愛らしい子なのよ。サブローも触ってごらん」


 初めて接する小さな赤子、ゆっくりとサブローは人指し指を赤子の頬を触ってみると、柔らかな弾力にサラッとした肌触り。

「こっこれが…赤子…でござるか」

「可愛いでしょ?」

「う…うむ…」


 7本の尾を持つ狐は、生まれた次の九尾になる子の身の回りの世話や、国を治めるに必要な勉学の教育等をする、いわば教育係の様なものだ。この仕事は代々その家の長女が承るしきたりになっており、ナナは4人姉弟の長女だ。


 サブローが16を迎えた頃には、ナナは成人九尾は4つになりサブローの周りをちょろちょろと動き回るようになっていった、何度稽古中は危ないと説明しても、袴を引っ張り遊べと要求してくる。ナナはその様子を、階段に座りただ静かに見守ってる様になっていった。

 昼は父の思い出の地である、庭で3人一緒に取るのが徐々に日課になり、サブローの退屈な日々の唯一の楽しみだ。


 同じ年のとある晩、野盗が侵入し館を襲撃されナナと幼い九尾が人質に取られる事件が発生した。

 サブローは迷うはずなど無かった、彼女達を助ける為に走る事に疑念を持たなかったのだ。


 5尾率いる侍集団が到着し、事件を沈静化するより早く、サブローは剣を持ち野盗の集団を切り伏せ、返り血を全身に浴びたサブローは、周りの気配が何もないのを悟ると、ナナに向け4年の片思いの気持ちを打ち明けた。

「ナナ殿…大丈夫でござるか…」

「えぇ…サブロー貴方は大丈夫なの!?」

「大丈夫でござる、ナナ殿聞いて欲しい事が…拙者ナナ殿の事が…」


 言い終えようとした、その時5尾の一人の侍が部屋に入ってきた。

「ナナ!大丈夫か!?…サブロー!?…お前が、ナナを助けてくれたのか!?…良かった…ありがとう…本当に…ありがとう!!」

 5尾はたった16の少年の手を握り、大粒の涙を零しながら、サブローに感謝を向ける。


 後から聞いた話、ナナはこの5尾の侍と身内だけで結納(結婚式)を上げており、サブローは全くそれを知らずに告白しようとしていた。

 身も心も入らず仕事を送る毎日、だがそんな失恋をした彼の心を知らずに九尾は自身の特等席と言わんばかりに、サブローの膝へ座りその無邪気な笑顔を送っていた。

「私ね、おっきくなったらサブローしゃんの、お嫁さんになりたい!!」

「そうでござるか…でも結婚出来る歳には、拙者30手前のおじさんでござるよ?」

「いいのーーー!!」

 幼稚な恋かもしれない、小さな女の子が父や兄に言う様な何の変哲もない会話だ。ムスッと膨れる、目の前の小さな九尾に、サブローは頭を撫で状況は違えど父に頭を撫でて貰った最後の夜を思い出していた。


 屋敷や獣人国に、もう剣でサブローに勝てる者が居なくなったのは22歳の時のこと。結婚もせず仕事一本で、色恋や遊び等よりも剣や仕事の事を優先している様子に、周りの男衆や母は色んな縁談を持って来るも、全て「自分はまだ未熟者ゆえ、所帯など…」と断っていた、九尾との約束は忘れていたが、彼の心にはまだ「ナナ」の事がしこりのように残っていた。

 22歳の夏に一風変わった男が、九尾の元へ挨拶に来ていた。

 黒いコートに黒いズボン、全身黒で固めた不気味な男だったのを覚えている。怒り心頭で九尾の間から兵に連れられ、出てきたと思えばサブローを強者と一目で見抜き、手合わせを所望してきた。

 腕には自身があったサブローは、「真剣だと殺しかねない、木刀でやろう」と提案すると、男も笑顔で提案に乗りめちゃくちゃな構えを披露する。


 いつものように抜刀で、面を1本取れば終わると思いサブローは木刀を振るが、男に止められた。人生で自分の剣を止めたのは初めての男だった、20分30分互角に打ち合ったが、男からは疲労の様子が全く見えない。

 そして決着が付かない…いや、自分の負けだとサブローは悟ると、男は握手を求めてきた。

「ナイスファイト!あんた名前は?」

「サブローでござる。蔵警護のサブローと覚えてもらえれば」

「サブローさんか!覚えたぜ。それと俺はジュン、「最強ザ・ワン」のアカイワジュンだよろしく!」

 

 ガッチリと握られた手は、今でもその熱を忘れられない。逞しく強く握られた、男の拳を。


~~~~~~~


「…いかんいかん…、少し居眠りしてたでござる」

 サブローは庭の蔵前で、一眠りしていた所を自分で律するように頬を叩き、気晴らしにでもと素振りを始める。



To Be Continued


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